仲良し三人組を見て癒されるんだよぉ!(友情ブレイク)
クラスの全員が決して緩くはない傾斜の坂を上っていく。目的地は今回の遠征の主目的白金研究所だ。
「リィエル、どうして昨日帰ってこなかったのかな……?」
ルミアが呟くと、システィーナが口をつぐむ。何があったのかは分からないが、昨晩リィエルは宿に戻らず、今日に至っても、俯き暗い雰囲気のなのだ。
「昨日は、あんなに楽しそうだったのに」
浜辺で遊び、三人で星空を見上げたときのリィエルの笑顔に嘘はない、二人はそう呟いた。誰が見ても沈んだ雰囲気の彼女に声を掛けるものはいなかった。
「あっ」
クラスの誰かが声を上げる。ほとんど山道の様な道は、木の根や凹凸が多く、つまずきやすい。ましてや、気を他にやってしまっている人間なら尚更に。
「リィエル!」
こけて膝をついたリィエルにルミアが駆け寄る。
「触らないで!」
ルミアが近づいた瞬間、リィエルはそう叫んだ。まるで幼子が駄々を捏ねるように。
「リィエル、ルミアは貴方のことを思って助けようとしたのよ。私たちも心配したんだから。特に、昨日の夜も帰ってこなかったっし……」
システィーナが諭す様にリィエルに話しかけるが、それに耳を傾けている様子はなかった。
「うるさい! 皆、大っ嫌い!」
振り向かずに走り出すリィエル。その姿を追う事は、誰も出来なかった。
「リィ……エル?」
システィーナもルミアも、リィエルの行動に驚きを隠せなかった。後ろから引率として歩いてきたグレンが、二人に声を掛ける。
「すまん、俺が昨日あいつに余計なこと言っちまったからな。それでちょっと……機嫌が悪いんだ」
そう言うと、他のクラスメイトにも気にしないでくれ、言葉を掛ける。
「その……俺が言うのもなんだけど、あいつちょっと不安定なんだ。だから、嫌いにならないで欲しい」
頼む、とグレンが頭を下げると、ラケルが口を挟んだ。
「女のこの日、というやつですか?」
無言でウェンディに殴られる。テレサからは、穏やかな笑みで少し黙るように諭されていた。
「大丈夫ですよ、先生! 私達がリィエルのこと嫌いにはなりませんから」
システィーナの笑みに、ルミアもその通りと頷く。責任を感じていたのか強ばっていたグレンお顔が少し穏やかになったようだ。
「ありがとな」
そういうと、クラスが再び足を進める、目的の場所へ。
綺麗な水が流れ、木々が生い茂り、肺を満たす空気は、今まで感じた事の無いほど、澄んでいて上質なものだった。
「遠征のご協力ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ互いに良き学びになると思います」
白金研究所所長バークスとグレンが握手を交わすと、山登りに疲れたクラスメイトも含め、研究所の中へと入っていく。
「白金術とは、白魔術と錬金術を組み合わせて行われる魔術の総称となります。生物同士を組み合わせキメラを創造したり、既存の生態に魔術的要素を組み合わせること、つまり命を扱う魔術になります」
バークスを先頭にクラスが着いていく形になり、周囲にはキメラを作成している実験のガラスケースがあり、研究員が確認や議論を交わしたりしている。
「それ故に、このように自然に恵まれた環境で、常に上質なマナに囲まれている必要があるんですな」
その後も白金術について語り続け、大きく開けたホールで各々が興味のある場所に向かう、自由時間になった。
「白金術かぁ、今まで考えもしてなかったけど、こういった研究職も良いんじゃないかなって思っちゃうな」
システィーナはガラスの中にあるキメラを眺め、その細部における魔術の精緻さに感動している。
「ルミアは、どう?」
システィーナと共に行動していたルミアは、白金術について問われる。
「私は、将来官僚志望だから……それに、あんまり研究に没頭しすぎると、あんまり良くない気がするし」
ルミアは控えめにだが、キメラを遠ざけていた。その感情は恐怖だったのかもしれない。
「……確かに、あまりにのめり込むと外道魔術師に落ちてしまうかも」
そう話していると、背後の方が騒がしい事に気付いた。
「何があったのかな」
ルミアが呟くと、二人とも自然とそちらに足を向ける。研究中らしいガラスケースの前で研究員二人とラケルが向かい合っていた。
「なにやってんのよ……」
システィーナが呆れると、三人の会話が聞こえてくる。
「こんな若造の指示に従えというのか?」
恐らくはその研究の管理者なのだろう。それに対し、研究員の一人が進言する。
「し、しかし、彼の言っている事は正しいと思われるのです」
研究員は困惑しつつも、自分の意見を変えるつもりはなさそうだ。
「だが、そいつの言うとおりに経過観察を一時間から十分毎に変えれば、今の三倍は人数を割く必要がある。それを出来るだけの人員はないぞ?」
その言葉は、確かに必要な行動だとは理解しているが、他の研究の手を遅らせてまでするべきか悩んでいる、という様子だ。
「そ、それは……」
研究員は言葉にすることは出来ない。研究員一人で解決する問題ではないから、管理者に相談をしているのだ。だが、上手く説得する事が出来ない。
「合成処理の経過は十五から三十分毎に変化します。一時間おきの確認であれば、正確なデータを取れず、また研究データにばらつきがでるでしょう。そして、現在進行中の大型キメラの生成、かつ白魔術の確認及び白魔術の更新については、二日おきで十分です。安定環境まで進んでいるので、変化はないでしょう」
ラケルがそう言うと、管理者は考え込む。確かにラケルの言う言葉は正確だ。なおかつ、大型キメラ研究は時間を掛けている分、管理を過剰にしていると感じる部分はある。失敗してしまえば、大きな損失、管理責任になるからだ。
「どうして君が、そこまで語る?」
あくまで部外者のラケルがここまで口を出すのかを不思議だと感じたのだろう。それに対しラケルはさも当然のように返答する。
「同じ錬金術士の研究に携わる貴重な機会です、当然でしょう」
ラケルにとっては、錬金術の研究を行い事象を仮説に、仮説を実証に、実証を現実にすることは当然なのだろう。そこに個人の利益や、責任の有無が介在する余地はないのだろう。躊躇いのないその言葉に嘘偽りはない、そう感じたようだ。
「よし、研究の編成を変える。大型キメラの配備している研究員を呼び戻せ」
研究員に指示をすると、全体の管理を行う為の準備を始める。
「り、了解しました! その、ラケルさんの指示通りに動く、ということですか?」
気の弱そうに尋ねる研究員に、管理者が一喝する。
「馬鹿者! 己の行う研究の善し悪しは己で判断しろ! それが出来るから、ここに居るのだろうが!」
「は、はい!」
そう言うと、こけそうになりながら奥に走って行く研究員。それを見送り、管理者もまた配置変更について指示を出していく。
「澄まないな、長く務めれば務めるほど、重圧に流されてしまうのだ。よければ、他の箇所も同行して貰えないだろうか」
それに対し、ラケルが答える。
「ええ、あと二十二箇所編成を変更する事で効率の上昇の見込めるので」
その言葉に管理者が何とも言えない表情になったが、それについては何も語らなかった。
「あはは、ラケル君は凄いね」
「一体、なにやってんのよ……」
研究員と同等以上に渡り合っていたこと、そして余所に来ても待ったくぶれない彼の行動に呆れたり、驚いたりしていた。
少し落ち着くと、再び元の会話に戻った。
「でも、あの研究はもう行われることもないでしょうしね。かつて帝国が大々的に進めていた研究、命を復活させる白金術」
システィーナが言葉を発していると、バークスが横から口を挟んできた。
「命を複製する白金術、プロジェクト・リヴァイブ・ライフ。まさか学生からその言葉を聞くことが出来るとは、随分と勉強されてきている様ですな」
その言葉にシスティーナが首を振る。
「そ、そんな、それほどでもないですよ」
それに構わず、バークスが続ける。
「そんな謙遜しなくても。軍用キメラと動揺に禁忌とされている白金術、幾多の研究の末、人が踏み込む領域にあらず、と呼ばれています」
その説明に、ルミアが好奇心を膨らませる。
「その、プロジェクト・リヴァイブ・ライフって、どういうものなんですか?」
それに対し、グレンが口を挟んで説明した。
「肉体を複製した入れ物、魂を複製したアルターエーテル、そして、元の人間の記憶をコピーした記憶情報。それらを組み合わせる事によって、人間を複製しようって白金術だ」
「先生! 説明してくださるのは有り難いですが、何も横から口を挟まなくてもいいじゃないですか」
システィーナが声を上げると、ルミアが疑問を出す。
「でもそれって、人間の蘇生と言えるのでしょうか?」
その疑問にはバークスが答えた。
「確かにコピーとコピーを掛け合わせた、コピー人間を作り出す物です。命を蘇生させるものではありません」
そうして付け加える様に、グレンが続けた。
「つっても、アルターエーテルを作り出すのに、大量のマナや人間の命が必要になる。倫理的にも問題があったんだがな」
そう言うと、バークスが口を開く。
「その為、現在は研究は凍結されています。しかし……風の噂で天の知恵研究会が研究を進めているらしいが」
その言葉にグレンが顔を顰めるが、後ろの方から聞こえる声に話が途切れる。
「ちょっとあんた、今日は配置が違うって聞いてないんですの!? 貴方はB地区の研究に言って下さいな」
ウェンディがうろうろしていた研究員に指示を飛ばす。
「……見つけた。変異の前兆だ、確認とデータの蓄積を早く!」
ギイブルが覗き込んだ顕微鏡で何かを見つけたようだ、その周囲にいた研究員が驚き、作業を始める。
「詠唱に一小節付加することで、浮遊魔術をより安定させる事が出来ます」
そうテレサが話すと、他の研究員よりも遙かに高い精度で研究の補助の魔術を行う。遅々として進まなかった研究が、動き出す。
「本当に、お互いに勉強になりますな」
所長が頬を掻く。
「そうですね、俺も貴方から見たら若造でしょうけど、こいつらに教えられることが結構あったりするんすよね」
そういうと、グレンが生徒達を見て、少し笑う。
「はっはっは、とはいえ大人にもこれまで培ってきた経験と知識。そして、プライドがありますからな。例え未来に超えられることがあったとして、今私達大人も頑張りませんとな」
そういうと、グレンが複雑な顔をして、生徒達を見る。
「そう……ですね」
途中から話について行けなくなった二人が、少し困った様子を見ると、バークスは再び口を開く。
「まだ時間はある、色々と見てくると良い」
そうして、各々分かれていく。
見学の時間が終わり、生徒達が夕食を食べるためにばらけていく。その輪から外れるようにリィエルが佇んでいる。
「ねぇ、ルミア。皆が食事行こうって。一緒に行かない?」
一人になっているリィエルを見守っていたルミアにシスティーナが声を掛ける。リィエルの様子に気付いていなかったのか、システィーナはルミアに近づいた瞬間短く声を上げる。
「……リィエル、大丈夫かな?」
つい先日顔を合わせたばかりだが、少しずつ仲良くなっていった友人に気をかけずには居られないようだ。
「ねぇ、リィエル。私達と一緒にご飯食べに行かない?」
システィーナが気さくにリィエルに声を掛ける、その言葉に対しやはり反応は変わらない。
「……話しかけないで」
その様子を見かねたグレンが、つい声を出してしまった。
「おいリィエル! その言い方はないだろ!」
グレン本人も、口に出してから気付いたのか、はっと我に返るような調子だ。
「嫌い嫌い、大っ嫌い! みんなみんな、グレンも嫌い!」
そう張り詰めるように叫んで、走り去っていく。反応が遅れたのか、誰も彼女を追えなかった。
「お、おいリィエル!?」
教師としての責任か、それともかつての仲間故か、リィエルの背を追おうとするが、ラケルがグレンを止める。
「警告」
短く発した言葉にグレンは反抗しようとしたが、己が冷静になっていないことに気付いたのか、足を止めた。
読了ありがとうございました。
リィエルは実質三歳児(確信)
明確な年表とかってあるのかな?
時系列破綻してたらごめんなさい(すっとぼけ)