ロクデナシっ^2   作:3148

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グレン先生が生徒を連れて博打にいく話(ロクデナシ)

自分が負けるまで、負ける可能性に気付かないから負け越すんだよなぁ(絶望)



幕間 賭け事

 ざわつく教室に、扉が開く音共にグレンが現れる。

「おー、皆揃ってんなぁ。講義始めるぞー」

魔術競技祭も終わり、普段通りの日常が戻ってきた。

 

 時間が過ぎ、放課後に成りグレンがラケルの部屋へ訪れるとテレサとウェンディがくつろいでいた。

「……いや、別に良いけどな」

誰もグレンを気にもとめず、己のすることに集中している。

「どうしたんですか、グレン教諭」

ラケルが声を掛けると、わざとらしくグレンが溜めて話す。

「ふっふっふ、なんと今日が給料日なのだ!」

その言葉に誰も特に反応しない。振り向きもせずにウェンディが口を開く。

「ご飯でもおごって下さいますの?」

いつもこの部屋にただ飯をたかりに来ているグレンからすれば、あり得ない事かもしれないが、それでも構わないと返答する。

「これから、この給料を倍にしに行くんだからな!」

 

 「それで結局、博打ですか……」

テレサはあきれ顔で呟く。ウェンディも同様に大きくため息を吐く。

「ほんっと、そんなんだから貧乏なままなのですわ」

どこか釈然としない表情でグレンが呟く。

「別に……お前ら二人には来いとは言ってないんだけどな」

この町で一番大きいギャンブル場へ向かうグレンと三人。そうして、ラケルが確認するように口を開く。

「それで、給料をコインに変換して、分割して増やすのが目的ってことでいいんですね」

それにグレンは頷く。

「それじゃ、テレサ二、ラケル一、私一で良いかしら?」

「えっ?」

グレンがその言葉に疑問を抱く。

「私が二ですか? 三人で等分でいいんじゃないですか」

テレサが控えめに自分の掛け分を減らすように提案する。

「あ……あの」

グレンが何か言いたそうにしているが、言葉に出来ない。

「僕もテレサ殿に多く掛けた方が、良い結果が得られると思います」

ラケルはウェンディの意見に同意するが、そこでグレンが発言する。

「待て待て待て! なんで俺がそこに入ってないんだ!?」

三人がきょとんとした顔になる。ウェンディが当たり前のように返事をする。

「負け馬に掛ける理由が無いですわ」

「大人の意地を見せてやるからな!」

 

 結局四等分する事に決まり、全員にコインを分ける。

「コインは全部で八十枚、一人二十枚ずつだな」

換金してきたグレンが三人に手渡す。

「それじゃあ、終わったら向かいの酒場で祝勝会だな!」

そう言い残すと、全力で中に走って行った。

「……今更あいつに何を言えばいいか分からないですわ」

溜息を吐きながら、ウェンディ達もギャンブル場に足を踏み入れる。中には大勢の人が居て、ポーカー、ブラックジャック、ルーレット、他にも様々なものがあるが、レースと言われる所に今日は人が集まっている。どうやらグレンもそこに行っているらしい。

「それでは、僕はブラブラしてきますね」

そう言って、一番手近なポーカーへとラケルが向かっていく。

「私は……ルーレットですかね~」

全体を見渡したテレサはルーレットに目を付けた。決まってからは足早に動く二人に残され、ウェンディは未だに決めかねている。そうしていると、スタッフの男性から声を掛けられる。

「お悩みなら、レースはどうですか? ルールも簡単ですし、今一番人気ですよ?」

賭博では何もしない人間は客とは思われない。物見遊山ではお金は動かないし、店にとっても利益にはなり得ない。

「ん~……少し、見てみますわ」

そう答えると、スタッフについて歩くようにレースへと向かう。

 

 向かう途中でルールを説明されたが、特に注意して聞くことも無く、その場に辿り着く。

「あら、満席のようですわ」

そうウェンディが呟くスタッフは返事をする。

「このレースが終われば、幾つか席が空くと思いますよ」

なるほどと答えると、ウェンディが歩き出す。

「それでは、席が空くまで見て回りますわ。ありがとう、スタッフさん」

それでは、良い一日をと頭を下げてスタッフは下がる。そうして、レースの廻りをぐるぐると回り始め、二周程で止めその場を離れる。

「……間抜けも居たものね」

後ろのポケットにレースに熱狂していた人間の一人から抜き取ったハートのエースのカードを入れる。

「あの手の賭けは、苦手なのよね」

ルーレットやレースのように、結果を胴元で操作できるものを確実に取るには、確率が高いものをとり続け勝ち逃げをするか、ディーラーに読み勝つ必要がある。勿論、ビギナーズラックということもあるが、それに賭ける様には教わってはいない。一つルーレットと違う点は、払い戻しが客同士の掛け額によって変わるということだ。その中から何割かを抜くことで、胴元が得をするシステムなのだが、大きく当てるには相当の訓練が必要となる。

「まぁ、最初からするつもりもなかったし、行きましょ」

そう呟くとブラックジャックのテーブルへとウェンディが向かう。

 

 その頃テレサはルーレットで勝ったり負けたりしていた。

「う~ん、少し負け越してる……かな」

周囲も余り慣れない手つきに、一点張りではなく、色掛けばかりしている初心者の賭け方にアドバイスをしたり、煽ったりしている。

「でかく一点張りしないと勝てないぜ?」

「そうそう、難しいとは思うけどね」

廻りから煽られて、テレサは答える。

「そうですね。少し怖いですけど、大きく賭けてみますね」

そう意って、持っているコイン十八枚、それを三つに分けて三つの数字にはめ込む。

「おお! 思い切ったねお嬢さん!」

「はははっ、本当に大丈夫かい?」

中々常連でも見られない賭け方に客は大騒ぎになっている。それに乗って同じ数字に賭けるもの、自分のリズムを崩さず別の数字や色に賭けるもの、様々だ。しかし、ディーラーだけは顔色が違った。

「さぁ、楽しいルーレットの時間ですね」

そのディーラーはこのギャンブル場では新参者だった。腕は悪くは無いが、経験が少なく、客への対応もお世辞にも上手くは無い。だが、狙った数字に落とすことも出来る。勿論百%とまではいかないが、成功率は高い。

「どうしました、ディーラーさん?」

テレサが声を掛ける。ディーラーは見誤っていた。見た目は若く、賭け方もまるで初心者、手持ちの半分も吐き出せば出て行く者だと思っていた、思い込んでいた。だが、違った。ディーラーは観察されていたのだ。今回決してその数字に落としたわけでは無い、だが自分が狙った数字に落とせる得意な三つの数字を、彼女は的確に賭けてきた。

(いや、落ち着け。この女の数字以外に落とせば良いだけだ)

得意とは言え、それ以外の数字を出せない訳では無い。一点張りは勿論色掛けよりも倍率が高く、もし彼女の数字に落としてしまえば百枚近くのコインの払い戻しになる。そうなってしまえば、一日分の働きどころか、大きなマイナスになる。だからこそ、ディーラーは背中に冷や汗をかくことになる。

「そ、それでは……入ります」

回転しているルーレットに小さい銀色の玉を転がす。その動作の間、常に彼女の視線が視界から外れない。まるで蛇に睨まれたカエルのような気分だ。

「っ!?」

言葉に成らない悲鳴が漏れる。それは、興奮している他の客には聞こえなかっただろう。だが、彼女の耳にはしっかりと届いていた。そして彼女の表情は、歓びでも安堵の表情でも無く、酷く冷たいものだった。まるで、使い古された玩具を見るような、呆れと落胆が混ざった表情だ。その瞳には最早、ディーラーは映って居なかった。

 

 「やりました! これでお父様に懐中時計を買って差し上げられますわ!」

わざと大喜びをして、周囲も驚きと歓声を上げている。そうして、放心しているディーラーを尻目に何の違和感も無くギャンブル場を後にする。大勝ちしてしまえば話題になり、勝ち逃げになれば店側も黙っていられない。勿論限度にもよるが、ただ今回は店側が、ディーラーの対処が遅れた。直ぐさま換金を済ませ、その場を離れる彼女を止める者は居なかった。

 

 ルーレットの方から歓声が聞こえる。どうやらテレサがやらかしたようだ。

「……テレサと同じテーブルにいなくて良かったですわ」

ブラックジャックを始めてから十数戦目。最初は降りたり、バーストを出してマイナスにはなっているが、何度かの勝ちによって大きく負け越した分を取り戻してはいる。

「おっ、嬢ちゃん調子が出てきたんじゃ無いか?」

「最初は散々だったのになぁ」

周囲のヤジに適当に返答をしつつも、配られるカードを見る。ブラックジャックはルーレットと違い、胴元から返ってくることはない。掛け合った当人同士でのコインのやりとりだ。つまり、勝てる手札の時に大きく稼ぎ、負けるときは降りて被害を小さく、或いははったりをかまして相手を降ろすか、になる。ディーラーがカードを操作することはなくはないが、回転を上げることで利益の上がる為、極端な例を含めて手元を注視するのはプレイヤーのみだ。そうして、配られてきたカードを開くとハートのクイーンだった。

「ふふふっ」

ウェンディが不敵な笑いをして、周囲の目を集める。

「レイズですわっ!」

わざと声を張り上げ、場を沸かせる。

「おお、良いカードが入ったのかい?」

流石にいきなりのレイズに驚いたのか、プレイヤーの一人が声を掛けた。

「ハートのクイーン、つまり勝利の女神ですわ! これぞ、チャンス! チャンスの女神は一度しか現れませんのよ!」

身を乗り出し、声を掛けてきたプレイヤーに指を指す。その言葉に、周囲は調子に乗っているだけだ、と勘違いする。

「なるほどなぁ、それなら俺もいっちょ賭けてみるか」

一人を皮切りにほとんどのプレイヤーがコールする。ウェンディは何度か大見得を切って無茶な賭けを何度かしてきた。その度に敗北を喫し、現在の負け越しの状態になった事を周囲も理解している。故に、周囲のプレイヤーは万が一の可能性に、気がつかなかった。

「それでは、オープン!」

その後もレイズを続け、掛け金を持ち金全部になったところでディーラーがカードを開く様に宣言する。

「なっ……!?」

周囲は絶句する。ウェンディの手元から開かれたカードがハートのエースであり、ブラックジャックだったことに。

「勝利の女神が微笑むのは、一度だけですのよ」

そう言うと、淡々と集められたコインを持って、ブラックジャックのテーブルを後にする。釣られたことに後悔する者、呆然とする者、それらを意にも介せずギャンブル場を後にする。

 

 酒場の扉が開かれ、ラケルが入ると既にテレサとウェンディがテーブルに付き、食事を頼んでいた。

「遅かったわね」

四人掛けのテーブルに腰掛けると、ラケルが口を開く。

「一応、付き合いのあるお店ですから。ある程度勝って、ちょい勝ちまでコインを吐いてを繰り返すと時間が掛かりました」

テレサが呆れた顔で口を開く。

「まぁ、大変でしたのね……」

「流石に私はそこまで考えてギャンブルなんてしませんわ」

理解出来ない、と言った様子でウェンディが喋ったとき、再び酒場の扉が開く。

「あ、グレン先生ですわ」

「こっちですよ~」

ウェンディとテレサが反応し、手を振る。しかし、グレンの様子は酷く落ち込み、負のオーラを纏っているように見える。

「……どうされました?」

ラケルの問いにも答えず、テーブルに付くグレン。

「なんで料理頼んでるんだよ……」

そういうと、頭を抱えるグレン。見るまでも無く大敗を喫したようだ。

「何でって、私たち勝ってるからですわ」

そのウェンディの言葉に、グレンが顔を上げる。

「い、幾らだ?」

ラケルが答える。

「四十枚」

ウェンディが答える。

「六十枚」

テレサが最後に口を開く。

「百枚、併せて二百枚ですわ。グレン先生は幾らですか?」

数を聞く毎に明るくなってるグレンは最後の問いに答えられずにいる。

「ほら、賭けにもならないですわ」

「まぁ、そうでしょうね……」

「予想通り、全部吐き出したんですね」

その言葉にグレンは逆ギレする。

「予想通りってなんだよ!? つかなんでお前らそんなに勝ってるんだよ!?」

グレンが大声を出すと、ウェンディがポケットからカードを取り出し、炎のルーンを唱えて燃やす。

「当然、勝てるから、ですわ」

何を当たり前なことを聞いているのか、痛げな反応にグレンは絶句した。

「まぁ、流石にサマでもテレサに叶わないのは、驚きましたわ」

「仕方ないですよ、新人のディーラーなんてあんなものですよ」

困ったように笑うテレサ。相手にもならなかったからか、不完全燃焼の様子だ。

「僕もテレサ殿の腕前には驚かされましたね、ウェンディ殿も素晴らしい演技でした」

満更でもなさそうにウェンディはありがとうと返事をする。

「……お前ら」

持つ者と持たざる者の差を見せつけられ絶句する。その後も四人で食事をしたが、元の給料よりも大幅に増えた額が手元に残った。

「い、いいのか。俺が全部貰って」

それにはテレサが答える。

「元はグレン先生のお金でしょう?」

ご飯も食べさせて貰いましたし、と付け足す。

「宵越しの、それもあぶく銭なんて持つものではありませんわ」

手をひらひらと振って、興味が無いと言う。

「元々、グレン教諭のお金を増やすという目的ですので」

ラケルがそういうと、テレサとウェンディを送って行く。残されたのは、金とグレンだけだった。

「そういや、あいつらからしたら端金だったか……」

増えた給料に、素直に喜べず、にけんめにもよらず、まっすぐと家に戻るグレンだった。

 




読了ありがとうございました。

ギャンブルの才能がある人間とない人間の話です。
僕のイメージですけど、博打を勝ち越せる視野を持つ人間は、わざわざ周りに言いふらしたりして自己満足を得ることもないのかなぁ、って思います。

何が言いたいかと言うと、勝ってCOOLに去るのが格好いいですよね(笑)
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