昔はシスティーナとレオンはお祖父様の元で共に過ごしてたんですよね……
中庭の木陰でもそもそとパンの耳を口にしているグレンが独り言を愚痴る。
「あー、さわやかイケメンってだけでも有罪なのに、その上ハイスペックとかどれだけ罪を重ねれば気が済むんだよ。ちくしょー、不幸だー」
やる気のない声で只管吐き出す呪詛を耳にしたのか、ルミアが近寄り声を掛けてきた。
「先生、あんまり人のこと悪く言っちゃいけませんよ。それにほら、噂をすれば……ってやつですよ」
そう言って指さす茂みの先にはシスティーナとレオンが二人で中庭を歩いている様子だ。ルミアはリィエルと一緒に行動していたようで、茂みに隠れながら二人の様子を見ている。
「出歯亀は感心しないぞ?」
大して興味の無い様子のグレンとリィエルとは正反対にルミアは興味津々のようだ。
「でも、気になるじゃないですか」
二人には気付かれないように、静かにその先を覗き込む。
食事を終えたシスティーナとレオンは、ぎこちないながらも会話をしながら、中庭を散歩していた。
「こうして歩いていると、昔お祖父様と一緒に遊んでいた頃を思い出さないかい?」
そう問いかけるレオンにシスティーナは返答する。
「……そうね、あの頃はまだ私もレオンも小さくて、よく駆け回って遊んでいたわね」
頬を撫でる風は、過去の友人に対する気恥ずかしさから来る熱を奪っていく。突然の出来事に困惑してばかりだったが、落ち着きを取り戻せば、居心地の悪さも無くなっていく。
「システィーナ、あの時の約束を覚えていますか?」
少し歩く速度を速めてシスティーナの前に立って向かい合うレオン。その様子に違和感を感じながらも、過去を思い出そうとするがシスティーナに心当たりはなさそうだ。
「約束って言われても、子供の頃じゃない。色々と話し合ったけど、どれのことだか……」
そう言って優しく微笑むシスティーナに、真剣な眼差しでレオンが言葉を紡ぐ。
「なら、今もう一度約束を。結婚して頂けませんか、システィーナ」
中庭のど真ん中で、ド直球ドストライクの告白をしてみせるイケメンの鏡。これはいわゆるイケメンに限るというアレで、限られた人種にのみ許された非人道的行動である。
「そ、そんな。それは、ただの子供の頃の約束じゃない……」
そう呟いて赤く染まる顔を隠す。長く流れる銀色の髪を手でいじり、緊張と困惑を隠す素振りをしているが、嫌気はなさそうだ。
「だからこそ、今一度改めて、僕と一緒に軍用魔術の道を歩んで欲しいんです。生涯を共にする伴侶として」
その鮮やかに彩られた言葉の中に、一つの異物が混じる。言葉自体におかしいところはないが、システィーナにとっては、それまで熱くなっていた身体を凍てつかせてしまう程度には、おぞましい言葉だった。
「軍用……魔術?」
想像だにしていなった言葉に、絶句するシスティーナ。聞き間違いと思いたかったようだが、更にレオンが絶望を叩き付ける。
「古代魔術なんかの研究などという叶わぬ夢は捨てて、共に軍用魔術を研究しましょう。お祖父様も、偉大なるフィーベル家の名を落とすことは望まないはずですよ」
システィーナがよろける。子供の頃に共にお祖父様に憧れた旧友が、一度は恋心を抱き、色あせようとも無くなることのない思い人が、ここまで変わってしまった事に。ふらつき、足場が無くなってしまったような感覚に膝が崩れるが、抱きかかえられ、何とか倒れずに済む。
「そいつは、聞き捨てならないな。古代魔術はこいつの夢だ、他人にとやかく言われる事じゃ無いはずだぜ?」
いつの間にか茂みから飛び出していたグレンが、システィーナを抱きかかえていた。
「貴方こそ、口を挟むべきでは無いでしょう。僕たち二人の問題なのですから」
強く、更に強く語気を強めていくレオンの勢いを止めたのは、意外にもシスティーナだった。
「……関係なら、あります」
一瞬の沈黙の間に、レオンが尋ねる。
「システィ、今なんて言いました?」
レオンの売り言葉に買い言葉を返すように、システィーナは涙目で言い放つ。
「グレン先生にも関係はあります! なぜなら、私とグレン先生は将来を誓い合った仲なのですから!」
勢いよくシスティーナの口から出た言葉は周囲の人間全てを驚かせた。そして、一度レオンが口を開く。
「それは、間違いないのですね」
信じがたい、そう言いたげだ。
「そうだ、俺と白猫はふかーい仲なんだよ。とはいえ、俺だって鬼じゃねぇ」
グレンが自分の手袋をレオンに投げつける。
「貴方がシスティーナをかどかわした男だと言うことは理解しました。システィーナに相応しいのはどちらか、決闘を以て証明して見せましょう」
グレンはいつだったか、システィーナに受けたときと変わらず、立場が真逆になっている。
「まさか、怖じ気づくなんて事はないだろうな」
「日時と内容は追って伝える。これ以上、貴方と口をきくのも、彼女の口から妄言を聞くこともしたくないからな」
そう言うと踵を返し、早々とレオンは立ち去ってしまった。
レオンが立ち去った後、悪びれもせずグレンが呟く。
「やっちまったぜ♪」
「やっちまったぜ♪ じゃないですよ! どうするんですか!?」
システィーナが半狂乱になりながらグレンの胸ぐらを掴んで揺する。
「そんなこと言ったって、先にふっかけたのは白猫のほうじゃ無いか。なるようになるだろ」
そう、システィーナの意図を理解してグレンは芝居を打ったのだが、予想外の事が起こってしまったということだ。むしろ、グレンとしてはよくやったと思われるが、拗れてしまった以上、システィーナには問題にしかならない。
「あ、これでもし白猫と結婚したら逆玉じゃね? それはそれでありか」
とても教師とは思えない発言に絶句しつつ、頭を抱えて崩れ落ちた。
読了ありがとうございました。
システィーナとレオンの過去って触れられてるのかな?
仲の良い子供だったはずだけど、お祖父様との関わりはあまり描かれていなかった、気がする、多分、恐らく、めいびー
ということで、仲が良くて、たまに喧嘩して、共にお祖父様から学んだって解釈しております(適当)