そして、行くてを阻むエレノア!
特に理由のない銃弾がグレンを襲う!
グレン死す!? デュエルスタンバイ!
日は暮れ、生徒達は宿舎に戻っていったが、リィエルが戻ってきてはいなかった。
「ねぇ、やっぱりリィエルを探しに行きましょう」
システィーナが提案する。ルミアもその案に賛成のようだったが、グレンがそれを止めた。
「いや、リィエルは俺が探してくる。どうせ腹を空かせているだろうからな、飯でも作って待っててやってくれ」
そういうと、グレンが歩き始める。
「これでも、あいつの教師なんでな」
その言葉にルミアとシスティーナは安心し、グレンの背を見送った。
「分からない……私は、どうしたらいい?」
浜辺で一人佇んでいるリィエルが膝を抱え、ふさぎ込む。どれほどの時間そこにいたのか、もうリィエル自身にも分からない。
「リィエル」
「誰っ!?」
リィエルが驚き振り向くと、そこにはかつての兄の姿があった。
「そ……んな、兄さんは死んだはず?」
その言葉にリィエルの兄は応える。
「リィエル、君はあの時動揺していたんだ。だから気付かなかった、僅かに息があったことを。そして一命を取り留めた……だけどまだ、僕は天の知恵研究会に縛られている」
甘ったるいその言葉に、リィエルは目眩を起こしそうになっていた。まるで華の蜜のようで、一度刺されば抜けない薔薇のとげのようだった。
「兄さん……」
喉の奥に物が詰まったように、言葉が出ない。
「リィエル、君はあの夜逃げ出すことが出来た。だが僕はまだ……囚われ続けている。リィエル、助けてくれないか?」
そう言ってリィエルの兄が手を伸ばすと、リィエルは拒んだ。
「……あっ」
リィエルも意識してはいなかったようだ。ただ混乱して、手を払っただけだ。だがその事に、リィエルの兄は酷く悲しい表情をする、その表情にリィエルは耐えられなかった。
「どう……すればいいの?」
リィエルの兄が答える。
「組織はチャンスをくれたんだ。ルミア・ティンジェルをつれて来れば、僕にもチャンスがある……そしてそれには、グレン・レーダスが邪魔なんだ」
その言葉に、リィエルの混乱は極まっていく。
「にい、さん」
遠隔魔術でその場の様子を見ていたアルベルトは、苦虫を潰した表情になる。
「ちっ、こうなってしまったか」
そうしてリィエル達の元に行こうとするが、目の前に狂気が現れる。
「貴様、エレノア・シャーロットだな」
その問いに、メイド服を纏った女性が恭しくお辞儀をする。
「ご機嫌麗しゅう、アルベルト様。私と踊って頂けないでしょうか? 冒涜的で背徳的で崩落的な一夜をお約束しますわ」
顔を上げて見える怪しげな笑みに、アルベルトは一切の容赦もなく、軍用魔術を放つ。
「吠えよ炎獅子」
「踊れ廃炎」
双者の炎がぶつかり合い、闘いの火蓋が切って落とされる。
リィエルとその兄の元に、グレンが走り込む。
「大丈夫かリィエル!? この俺が来たからには、どんな魔術を使おうが無駄だぜ!」
外道魔術師と敵対していると思っていたのだろう、リィエルを庇う様に立つグレンに、余裕の笑みがこぼれる。
「あ、どうした?」
援軍が来た危機感ではない、余裕の笑みを浮かべる相手にグレンが違和感をもった瞬間爆音が鳴り響く。
ドォン
突然の銃声に驚き、グレンはその音の方向に目を向ける。
「ラケル! 何のつもりだ!?」
そのグレンの問いに、ラケルは答えない。どうやら銃弾はリィエルを狙った物のようで、錬金術で作られた剣で弾かれていた。驚きながらも、リィエルの心配に後ろを振り返るグレン。
「大丈夫かリィエル!? リィ……エル?」
グレンの言葉は、夜に吸い込まれていくように小さくなっていく。そして、感情を持たない鉄の塊が、銃身から打ち出される。
グレンを挟んでラケルと対面する形になっていたリィエルは二度目の銃声に身構えていた。だが、弾丸は予想外の方向へ撃ち出されていた。
「えっ」
グレンの背から弾丸が飛び出し、大量の血がリィエルに降りかかる。
「グ……レン?」
予想だにしていたなかったのか、動揺を隠す様子もない。手が震え、現状がまるで理解出来ていない、といった様子だ。
「リィエル殿、貴女の役割はなんだ」
ラケルのその言葉で、リィエルはようやく動揺を少し落ち着ける。
「貴女の役割は、なんだ!」
語気を強めて放たれた言葉は、リィエルの困惑に、思考を取り戻させた。
「……ルミア?」
消え入りそうな言葉で、リィエルが呟く。その言葉をしっかりと聞き取ったのか、ラケルが再び言葉を放つ。
「行け」
地に伏せ血を流すグレンと兄の姿を見比べるリィエル。
「行け!」
再び語気を強めたラケルに圧倒されたのか、はじき出されるように飛び出すリィエル。
「あのままリィエルに殺させても良かったと思うんだけど、どうして邪魔をしたんだい?」
リィエルの兄が、ラケルに尋ねる。
「それが分からないなら、錬金術師を名乗らない方がいい」
そう言って、銃身をリィエルの兄に向ける。決して銃弾を放つ様子はないが、それでもこれ以上無いほどの敵意を向けていた。
「分かった、分かったから、その銃を下ろしてくれ。僕は白金研究所でリィエルの帰りを待つとするよ」
そういうと、冷や汗を掻いたリィエルの兄は足早にその場を去って行った。
遠隔魔術で一部始終を見ていたアルベルトは、毒づく。
「ちっ、腑抜けがっ」
エレノアとの激しい魔術戦は続いていた。隙をついて、幾度かエレノアに魔術で攻撃を行っていたが、その度に傷が再生している。
「その再生能力、白魔術や再生術による物ではないな……もっとどす黒い、不浄の物だ」
自分の能力を端部でも理解されたことに、狂喜し、或いは惜しむかのように唇を歪ませる。
「流石はアルベルト様、素敵で熱くて熱くて……蕩けてしまいそうですわぁ」
妖艶に身をくねらせる彼女の姿は、美しい美女のそれで有り、深淵のように深くおぞましく理解出来ないものでもあった。
「おいでませ、おいでませ、おいでませ、おいでませ、おいでませぇ」
甲高い笑い声と共に現れるのは、女性の形をしてた何か。今ではもう死者と呼ばれる物だ。
「また醜悪な物を、ネクロマンサーが」
大勢の死者に囲まれながらも、その行動に一切の迷いはない。近距離拡散魔術を用い、周囲に群がっている死者達を一掃した。おぞましい死者を駆除する事は出来たが、その一瞬でエレノアは逃亡を済ませていた。
「ちっ、女狐が」
自らの失態を噛み締めるかの様に毒づいた後、拳を強く握りしめる。だが、アルベルトは直ぐに歩み始める、彼の任務はまだ終わっていないのだ。
システィーナはリィエルとグレンが戻ってきた時にお腹をすかせているだろう、と言うことで少しの間食料の買い出しへと出ていた、それは幸か不幸か、荷物を持って部屋の扉を開けると、ルミアが待っているはずの部屋が一変していた。
「なに……これ」
割れた窓ガラス、部屋の中は荒らされ、恐らくそこから入ってきたであろう窓の付近はボロボロで、カーテンも切り裂かれていた。
「どういうことなの、リィエル!」
システィーナが叫ぶと荒らされている元凶だと思われるリィエルを睨みつける。そして、その脇にはルミアが抱えられていた。
「大丈夫、ルミアは死んでいない」
リィエルのその言葉に驚き、そして一先ずルミアが気絶させられただけだと言うことに安堵する。そうして、少しずつ状況を整理出来た段階で暗闇で分かりにくかったが、リィエルの服や体の所々に、赤黒いシミが付いていることが分かった。
「ルミアは……? グレン先生はどうしたの!?」
システィーナのその問いに少し間を開けゆっくりと話す。
「グレンは……死んだ」
システィーナはリィエルの服の汚れが、恐らくはグレンの血である事想像したのだろう、余りの衝撃に膝を突きそうになったが、親友の危機であること、そしてまだ本当にグレンが死んでいるのか不明である事で踏みとどまった。
「待ちなさい! ルミアを放さないと、撃つわよ!」
手のひらを突き出す形に構え、ショックボルトを放つ格好をしている。だがその行為にも、リィエルは微塵も怯えはしない。
「撃ちたいなら、そうすればいい。私がシスティに攻撃する理由はないから……」
息をのみシスティーナが身構える。手が震え、明らかに怯えている。それは人に対して攻勢魔術を放つことに対してか、或いは短いとはいえ、友人と思う相手だったからか。
「……時間切れ」
リィエルがそう呟くと窓の外に飛び出す。その姿を見送った後、システィーナが腰が抜け、力尽きたかのように膝を付いた。
「撃てるわけ無いじゃない、ルミアに当たるかもしれないし、なにより友達に向かって……」
あふれ出す言葉が、途中で止まる。悔しさに歯を噛み締めて、床に拳をたたきつける。
「言い訳ばっかり! こんなの、ただ臆病なだけじゃない! ルミアも、リィエルも守れない……」
そう言って悔しさに、涙を流していると背後から声が聞こえてくる。
「あ、すみません。ちょっとベッドをお借りしても良いですか?」
どうやら声の主はラケルのようだ。何もこんなタイミングで来なくてもと言わんばかりに、ぶっきらぼうに答える。
「態々こんなボロボロの部屋でいいなら、好きなのを使いなさいよ!」
「ありがとうございます」
そうラケルが言うと、ベッドからボスンと何か重たい物を放り投げたような音がした。流石にその音が何か気になったのか、システィーナが振り返る。
「グレン先生!?」
血まみれで、血色の悪いグレンが放り投げられていた。
読了ありがとうございました。
味方だと思ってるやつを背中から撃ち抜くのは楽しいですね(愉悦)
よし、これでロクデナシ要素が一つ減ったな(確信)