薪の王 間違い 勇者 自己犠牲   作:エリザベートベーカリー

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【闇派閥の盗賊団地】

何年前かは不明だが『不死者とは何を得てして不死者と呼ぶのだろうか?』と聞かれた事がある

 

未だ記憶に新しい前回の火継ぎの時に、物乞いの少年に聞かれたのだ

あの齢にして、そしてあの亡者の街にしてあそこまで純粋であり、燃え盛る薪のような目をした少年には私の最古の記憶から遡ってさえも出会った事はない、不思議な少年であった

少年は何故私にそう聞いたのだろうか?私のうちにある薪の王としての役割を嗅ぎ分けたのか

ダークリングの正体を知ろうとしたのか、それとも偶々聞いたのが私だったのか、今や分からない

 

少々考えた後、私は答えた

【首の骨を折ろうとも死なず、心の臓を砕こうとも死なない奴】

この答えを聞いた時の少年はどんな顔をしていたのかは分からない

口でも開けて呆れていたのか

それとも私の意見を比喩表現だと思ったのか、どちらにしても今の私には関係ない事だろう

 

関係があったにしても今の私は首を折られたから喋れない事だしな

 

首の骨が座らずブランブランと振り子のように動く視点には何時になっても慣れる事はないだろう

目の前の私の首の骨を折った存在は、まるで動く死体でも見たかのように過呼吸になっている

加えて目を閉じた時に私が殺しにかかるとでも思っているのか気絶はしないままに泡を吹くという

不死者ですら再現が難しい様な器用な事をしている、ただ気絶寸前なのは間違いない

 

すると馬車の動きが止まった

急に止まったせいで私の首がグルングルンと見事なまでの円を描き回転する

ブチブチと筋繊維が引きちぎられるような音がするが、不死者故に痛みは無く

 

【そろそろ治すか】

 

手に食い込んでいる縄を片手の骨全てを外す事で解くことに成功する、発生する痛みは無視する

 

【なんどやっても首の骨を嵌める時だけは慣れんな】

 

座らない首が不規則な動きを繰り返したままに言いながら

更に筋繊維がちぎられる音に加えて、骨を軋ませる気持ちの悪い音を大きく響かせながら、

自らの首の骨を折れた部分とくっ付けようとグリグリと押し込んでいく

まるで機械仕掛けのような音を喚き立てた後、私は首を試しに鳴らしてみる

ペキ、パキという生々しい歯車の様な音が体の内から響き渡る、どうやら良い感じに嵌ったらしい

 

さて、外の連中をどう排除するか考えようと顎に手を置くが、真っすぐ行ってぶん殴る

それ以外に良いと思う作戦が考え付く事はなく、往々にして王道で基本な作戦になってしまった

だが自分にとっての基本は積み重なったからこそ基本なのだ、だからこそそれが一番良いのだ

一回目の火継ぎの時に師匠のこの事を喋った事がある、その時には溜息混じりに

『クラーグもお前と同じような事を言ってたのを思い出したよ、この馬鹿弟子め』と言っていた

あの美女な顔をして私と同じような武力行使大好きっ子だったとは、目から鱗だと思う

 

そんな事を考えているとギィ、と音を立てて馬車のドアが開かれる音がする

ドアの隙間から見える

さて、虐殺(リハビリ)としゃれこもう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不死者が説明する斬新でもない殺戮講座の時間だ、最早何度目かも分からない

一対多数の時の戦法

そして戦闘中に別の事が考えることが出来るようにする事と戦闘の流れに乗る為の特訓だ

 

「おい、どうし…なんだこ」

 

レッスン1はまず最初に入ってきた奴に向かって兜を投げつける

人間というのは飛んできた物を掴むか避けるように出来ているらしくこれをすると数舜の隙になる

不死者はその辺の反応が全て死んでいるからな、人間にだけ使える戦法だ

どうやらこの盗賊の男は掴むタイプの人間だったらしい

 

レッスン2は隙を見逃さない事

 

「っが」

 

兜を掴むという隙を楽々と見せてくれた、今の状況はあまりに作戦に嵌り過ぎて笑い声が止まらなくなってしまう程だ、これでは理性無き亡者を相手取るより簡単だ

相手の頭と顎に手を掛けて円を描くように何事もない様に回す

バキンという心地よい音を奏でると同時に目の前の盗賊は命を私に盗まれて死んだ

これでは不死者でも起き上がるのは難しいだろう、不死者でないなら骨を折った時点で盗賊の体は生命を停止させる事を選んでしまう程、自分で言うのも何だが見事な技だ。

先ほどの女性の胸を揉んで、この必殺技とでも言えるコレを覚えたのは英断だったかもしれない。

 

レッスン3は何もかもを利用する事だ、人間の感性など考えずに獣の様に全てを見定める事

倒れ伏そうとする盗賊を近場にいた二人目の盗賊に蹴り飛ばした

すると不死者ではない、普通の感性を人間である盗賊は死体を受け止めようとするだろう

そんな隙を見逃す不死者はいない

死体から奪っておいたダガーを死体でバランスを崩した盗賊の首に刺し込む

自分の着ている甲冑の重みも足されたのか、手入れも碌にされていない筈のダガーはすんなり肉を通り抜け、間にある血管達を蹂躙し中身である赤い滝が吹き上がる光景を作り出した

 

頭の中に致命の一撃という単語が浮かぶほどに見事な暗殺を繰り出せた気がする

これは生きていく上に将来役に立つ技術だろう

限りなく続く不死者の生に置いて忘れる事のできない感触、良い感触だ。

我が腕により命を奪う感触、いつ手に持っても魂、ソウルが我が内に入るのは心地が良い。

無論、奪いたくないソウルというのも確かに存在している、良き隣人のソウルなど奪いたくはない

 

【さて、とりあえず手錠だけでも破ってしまうか】

 

先程殺した盗賊の遺体からは白い煙の様な物が立ち込んでいた、それは彼らの魂という訳ではなく

不死に成った時から見えていた簒奪の証、自分のソウルに適合する武器か防具か、はたまた道具か

 

不死者は彼らに近づくと煙の発生源を手に取った。

片方は冒険者のダガーという武器、そして片方は盗賊団地の鍵というアイテム達だった

 

【先ほど利用したダガーはソウルに適合しなかったからな、丁度良いか】

 

鍵を利用し手錠を外した不死者は冒険者のダガーを手に取ると目を瞑る

そして握ったダガーに記された魂の記憶を読み込んでいく

 

【筋力補正無し技量補正低ランクを保持か、良くも悪くも質の悪いダガーだな】

 

ため息混じりにダガーをソウルに溶かし右手の部位に登録する

スロットは二回目の火継ぎの時同様に三つだ

一つ増えていた時には驚いたが結局三つ同時に活用する事は無く宝の持ち腐れだった

 

さて、そう声を発しながら殺意を出した

 

会話から聞こえた声の種類を察するに後一人は恐らく目の前に広がる絶壁の中にいるのだろう

その目的が私の殺した様子を見て援軍を呼びにいったのか、それとも拉致用の檻でも見ているのか

どちらにしても面倒な事には変わりはないだろう。

 

目の前の絶壁にはいくつもの穴が開いており、見える範囲の中には階段まで見えいる

高い場所には穴から穴へ移動する為なのだろうか?絶壁の崖に木でつくられた梯子板のような物

崖を利用して作られた要塞型の遺跡を更に盗賊が改悪した形がアレなのだろう

まるで不格好な積み木だ

 

【どちらにしても殺す事には変わらんか】

 

一体中には何人いるのか、そしてそれを一度も死なずに全滅させることが出来るのか

そして心象を全て飲み込むほどのソウルへの渇望が彼を遺跡へと導いていった。

 

 




冒険者のダガー

冒険者の都であるオラリオで作られたダガー
新人冒険者に支給されるそれの質は決して良い物ではない
だが修理も購入も安価である為雑に扱っても困らない

無論単価が安い為暗い考えを持つ者達も愛用している為
これを握る事はあらぬ中傷を受けるかもしれない

純粋な者であればすぐに買い換えるべき品だろう
だが汚れた者であれば持っておくべきだ
怪物以外を殺す時にはこちらの方が有利だろう



戦技は「クイックステップ」
特にロックオン状態で使用することで
側面や背後に一気に回り込む動きも可能となる

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