ゲゲゲの鬼太郎 もう一人の末裔   作:朝ノ陽

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お疲れ様です。夜ノ鬱です。
最新話をどうぞ。


想い

話は今回の依頼人のお婆さんがその正体を現し、真柴に襲いかかる少し前に遡る。

山の至る所では未だ激しい戦いが繰り広げられていた。

針女が捕らえた人間を変化させた無数の糸人形達が山の麓へ向かうのを横丁の仲間達は何とか食い止めていた。

だが糸人形だけでなく、仮面の者達、更にはキマイラ、妖音も立ち塞がり、一筋縄ではいかないその実力に彼らは苦しめられていた…………………。

 

 

「おんぎゃあ!」

 

子泣き爺が自分の腕を石化させ、怒りを模した仮面の者の攻撃に対抗した。互いの拳が何度もぶつかりあり、せめぎあっている最中、背後から笑顔を模した仮面の者がすうっと姿を現し、その手をかざした。

だが攻撃が発動する直前、不意に真上から何がが落ちてきた事で笑顔の仮面の者はそのまま押し潰されてしまった。

巨大な頭だけの妖怪が駄目押しとばかり捻る。この妖怪の名はつるべ落としといい、横丁では雑貨屋を営んでいる。

つるべ落としが跳ね、更に押しつぶそうとしたその時、突如左右から魔法陣が現れたかと思うとつるべ落としをそのまま挟み込み、反対に押しつぶそうとし始めた。

不意をつかれた事で反応が遅れ、つるべ落としは魔法陣に左右から押し潰されそうになる。

驚いて下を見てみると笑顔の仮面の者は確かに彼の下敷きになっており、今だに身動き一つ取る気配がない。

その間子泣き爺は怒りの仮面の者と拮抗し続けていた。

子泣き爺の攻撃を防ぎながら距離を取った怒りの仮面の者が不意に拳を何度も突き出すように妖力弾を連射した。子泣き爺は石化させつつも咄嗟に両腕を手前で交差させ防御姿勢を取った。

被曝によって辺り一面に爆風が吹き荒れ、煙で見えなくなった。

攻撃の手が一旦止んだことから子泣き爺は防御姿勢を解いた。

次の瞬間、煙を掻き分けながら怒りの仮面の者が拳を振りかざしてきた。攻撃が当たるかと思いきや子泣き爺はそれを受け流しながら懐へと近づき、遂に渾身の一撃を加えた。

怒りの仮面の者はそのまま吹っ飛ばされ、大木に叩きつけられた。

勢いに乗った子泣き爺はそのまま追撃しようとしたその時だった。

突如彼の体に強い痺れが襲いかかり、その場で動けなくなってしまった。

その隙を敵が見逃すはずもない。すぐに態勢を立て直した怒りの仮面の者の妖力を込めた拳が身動きの取れない彼の鳩尾をとらえた。

突然の形勢逆転に驚き、押し潰されそうになりながらも抵抗していたつるべ落としはハッと目を見開いた。

子泣き爺の足元をよく見てみると何と右腕だけが宙を舞っており、それが手をかざした瞬間子泣き爺の足元にあの魔法陣が出現していた。

改めて自身の左右にある魔法陣に横目を凝らしてみるとやはり腕だけがそれをかざしている。

更にこちらでも態勢を立て直したのか笑顔の仮面の者が起き上がり、そのまま浮遊しながらこちらに向き直った。

よくよく見てみるとこの仮面の者はかなり異様な姿をしていた。

彼(?)の身体には下半身にあたる部位が見えず、更に胴体から独立して腕が宙に浮かんでいる。しかも魔法陣をかざしている数も合わせるとその数は左右合わせて六つ程だ。

笑顔の仮面の者はじっとこちらを伺っていたかと思うとその仮面越しに何かが怪しく光り始めた。

次の瞬間、つるべ落としに凄まじい衝撃が両側から襲いかかった。

彼を挟み込んでいた魔法陣の中央から爆発が起こり、彼を爆風が包み込んだのだ。

 

「あ………う………」

 

零距離から放たれた攻撃につるべ落としは黒焦げになりながら小さく呻き、その場で倒れ込んでしまった。

一方、身動きが取れない中、怒りの仮面の者に容赦なく、右から左、下から上へと何発も殴られ続け、遂に子泣き爺がその場でうずくまりかける。好機と捉えたのか、これで終わりだといわんばかりに怒りの仮面の者がその拳に妖力を今まで以上に込め、振りかざそうとしたその時だ。

横から巨大な水流が突如怒りの仮面の者に襲い掛かった。不意の攻撃に彼(?)は直前で察したものの躱す事は出来ず、防御態勢を取った。だが結局その勢いに耐え切れず、標的から大きく引き離されてしまった。

更にそこから間髪を入れず、「喝ッッッ!」と力強い声が響いた。

水流を逃れた仮面の者は再び攻撃態勢を取ろうとした。

だがその背後から何かがのしかかった。

 

「お前さん…さっきは随分と痛めつけてくれたのう……」

 

なんと動けないはずの子泣き爺がいつの間にか背中にしがみついており、不敵に笑いながらその身体を石化させ更にその体積を増やしていった。

怒りの仮面の者は彼を振り落とそうとするものの、子泣き爺はしっかりとしがみつき、決して離れることはない。

やがてその重みに耐えきれなくなったのか怒りの仮面の者はそのまま押しつぶされてしまった。

当然この一連の流れを笑顔の仮面の者が黙って見過ごしているはずが無かったがここにきて自身のみに起きている事に気付いたようだ。

援軍に対して、つるべ落としを縛り付けていた分の腕を向かわせようとしたのだが全く反応しない。

異変に気づいてよく見てみるとなんと三つの腕は石になってしまっていた。そしてその事に気を取られているうちに再び強い水流が今度は彼(?)の体に渦を巻いて、纏わりついた。

 

「喝ッッッッッッ!!!!!」

 

再び間髪入れずに力強い声が響いた瞬間、笑顔の仮面の者の周りで渦巻いていた水流は途端に石に変わり、彼(?)を捉えた。

笑顔の仮面の者は拘束される直前に自身の残りの腕を離脱させたものの、石の重さに耐えきれなかったのかそのまま地に伏した。

三つの腕が宙を激しく舞い、いくつもの魔法陣を出現させる。

だが、彼等はそれを己の能力で上手くいなした。

そして遂に残りのすべての腕も全滅し、笑顔の仮面の者は成す術を失った。

 

「すまないの、岩魚坊主、波小僧。おかげで助かった………」

 

怒りの仮面の者を無事撃破したのか子泣き爺が二人の側に駆け寄った。この正に魚が法衣を見にまとった姿をした妖怪の名は岩魚坊主という。先ほどの石化も彼によるもので、その強い神通力を用いてこれまで多くの悪霊を封じ込めたりしてきている。

その隣にいる妖怪、波小僧はある妖怪に自身の両親を殺されてしまい、その時から自身の弱さと臆病さを痛感していた。

そんな自分を変え、両親の仇を討つために岩魚坊主に弟子入りを志願した。様々な困難に直面したものの今では直接言葉に出さないとはいえ岩魚坊主にとって自慢の弟子と言えるほどに成長している。

 

「さて……」

 

子泣き爺は改めて笑顔の仮面の者の方へと見やる。

笑顔の仮面の者は先程まで体を石によって拘束されながらも、何度ももがいていたものの今はすっかりおとなしくなっている。

三人は改めてその顔をまじまじと眺めた。

やはりいつ見ても非常に精巧に作られたこの仮面は仮面だという事を忘れてしまうほどだ。頭でわかっていてもこの仮面の者は自身が追い詰められているにも関わらず、無邪気に笑っているように見えてしまう。

 

「とりあえずこやつらを妖怪刑務所へしょっぴいてもらおうか………」

 

子泣き爺がそこまで行った時だった。風も無いのにカサッ、とかすかに草木が揺れる音がした。それに気づいた岩魚坊主が少し振り向いたかと思うと、木の上から月明かりで何かがキラリと光った。

本能で危険と判断した岩魚坊主は咄嗟に波小僧を突き飛ばした岩魚坊主は次の瞬間腕に何かがチクリと刺さったかと思うとたちまち痺れが全身に襲いかかってきた。

岩魚坊主は呻きながら腕を抑えていたかと思うとその場に倒れ込んでしまった。

 

「お師匠様!」

「力…が……はい……らぬ……」

 

駆け寄った波小僧は倒れかかった恩師を抱きとめた。

その間子泣き爺はまだ見えぬ敵が何処かに潜んでいると、辺りを見渡した。だがそんな彼等の周りに腕が再びが姿を現し、彼等の周りを囲むように飛び回った。そこから少し離れた所に笑顔の仮面の者が宙に浮いていた。

岩魚坊主の妖力が弱まった事で石化が解けたのか、態勢を立て直した笑顔の仮面の者がすべての腕を飛ばし、取り囲むように魔法陣を出現させようとした。

波小僧は妖力で自分達の周りに水流を起こし、六本の腕をすべて弾き飛ばしたものの、その勢いのまま周辺の木がなぎ倒されてしまった。

と、木が倒れる直前、何かが飛びしてきた。咄嗟に子泣き爺は持っていた杖を投げつけた。

杖が見事命中した事でその何かはバランスを崩し、地面に落下した。夜の闇の中、人影のようなものが流れるように受け身を取りながら体制を立て直し、懐から何かを取り出そうとする。

だがそうはさせまいと先程まで上空にいた一反木綿が彼を締め付けた事で思わず手に持っていた棒状の物をを落としてしまった。

波小僧が岩魚坊主を庇いながらも襲い来る六本の腕と対峙しているが戦況は決して良いと言えるものではない。何せ縦横無尽に飛び交う上に時折腕が本体と同様に霧が晴れるかの如くすうっと消えてしまう。敵の妖力を探知しようとしても一本一本の腕が個々に飛び交いながら撹乱して来るので狙いがうまく定まらない。あの魔法陣に捕まってしまえばそれこそ戦況はこちらにとって絶望的なものにもなり得る。

それでも…………

 

「お師匠様は……おいらが必ず……!」

 

臆病でどうしようもなかった自分をここまで鍛え上げ、厳しくも優しかった岩魚坊主をこれ以上手出しはさせない!

波小僧は決意を胸に自身の周りに複数の渦潮を発生させ、襲い来る腕を防いだ。

その隙に子泣き爺は杖と一緒に「何か」が落とした物を拾い上げた。

 

「こいつはぁ、………なるほど………」

 

子泣き爺は拾い上げた竹筒を見て合点がいったようだ。

そして一反木綿の方へと向き直った。

 

()()()()()()、一体どういうつもりなんじゃ…っっ!」

 

そう言い終わるか終わらないかの内に子泣き爺は素早く右へと降り向いて腕を石化させた。直後石化した腕に何かが弾かれるのを感じた。波小僧の方も何かを察したのか、自身の身を取り囲んでいる渦潮の一つに手をかざした。

するとかざされた渦潮は独りでに素早く動き始め、森の中を旋回しな始めた。数秒後独りでに戻ってきた渦潮の中に、二人ほどの人影が水流になされるがままにされていた。

子泣き爺は即座に笑顔の仮面の者をその拳で打ちのめし、怒りの仮面の者と同様に石化して押し潰した。

完全に戦況が横丁側へと傾いた。そんな中一反木綿に締め付けられ、うめき声をあげながらもそれは力強く睨みつけ、子泣き爺の問いかけに答えた。

 

「この山を……守る為だ………」

 

 

 

 

 

また別の所でも同様に戦いが繰り広げられていた。

 

「はあっっっ!」

「どけっていってんでしょ!!!!」

 

妖音が声を荒げながらその鋭い爪を振り下ろした。

それに対して葵は素早く氷柱を作り上げると攻撃を防ぎ、はじき返した。

先程から猛攻を仕掛ける彼女に対し、葵は氷柱を盾に防ぎ、冷気を飛ばして反撃する。

だが妖音の方もその素早い身のこなしで攻撃を避け、隙をついては間合いを詰めて来る。

互いに一歩も譲らぬ互角の攻防が繰り広げられていた。

 

「ああ、もうっっ!ほんっっとうっとうしい!!」

 

攻撃を弾かれ、大きく距離を取りながら妖音は苛立ちを露わにし、軽く地団駄を踏んだ。

先程の葵の攻撃は事前準備の甲斐あってか、大事には至らなかったものの服の方はすっかりボロボロになっており、傘に至っては穴だらけで使い物にならなくなっている。

 

(本当なら、今頃………)

 

妖音は戦闘中にも関わらず、別の事を考えていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はこの後囚われの身となった鬼太郎を救い出し、自身の寝床へ運び込むはずだった。傷ついた彼を手厚く看病し、優しく介抱してあげる。勿論食べ物だって採ってくる……。

その後、傷が癒えた頃合いを見計らって…笑顔を向けてくれる彼の…少しばかり恥ずかしいけれど…その彼の可愛らしい首筋に甘噛みして……その後は…………となるはずだった。

それなのにっっ………!

 

 

 

 

 

 

 

現実は何処までも厳しい…長きに渡って彼を想い続けてきた自分に運命の女神という者はあの時と同じく、また邪魔しようというのか……………。

しかしそれでも……もう、諦めたりはしない!

今の自分はあの時とは違う!!あの頃の様な何もできない弱い自分はもうどこにもいない……たった一人の愛しい彼と添い遂げる、その為にここまできた……!だからこそ…こんな所でっっ………!

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、彼女の中で何かがプツンと切れた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ!」

 

妖音が束の間、別の事に気を取られている隙を葵は見逃さなかった。

複数の氷柱を彼女の周りに食い込ませ、逃げ場を潰した。

そして先程よりも更に分解させ、生成した事で妖音の周りに無数の小さな氷の礫がが生成される。

だが妖音は俯いて何やらつぶやいているばかりで一向に動く気配がない。

不審に思いながらも葵の指示で礫が彼女めがけて襲いかかり、爆発音とともに辺りが冷たい煙が立ち込めた。

攻撃が届く直前まで妖音はその場に立ちつく続けていた。

先程とは違い、無防備であの攻撃を受けたのだ。ただで済むはずがない。それでも葵は警戒を解く事なく敵の様子を伺う。

立ち込める煙を掻き分けながら妖音が俯いたまま、体を揺らめかせながら姿を現した。

 

「そんな…………」

 

葵は驚きを隠せなかった。妖音はあの攻撃からほぼ無傷だった。

先程の様に防御の姿勢も何かを仕掛けた風にも見えなかった。だが彼女は実際に今こうして何事もなかったかの様に立ちふさがった。

猫娘も砂かけ婆も驚きを隠せないでいた。

 

「ふふっ、フフフフフフッ」

 

突然、乾いた笑いを浮かべながらゆっくりと妖音はその顔を上げる。

その顔に猫娘も砂かけ婆も、葵もゾッとした。

目は真っ赤な血の色に染まっており、瞳の部分のみが真っ黒に染まっている。そしてその目から赤色の線が蟲が這いずり回るかの如く

顔から腕、胴体、足まで広がり始めていた。

そして体全体に行き渡る内に妖音の妖力が更に高まっているのを葵は肌で感じた。

 

「四十七士は出来る限り始末するのを控えろって言われてたけど…」

 

聞こえるか聞こえないかの声量でそう呟いた後、ニタァと妖音は笑みを浮かべた。

 

「もういいや、めんどくさい………」

 

そう言うと妖音はゆっくりと右腕を葵に向けた。

次の瞬間葵は凄まじい勢いで妖音の手のなる方へと引っ張られた。

何が起きているのか理解が及ばない中、妖音が葵の腹部目掛けてそのしなやかな脚を鞭のように振るった。

咄嗟に葵は氷の盾を作り、直撃は避けたものの、凄まじい衝撃を受け、後方に大きく吹っ飛ばされ、大木に打ち付けられた。

だが、妖音の攻撃は止まない。掌から何やらテニスボールくらいの大きさの白い玉が現れ、それを投げつけた。

強い衝撃を受け、追撃への反応が遅れた葵に投げつけた玉が被弾し辺り一面に爆風が唸り声をあげた。

 

「葵!」

「葵ちゃん!!」

 

砂かけ婆と猫娘は思わず声を上げて彼女の安否を確認した。

煙が立ち込める中、葵は爆撃をもろに受け、所々が煤けてしまっており、息もかなり荒くなっていた。

 

「くっっ……!」

 

反撃しようと立ち上がりかけたが襲い来る痛みに呻き、またすぐその場で倒れ込んでしまう。

そんな彼女をまじまじと眺め、妖音はゆっくりと首を回しながら独りでに呟いた。

 

「まあ魂だけでも情報は手に入るし訳だし……何より……鬼太郎にまとわりつく害虫は………私が潰してあげないと……」

 

笑みを浮かべたまま、妖音は揺らめきながらも葵に迫る。

そうはさせまいと砂かけ婆は痺れ砂を妖音に目掛けて放つが見えない壁でもあるのか、砂を浴びているにも関わらず、妖音がその歩みを全く止める気配がない。 そして妖音は再びその手をかざした。

するとやはり葵はまるで吸い寄せられるかの様に彼女の元へと動かされた。そしてそのまま妖音の右手が彼女の首を捉え、締め上げた。

 

「葵ちゃ…くっっ……!」

 

友人の危機に猫娘は駆け寄ろうとするものの先程傷がまだ痛むのか、結局その場にうずくまってしまう。

 

「く、ううっっ……」

 

葵は何とかこの場から脱出しようとするも妖音の力は自身の想像の遥か上を行く程だった。

更にどうした事か、体を動かそうとするもののまるで石の様に体がピクリとも動かなくなってしまったのだ。

そんな中、妖音が狂ったようにケタケタと笑いながら更に腕に力を込めた。

 

「あははっ、アハハハハハハッッ、いい気味…………まずは…あんたから……」

 

 

万事休す、と思われたその時だ。突如妖音がビクッと痙攣したかと思うとそのまま前のめりに倒れてしまった。

何が何だかわからなくなっている砂かけ婆だったが何処からともなくすうっと黒いマントを羽織り、フードを被った者が姿を現した。

 

「マッタク……アレホドチュウコクシタトイウノニ……」

 

溜息をついたその者の顔には髑髏を模した仮面が付いていた。

髑髏仮面の者は倒れ込んだ葵を片手で砂かけ婆の方へと投げつけると意識を失った妖音を担いでその場を後にしようとした。

 

「「まて!!」」

 

後ろから呼び止める声がするので振り向いてみると砂かけ婆が戦闘態勢をとっていた。ちなみに応急処置を終え、ある程度落ち着いた猫娘は葵の救護に当たっている。

髑髏仮面の者はやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。

 

「イチオウイッテオクがイマコノバデいのちビロイをシテイルノハキミタチノホウダゾ……」

 

あの場で自分が手を下さなければ妖音の手で始末されていた、と暗に告げる髑髏仮面の者に砂かけ婆は力強く言い渡した。

 

「お主には聞きたいことが山ほどある。わしらと一緒に来てもらう!」

 

それを合図に糸人形軍団や妖音が引き連れていたキマイラと戦っていた横丁の妖怪達が一斉に髑髏仮面の者と妖音を取り囲んだ。

皆無傷とは行かず、肩で息をしているがそれでもまだ戦える。

それぞれが互いを労わりつつも目の前の未知の敵を見据えた。

髑髏仮面の者はそんな彼等を一通り見渡すと再び砂かけ婆の方へと顔を向けた。

 

「ホウ、ヤハりコノテイドノ、センリョクではオクレをトリワシナイ、か……」

 

非常に無機質な声で髑髏仮面の者は感心した様に頷いた。

じりじりと距離を詰める横丁の妖怪に対して正に多勢に無勢の状況だ。しかし仮面の者は冷静さを崩さなかった。

 

「ダガ、このワタシがアイテヲするマデモナイ……コンカイはココでヒカセテモラウ。」

「おや、聞こえんかったのか?お主には聞きたい事が山ほどあると……」

 

そこまで言った砂かけ婆の言葉を遮る遮るかの様に髑髏仮面の者は妖音を担いでいる方と反対の手でパチンと音を立てた。

すると突如駆けつけた何人かの妖怪が力無くばたりと倒れてしまった。何事かと思い、他の妖怪は見えぬ敵を探す。

いち早く気がついたのはやはり砂かけ婆だった。

 

「そこじゃ!!」

 

僅かながらに探知した妖力を頼りに隠れた敵に毒砂を放った。

すると木から木へと複数の人影が飛び交った。

そしてそれは髑髏仮面の者を護衛するかの如く、横丁の妖怪達の前へと立ちふさがった。

その数は全部で二十人ほど。皆がその手に竹筒持っている。突如現れた敵の援軍の前に猫娘は驚いた。

 

「そんな……どうして……」

 

降り立った者は今回の依頼人であるはずのお婆さんだった。

そして更に驚く事に今目の前に立ちふさがっている者達は皆そのお婆さん本人なのである。

一番後ろの列の一人が髑髏仮面の者に恭しく頭を下げ、意識を失っている妖音の頭を優しく撫でた。

 

「すまないね…お嬢ちゃん……」

「ケンメイナハンダンだった…カンシャスル……」

「ここは引き受けます。先に行ってください……」

「マカセタ……」

 

髑髏仮面の者はお婆さんを判断をたたえた。そして短く呟くと妖音を担いだままそのまま凄まじい脚力でこの場を後にした。

逃さぬ様上空の方へと待ち構えていた仲間もおり、取り押さえにかかった。

「ムイミナコトを………」

 

髑髏仮面の者がそう呟いくと妖音と共にすうっとその姿を消した。

一方、猫娘に気づいたお婆さんは姿を変化させながらも芝居掛かったかのように申し訳なさそうに呟いた。

 

「猫娘さん……あたしにゃどうしても守り通したいものがあってね……」

 

そう言いながらお婆さん達は二本足に四角い胴体、そこに鋭く光る眼と二つの牙を持った妖怪になる。

 

「邪魔するというなら……ここでくたばって貰わにゃあね……」

 

それを皮切りに何と四方八方から全く同じ姿をした妖怪が彼女達に一斉に襲いかかった……。

 

 

 

 

 

 

それから話は現在に戻る。

猫娘達と対峙していたお婆さん達は突如攻撃をやめたかと思うと皆が同じ方角へと一斉に駆け出して行ってしまった。

そして針女の寝床へと終結したそれらは元の姿へと合体し、そして今回の事件の元凶である真柴に襲いかかった。

だがその牙が彼に届くことは無かった。

 

「ぬ〜り〜か〜べ〜」

 

何と地面からぬりかべがぬぅっと現れ、大百足の首にあたる部分を鷲掴みにし、真柴から引き剥がしたのだった。

 

「ナ…キサマ、ドコカラ?」

 

突如姿を現した援軍に驚きながらも大百足はその長い胴体を使い、ぬりかべに巻きついた。

ぬりかべはそのまま牙を抑えに手を動かし、抵抗した。

そしてその隙に杖を持った縦長の顔に筒のような大きな目をした妖怪が鬼太郎に近づいていたが大百足はそれに気付かなかった。

 

「ジャマヲスルナ!!コノオトコハ、コロサレテトウゼンノコトヲ…!」

 

自分の粛清の邪魔をするぬりかべに大百足は更にその憎しみを強めた。そしてそれに呼応するかの様に大百足の目からあの赤い線が蟲を這うように広がり、それに応じて妖力が更に高まった。

 

「ぬうっっ……!」

 

力自慢で知られるあのぬりかべが唸るほどに締め付ける力が更に強くなり、毒牙が迫ってきた。

 

「コレイジョウジャマヲスルナラ、キサマから……!」

 

大百足がぬりかべを締め潰そうと更にその力を込めたその時だった。

 

「霊毛ちゃんちゃんこ!」

「ッッ!?」

 

後ろから鬼太郎の声がしたかと思うと直後に後から強い衝撃が襲いかかった。

思わぬ攻撃にその力が緩み、その隙を突かれてぬりかべに投げ飛ばされ、崖に力一杯叩きつけられた。

 

「グワワワッッッ!!」

 

強い衝撃に大百足は呻き声をあげるものの直ぐに立て直して向き合った。

 

「バカな……アンタは……」

 

体が痺れて動けなかった筈……だが今目の前には鬼太郎がちゃんちゃんこを着直し、自分の前に立ちふさがっている。

ちなみに真柴は既に拘束を解かれており、自由の身になった途端一目散に逃げ出そうとしていた。

 

「ニガスカ……!」

 

大百足は再び真柴に狙いを定める。真柴恐怖のあまり自分の足につまづいてしまい、再び命の危機に晒されてしまった。だがぬりかべが立ち塞がり、またしても失敗してしまった。

 

「ナゼダ……ナゼソイツヲカバウ…!?ナゼワタシのジャマヲスル………!?」

 

卑劣な手で源さんの命を奪った男である真柴を助けようとする鬼太郎達の行動が大百足には到底理解できなかった。

そして鬼太郎が彼の背に飛び乗った。

 

「体内電気!!!」

 

鬼太郎の掛け声と共に強い電流が大百足に駆け巡った。

 

「グアアアアアアアアアッッッッッ!!」

 

苦しみながらも鬼太郎を引き剥がそうと身体をを激しく動かし、崖や岩山に何度も身体をぶつけた。

鬼太郎の方も残り少ない妖力をフルに使って気づきながらも最高電圧で攻撃した。

そのまま時間にしてほんの数分の間だが鬼太郎と大百足の山の地形を変えてしまう程の激しい攻防が繰り広げられた。

だがこの勝負を制したのは鬼太郎だった。

力尽きた大百足はやがてプスンプスンと音を立て、煙を立ち込めながら地に伏した。




新型コロナウイルスの感染が広がっているようですので、皆さん体調にはお気を付けてお過ごしください。
感想・アドバイス大募集中です。
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