ラケルと意識共同体になったホーエンハイムが、目指した場所とは……?
そこは、魔術の中心。ラケルが立ち魔術をコントロールしている。溢れ遡るマナにより、一般陣であれば、姿を保つことも、一介の魔術師程度であれば意識を保つことも出来ない場所に、ウェンディとテレサも立っている。
「……無茶をしますね」
ラケルが、二人にそう語りかける。セリカに挑んだラケルほどでは無いと、ウェンディは呟く。そして、ウェンディは短く問う。
「ラケル、終わったらちゃんと帰ってきますの?」
ラケルがその問いに頷くと、ウェンディは翻し魔方陣の外に出ようとする。
「そ、そんなウェンディ……それだけ?」
テレサが動揺して声を掛けるが、ウェンディは歩みを止めない。
「ラケルに振り回されて疲れてますの。それにここに居ても何も出来ないし、また後でね」
手を振って光に呑まれていくウェンディ、それを見送った後ラケルも、テレサに話しかける。
「一応保護魔術を行使しては居ますが、あまり身体に良いとは言えません。テレサ殿も……」
その言葉に、テレサが怒る。
「ウェンディもウェンディだけど、一番悪いのはラケルなんだからね! 一言も無しにいなくなるし、訳分からない魔術の為に、気付いたら大変なことになってるし……なんだか、私一人だけ心配してるみたいになっってるし」
そうテレサがいうと、ラケルの胸元に手を伸ばし、身を寄せる。
「すみません、ホーエンハイムになるとは予想していたのですが、お伝えしていればよかったですね」
テレサの肩に手を乗せ、ラケルも近づく。
「ラケルは、今ラケルなの?」
「はい、ホーエンハイムと意識共有体になっては居ますが、自意識もハッキリしています。この魔術が終われば、恐らくは戻れると思います」
その言葉に、テレサは決心し、ラケルの唇と己の唇を合わせる。
「絶対、帰ってきて下さい! 約束ですからね!」
そう叫んで、足早に魔方陣から外に出て行く。それを見送るラケルは少し寂しそうな表情をしていたのかも知れない。
そこは、真っ白な空間。自分以外に何も見えない場所。
「やぁ、こんなところに人間が来るのは久しぶりだ。何時以来だったかなぁ」
子供のような、男のような、女性のようなあやふやな輪郭をもつものが、突然現れた。いや、現れたように見えただけで最初からそこに居たのかもしれない。
「お前が悪魔か」
それは、悪魔と呼ばれる。或いは天使、或いは妖怪、神、妖精――― 人とは違う理にある、人間とは異なる位相に存在する者。
「そうだね、君たちがそう呼ぶならそうなんじゃないかな。魔法と呼ばれる理をもつ種族だ。まぁ、僕たちからすれば、君たちの世界が異界になるんだけど」
その異界の住人が尋ねる。
「君は、本当にこちらに来るのかい? 上も下も天も地も、朝も昼も夜も太陽も月も存在しない世界で、君たち人間は存在することが可能なのかい?」
その問いかけに身震いをする。当然のことではあるが、自分は今まで生きてきた世界を離れるのであれば、命の保証はない。自分を認識すること無く、消滅する可能性も充分にある。
「まぁ、それはその通りだな」
それでも、魔術に魔術を重ね、異界への門を開いた。そして、その中でなお自分が自分であると認識出来たのは、パラケルススという自分の容れ物があったからである。
「それで諦めるなんて、ホーエンハイムの名が廃るってもんだ」
そう言って、異界に向かうことを決意するホーエンハイム、その最後に悪魔が思い出したかのように語る。
「そうだ、君たちで言うところの一五〇年前、老人が一人来ていたね。名前は……」
その名前は思い出せなかったようだが、ホーエンハイムが知る限り、そんなことが出来る人間はただ一人しか居ない。
「ったく、あの糞じじい。ようやく追いついたと思ったら、先に行ってやがったのかよ」
そう言うと、光の先へとホーエンハイムは消えていく。
読了ありがとうございました。
ホーエンハイムは『あちら側』に行ってしまいました。大錬金術師が目指した、魔法の世界があるという想定です。
まぁ、本当は全て幻想だったかも知れませんが(愉悦
本来であれば、人間の肉体も精神も魂さえも存在出来ない世界ですが、全て失った上でラケル達との接続のお陰で再構成されたという設定です(笑)