エレノアと闘わなかったりします。
グレンが気を張り、エレノアの一挙手一投足に集中するが、一向に動く気配がない。
「なんのつもりだ?」
「いえいえ、私とグレン様の相性は悪くありませんので、グレン様の動き次第でも……というのが一つ。正直に言えば、話し合いで解決出来るのであれば、そのほうが私達にとっても有り難いのです」
「話し合い、ってよくもまぁそんな提案が出来るものだな」
グレンが気を抜くこともなく、エレノアと会話を続ける。
「ええ、戦闘をするとなれば私の方が現状有利ですので。待ち伏せしていたようにも見えたでしょう? それと、ラケルとホーエンハイム、彼らの情報をお渡しします。それと対価に」
「ラケルの魔術の目的を教えろ……いや、ラケルとホーエンハイムの、ってことになるか。しっかし、単独で出待ちってことは相当切羽詰まってるのか。お互い狂人に振り回されるのは厳しいな」
グレンがそう返すと警戒を解く。
「……侮れませんね。敵相手にそうも簡単に警戒を解かれるとは」
「情報収集に武力行使は悪手だからな。特に手に入れる手段が聞き出すしかなくなると、魔術による強制は誤情報の精査で時間を食う。お前が単独で出しゃばる理由は、その辺だしな」
エレノアの表情が険しくなる。敵対勢力による情報収集では無く、第三者勢力間での情報収集になるので、戦闘はむしろ戦力軽減になる。目的が明確にならない以上、悪手となる行為は避けたいのは確かだが。
「いいでしょう。ややこしい交渉事がなくなったと考えるとします。こちらの情報から先に出します。貴方方がラケルと呼称しているのは、正式名称パラケルスス、大錬金術師と呼ばれたアルキメデスが自分の遺伝子を操作し、人工授精で生まれた個体です」
その言葉にグレンは絶句する。
「あいつ、まじでアルキメデスの子供だったのかよ。ってなると、年代がおかしいことになるが」
「おそらく、育成装置の為でしょう。培養液の中に50年程存在し、意識を持ち始めたのも30年ほど、と聞いて居ます。多少の誤差はあるでしょうが、概ねあっているはずです」
ホーエンハイムの情報は貴方の情報の後で、どう告げるとエレノアは黙り込んだ。
「ほらよ、こいつをくれてやるよ」
市内の全体が描かれた地図を渡す。それには手書きの円が書き込まれている。
「ラケルの行動範囲と魔方陣から割り出した実際の魔方陣のスケールだ。市内全域を使って大型魔術を行うつもりらしいぜ」
それを拾い、改めて大規模の魔術に目をむく。エレノアはグレンに疑問を投げかける。
「この範囲になる根拠は?」
「ホーエンハイム、つったか。そいつが言ってたんだが、リィエルに記憶を移植した魔術が死後だのなんだのを写してる可能性があるとか言っててな。ついでにラケルが求め続けていたのは、魔術の原点、混沌の渦に至ること、錬金術のこの世の理をひもとく、ってやつだな。そいつ踏まえて読むと」
エレノアがグレンの話を理解して、もう一度市内の地図に目を落とす。
「数十人単位での基礎魔術の拡大。これは……門の形成ですか?」
それに対し、グレンが答える。
「恐らく、これもまた実験にすぎねぇ。あいつらにとっては、これだけの規模の魔術を行えば、魔術の根本たる別世界の理が見える可能性があるってところだ。個人でやれば、感知することも難しい世界のズレを大規模で行って、観測するつもり……らしいぜ」
信じられないことにな、とグレンは付け足す。その言葉に、納得したのかエレノアは語る。
「ホーエンハイムは、ご存じの通り百五十年前に死に絶えています。肉体、の話ですが。脳と記憶データのみを賢者の石の中に残し、媒体を作り続け今日まで生き延びています。本人曰く、最早自我は残っていないので、記憶と思考を共有するだけの代物だそうですが、何百年の百人足らずの思考と記憶を取り込めば自我を喪失し、ホーエンハイムという意識共同体にならざるを得ない、だそうです」
エレノアは最後に一言だけ言い残して、暗闇に消えていった。
「あくまで、それに耐えうる人材が居なかった、だけのようですが」
グレンもエレノアを追う事はしなかった。エレノアの後を追うことはグレンにとってもリスキーだからである。むしろ、被害も無く離れられたことを幸運に思わなければならない。
「っと、本当に遅いぜセリカ」
セリカからの通信を確認し、グレンは気付いたことと、エレノアから手に入れた情報を伝える。
セリカに内容を伝えるとその夜に学園のセリカの部屋で緊急会議が開かれることになった。そこには、アルベルト、リィエル、グレンの四人が集まっている。
「……集まって貰ったのは他でもない、ラケルが起こそうとしている事件のことだが」
そこでセリカが次に放った言葉に三人は驚愕する。
「お前達は何もしなくて良い。好きにしろ」
以上、と言って会議を終わらせ、ワインを開けようとするとグレンがセリカを止める。
「いやいや、緊急事態だろうが! アイツを止める準備をしないといけないんじゃないのかよ!」
グレンの疑問にセリカが短く答える。
「いやぁ、女王陛下はやはり物わかりの良い御方で助かるよ。早速勅命が届いてね」
セリカが机の上の封筒の中身を取り出し、三人に見えるように広げる。
「今回の件は、私で全て責任を取るように指示された。緊急時における優先レベルも最大にしてある」
それを聞いてアルベルトが身震いをする。
「それは……つまり」
「セリカが自由に動ける……ってことか」
生唾を呑み込むと、漸くセリカの余裕の理由を知ることが出来た。第七階梯の魔術師からすれば、どんな状況になったとしても手遅れになることは無いのだから。
読了ありがとうございました。
アニメだとまだアルフォネア教授の活躍が見れてない(泣)
ザワールドが見てみたい!(違
ぶっちゃけ、自由に動けるならあいつ一人で良いんじゃないキャラだと思ってます(笑)