ロクデナシっ^2   作:3148

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ラケル対リィエル、スタート!

刀対大剣です、ロマンのぶつかり合い、肉体言語の鎬の削りあい、良いよね!


課外授業 第八話

 ラケルが研究室に入ると、断絶結界とリィエル達、そしていまだ囚われたままのルミアの姿が見えた。

「おやおや、真打ちは遅れて、ってやつかな?」

リィエルの兄がそう言う瞬間に、リィエルが後ろに突き飛ばし、剣を構えながら後ろに飛ぶ。目でとらえることが難しいほどの速度で、抜刀しリィエルの剣を真っ二つにする。それと同時に服の一部が切り裂かれ、リィエルが後ろに跳んでいなければ死んでいたことを理解した。

「な、なんだこれは……?」

圧倒的なほど、ラケルが優位に立ち、常にリィエルが死地に立つ。ラケルの一刀毎に、体の一部が裂け、血が滴る。時には腕を、時には足を、背後から首を狙われることもあった。

「……こいつら、人間なのか?」

神速の刃を振るうラケルもそれを読み避けるリィエルも最早人間の域ではない。一般人の目では、刃の残光と踏み砕かれる床と壁しかとらえることは出来ない。残骸の一部がリィエルの兄に跳び、襲いかかるがリィエルの剣がそれを粉砕する。粉砕した剣を見逃し、再び鞘に刀を収め抜刀術の構えを取る。

「何故……殺さなかったの?」

リィエルの兄を庇う動きは、リィエルにとって隙を作る行為でしかなかった。それなのに、ラケルはその隙を突かず、それまでのぎりぎりの剣戟と正反対の行動にリィエルは困惑していた。

「グレン教諭から、リィエル殿を救う。そう指示があった」

ラケルのその言葉にリィエルの兄が応える。

「はっ、この後に及んでそんな甘いことを考えていたのか?」

そうやってラケルをあざ笑うリィエルの兄に目も向けず、更に腰を落として抜刀を早く、更に早くする構えを取る。

「選べ、兄との絆を選びここで共に死ぬか、グレン殿との絆を選び再び学院に戻るか」

その言葉に、リィエルが動揺する。自分がまだその二つの選択に悩み苦しんでいることを見抜かれていたことに。

「然もなくば、どちらとものつながりを保ったまま、逝くがいい。それはリィエル殿が選ぶことだ」

そう言うと、もう話す言葉は不要だ。リィエルも剣を握り直し、次の一撃に備える。

「……ありがとう」

常に死と隣り合わせの戦闘が再び始まる。

 

 グレン達はホーエンハイムの魔術を乗り越え、愚者の世界で活動停止に持ち込む必要がある。対してホーエンハイムは研究と言い、グレン達の行動を観察しているようすだ。しかし、ホーエンハイムにとっては、日常会話ですら魔術になる。

「てめぇ、何のためにここに居る?」

互いに距離を取ったまま硬直していると、グレンが言葉を放つ。

「対話かい? 嬉しいねぇ。何のためか、勿論君たちとラケル君の観察もあるんだけど、リィエルちゃんも気にはなっているんだよね」

ホーエンハイムの言葉にグレンが反応する。

「てめぇが、リィエルに何の用があるって言うんだよ?」

少し感情の入った言葉だが、グレンは冷静さを失っているわけではなさそうだ。

「何のようか、それは私が知りたいんだがね。何せ、ラケル君がリィエルちゃんを特別だと認識している節がある。リィエル計画、には余り興味を持っている訳ではなさそうだから、彼女自身の事だと思うのだけれど……」

そうして、考え込む仕草をするホーエンハイムは本当に真剣に悩んでいるようにも見える。

「あ? リィエルは普通の女の子だよ。例え生まれや育ちが特殊であっても、普通に感情があって、悩むし馬鹿もやる、普通の女の子で、俺の生徒なんだよ」

グレンは再び駆け出す。次々に紡がれるホーエンハイムの攻勢魔術を避けながら、少しずつ近づいていく。

「確かに、生まれや育ちは特殊だね。しかし、アルターエーテルや肉体の複製に目をつけた可能性も……」

そこまで呟いて、ある可能性に気付いたようだ。その僅かな隙を狙うかのようにアルベルトが吠える。

「蠢く煉獄よ 罪深き者に粛正を 災いの連鎖に終結を 黄泉の門を開け ニルヴァーナ」

灼熱の炎の柱が、うずまくようにホーエンハイムを囲む。高温、多重構造になる炎の渦は対象を燃やし、酸素を奪い呼吸を止め、確実に殺す魔術である。それでも、万が一の可能性がある。それを起こさせない為にグレンは近づき、愚者の世界発動させようとした。

「あはははははは! そういうことだったのか!」

人間であれば、抜け出ることの出来ない炎の渦を何の障害もなかったかのようにすり抜け、グレンの腕をはたき、タロットカードをはじき飛ばす。

「しまっ……」

愚者の世界を奪われてしまった上に、蹴り飛ばされ再び距離を取られてしまった。グレンに攻撃するその一瞬を狙いアルベルトが己の最も得意とする魔術を放つ。

「吠えよ 炎獅子」

「吠えよ 炎獅子」

それと同時にホーエンハイムが同じ詠唱をする。しかし、その結果は違った。アルベルトは高速で襲いかかる炎の獅子が一匹。それに対しホーエンハイムの詠唱からは三匹の炎の獣が生まれていた。一匹は打ち砕くが二匹目に敗れたアルベルトの魔術は霧散し、二匹が高速でアルベルトを襲う。

「アルベルトぉ!?」

グレンの悲痛な叫びが結界内に響き渡る。グレンも受けているダメージが少ないとは言い難いが、軍用魔術を同時に二つ受けては、訓練されているとはいえ無事では済まない。砂煙が晴れた後には、重傷で意識があるかどうかすら怪しいアルベルトが倒れている。

「いやぁ、すまない。加減を間違えてしまったようだ。君のおかげでリィエルちゃんの可能性に気付いてしまったからね。つい張り切ってしまった」

その言葉にグレンは顔を歪める。

「一応、冥土の土産に何に気付いたのか聞いといてやるよ」

その言葉に嬉々として応える。

「リィエルちゃんはね、死んだ後の記憶を持っているかもしれない。憶測に過ぎないが、記憶を引き継がせる固有魔術を兄が使用していて、その兄が死んだにも関わらず、死ぬ直前までの記憶を所持しているからね!」

グレンは理解出来なかった。死後の世界等というものを明確に想像したことはなかったし、有無についてもそれほど追求することはなかった。

「数学で偉大なる先人が零という概念を生み出した様に、彼女は死んだ後の無という世界を観測した可能性がある! つまりそれは、人が、地球が、宇宙が、世界が存在する前の『無』」

そこで一息区切り、それまでの熱のこもった演説とは違い、冷淡に凍えてしまいそうな言葉を紡ぐ。

「或いは、ルーン文字のあるべき場所、魔術の根底……真理へと至る場所かもしれない」

その言葉にグレンは恐怖を抱く。まるで理解出来ない、狂喜の沙汰だからだ。古代魔術の研究すら比較にならない、破滅への道筋。それも人が至ることが許されなかった、禁断の世界に干渉しようと言うのだ。

「ネジがぶっとんでるとは思ってたが、そこまでイカれてちゃどうしようもねぇな……最期にいいもん見せてやるよ」

そう言って、グレンは最大の切り札を切る。

「我は神を斬獲せし者」

唱え始めたグレンの周囲に、マナが渦巻いていく。

「我は神を斬獲せし者」

グレンが唱え始めたのと同時に掌をかざし、ホーエンハイムもまた唱える。

「我は始原の祖と終を知る者」

グレンが発動に必要な媒体を取りだし、握りしめる。

「我は始原の祖と終を知る者」

ホーエンハイムが唱えると、体に刻まれた刻印が輝きを放つ。

「其は摂理の円環へと帰還せよ」

魔方陣がグレンの眼前に展開する。

「其は摂理の円環へと帰還せよ」

二人の唱える魔術は同じ陣、同じルーンが刻まれているのにも関わらず、輝きは別物に見えた。

「五素より成りし物は五素に」

「五素より成りし物は五素に」

火のルーンが熱を生み、水のルーンが氷点下へと誘い、雷のルーンが稲光を呼ぶ。

「象と理を紡ぐ縁は乖離すべし」

「象と理を紡ぐ縁は乖離すべし」

それぞれのルーンが放つエネルギーが、ぶつかりあい、衝突し、別のエネルギーに分解されながら、なお加速度的にその力を高めていき、やがては別次元へと昇華される。

「いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ」

「いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ」

極限まで高められ、最早当初の在り方さえも面影を見せないそれは、只々その赴く先に微塵も残さない。

「遥かな虚無の果てに イクステンションレイ!」

「遥かな虚無の果てに イクステンションレイ」

詠唱もまったく同じ、最大威力の魔術がぶつかり合う。

 

 ラケルとリィエルが鎬を削り合う中、決着が付いたのか、断絶結界が綻びを帯び、崩れていく。それでもなお、二人の死闘は止まらない。一瞬でも気を抜けば、死に至るからだ。

「ホーエンハイムが……勝ったのか?」

中の様子が、ゆっくりと見えるようになる。アルベルトは仰向けに倒れ、グレンは意識こそあるが、マナ不足でまともに動くこともままならない。そして、ホーエンハイムは二人を見下すように立っていた。

「くそっ……なんでてめぇは、余裕ぶっこいてんだよ」

確かに、グレンはマナの総量も少なく、イクステンションレイを使用するだけで、マナ欠乏症に至る程だった。しかしそれはホーエンハイムも条件は同じ、例えマナの総量が大きくとも、熟練度の低い魔術であればマナの消耗は激しくなる。断絶結界、ホーリーセイバー、更には軍用魔術の連発となると肉体的にマナの量も無事で済むはずがない。

「ははは、やっぱり君は目が良いね。君の言うとおり、触媒もマナもかなりの量が必要だった」

そう呟くとホーエンハイムは、口から大量に吐血する。

「だからね、食道器官、それと腎臓もかな。全て稼働させてマナを生成した後、触媒として使ったのさ」

グレンは背筋に氷を差し込まれたかのような恐怖を感じる。内蔵を消費して魔術を発動するなど、人間業ではない。そうした後、一体どれほどの間、命が持つのかすら分からないのに。

「それでも、知りたかったのさ。グレン・レーダスという魂と記憶を。嗚呼、後数メトル先にまだ未知の世界があるというのなら、この命を使うに値する」

そう言って一歩目を踏み出すと、グズリと言う音と共に、前のめりに倒れる。どうやら消滅魔術がぶつかり合った際に、足の強度が歩行に耐えられなくなったらしい。それでもなお、進もうとするホーエンハイムは、体を引きずり、なお接近しようと試みる。

「くそっ、頭いかれてるよお前。確かに錬金術師としては、ぶっちぎりで凄いのかもしれねぇ。だがな、俺には守らなきゃいけない生徒が居るんだよ!」

そう吠えると、懐から銃を取り出す。魔術師時代に利用していた物をアルベルトから受け取っていたのだ。装填された銃弾が放たれると、ホーエンハイムの右肩を抉る。動く速度は遅くなったものの、まだ近づいてきている。グレンは再び銃弾を装填しようとするが、彼もまた虫の息だ。手元が震え、思うように装填できない。

「ち、くしょう」

目がかすみ、最早弾を込めることも出来ず、意識が薄れていく。悪魔の手がグレンに届く。

 

 グレンにホーエンハイムの手が届くその瞬間、剣が突き立てられ、腕が吹き飛ぶ。

「……君か」

ほぼ部屋の反対に位置する場所から、相当な速度で駆けつけたのだろう。空中で剣を投げることである程度減速したが、数メトル足で地面を削った跡が付いている。

「私は……グレンを、グレンの守りたいものを、ルミアやシスティ達を、守る」

彼女の瞳に最早迷いはない。ホーエンハイムの手はグレンに届かず、やがてその命は消えていく。

 




読了ありがとうございました。

リィエル覚醒、グレン死す(違)

あくまでホーエンハイムのセリフは憶測に過ぎないのですが、固有魔術によって人間が「理解の至らない」物を写す、或いは認識する可能性がリィエルにあったかもしれない、という感じです。

魔術の根底に「別世界の理」というルールがあったので、もしかすれば、死後の世界にも繋がってる可能性が微レ存?
そんな感じですので、適当に読み飛ばして頂ければ幸いです、要するにこいつ頭おかしいなって演出ですので(笑)
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