そんなに長くないです。
作戦が進む中、リィエルがルミアの膝枕でうたた寝をしている。
「これはどんな作戦なんですか!? というか、リィエルがここで寝てて大丈夫なんですか!?」
システィーナがグレンに対し絶叫する。
「相手が最先端なら、こっちは古くさい戦法をとるっていったろ? 攻撃は二人、あとは全員補助だ。中世より前の一騎打ち形式だよ。前線に集まる部隊には『リィエルが現れるかもしれない』恐怖で、足を止めてもらうから、まぁ時間一杯まで逃げれるだろ。あとは……」
その先の言葉は、グレンは呟かなかった。
レオンが構え、詠唱を唱える。
「捉えろ風塵」
一小節の詠唱で、竜巻が起こりラケルを中心に徐々に被い囲むように縮まっていく。
「吠えろ炎獅子」
「轟け雷狼」
「唸れ水竜」
炎が猛り竜巻の中を貫き、稲妻が駆け抜け、押し流す水流が風に乗り天に昇る。
「燃えさかる炎よ 轟く雷鳴よ 呑み込む大海よ 逃げ惑う民草を鏖せ」
炎が地を焼き尽くし、雷が尽く蹂躙し、水が全てを押し流す。その軍用魔術が起きた後の地には何も残らない、はずだった。
「なん……だと!?」
制服の一部を焦がし、破けながらも、ラケルはその魔術を回避していた。
「炎、電気、水の三種の軍用魔術の完成度もさることながら、風の魔術による精密制御、素晴らしい技術です。しかし、軍用魔術でありながら、過去の……魔導考古学に近い術式パターンが組み込まれていますね」
針の穴のような三種の魔術の隙間を、手に持つ銃と刀で捻広げ、被害を最小限に抑えている。
「見切った、というのか?」
確かに、魔方陣と発声において魔術の解析は可能ではある。軍用魔術において秘匿性は非常に重要なものであり、詠唱の短略化、高速発生により対応させないように発展している魔術に対して、瞬時に適応しているラケルの反応速度は異常と言わざるを得ない。
「壁よ」
「ファイア」
ラケルの炎魔術により撃ち出された銃弾は、レオンの防衛魔術によりあっさりと防がれる。
「鉛弾程度では、貫通しないぞ?」
「成る程」
返すように飛びかかる炎の獅子を、刀で切り裂き後退を余儀なくされるラケル。
「何故、魔導考古学をここまで研究しておきながら、軍用魔術を専攻されているのですか」
ラケルが本当に気になっているだけのように尋ねる。その意図に困惑を示しつつも、レオンが応える。
「魔導考古学なんかでは……名を上げることが出来ないからだ」
肩で息をしながら、吐き出すように言葉を続ける。
「お祖父様が発見した考古学の論文が、今何に発展しているか、知っているか?」
レオンの問いに、躊躇いも無く答える。
「軍用魔術に転用されていますね。メルガリウスにまつわる魔術に、攻勢魔術の関わりがあったことが近年発見されています」
苦々しく吐きすて、レオンが言葉を続ける。
「そうだ。お祖父様が生涯を賭して積み上げた研究は軍用魔術に使用されている。そして、メルガリウス自体が攻勢魔術の発展による滅亡の可能性があるとさえ言われている。そうであれば、軍用魔術の発展は不可欠なんだ」
苦虫を噛み潰したような表情で、地面に拳を叩き付ける。
「一部の天才の発見を、僅か数年でその他大勢が発展させ、そちらが注目される。更に言えば、時間をかければ、誰が望むとも無くメルガリウスに辿り着くだろう。その時に、同じ結末を迎えないための努力をしなければならない」
レオンは、幼少時から魔導考古学を夢見ていたが、自信の才能との食い違い、周囲からの圧力から思うように道を進むことが出来ず、更には尊敬するお祖父様の研究が軍用魔術に関わる事に寄り、そう言って己を誤魔化すしか無かったのかもしれない。
「なにより、茨の道を歩むようなことをシスティに望むことが……あるはずがない」
「本人が進む道は本人が決定するものです。例えそれが、望むと望まざると関わらず。本人の意思に反しても、レオン教諭は、システィ殿にそれを強制するのですか?」
ラケルは善意も悪意もなく、好奇心のままに尋ねる。
「……もし仮に、それでシスティに恨まれることになろうとも、正しいと信じている」
そう呟くレオンは、マナ欠乏症の兆候が現れ始めていた。ラケルとの対戦におけるマナ消費が大きすぎたのかもしれない。
「そう、ですか。少し、レオン教諭とシスティーナ殿の未来を見てみたいと思いました」
そういうと、ラケルが踵を返し、グレンの陣営へと向かっていった。
「ど、どういうことだ?」
その場に一人残されたレオンは、ただ立ち尽くすだけだった。ただこの決闘に残された時間は然程ない。
読了ありがとうございました。
メルガリウスの天空城はンニャピ、よく分かんないです(困惑)
攻勢魔術に関しては創作ですので、ご容赦をお願いいたします。
ただ、レオンは最初の志を決して忘れてしまったわけではないと、そんな話なのです。