俺が入学許可証を手に取り、清隆の元へ戻ると、すでに姫乃が来ていた。
そしてもう一人、笑顔がよく似合う東洋人の女の子と一緒に喋っている。
(日本人……かな?)
そう思いながら三人の元へ近づき、そして清隆に、
「ロンドンに着いて早々、早速、ナンパか清隆?」
おちょくりの意味も混ぜて声をかける。
「……なんでお前は、来てすぐに姫乃と同じことを言うんだ」
はぁ、とため息をつきながら俺に返事を返す清隆。
やっぱり姫乃もそう思ったのか。
「えっと……清隆さんたちのお知り合いですか?」
「ああ。俺は清隆の幼馴染の柏田修。よろしく」
清隆の横で控えめに聞いてきたので、清隆を軽くスルーして挨拶をする。
このナンパした、してないのことで、会話を長くしてこの子をこれ以上困らしても悪いしな。
「あ、わたしは
「陽ノ本さん、ね」
やっぱり日本人らしい。
「あ、清隆さんたちにも言ったんですけど、葵で良いですよ。あと、できれば葵ちゃんでお願いします!」
「わ、分かったよ。葵ちゃん。――なら、俺も修でいいよ」
元気がある子だな。
それにしても、なんでこんな元気いっぱいな子が、この風見鶏で働いているのだろうか……?
……まあ初対面でいろいろ聞くのも礼儀が悪いし、他の気になることを聞いておこう。
「それで、なんで清隆たちと葵ちゃんは話してるんだ?」
「あ、それはですね――」
俺の問いに葵ちゃんが、先ほど何があったかを話してくれた。
どうやら、アルバイトでガス灯を灯す魔法がこもった石を取り換えようとしていたら、乗っていた
その後、取り換えるのまで手伝ってもらったので、葵ちゃんが恩返しに学園を案内することになった――とのことだ。
「それで、お前を待っていたというわけだ」
葵ちゃんの説明が終わり、最後に清隆がココに
「そうか、悪いな。待たせちゃって」
「そんなに待ってないですよ、修兄。せいぜい1分くらいです」
姫乃がすかさず俺にフォローを入れる。
俺と清隆以外の人がいる前なので、猫かぶり中。
でも、あと数分遅れてたら多分、フォローはなかったな。……あ、危なかった。
「それじゃあ、待たしてた俺が言うのもなんだけど……葵ちゃん、案内よろしく」
「お任せください!」
まず最初は桜が咲いている道に案内をされた。
「ここは通学路ですね。学校が始まったら、安里夕方には、魔法学校の生徒さんたちが沢山通ります」
「ここはさっきも通ったな」
寮に行く時にな。
「ああ、そうでしたか」
「こんな時期でも桜が咲いてるんですね」
「ええ。不思議ですよね。さすがは魔法学校って感じです!」
そんな姫乃と葵ちゃんの話を聞きながら、また移動することにした。
「ここは?」
「ここは船着き場です。向こうに見えるのは図書館島とリゾート島ですね」
清隆よ言葉に、すぐに葵ちゃんが答えを返す。
そしてその答えを聞いた姫乃が、
「図書館島? リゾート島?」
俺も聞いたことのない名前について、葵ちゃんに聞く。
「はい。図書館島には大きな図書館があります。いろんな本があるみたいですよ」
学校に図書室があるんじゃなくて、図書館島ってのがあるのか……それだけ本が入りきらないってことなのかな?
ということは、清隆が求めている知識はその図書館島にあるかもな。
「リゾート島っていうのは?」
図書館島についてはもういいのか、再び姫乃が葵ちゃんに質問する。
「リゾート島はリゾート島です。大きなショッピングモールがあって買い物もできるし、なんとなんとビーチもあります」
「ビーチで何するの?」
「もちろん、泳いだりできるんですよ。あそこはいつでも夏みたいに暑いですから」
本当にリゾート島だな。そりゃ。
けど……
「あのふたつの島にはどうやって行くんだ?」
見たところ橋もないみたいなので、気になり葵ちゃんに聞いてみた。
「ああ、わたしたち一般の住民は定期便で言ったり来たりするんですけどね、風見鶏の生徒さんは違います」
船出てるのか……そういや最初に葵ちゃんが『船着き場』って言ってたっけ。
それに今の会話で葵ちゃんが、風見鶏の生徒でないことが分かった。
……まあ、それは今は置いておくとして。
「どう違うんだ?」
「生徒さんたちはぁ、学校から支給された個人用のボートを持ってるみたいですね。それで自由に行き来してます」
「ボート……ね」
ボートが支給されないと行けないってことか。少しリゾート島に興味があったんだが……仕方がない。
というか、まだ新入生として登録させてもいない俺は、はたして入学式の日にボートを支給されるのだろうか? ……謎だ。
清隆の顔をチラリと見てみると、ポーかフェイスを保っているが、図書館島に行きたくてしょうがないようだ。清隆の使命を考えれば当然だと思う。
俺だって、半分はその使命の手伝いの為にここまで来たんだ。図書館島に行きたい気持ちは俺にもある。
でも、急ぐことでもないのだ。今は我慢をしよう。図書館島もリゾート島も。
しかし、そう思っても多少の名残り惜しさを残し、俺たちは再び移動することにした。
次に来たのは、寮の割と近めの所にあるいとつのお店だった。
「ここはわたしが主に働かせてもらっているお店『ケーキ・ビフォア・フラワーズ』です。通称『フラワーズ』♪」
花の前にケーキ……日本語で言うなら『色気より食い気』、『花より団子』って意味か?
飲食店にしてはストレートな名前だな。
その後、葵ちゃんが『テイクアウトもできます!』『お味はホショウ付きです!』などのセールスをするので、今度来てみようと思った。
そして最後に、俺たちは学校の校舎の前に来ていた。
「ここが、皆さんがの通うことになる王立ロンドン魔法学校、通称『風見鶏』です。予科二年、本科二年の四年制の魔法学校で、在籍者は主に英国出身者の魔法使いではありますが、広く世界に門戸を開いています。……なんで風見鶏と呼ばれているかっていうと、いろいろ説はあるんですが――上空から見下ろした校舎のカタが風車の用だから、そう呼ばれているって説が一般的です。学園長のエリザベスさんは、一見、お若く見えますが、実は結構な年齢の魔法使いだって噂もちらほら聞きますよ」
来てそうそう、葵ちゃんは俺より詳しい風見鶏についての知識を教えてくれた。
なぜそんなに知っているのか聞いたら『各園都市内で働かしてもらってる身ですからね。詳しくもなります』……だそうだ。
「――だいたい、こんなところでしょうか? 大急ぎで回ったから、詳しい説明はできませんでしたけど」
葵ちゃんの案内も終わり、俺と清隆、姫乃と葵ちゃんは寮の前に戻ってきた。
「いや、十分だよ。なぁ?」
俺と姫乃に聞いて来る清隆に、
「ああ」「ええ」
と同意する。
「それに、初日からこれ以上情報入れたら、頭がパンクしちゃいそうですし」
「右に同じく」
すでにもうパンクしそうだ。
「あとはおいおい知っていくから、いいよ」
「ありがとね、葵ちゃん」
「いえいえ、どーいたしまして♪」
姫乃の奴、葵ちゃんとすっかり打ち解けあっている。
やっぱり、日本人同士だと打ち解けやすいのかな?
「それじゃあ、わたし、次のバイトがあるんでこれでって……あ!!」
葵ちゃんは何かに気づいて脚を止める。
葵ちゃんの視線を追うと、寮の入口から金髪の女性が出てきたところだった。
「――っ!」
俺はその女性に驚きを隠せなかった。
(な、なんて魔力だ!)
俺の魔力感知は普通、知らない人の魔力を感じるのに15mくらいからなら感じれる。
知っていて魔力の質が分かる人なら、意識すれば30~50mくらいなら感じれるし、清隆くらいの魔力ならもう少し遠くでも大丈夫だ。
当然、感知する側の方が魔力を高めて魔法なんかを使えばもっと距離はもっと伸びるし、こっちからも感知用の魔法を使って伸ばすこともできる。
しかし、女性は何もしていないで、100mくらい先からこちらに向かって歩いているだけにも関わらず、魔力を感じる。当たり前のことだが、俺はあの女性を見るのも初めてだ。
――と、言うことは、彼女は何もしていない時の無意識に流れる魔力でさえ、普通の人の何倍も魔力があふれ出ているということだ。
多分……いや、確実に清隆以上の魔力をこの女性は持っている、と俺は思った。
「こ、こんにちは!」
「……こんにちは」
葵ちゃんの緊張した面持ちに、金髪の女性は優雅な笑みを浮かべ、挨拶を交わす。
(上級生、か?)
この魔力に、背筋の伸びた堂々とした歩き方――どう見ても『一流』という雰囲気の女の人だ。
シャルルさんとは違った、『風格』のようなものが感じられる。
「……………………?」
一瞬、その女性は俺たちの方を見る。
なので俺は(清隆と姫乃も)即座に会釈をする。
「………………」
すると女性は、ほんの小さな笑みを返してくれた。
そして俺たちの横を通りすぎていく。
すれ違った瞬間、ほのかに桜の花の香りがした――と思うのだが、正直近くで初めて感じる魔力にそれどころじゃなかった。
俺は振り返り、しばらく彼女の魔力に意識を向けていたが、多分150mを過ぎた辺りではとんど何も感じなくなった。
「はぁ……。相変わらず……かっこいいですねぇ」
俺と同じように彼女の背中を見つめていた清隆、姫乃、葵ちゃんだったが、そんな中、葵ちゃんは一番最初に言葉を口にした。
そこでようやく俺たちの時が動き出したような気がした。
「い、今の人は? 知り合い?」
「はい」
清隆が葵ちゃんに質問し、葵ちゃんが頷く。
そんな清隆と姫乃たちの会話を横で聞きながら、俺は未だに彼女が向かった先を眺めていた。
やっぱり、あの人は清隆よりも凄い魔法使い何だろうか?
葵ちゃんなら知っているかもと、意識を会話の方に向ける。
すると清隆が、
「ひょっとして、あの人がリッカ・グリーンウッド?」
と葵ちゃんに聞いた。
「なんだ、清隆あの人のこと知ってるのか?」
「知ってるも何も、あの人は世界に五人しかいないカテゴリー5の魔法使いだぞ。しかも噂に名高い《孤高の洋蘭(カトレア)》だ」
……やっぱり、清隆より凄い魔法使いだったのか。
俺は再び、『凄いです』などと話してる姫乃たちの横で、彼女が去ったあとを眺めた。
なぜそんなカテゴリー5の称号を貰うほどの凄い人がこの学園にいるのか、と。
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