その中でビック・ベンというおじさんと挨拶を交わして中に入り、案内された道を進むと手のくぼみがあり、そこに案内状をかざして先に進めるようになった。
…………のはいいのだが……。
俺は清隆たちのあとを追いながらなので今の所は問題がないが、さっきのビック・ベンと時と言い、手のくぼみと言い、俺はあることに気づいた。
というか、なんで今まで気づかなかったんだよ。こんなレベルの事に。
(――案内状なんて、貰っていないっ!)
その隠し通路の先に進むとエスカエーターに乗って、学園に向かうことになったので、姫乃たちは外に咲いている桜のことで盛り上がっているが、俺にはそんなの楽しむ余裕なんてない。
エスカレーターが何で動いているかとか、桜がなんでこの時期に咲いているのかとかは今はどうでもいい。
マズイ……マズイ、マズイ、マズイ、マズイ!
案内状が無いってことは、もしかして学園に入れないんじゃ……いや、もう入れているから問題ないか?
でもこの学園は全寮制。案内状がない生徒を入れてくれるとは思えない。
いやもしかしたら最悪ここまで来ると、学園に荷物が届いてない場合もある。
それどころか、明日の入学式で名前が呼ばれないことも……
「……どうしたの、修兄?」
「どうすればいい……このままやり過ごすか……それとも……」
「おい、修」
「ふひぁい!」
「うお! そ、そこまでビックリするなよ。こっちの方が驚く」
「わ、悪い……」
考え事の最中に清隆に肩を叩かれて、不覚にもかなり慌ててしまった。
するとそんな俺の様子を見た二人は、心配そうな顔をして、
「どうしたんだ?」「どうしたの?」
と聞いてきてくれた。
……黙っていてもどうしよもないし、素直に相談してみよう。
「ど、どどどどどうするの!? もうここまで来ちゃったんだよ!」
「……修。なんで今まで気づかなかったんだ……?」
案の定、相談したら二人は心配してくれたが、清隆が心配の裏に何か混ざった目で俺に聞いてきた。
「いやー、向こうで制服なんかと一緒に貰えるのかな~、と思って」
「……ちなみにもう制服も配られてるぞ」
「…………本当に?」
「ああ」
――できれば聞きたくなかったよそんな情報! なんてことを教えてくれるんだ、この幼馴染は!
と叫んでも仕方がないので、ぐっ、と抑え、それと同時にエスカレーターが着いたので降りる。
そして、
「とりあえず、俺は学園長室にでも行って話してくる。話しが長くかもしれないから、お前ら待たせるのも悪いから先に行くな!」
「って、場所分かるのか!?」
「分からないけど、走りながら探す!」
と二人に言って、学園長室に走った。
そして学園の校舎の中を走ること(数が少なかったけど、人が見ている時には早歩きで)5分、ようやくそれらしい部屋を見つけた。
「ぜぇ、はぁ、はぁ……よし!」
息を整えて、その部屋の扉にノックをする。
すると――
「はい、カギは空いてます。どうぞ」
と言う声が聞こえたので、
「し、失礼します……」
なるべく
「あら、あなたは……?」
「あの俺、日本から来た柏田修っていうんですけど……」
「ああ、あなただったのね。突然入学させてほしいって葛木さんが言ってきた子は」
「え? 親父さんから連絡があったんですか?」
「ええ。ごめんなさいね。
「いやいや、別に良いですよそれくらい!」
そのせいでこちらとしては冷や汗ものだったが、こっちが無理を言ったんだからそれはしょうがない。
「案内状を送らなかったから来ないかと思ってしまったのだけれど……ちゃんと来てくれたみたいね」
「はい。葛木家の兄妹のおかげで」
「あ、修くん。キミがその兄妹と一緒ということで……申し訳ないんだけど……」
「……はい?」
学園長が次にはっした言葉に、俺は流石に言葉を失った。
「そういえば、二人は一緒ではないの?」
学園長の話に、何とか状況を飲み込んで少し会話が落ち着いた頃、学園長はそう言って首を傾げた。
うーん、やっぱり一人で来たの失敗だったかな……なんて事を考えたと同時に、俺の背中の方――つまり学園長室の扉にノックの音が鳴った。
「本科1年のシャルル・マロースです。日本からの新入生を連れてきました」
丁度、清隆たちが到着したらしい。
どうやら、学園長室までシャルルという人に送ってもらったらしいな。
「ああ、ありがとう。通して頂戴」
「はい。失礼します」
学園長が返事をすると、一人の女の人が入ってきて、
「くぴっぴ!」
その後ろを何だかわからない生き物がついてきた。
「さ、ふたりとも。入りなさい」
そしてシャルルさんと言うらしい人に呼びこまれて、清隆と姫乃が部屋に入ってきた。
「「し、失礼します……」」
「待っていたわ」
「では、あたしはこれで。学園長、あとはお願いします」
「ありがと、シャルルさん。それにエト」
「じゃ、またね」
シャルルさんは軽くウインクを二人にした後、俺の方を少しだけ見て学園長室から出て行った。
……それにしても、あの人が連れていたトナカイのような鹿のような訳の分からない生き物は何だったんだ? 学園長がさっき言った名前からするとエトって名前らしいが……名前以外、何も分からない生き物だったな。
それから学園長と葛木家についての事や学校生活の事を少し話をして、俺達は学園長にそれぞれの寮のカギを渡され、寮に向かうことになった。
「お、来たね。若人諸君」
「くぴぃ~~」
「あれ、シャルルさん……」
俺たちが校舎から出ると、シャルルさんが立っていた。
「どうしたんですか?」
「ふたりとも、これから寮に行くんでしょ? だったら、そこまで案内してあげようかなって思って」
姫乃の問いにそう答え、二人の手を握る。
……なんか、スキンシップがスゴイ人だなこの人。
「あれ? あなたはさっき学園長の部屋にいた……」
「あ、柏田修です。よろしく」
手を握った後に、やっと俺の事を気づいたらしい。
「柏田……ヘンね。一応、新入生――特に留学生の名前は一通り目を通したのだけど……そんな名前あったかしら……」
どうやらこの人は、新入生の名簿に目を通せる役職の人らしい。
でも、知らなくても仕方がないことだ。
「多分、名前は載ってなかったんだと思います」
「「「えっ?」」」
三人の声は重なり、清隆も姫乃も俺の方を向く。
「いや~、その……二人にも言ってなかったけど……俺、まだ風見鶏の生徒じゃないらしい」
「それだったら俺達も、まだ入学式を受けてないんだがら、正式な風見鶏の生徒じゃ……」
「あー、違う違う。清隆たちさっき学園長に寮の部屋のカギもらったろ?」
「ああ」
「でも、俺はもらわなかったんだよね……」
「……まさか!」
「そのまさか。まだ新入生に登録されてない……」
どうやら学園長がいうには、生徒の登録を一斉にするらしく……俺の入学の登録してくれとお願いが来たのはその一斉登録の少しあとだったらしい。
そのせいで、色々と手続き(制服などの採寸や発注とかなどなどが)面倒になり、少し俺の登録が遅れているらしい。
あと、普通だったら遅れたら入学させてもらえないのを、葛木家のお願いということもあり、学園長個人の関係で入学させるからと、生徒会などの手伝いはなく、この事は学園長ひとりでやってくれているのも遅れの原因だとか。
『ごめんなさいね。何かとこの時期は忙しくて、進むのが遅くて……』と俺に言ってくれたが、無理を言ったのだから、お礼することはあっても、文句なんかぜんぜんなかった。
でもまあ……入学式の日に制服じゃなくて、一人だけ私服っていうのはさすがに嫌だけどな。
その為、俺に制服や寮の部屋がつくのは、入学式の数日後になるらしい。
それまでは、さきっき渡された学園長が作った、入学許可証を首から下げるようにと言われた。
入学許可証と言っても、学園長が文字を書いた紙に穴開けて、そこにひもを通して魔法でやぶれにくくしたものだけどな。
その事を話し終えると、
「え……じゃあ、それまで部屋どうするんだ?」
清隆が、当然考えるであろう疑問を言ってきた。
「そんなの決まってるだろ。清隆の部屋に泊まる」
「……は?」
「というか、学園長にそうお願いされた。さすがに荷物は他の部屋に保管してくれているらしい」
「……はあ、分かったよ。少しの間だけなんだろ?」
「ああ。悪いな」
「話はついたみたいね」
俺と清隆の会話が終わるのを待っていたらしいシャルルさんは、俺に手を差し出してきた。
「ようこそ風見鶏へ。あたしはこの風見鶏の本科生のシャルル・マロースよ。よろしくね。――いつもの挨拶は、ちゃんと制服などを貰って、正式な生徒になった後でね」
「こちらこそよろしくお願いします」
俺もその手を握り返す――が、なんか疑問に思う言葉がなんか出てきてたぞ今。
(『いつもの挨拶』って……なんだ?)
清隆に聞こうとしたら、何だか少し顔が赤い気がするし……なんか嫌な予感がするが、ここはスルーしておこう。俺にはもっと気になっていることがあった。
「あの……シャルルさん」
「ん、なに?」
「そこにいる鹿って……使い魔ですか?」
さっきからシャルルさんの後ろにいる、何の動物だか分からない生き物が気になってしょうがなかったので、聞いてみた。
「鹿じゃなくてトナカイよ。それに、使い魔なんて呼び方しないで。この子は、あたしにとって家族のようなものなんだから」
「そ、そうですか。すいません。――ごめんな、エト」
使い魔呼ばわりしたことに、シャルルさんと、後ろにいるエトに謝る。
……しかし、トナカイだったのか。なんか少し納得できないけど、とりあえず、受け入れることにしよう。
それにエトから何かしらの魔法的なものを感じるような気がしたんだけど……気のせいかな?
「あれ? 修くんに、この子の名前教えたっけ?」
「へ? あ、ああ……さっき学園長が呼んでたんで……違いましたか?」
シャルルさんの言葉に、エトについて考えていた頭を切り替えて返事をする。
するとシャルルさんは首を横に振り、エトの名前があっていることを肯定してくれた。
「ううん……でも、よくそんなちょっとしたこと覚えてるなぁ、って」
「たまたま覚えてただけです」
あまりにエトが印象強すぎて、忘れられませんでした。
「……それより、そろそろ寮に行きたいんですけど……」
「あ、うん。それじゃあついてきて」
俺の言葉で思い出したのか、シャルルさんは学生寮に案内を開始してくれた。
そのシャルルさんの後ろに(清隆と姫乃は手を引かれながら)、ついて行った。
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