葵ちゃんの案内が終わってから数時間経ち、滞在初日の夜。
量の中には食堂や大浴場があったが、各部屋にもバスやトイレ、冷蔵庫、小さなキッチンなどが備え付けられていた――が、当然のごとく、ベットは一部屋に一つ。
なので、俺と清隆は風呂をでて着替えた後、あることに悩まされていた。
「さて清隆。俺はどこで寝ればいいんだ?」
「そういえば、考えてなかったな。……一緒に寝るか?」
「野郎と一緒に同じベットで寝ろっていうのか! どこの鬼だ、お前は!」
そりゃあ流石に子供のころは何度か一緒に寝たことはあったが……この歳で男二人が同じベットに寝るなんて、想像したくもない。
思わず俺と清隆が一緒に寝てる所を一瞬想像してしまったが、あまりの気持ち悪さにすぐに頭を切り替えた。
「だよな……俺だって嫌だ」
「…………仕方ない。清隆、ちょっと運ぶの手伝ってくれないか?」
こうなったら、運ぶのが面倒だけど持ってくるしかないな。
「運ぶの手伝うって……何を持ってくるつもりなんだ?」
「
「はぁ? なんでお前、そんなモノ持ってきてるんだよ!?」
「いやー、学校の場所がロンドンって言うから、絶対に畳と布団が恋しくなるんだろうなー、と思ってこっちに送った」
「……一応聞きたいんだが、修。お前、他に何持って来たんだ?」
「仕事の道具と魔法に関係するもの。あとは日本を感じれるもの」
「……とりあえず、お前の荷物が置いてある部屋へ行ってから感想を言わせてもらうことにする」
その後、清隆の部屋に畳と布団を持っていき、俺たちは眠りについた。
あと、俺の荷物の置いてある部屋に来た清隆が『こんなに荷物持ってきて……お前はバカか!』と言っていた。
確かに清隆の持って来た荷物の倍以上あるけど、仕方ないじゃないか! ――と心に思いながら、眠りについた。
朝――俺は慣れない気温のせいか、それとも少なからず今日の入学式に緊張しているのか、割と早めに目が覚めた。
見慣れない天井のせいで少し戸惑ったが、すぐに寮の部屋にいることを思い出す。
横になったまま首を動かし、横のベットで寝ている清隆を見てみると、まだ寝ていた。
……というか、魔力がどこか先に伸びている感じがするから、清隆の奴、得意の夢見の魔法を使ってるのか?
でも、確か清隆は相手の了承がないと夢見はしないはずなんだけど…………まあ、起きたら聞けばいいか。
それよりも、せっかく小さいがキッチンがあるんだし、時間もあるしちゃんと目を覚ますためにお茶でも沸かそう。
勝手に使わせてもらうお礼として、清隆の分も作っておくか。
そう思い、俺はキッチンへ向かう為に起き上った。
そして数分が経ち、お湯が沸き自分の持ってきていたお茶を入れていると、
「ぅああ、他人の夢を見てしまった……」
なんて声が聞こえたのでそちらを見ると、ベットの上で自己嫌悪に見舞われた清隆の姿があった。
なので俺は清隆の分のお茶を注ぎ、
「おはようさん、清隆。ほら、お茶」
「……おはよう修。お茶、ありがとな」
清隆の元へ持っていき差し出す。
そのお茶をお礼を言って受けとる清隆の顔には、少し反省のような色があった。
「なんだよ。朝起きて清隆の様子を見たら、夢見してるからなんでだろうと思ってたけど……自分の意思じゃなかったのか?」
「ああ。長旅のせいか、それとも枕が変わったせいかせいか――とにかく勝手に覗いてしまったことには変わりない。……はぁ、いちから鍛え直すかなぁ」
「……別にそれくらい気にしなくても良いと思うけどな。そりゃあ、人の夢を勝手に見るのは気分が悪いかもしれないけど、無意識じゃ仕方なくないか?」
「いや、無意識に見てしまうのがダメなんだ。仮にも俺は夢見を得意とするカテゴ――」
「――清隆、この話題はまだ後でだ」
俺は清隆の言葉を途中で止めた。
なぜなら、俺が夢見に対して話を振ったので、外に意識を少し向けて人が来ないか確認をしていたのだ。
それでこの部屋のすぐ近くに誰かが……というか、知っている魔力の感じがしたので話を止めたのだ。
一応、寮の扉には防音の魔法がかかっているらしいが、念のために。
そして、それから数秒が経ち、カギが開く音がして、不意に扉が開いた。
「こら~、兄さん、修兄! そろそろ起きないとダメだよ~! 今日は入学式なんだからね~!」
と言い、姫乃が部屋に入ってくる。
当然のことながら、学校の制服に身を包んでいる。
その為だからは知らんが、いつになく姫乃はハイテンションだった。
「って、あれ? もう起きてたんだ。しかもお茶まで飲んでるし……。せっかく起こしに来たんだけどな、残念……」
俺らが起きていることを知り、少しテンションを下げる姫乃。
「……さすがだな修」
さすがというのは、姫乃が来ることが分かったことを言ってるんだろうな。多分。
「え? なに、修兄がどうかしたの?」
「いや、何でもない。……っていうか姫乃、男子寮に女子が入ってきちゃまずいだろ」
「女子寮に男子が入ってくるよりましでしょ?」
どういう理屈なんだろうか。それは。
……さて、この兄妹が会話に夢中になってる間に着替えるとするか。
そう思い着替えを始めるが姫乃と清隆は、
「それに鍵、かかってただろ?」
「知ってるでしょ? 『家族の部屋のカギを開ける魔法』は得意なの。兄さんが教えてくれたんだよ?」
なんて会話をしていて、こちらに気づいていない。
そのことに少し寂しい気持ちを感じながらも『ほぉ~、そんな魔法を清隆は創ってたのか~』と考えながら気を
すると今度は、姫乃の制服を清隆が褒め始めてる。
(……これ、先に行っても気づかれないんじゃないか?)
そう思いながらも、流石に普通の生徒と違って私服で登校しなければいけない俺は、一人で学校に行く度胸は持ち合わせてないないので、仕方なく二人の会話を聞きつつ待つことした。
「さて、俺も制服に着替えるか……」
「うんうん、兄さんの制服姿、早く見たい」
そう言って姫乃は清隆をじっと見つめる。
「……って、おい! とりあえず、着替えるから出てけよな」
「別に兄さんの着替えくらい、気にしないけど?」
「俺は気にするの!」
「はいはい。じゃあ、ラウンジで待ってるから、一緒に食堂行こ? 修兄も、ね?」
そこでようやく姫乃が俺の方を向いて聞いてきたので、
「ああ、いいぞ」
と答えた。
「俺も制服に着替えたらすぐ行くから待ってろ」
「は~い。じゃ、またあとで♪」
姫乃はそう言って、小さく手を振ると部屋を飛び出していった。
「……ふぅ」
「ほら清隆。ため息なんかついてないで、早く着替えたらどうだ?」
「なんだよ。一息入れるくらいいいじゃないか。お前だって着替えるんだろ?」
「お前たち兄妹が話している間に着替え終わりました」
「えっ? だってお前、それって私服じゃ――あ!」
よかった。気づいてくれて。あと少し清隆が気づくのを遅かったら、殴っている所だった。
やっぱり私服で入学式はツライな、と起きてから20分で改めて思わさされた。
ものの五分とかかあらず、清隆が着替えを済ませたので一緒に部屋を出る。
そして待たされるのが苦手な姫乃の為に、廊下を二人して早足で歩いていると――
「……………………」
女中姿の女性とすれ違った。
あれ、あの人……どこかで見たような………………まあいいや。とにかく今は急ごう。
それから、二階にある男女共有スペースのラウンジで姫乃と交流して、学生食堂へと向かう。
するとそこには、外にあったカフェが朝だからオープンしていないとかで、食堂で働いている葵ちゃんを発見。本当に働き者だな、この子は。
そしてそのままご飯を食べ、学校へ。
道中、『兄さんが葵ちゃん相手に、デレデレしてるから悪いです』という、食事中から不機嫌な姫乃にため息をつきながら歩く清隆。
そこに偶然にも登校していたシャルルさんが、二人の口喧嘩を止めてくれた。
それには、凄く感謝します。シャルルさん。
俺が止めようとしても、いつの間にか俺まで口喧嘩に参加していることがしょっちゅうなので、最近は口を出さず見守るのが多くなってきてたので、こうして止めてくれると凄くありがたかった。
「いよいよだね……」
校舎について早々、姫乃がそんな事を言った。
「何が?」
「え? あ、ううん。いよいよ、わたしたちの新しい学園生活が始まるんだなぁ……って思ったら、胸がいっぱいになっただけ」
「……まあ、そうだな。多分、新入生の全員は少なからずそんなんじゃないか? ……約一名を除いて」
会話を止め、清隆と姫乃がこちらを心配そうな、それでいて何かを悟っているような目で見つめてくる。
お願いだからやめろ、そういう目は。こっちだって辛いんだから。――さっきからすれ違う生徒に変な目を向けられて、早くも帰りたいと願うばかりだよ。俺は。
「……ほら、修兄。行こうよ。多分、みんなについて行けだいいと思うから」
「…………はぁ」
そう言われ、肩を落としながら姫乃と清隆について行くと、
「新入生はこっちへ移動して」
……なんだか知っているような声がした。
見てみると、上級生と思わしき女生徒が、新入生を案内していた。
みんな、その上級生の指示に従って、続々と中へ入っていく。
……というかあの人って。
俺と同じく気づいたのか、清隆と姫乃が上級生に声をかける。
「あの、すいません」
「……何?」
「
「そうだけど……。君らは――」
「俺ですよ、俺。葛木清隆」
「姫乃です」
「かつらぎ……って、ああ――清隆に姫乃か。すっかり見違えたね、分からなかったよ。……ということは、そっちのは……」
俺に視線が向けられたので、仕方なく挨拶をする。
「……修です」
「やっぱりか。相変わらず女のような、それでいて男のような顔をしているな君は。……それで、なんで修は制服じゃないんだい?」
「それはですね――」
「ばっ、ばかやめろ姫乃……って、もう遅いか……」
姫乃が巴さんに耳打ちで事情を説明し始める。
こうなったら、この人は理由を聞くまで俺たちをここから動かさないだろう。そういう人なのだこの人は。
そして、あらかた姫乃の説明を聞き終わると――
「あはははっ! 君はバカかい! ははは、まさかこんな生徒が風見鶏にいるなんてね! 何年かこの学園に通ってるけど、こんな生徒は修が初めてだ!」
「…………全部が俺のせいって訳でも無いんですけどね」
俺の言葉虚しく、ぜんぜん聞こえておらず、巴さんは笑うばかり。
だからこの人には言いたくなかったんだ。
彼女は葛木家に遠縁の親戚筋にあたる五条院家の息女らしく、何度か葛木家の家で幼い頃会ったことがあった。
だがこういう性格の為か、どちらかと言えば俺はこの人が苦手だ。
なので、もう後の相手は清隆と姫乃に負かすことにした。
そして色々話していく内に清隆が、
「う。今、思い出した……。俺、巴さん、苦手だったんだ」
そう俺もなんで清隆がそんな平然と話しているのか不思議だったが……忘れてたのか、自分が俺と一緒でこの人が苦手なこと。
だが清隆。それは口に出してはいけないセリフだったようだ。
「つれないなぁ……そんなことを言うなって」
獲物を見つけた目をしてるぞ。この先輩。
「そうですよ、今は頼れる先輩なんですから。これから、この学園でいろいろお世話になるでしょうし」
「あ~、頼れる先輩なら、他にもいろいろいるろ思うから、できればそっちによろしく」
姫乃がそんな目に気づかずそう言うと、めんどくさそうな顔になり、いきなり先輩としてどうかというセリフを言い出す。
ナイスだ姫乃。これで清隆が狙われることも、飛び火を食らうこともないだろう。……同時にこの人を先輩として、あまり頼れなくもなったが……もとより、そこまで頼むことが無いので大丈夫だろう。
「で、新入生はどこに行けばいいんですか?」
「ほら、そこの列に従って進めばいい。そっちが待機室になっているから、すぐにわかるでしょ」
巴さんが、廊下の先へ指さす。
清隆の言葉で、やっと新入生の集まる場所が分かった。
「すぐに入学式が始まるから、それまでは部屋で待機していてくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
俺も清隆のお礼と一緒に会釈をして、他の新入生たちが進んでいく先へ向かった。
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