今回は話自体ははあまり進みませんが、最新話をどうぞ
満月の夜、鬼太郎は思いもよらぬ再会を果たしていた。
まさかここで妖音とまた会えるとは思ってなかったので、彼は少々驚いている。
一方妖音は鬼太郎が自分の事を覚えていてくれた事がよほど嬉しかったのか、少し恥じらう様子を見せながらも満面の笑みを浮かべ、こちらに少しずつ近寄ってきている。
「鬼太郎ーーー♡」
妖音はゆっくりと距離を詰めながら話しかける。
「こうしてあなたにまた会える日をどれだけ待ち望んだ事か………」
「ああ………でもどうして……」
「もうっ、何だっていいじゃない…今こうして会えたんだから……」
鬼太郎の問いを妖音は適当にはぐらかした。
少し懐疑的な表情になったがすぐに穏やかな笑みを浮かべる。
「確かに…今君がこうして無事でいてくれているのは何よりだね……本当によかった……」
鬼太郎も安堵の表情を浮かべ、彼女との再会を喜んだ。
妖音は早くもその笑顔に正気を失いかけそうになりそうなので一旦視線を彼から満月の方へとそらし、感慨深げに話す。
「思えばあの時だよね…私達の運命の出会いって…………」
妖音はある一国の王の一人娘だった。
何不自由ない生活を送っていたのだが、その頃の彼女は決まりきった日々の暮らしに退屈しており、自由に、飢えていた。
そんなある日、両親や執事の目を盗んで夜遅くまで街を出歩いていた時の事だ。
ふと湧き上がった好奇心のままにに人目のつかない所を散策していると不意に後ろから口元を塞がれそのまま連れてかれ、塔の中に閉じ込められてしまった。
彼女は暗い塔の中、毎日泣いた。怖かった。助けを待ったが誰も来てくれやしないと何度も言われ、日が一日、一日と経つにつれてだんだん絶望に満ちてきた。
もう助からない、お父様やお母様には二度と会えない、そう思っていた。
だがそんなある日塔の中から誰かが入ってきた。
希望を失い弱々しく顔を上げる妖音にその人は穏やかな笑みを浮かべる。彼は妖音の手を優しく取るとそのままお姫様抱っこをして彼女を塔から出してくれたのだ。
この時の胸の高鳴りを妖音は今日まで忘れたことはない。顔が火照るのを感じたが彼に見られるのが恥ずかしいので思わず俯いた。
後でわかったのだが身代金目当てで王族の娘である彼女に目をつけていたことがわかった。
そして自分を助けてくれたあのお方、名を鬼太郎だという事を知った………………。
「そう…あの頃から私はあなたの事をずっと考えるようになった♡あの時、絶滅の淵から私を救い出してくれたあなたはまさに白馬の…」
「おい、鬼太郎…このお嬢さんはお前の知り合いか?」
自分の世界に入り、事実と異なるメルヘンチックな物語を一人語りしていた妖音は鬼太郎以外の者の声がして我に帰る。
愛しい人の方を向くとその隣に鬱金色のローブに身を包んだ見るからに不潔な男が若干引き気味にこちらを見ていた。
妖音は「お見苦しい所を……」と呟くと恭しくお辞儀をし、二人にニッコリと笑みを浮かべる。至って自然な笑顔だった。
彼女の容貌の良さが月夜に照らされる事で更に磨きがかかる。
その笑みにねずみ男は先程まで引いていたにも関わらず「あっ…こりゃどうも……」と鼻の下を伸ばし始めた。
だが今の彼女の笑顔は上辺だけのもので内心この満月の夜、愛しき鬼太郎と二人きりになれたというのにとんだ邪魔が入った、と忌々しげに舌打ちしていた。そんなことを知る由も無いねずみ男に鬼太郎は親しげに応答する。
「ああ、ねずみ男。彼女は妖音さん、数年前に僕のところに来た依頼人だよ」
「あ〜〜そーいや前にお前がその子の事で思い悩んでいたな……にしてもなんでこんな所に?」
ねずみ男が納得した様に頷きながらも首をかしげる。一方、鬼太郎は妖音の方へと顔を向けた。妖音は何であんな不潔な男が鬼太郎と親しそうに…と不快に思ったが鬼太郎の顔を見た瞬間、心臓がトクンッと鳴り、一気に鼓動が加速していく。改めて実物に見てみると鬼太郎は本当に可愛く、そしてかっこいい顔をしている。見れば見るほど妖音は自分を抑えられなくなりそうだ。
「…?妖音さん…妖音さん……?」
妖音がその場に立ち尽くしているのを心配した鬼太郎が何度も声をかけるが彼女は未だ硬直したままで全く動かない。
ますます心配になった鬼太郎は妖音のそばに近寄る。そして事前に一言述べてから彼女の肩を軽く叩く
「……っ!ああ、ああごめん!ちょっとボーっとしちゃって……っ!」
ようやく我に帰った妖音は慌てて平常心を取り戻そうとするがもう目の前に鬼太郎が近づいていると知るや否やその努力が瞬時に水の泡と化し、彼女の目から正気の色が消え始めた。もうだめだ…このまま彼をぎゅーって抱きしめたい、襲いたい…!彼女の沸々と湧き上がる欲望が、理性を焼き焦がしていく……。もういっそこのまま彼を自分の寝床に持ち帰ってしまおうか、妖音は震わせながらもその手を鬼太郎へと伸ばしていく。だが僅かながらに理性もあり、今はまだ我慢しなければならないとそう思い、その手を引っ込めようとする。しかしすぐに欲望が湧き上がり、手がまた伸びる。こんな事を彼女はずーっと繰り返していた。
「所で妖音さん…お主は何故こんな所に……?」
「ああ、そういやあなたのようなお可愛いお嬢さんが一体どうして?」
理性と欲望の狭間にいる妖音に目玉おやじが鬼太郎の髪の毛からひょっこりと顔を出して尋ね、それにねずみ男も続く。鬼太郎も彼らと同じ様な疑問を抱いていた。
今この村は元々開発工事の為に住民が締め出されていたりして立ち入れる者は殆どいないし、そもそも彼女がこの辺りに
まあ、偶々巡り合っただけなのかもしれない、彼らはひとまずそう判断を下した。
妖音の方は目玉おやじの質問に気づかなかったが、
その後後ろ歩きで素早く距離を取ると先程と打って変わって真剣な表情になる。
「……聞いて……鬼太郎………」
重々しく口を開いた後、一旦深呼吸してから本題に入った。
「さっき、妙な連中が山を下っているのを見たの……!」
「妙な連中?妖音さん、それ一体どんな奴らだった?」
鬼太郎の表情も厳しいものとなる。妖音も力強くうなづき、話を続ける。
「まるで…縄を編んで作った…人形の土台みたいな奴らがもの凄い数でこの山を…………」
そこまでいった途端鬼太郎は察した。先程工事現場を襲った針女の尖兵達だ。さっきの戦いで深手を負わせたはずだがもう回復したのか。おそらく針女ももう動き始めているだろう……。
「お・おい、鬼太郎…………」
「妖音さん、そいつらを何処で?」
「うん…確か…あの辺りで……」
ねずみ男が少々疑いの目を向けながら鬼太郎を止めようとするが鬼太郎は彼女の言葉を信じた。以前、依頼で妖音と関わり、彼女の人柄ならぬ妖怪柄を知る事が出来たからこそ分かる。彼女は嘘をついてはいないと……。妖音が指差す方へと顔を向けて鬼太郎は確信した。その方向を下った先には大きな街がある。鴉達にすぐに猫娘達に知らせるよう伝えた後、妖音の方へと再び向いた。
「妖音さん…!今すぐに安全な所へ離れてて‼︎それと………」
そうから言って鬼太郎は少し表情を和らげる。
妖音の心臓がドクンッ、と音を鳴らす。
「…ありがとう…伝えてくれて…‼︎」
鬼太郎は短くそう告げると急いで妖音が指差した方向へと駆け出していった。残された二人はしばし彼を見送っていたがやがてねずみ男の方は彼女の方へと向いた。
「いや〜妖音さん、二人っきりになりましたな〜。あなたの身の安全はこのビビビのねずみ男が……」
「ねえ、ねずみ男さん………」
ねずみ男が言い終わらないうちに妖音がゆっくりとこちらを向き、にこーっと笑う。そのままゆっくりとねずみ男の方へと顔を向け、ゆっくりと接近していく。ねずみ男は近づくにつれ少々取り乱しながらも応じようとしたその時、突如足に強烈な激痛が走った。
「いてててでててッッッ‼︎」
ねずみ男は痛みに耐えきれず、悲鳴をあげる。
目と鼻の先まで近づいた妖音はゴスロリ靴のヒールでねずみ男の足の甲を思いっきり踏みつけたのである。
もともと素足で歩き回るねずみ男にとっては当然耐え難い痛みであり、ねずみ男はそのまま彼女の足を振り払うとそのまま患部の抑えながらその場で転がり続ける。
そんな彼を妖音はゴミを見るような目でしばらく眺めていた。
「おいっ‼︎いきなり何すんだっ……」
ようやく痛みが引き、涙ながらに抗議をしようとするねずみ男の顔のすれすれで、妖音のしなやかな脚が振り下ろされる。踏みつけられた地面は大きくヒビが入っており、彼は恐怖で言葉を失った。
「何って……足を踏みつけたの……見ればわかるでしょ、それよりも………」
そっぽを向きながら気怠げにそう言うと妖音がゆっくりと顔をこちらに向けながら彼に問いかける。
「な〜んであんたはここにいるのかな〜〜〜」
その目を見た瞬間ねずみ男は恐怖で怒りさえも忘れてしまった。
今の彼女は先程とは打って変わって笑みこそは浮かべているがその目には見た者を凍てつかせるのではないか、と思わせる程冷え冷えとしたら雰囲気を醸し出している。ねずみ男の妖音に対する印象が大きく変わる程に………
(こいつ……もしかして結構ヤベー奴じゃ……)
彼の本能が警告音を響かせる中、妖音は鬼太郎が向かった方向を静かに指差した。
「早く、鬼太郎の所に行ってあげなさいよ……友達なんでしょ……」
「は、はいいいいいいいいいいいッッッッッッ‼︎」
取り敢えずこの場からすぐに離れるべきだ、そう判断したねずみ男は一目散に鬼太郎が向かった方角へと駆け出して行った。
妖音はせっかくのひと時を邪魔した男の後ろ姿を濁りきった瞳で見据え、鋭い爪をギラリと光らせ、彼の首元に狙いを定めた。
だが残念だが今あまり事を荒立てるのは得策ではない。そう思い、考えを改めた。
(まあ、いいわ……今回は見逃してあげる………)
伸ばしていた爪を引っ込め、そのまま彼が視界から消えるのを待った。ねずみ男の姿が闇夜に消えた後、妖音は頰を赤らめながら我が身を強く抱きしめる。
「あぁ〜〜〜♡もうダメッ、鬼太郎〜♡あなたが欲しい‼︎」
誰もいない暗闇の中、彼女は一人愉悦に満ちた表情を浮かべながら身体をくねらせる。事を済ませて早く自分の物にしたい。そんな考えが頭の中でひしめいていた時だ。
「ズイブント、タノシソウジャナイカ」
彼女の後ろから酷く無機質な声が響く。
振り向いてみるとそこにはただただ暗闇が広がっている。
だが妖音は心底うんざりしたような顔で溜息をつき、目を閉じる。
「やっぱり……とんだ小心者ね、アイツ……」
妖音は小さく舌打ちした後、ゆっくりと目を開ける。
その目は真っ赤な血の色に塗りつぶされたかのようなものへと変貌しており中心部だけが黒く染まっている。
更に目の周りを血管が蟲が這いずり回るかのごとく広がり始めており、彼女が異形の存在である事を表していた。
妖音はそのままじっと見つめていたが突如目にも留まらぬ速さで距離を詰め、鋭い爪を勢いよく振り下ろした。
爪はそのまま空を切るかと思われたのだがその直前何かが揺らめき、後ろに飛びのいて彼女から距離をとる。
そのまま霧が晴れるかのようにすうっと姿を現した。
「あとをつけるように頼まれてたんでしょ、私が余計な事をしないか…」
「ナンノツモリダ…テキニジョウホウヲ、モラストハ……!」
悲しみを模した仮面をつけた者が静かに彼女を睨みつけている。
いや、表情自体は全く変わらないのだが無機質ながらも彼女に対して怒りがあるのがなんとなく感じることができる。
「何か問題でも?あんた達の計画からすれば所詮唯の前座、針女がどうなろうと狂うことはないでしょ。それに………」
そう言いながら妖音は意地悪くニヤリと笑った。
「
「………ッ!」
妖音の言葉に仮面の者は思う所があったのかしばし黙り込んだ。
そのまましばし睨み合っていたがやがて仮面の者が先に折れた。
「マア、タシカニソノトオリカモシレナイ。ダガナンドモイウガワレワレノココロザシ、モクテキヲワスレルナ…!オマエトテ
「うるっっさいっっ!!!」
仮面の者が最後まで言い終わらないうちに妖音がものすごい剣幕で仮面の者の胸ぐらを掴み、爪を立てた。
「その話を気安く持ち出さないでって前から言ってるでしょ‼︎これ以上余計な事言うとあんたから始末するわよ!!!」
よほど触れて欲しくない事なのか、怒りで爛々と燃える目で怒鳴る妖音だが対する仮面の者は至って涼しげに呟いた。
「ソノハンノウヲミルカギリ、フウカシテハイナイヨウダ………」
その言葉に妖音は更に怒りで顔が歪んだ。
忘れたくたって忘れられない、あの日の事を簡単に割り切れるわけがない……‼︎妖音は爪に更に妖力を纏い、怒りでより禍々しいものへ変わっていく。
「死ねッ……‼︎」
妖音は短くそう告げるとそのまま勢いよく爪を振り下ろそうとするが不意に手が動かなくなった。
「ヤメろ…ワレワレガココデアラソウコトニナンノイミモナイ……」
声のする方を振り向くと黒いローブに髑髏の仮面を身につけた者が妖音の右腕を掴んでいた。
妖音が忌々しげに睨みつけるも髑髏仮面の者は静かに告げる。
「コレイジョウのウチワモメハニドドヒキオコスナ…‼︎イマノオマエタチのちからハ、オマエらガモットモニクムベキモノタチにオモイシラセルタメニアルハズダロウ?」
妖音は悲しみを模した仮面の方を睨みつけながらも強引に手を振りほどきながら距離をとった。悲しみを模した仮面の者は髑髏仮面の者を前に膝頭を地につけ、恭しく頭を下げる。
髑髏仮面の者は軽く彼に目をやると静かに妖音の方へと顔を向ける。
妖音は無言で髑髏仮面の者を見ていたがやがて彼の気迫に押されたのか小さく溜息をつくと彼女もまた膝頭を地につけ、頭を下げた。
「申し訳ありません…危うく目的を見失う所でした……」
当然不本意ではあるものの妖音は嫌々ながらも謝罪の言葉を述べる。
髑髏仮面の者は無言で頷いたかと思うとそのまま「スベテハワレワレノヒガンノタメニ……」と呟いた後闇夜に消えていった……。
その後妖音はゆっくりと立ち上がると静かに辺りを見渡した。悲しみを模した仮面の者もいつのまにか姿を消しており、またひっそりと静まり返っている。今彼女の頭の中にははかつての事が鮮明に蘇っていた。
住処を追われ、傷つき、そんな中での彼との運命の出会い……
妖音は心の中で今ここにいない鬼太郎に話しかけるかのように呟いた。
(鬼太郎…今の私はあの時なんかよりずっとずっと強くなった……あなたの側に立ち、あなたを護ってあげられる……だから………)
その決意と共に妖音は鬼太郎が今向かっているであろう山の麓の方を見つめる。
(今度こそ……イッショニナリマショウ…………?)
鬼太郎と結ばれる事を夢見ながら妖音は赤らめながら手を頰に当てながら満面の笑みを浮かべる。だがその目は非常に濁りきっており、歪んだ笑みが彼女の狂気の断片を醸し出していた…………。
妖音の過去については今後の展開で明らかになってきます。
感想・アドバイス大募集中です。