タタカエ……タタカエ……(小声)
という訳で修行回です、というか五話までタイトル詐欺してたことに驚き。次からは多分きっと大丈夫だと思う(駄目かもしれない)
case1 ギイブル
図書室にて待機していたギイブルは、本を広げて人を待つ。今頃は他の生徒達はグレンから魔術指導を受けているはずである。
「……納得がいかないな」
グレンの言葉に反発してはいたが、無理矢理押し切られた、仕方なく待つことにしているものの不満を隠しきれない表情をしている。
「ギイブル殿、お待たせしました」
その言葉の主にギイブルが目を向けると、ラケルが居た。
「それでは、決闘戦の魔術指導をする前に、錬金術の基礎から教えます」
挨拶もそこそこにギイブルの了承も得ずに言葉を続ける。予想に違わず、苛立つギイブルが反論する。
「グレン先生からの指示で嫌々お前の話を聞いてやってるんだ、決闘戦のことなら兎も角、錬金術について聞くつもりはない!」
語気を強め、明確に否定する。その言葉に淡々とラケルが返答する。
「なるほど、それでは錬金術以外での方向で検討しましょうか。ギイブル殿の錬金術では勝率は五割を切っていますので」
その言葉で限界が来たのか、ギイブルが席を立つ。
「もういい! お前に教わらずとも決闘戦で勝利する、僕自身の錬金術でな!」
そう言って席を立つギイブルの背を見ながら、表情を変えずに声を掛ける。
「困難な道ですが、頑張って下さい。これで僕の指導を終わりとしますね」
ギイブル殿が勝つというなら、これ以上は不要ですねと付け足すと返事も無くギイブルは図書室の奥へと姿を消す。それを見送ると、ラケルは図書室を出る。
「……あんなことして、ホントに大丈夫なんでしょうね」
システィーナがラケルに声を掛けると、それに併せてラケルの姿がぐにゃりと歪み、グレンの姿が現れる。
「お前と同じで元々素養はあるんだ。あとはやる気があれば大丈夫だろ。というか、あそこまで焚き付けれりゃ気をつけるのはオーバーワークの方だな」
扉を閉めた図書室の方に目を向ける。すでに戦闘戦の準備を始めているであろうギイブルに心配と期待を込めた視線を送る。
「任せるって言ったのは先生なのに、これで良いんですか?」
ルミアが尋ねる。
「良いんだよ、本当に厳しくなった時はあいつ自身が考える、それが出来るやつだからな」
そう言うと、訓練場に戻るように二人に指示し、自分も訓練場へと向かうグレン。
CASE2 テレサ
同時刻、教室にはほとんど人はいない、大半は訓練場に向かって魔術の訓練をしているのだが、テレサとラケルが教室に残り、向き合って話し合う形になっている。
「……魔術の練習では、ないんですね」
テレサの問いにラケルが返答する。
「目的と手段の明確性がなければ、訓練の意味がなくなってしまいます。浮遊魔術における理解を深め、発展魔術を身につけ、コンセントレーションを高める訓練を積んで始めて魔術本体の真価を発揮出来ますので」
言葉を追うのに必死だったテレサは、なんとか疑問に思った事を尋ねる。
「は、発展魔術?」
その言葉と表情にラケルが反応する。
「理解が追いついていない、と推測します。しかし、順序だてて説明しますので、まずは浮遊魔術の説明からで良いですか?」
感情が読み取れない会話に困惑の表情を浮かべつつも頷くテレサ。そうすると、ラケルは言葉を続ける。
「まずは浮遊魔術、これは風のルーンを基本としてくみ上げ、結果として重力に対抗して浮かび上がらせることを目的とした魔術となります。今回は規定の高さ、範囲を維持しながら魔術の時間を競う事になりますので、安定性と持続性を重要視します。その中で重要な部分は力のベクトルと外力の作用になります」
すでに幾つかクエスチョンマークを頭に浮かべているテレサだが、ラケルが少し方向性を変える。
「それではテレサ殿、どういった訓練を行う事で安定性と持続性を高める事が出来ると思いますか?」
ラケルが質問調でテレサに問いかける。少し思考したのち、テレサが迷いながら返答する。
「浮遊魔術の反復練習と魔力制御の訓練でしょうか」
自信のない回答にラケルが返事を返す。
「はい、それも間違いではありません。しかし、それは他のクラスも行う事ですので勝ち抜くのには、大変な努力が必要でしょう」
その言葉にテレサはそれ以外の訓練を行う、ということかと聞く。
「まずは安定性について、具体的なイメージを身につける事で安定性が増します」
そう言うと小さな箱をラケルが持つと指先で器用に支える。
「これが点ベクトル一つで支えた場合」
そこから更に二本、三本と増やしていき、最期は手のひら全体で箱を支える。
「どれが安定すると思いますか?」
「全部安定してたんだけど……」
普通は失敗例を見せるのでは無いか、と呟き落胆するテレサ。だが、ラケルの言いたいことは理解出来たようだ。
「つまり、支点は多く、そして面で支えるイメージを持つ訓練が必要なのね」
その答えに頷くラケル、そしてもう一つ続ける。
「次に持続性ですが、これは失敗例を考えていきましょう」
風が吹いてバランスが崩れたとき、浮かせている物体が傾き加重が偏った時、他人の魔力につられてコントロールが疎かになった時、時間による疲労による制御の低下、と次々に例を挙げていく。
「と言うように、外力に寄る失敗と魔術の制御性能の低下に寄る失敗になります」
「今度は失敗例ばっかり、極端なのよね……」
最早諦めた表情で耳を傾けるテレサだが、内容については理解出来ているようだ。
「つまり、外部の影響を受けないようにする訓練も同時に行う、ってことね」
再びラケルが頷くと、そこで改めて言葉にする。
「そこに改変魔術を使います」
そうして取り出した一枚の紙に一つの四角を書く。
「これが浮遊させる物質とすると、外力を掛からないようにするには、どうしますか?」
テレサが少し思考を巡らし、イメージを形作る。
「外から受ける力なら、外周を囲う形がいい。だけど、真四角なら表面積も力の偏りも大きい……なら」
そこまで呟き終えると、ラケルが書いた四角の廻りに楕円状の円を書き込む。
「表面積より少なく、尚且つ外力を受けやすくする、この形にします」
それを見て、ラケルは質問をする。
「表面積を少なく、と言う割には四角に接しないのですね」
確かに囲う様に描いた円は四角に接しておらず若干の隙間が空いている。
「……あ」
やってしまった、という顔をする。どうやらそうしようとして描いたわけでは無いみたいだ。
「恐らく、イメージの元が固い殻に囲まれたものでは無く、柔らかいクッションのイメージだったのでしょう」
それならば、外力に抵抗するよりも受け流すようにベクトル操作の方がテレサ殿には合いそうですね、と呟く。
「……確かに、あんまりガチガチの外殻は想像しにくいかも、ですね」
テレサが探り探りではあるが、そう呟く。魔術がルーン文字による深層心理に干渉する以上個人個人に合った魔術構築が有効になる。
「あとは当日のコンセントレーションを高める訓練ですが、これは要するに慣れですね」
そういうと、ラケルが幻術の魔術を唱える。
「……は!?」
教室全体に施された幻術はまるでスタジアムの中心にぽつんと立たされている感覚にされる。加えて、周囲からの歓声、審判の視線、集中を切れさせる要素は数え切れないほどある。そうして、数秒経つとラケルが幻術を解く。
「当日の感覚になれていきましょう。それと加えて反射行動を身につけておく事で当日安定した精神状態で臨むことが出来ます」
ラケルがこれで訓練の概要は終わりですと呟くと、改変魔術の構築に移っていく、テレサは誰にも聞こえない声でここまでするか、と呟いたが虚しく空中へ消えていった。
case3 ウェンディ
テレサの特訓開始から数日後、ある程度進歩が見られた事と、相談を含めてラケルの研究室へとテレサが足を向けた。
「失礼します」
丁寧にノックをすると、異常と言わざるを得ない光景が広がっていた。空中に浮く寸胴でシチューを煮込むラケル、何も無い所で少し宙に浮いて快適そうに眠っているウェンディ、壁際で何も言わずに空中椅子で本を読んでいるギイブル、そしてシチューをまだかまだかと待っているグレン。
「……なにこれ」
その言葉に反応したのはウェンディだった、眠そうな眼をこすり大きなあくびをして、おはようと時刻に合わない挨拶をする。
「テレサって此処来るの初めてか?」
グレンがそう尋ねるとウェンディが反応する。
「いっつも教室か訓練場で特訓してるから、初めてですわ、多分」
ウェンディの言葉にギイブルが簡素に説明する。
「この部屋には家具と言う概念がない。魔術による力を利用することで即席の机、椅子、寝具を準備したり、温湿度を管理出来るからだ」
本から視線を移さず、眼鏡をあげる動作をして読書を続けている。
「はぁ、つまりは浮遊魔術の応用ということですね」
実感の沸いていない様な反応をしているが、利点は見るだけで分かる。本来家具で必要とされるスペースが全て不要となるのだ。移動させる労力も無く、また必要な物を必要な分だけ、その場で用意出来るのは実に理にかなっている。
「ねぇねぇテレサ、私も出来るようになったのよ」
嬉しそうにテレサにウェンディが話しかけると、立ち上がり呪文を唱える。
「ふかふかの、ソファ」
魔術陣が浮かび上がり、何も無い空間が一瞬だけ揺らぐ、視覚的には何の変化もおこっていないが。
「ほら、ソファのできあがり!」
そう言うと飛び込む様にウェンディが腰を落とす。まるでそこにソファがあるかのように柔らかく、彼女の体重を受け止め端から見たらまるで空気椅子をしている様に見える。恐る恐るテレサが手を伸ばすと、ふんわりと反力を感じる。手で感じる感触を頼りに腰を落とすと、まるで上質なソファに腰掛けているような感覚を覚える。
「えへへ、いいでしょ?」
そう言って、ウェンディが寝転ぶように上体を倒すと、ラケルが口を開く。
「手すり、着け忘れてますよ」
体を倒した先には受け止める物は無く、勢いよく頭からウェンディが床に激突する。
ウェンディが大きなたんこぶを頭に作るとテレサに話し掛ける。
「テレサはどれ位準備は進んでますの?」
明確では無いその問いにテレサは答える。
「改変魔術がまだ上手くいってないです。当日の雰囲気には少しずつ慣れてきたんですが……」
誤魔化すように笑顔を作る。それに対し、ウェンディが自信満々に話す。
「ふふ~ん、私なんかラケルが作った問題百五十問中百二十五問正解したんですのよ!」
どうやら、過去に出題された問題と今回の出題者の傾向などを照らし合わせて作った物らしい、だがラケルがそれに水を差す。
「一番進行度が遅いのはウェンディ殿ですけどね」
「そ、そんなことないですわ! ちゃんとやってるますの」
ウェンディの反論にも、最初の一日問題に眼をすら通さなかった事を突きつけるとぐぅの音も出ずに黙ってしまった。
「え~と、ギイブルもここに来るのね」
意外にもラケルの部屋にいるギイブルに違和感を覚えたのか、声を掛けた。
「ここには図書室では読めない書物もあるし、多少の魔術の使用も出来る。僕なりのやり方で勝利するとは言ったが、ラケルを利用しないとは言っていない」
書物から一切眼を話さず、そう言葉を紡ぐ。どうやらギイブルの精一杯の妥協点の様だ。
「大体、私たちには実力があるのですから――」
ウェンディが喋り始めると、ラケルが指でルーン文字を描き始める。
「ファイアウォール――そんなに無理にスケジュールを組む必要もありませんわ、体調を崩しても――」
再びラケルがルーン文字を空中に刻み、シチューの味見をする。
「黒魔術の基礎第二章 炎のルーンの基礎形成――元も子もないです。ちょっと位優遇されたって良いと思いません? ねぇ――」
そしてラケルが皿を準備しながら再びルーンを刻む。
「炎と水のルーンに寄る温湿度調節――そうでしょ、テレサ」
ウェンディの反応速度に驚きを覚えつつも、何の反応も無くラケルが見えないテーブルにシチューの皿を置いていく、しっかりと五人分用意してある。
「ウェンディは元々反応速度も理解力も高い。だけどおっちょこちょいなのは、早すぎる反応と周辺視野の広さから判断を早くしすぎている所為だ。だからああやって知識と経験を積ませて正当範囲を絞って最速回答をしていく方針だとさ」
シチューの皿に手を伸ばしつつ、グレンが説明する。あまりにも馴染みすぎているのか、ギイブルもウェンディも違和感を感じず、シチューに手を出している。
「最終的には出題から三秒以内の解答と正答率三割を目指しています。他の回答者へのプレッシャーも併せて、一位のラインがほぼ確定するのがこの数値と予測します」
ラケルのその言葉に、ウェンディが無茶なこと言うと思いませんの? とテレサに問いかける。テレサが苦笑いしか返せなかったのは、ウェンディの資質への驚きか、それともあまりにも異質な訓練環境への畏怖か。あまりにも奇怪光景に不釣り合いなほど、皿に盛られたシチューは絶品だった。
読了ありがとうございました。
奇人変人の巣窟へようこそ(愉悦)
天才枠 ウェンディ
奇人枠 ギイブル
秀才枠 テレサ
人間じゃない枠 ラケル
こんなイメージ(笑)