ロクデナシっ^2   作:3148

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ラケルの父親が誘拐されるという日常(ロクデナシ)

淡々と仕事をこなすラケルは、本当に話しなさそう(小並感)


幕間 錬金術師の日常 中編

 「こ、腰が……」

喜んでいる間はあまり感じていなかったが、落ち着いてくると腰に受けたダメージを実感してきたのか、腰を押さえて膝を突いているウェンディの姿があった。

「あ、ラケルさん。来てたんすね」

二人の従業員らしき人が部屋から出てきた。

「さっき来たところです。積荷はどうですか?」

ラケルが問うと、返事をする。

「着いた時には夜だったんで、積荷は今日はストックしてます。大手と注文があったところにまわって、受け取りの確認だけ終わらせてきました」

金と銀と違ってはきはきと喋るこちらの従業員はまともに見えた。

「果実と鉄の売り先が大分買値を叩いてくるんすけど、どうします?」

もう一人が飄々と尋ねると、ラケルが指示をだす。

「いや、買値は僕が確認しにいく。市場が変化しているかもしれない。それより、大手が終わったなら後は積荷の保存状態だけ確認して休んでいいよ」

従業員二人が了解と答えると、積荷を確認していく。それと平行して、馬車の調子をチェックしていくラケル。車輪、車軸、馬とつなぐ手綱の劣化具合など、破損部があればその都度錬金術で修理していく。

「へぇ……本当に何でも出来るんだ」

ウェンディが素直に感心していると、金と銀が口を出す。

「ラケルの兄貴が居ないと、この支部は動かないっす!」

「立ち上げの時も、ラケルの兄貴ならってお上さんが許可出したみたいっす!」

ウェンディが改めて感心していると、自分と比べて大きな存在に見えた。学院内で世間知らずな言動をしているが、社会の一分として必要とされているラケルに、少し嫉妬した。

 

 馬車の修理が終わり、従業員達は部屋の中で休息を取っている。端に設けられた木製のベンチで、ウェンディとラケルが隣り合って座っている。

「あんたって、凄いのね」

ウェンディが少し俯きながら、呟くように話す。

「何がですか?」

ラケルの鈍さに少し苛立ち、それも呆れに変わって今度は背筋を伸ばして天井を見上げる。

「……何でも出来て、大人と対等以上に渡り合ってて。嘘でも冗談でもなく、商業を任されてるなんてね」

自分なんて、親の姿しか見てこなかった。自分は娘なので嫁ぐか、或いは婿入りで家業を継ぐかもしれないというのに、と呟く。

「ウェンディ殿が凄いというなら、きっと僕は凄いと思います。比較対象がハッキリとしないので僕は分かりません」

ラケルがそういうと、ウェンディは更に複雑な表情になった。出来て当たり前だと、そう言う態度も気に食わないのかもしれない。

「もし、ウェンディ殿が比較対象なら、僕が出来る事はウェンディ殿も出来るはずです」

ラケルのその言葉に、ウェンディはいじける。

「嫌み?」

ラケルはいつもの表情で答える。

「いえ、本当に出来ないのであれば、凄いではなく分からない、という表現になります。ウェンディ殿が凄いと思うのであれば、それはウェンディ殿が理解出来ているということで、ウェンディ殿の行く先の延長上にあるということですので」

ラケルは、僕が見る限りでは、然程時間は掛からないと思います、と続けた。何時だって言葉を選ばず正直なラケルにウェンディは肩の力を抜く。

「はぁ……私にも、ね。まぁ、出来なくても良いのですけど」

そもそも、現場で汗水垂らして動き回るのは性にあわないですわ、と話していると別の話題に切り替える。

「そう言えば、この仕事はラケルのお祖父さんの手伝いですわね。よくまだ学生に任せる気になりますものね」

ラケルへの評価とどうしてそうなったのかの疑問を含めた言葉をラケルに問うと、意外な返事が返ってきた。

「いえ、母上のお父様から任せて頂いた仕事です。実家にいた際にある程度貢献していたので、母上の推薦もあって任せて頂いてます」

その返答に、ウェンディは首を傾げる。

「ん、だからお祖父様ですわよね?」

ラケルは即答する。

「いえ、血縁関係はないので、祖父にはあたりませんね」

ウェンディが跳び上がり、驚きの表情で真意を問い詰めようとした瞬間、ラケルの腕から通信魔術の反応がする。

「父上、どうされました?」

ラケルがそう尋ねると、ラケルの父とは違う声が聞こえる。

「お前が、ラケルってガキか?」

太く鈍い声が響くと、その奥からラケルの父悲鳴が聞こえるが、銃声によって黙らせられる。

「ラケルですが、どういったご用件でしょうか?」

冷静なガキだな、と毒づきながら話が続けられる。

「お前の所の駄目親父が、うちの賭場で大負けしたんだよ。金が払えねぇっていうから、労働力として売り払おうと思ったんだが、お前さんなら金を持っているって言うもんでな。簡単な話だ、親父を助けたかったら工業地区の七番倉庫に、金を持ってこい」

野太い声に、ラケルが返事をする。

「承知しました。七番倉庫であれば急いでも三十分かかるので、その頃に向かわせて頂きます」

その言葉に、苛立った声で返事がくる。

「あぁ、三十分だぁ!? 金も払えねぇ泥棒野郎が何を抜かしてやがる!?」

通信具からの怒号に驚きもせず、淡々と返答をするラケル。

「夜分に出る馬車もありません。僕は急がせて頂きますが、それ以上にも以下にもする事は出来ません」

そう答えると、怒号が更に激しくなるが、やがて収まり最後に言葉を残す。

「三十分だ、それ以上待たせやがったら親父の命は無いと思え!」

その言葉を最後に、通信は途切れる。

「あぁ、ウェンディ殿、話を遮ってしまってすみません。何か質問がありましたか?」

「いや、それどころじゃないでしょう!?」

ラケルに対して、肩を持って揺さぶるウェンディ。かなり混乱している様だ。

 

 ウェンディの混乱が落ち着いて来た頃、ラケルが七番倉庫に向かう準備を始める。

「ほ、本当に大丈夫ですの!?」

ウェンディから見れば悠長に見えるのだろう。それに対し、ラケルが返答する。

「七番倉庫へはここから十分程度で着きます、そのことから相手は僕の居場所を把握出来ていない事が分かります。そして、銃声から銃を持っていること、手下が居ること、魔術師ではないと推測出来ます」

この御時世に銃を扱う魔術師は稀だ。錬金術による大砲や錬成、或いは対魔術用に使用する例もあるが、それも少ない。

「そして僕が馬車もないという言葉を聞いて対応出来なかったので、僕の現状、もしかすると詳細すら知らない可能性もあります」

先ほどの対話で相手の状況を把握し、問題ないとラケルは感じ取ったのだろう。しかし、その返答にウェンディが驚く。

「嘘ばっかりじゃないですの!? どうしてそんなに冷静なんですの!?」

普通ならば肉親が誘拐されていると言うのならば、焦るはずだ。一般的にはウェンディの対応が正常なのだが。

「慣れてますから」

その言葉にウェンディは絶句するしかなかった。

 

 ウェンディは紙に書かれた魔方陣と、覚えた詠唱を扱えるように繰り返す。場所は七番倉庫の裏、もう少しでラケルが正面から中に入るはずだ。

「……これだけで、大丈夫ですの?」

ラケルが出て行こうとする時に、ウェンディが無理矢理ついていく形になった。特に来る必要はないと言われたけれど、責任感からか、心配からか着いてくる事を選んだ。それに対して、ラケルは魔術を合図をしたタイミングで使って欲しい、という要望だったが。

「不安ですわ」

タイミングを待ち、息をのむウェンディの姿がぽつりと倉庫の裏にあった。

 




読了ありがとうございました。

何故血縁関係がないかは次回で説明します。
ちょっと特殊な出生なんです、ちょっとだけ。
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