なんか、錬金術でグレンはやられました(適当)
深夜の校舎、レオンとの一騎打ちに敗れたグレンは、闘うことを決意した。
「くそっ……このままじゃ、勝ち目はない。今のまま、じゃ……」
そういって、校舎を後にしようとしたとき、ラケルの姿が見えた。
「あいつ……」
普段から校舎に住み込んでいるラケルを見かけるのは特段不思議なことでは無かったのだが、特殊な状況だったからかもしれない。
「あいつ……なにして」
ラケルの研究室に入り込んだ瞬間、グレンの目が驚愕にそまる。
「なっ、なんでてめぇが此処に!?」
グレンが反応した先には、ベッドに仰向けに眠っている男性だった。
「ああ、グレン教諭。決闘は終わったみたいですね」
何事も無く手元の作業を続けているが、グレンが訝しむ表情を止めはしない。
「おう……なんでさっき決闘してきた奴が、そこで倒れているんだ?」
信じられない、といった表情でグレンがそのベッドに眠る男を見つめる。
「まさかこいつが、マナ欠乏症……まぁ、クラス対抗戦の後で様子はおかしかったしな。今日の時点でやたら調子良さそうにしてたのもまぁ、今となってはおかしいよな」
グレンが腕を組んで考え込んでいる。夜は更に更けていき、月も傾き落ちかけている。星明かりだけが窓から見える。
「そんで、俺が会ったレオンは、偽物で確定なんだな?」
グレンがラケルに問いかける。
「そうですね、先日のクラス対抗戦の段階から彼がこの部屋を出ることは不可能でしたので、偽物で間違いないかと」
あくまでその偽物に対する情報はないと、答えるかのように。そこでグレンは溜息をついた。
「それで、こいつはなんでこんなことになってんの? まさか対抗戦やった程度でこうはならんだろ」
そうして、ラケルからレオンに視線を移すと、未だ目を覚まさない様子だ。
「ああ、薬物による中毒症状ですね。思考の偏り強制とマナ制御を司る部分の脳機能が著しく低下してます。低下が激しいので分かりにくいですが、病原菌やウィルスではなく、人工物の摂取による兆候が見られますので……断定しても良いかと」
ラケルの言葉にグレンは一瞬で気を引き締める。その症状に、ききおぼえがあったのだ。
「まさか、あいつが……なんでここに?」
突然のことに動揺するグレン。脳裏をよぎる姿に、恐怖と驚愕を覚えている。
「心当たりがあるんですね。それなら話が早い」
そう呟くと、ラケルはレオンに対し、治療を進めていく。治療と呼ぶにはあまりにも単純な、行為。
「肉体的な損傷についてはマナの欠乏症のみになりますので、マナを補充すれば意識は戻るはずです」
もっとも、漏れ続けるマナを止める術はないですが、と言葉を付け加える。その行為に反応するように、レオンが目を覚ます。
「……くっ、一体なんだっていうんだ。って、君は!?」
レオンが驚く、どうやら混乱しているようだ。
「よぅ、それはこっちの台詞だよ。さっきお前の偽物にぼこぼこにされてきたところだってのに」
その言葉に、レオンが反応する。
「偽物……ジャティス様か!?」
その言葉に、グレンは抱いていた恐怖が現実に変わったことを確信する。
「そんなことできんのも、アイツくらいだからな」
盛大に溜息をつくグレン。
「そんで、どうしてジャティス様なんて気味の悪い呼び方で呼んでんだ?」
理由は理解してても、因縁の相手に対してそうであることは、やはり気に食わないのだろう。
「ああ、それは僕から説明します。思考の偏りの強制のため、特定の人物に関連する事象を認識した際に幸福感を感じる様になっています。その期間が長くなれば、自然とその人物に対する尊敬を抱くようになります。一応、現状を説明したのですが」
「仮に、君が説明している事が事実でも、私が行動することは変わらない」
この有様です、とラケルが示す。正常な思考が出来る状態では無いのだろう。
「元に戻す方法はあるのか?」
「ないですね。ですが、一時的に思考をこの状態になる前に近づける方法ならあります」
その言葉に、グレンは驚く。必死になって解明しようとしてきた不治の病に対して、対抗策があるかもしれない、その言葉に。
「彼の目を潰せば良いんですよ」
時間は無情に過ぎていき、婚約当日となった。花嫁姿のシスティは、レオンの姿をした花婿に怯えるように式場に佇んでいる。
「……これで、良かったのかな」
ルミアは現状に違和感を持ちながら、行動を起こせないでいる。親友が決めたことに、口を挟めるほどの確信がなく、ただ見過ごせるほどの確信もない。
「……ルミア、ウェンディ達がいないけど、ラケルも」
多くのクラスメイトが集まる中で、ウェンディ、テレサ、ギイブルの姿が無い。他にもちらほらと出席の無いもの達もいるが、元々行事ごとに出席しない者、忙しい者もいる。勿論、全てのイベントに出席している訳では無い面子だが、一斉にいないとなると違和感がある。
「もしかして……でも、どうすればいいの?」
もう式の段取りは完了しつつあり、今更行動するには遅すぎる。
「ちょーっと待ったー!」
そう、今この場にいない人間を除いては。
「……どうして、先生がここに」
先日の決闘の際に、レオンに敗北したはずのグレンが今日この式に現れるなど、システィに取っては夢物語でしかなかったはずなのに。
「どうしてって? 生徒が大変な目にあってんのに、現れない先生がいるわけないだろ」
本来であれば、無粋な横槍者を追い出すはずの花婿は、苛立つ様子も無く、まるで玩具を手に入れた子供のように、笑みを浮かべる。
「おや、不戦敗をしたグレン先生じゃないですか。随分と遅い登場ですが、祝いに来て貰ったということですよね?」
言葉の上では、来訪者に対して平穏を装っているけれど、殺気を隠す気はないらしい。しかし、行動はグレンの方が早かった。
「雷精よ 紫電を以て 打ち砕け!」
グレンが放ったショックボルトは、システィと花婿の間を裂くようにはなたれた。土煙に紛れ、グレンは一目散にシスティを抱え、式場の外へと駆けだしていく。
「……追おうか」
ゆっくりと、しかし軽やかにグレンの跡を追う。
「ちょっと先生! 放して下さい! いい加減にしてください!」
「いい加減にって、俺はお前を助け……いってぇな!?」
腕の中で暴れるシスティーナの拳がグレンにヒットする。式場から少し離れた場所、人気のない路地でシスティを降ろす。
「私は……もう覚悟を決めてるの! ルミアの為に、私が犠牲になれば」
「あ、そういうの後にして貰って良いっすか?」
システィの必死の説得に、グレンは耳を傾けるつもりはないようだ。まるで死人のように意思もなく、ただ命令につられて行動しているかのように二人に襲いかかろうとしている。
「白猫、ちょっと目を閉じとけ」
グレンがシスティに指示をだす。半信半疑ながらも、グレンに急かされ、言われるがままに目を閉じるシスティーナ。その瞬間から、怯えることも無く、怯むこともなく、躊躇うことも無く、まだ生きている人間を魔術による強化が施された鞭や拳銃で急所を的確に撃ち抜いていく。銃声と魔術音が鳴り止む頃に目を開くと、多くの死体と返り血を浴びたグレンの姿があった。
「ひっ……」
声にならない悲鳴が、静かに木霊する。グレンはシスティーナの怯える姿を見て、無言で手を引く。システィーナは抵抗することも出来ず奔るが、闘いが起こった場所から数分も離れない位置で、システィーナがグレンの手をふりほどく。
「あっ……」
システィーナがふりほどいたグレンの手を見て、目をそらす。その手を握り、震えている。
「……まぁ、そりゃそうだな。白猫、怖いか?」
そう尋ねられたシスティーナは、唇を結び、声を荒げる。
「怖くなんかありません! 私はただ……」
次の言葉は出てこない。グレンと向き合うことも出来ず、動き出すことも出来ない。恐怖に足が震えていても、何もすることも出来ていない。
「白猫、落ち着いて考えろ。あいつらは俺を狙って動いてる。狙われないことはないだろうが……俺と離れた方が安全だ。それに、こんなものは、なるべく見ない方が良い」
そう言って、その場を離れるグレン、離れて行くグレンを引き留めたかったのか、システィーナの手が伸びるが、届くことも無くシスティーナが一人残される。
読了ありがとうございました。
グレンが昔に戻っても、今の気持ちを無くしてなかったらこんな感じなのかなと思いました(小並感)
力が足りないことだけに固執しているのではなく、目的が見えてさえいれば、生徒への対応もきっと変わっていた……のかな? 多分、めいびー