ゲゲゲの鬼太郎 もう一人の末裔   作:朝ノ陽

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皆さんいかがお過ごしでしょうか。。夜ノ鬱です。
今回で針女・大百足編は終わりです。
最新話をどうぞ。


暗躍

鬼太郎の決死の体内電気を受けた大百足は大きな地鳴りを起こしながらその巨体を地面に伏した。

呻きながらも身体を持ち上げようとする大百足だが未だ強い痺れが走っており、満足に動かす事すらもままならない。

やがて力尽きたのか、その巨体が徐々に元のお婆さんの姿へと戻っていった。

同時に鬼太郎もがっくりと膝を降り、そのまま地面に倒れそうになったものの、影から出てきた夜道怪、そして先程まで戦線離脱していた一つ目小僧に支えられた。

 

「ありがとう……夜道怪……一つ目小僧…」

「無理なさらず……」

 

夜道怪が鬼太郎に労りの言葉をかけた。

拘束中、針女に自身の影を無数の針を刺され、その痛みは未だに全身を襲っている。

更に先程まで自身の身体を襲っていた謎の痺れも駆けつけた助っ人によって応急処置を施されたものの、完全に失せたわけでは無く、未だに四肢の感覚がおぼつかない時もある。

そんな満身創痍の中、大百足との決着を早々につける為、鬼太郎は決死の覚悟でしがみつき、必殺の体内電気を浴びせた。

鬼太郎は二人の妖怪に支えられながら、針女の方へと目をやった。

針女は先程から地面に突っ伏したままでピクリとも動かない。

そんな彼女を見据えながらも一つ目小僧は未だ残る痺れに苦しみながらも口を開いた。

 

「大丈夫、彼女にはさっき、『解』の文字を刻んでおいた。これで糸人形にされていた人達も元に戻る……」

 

 

 

 

 

山の中で鬼太郎ファミリーと対峙していたり、山を下っていた糸人形達は突如壊れたおもちゃの様な動きをしたかと思うと皆、一瞬にしてほどけ、それぞれが糸の山になり、そこから淡い光が立ちこめ、糸が元の人間の姿へと戻っていった。

作業員達は勿論、黒影村の住民達も皆元の姿に戻れた事に手を取り合って喜んだ。

これで針女の支配から解放された、自分達はもう自由であると。

ただそんな状況を目の当たりにしながらも、未だ憮然とした態度を取る者もいた。

一反木綿に身柄を拘束され、今お縄についているある者の周りを他の妖怪達が囲み、砂かけ婆が問いただした。

 

「さあ、何故、こんな事をしたのか説明して説明してもらおう」

「……っっ!」

 

『こんな事』と評された事に苛立ったのか、それまで無反応だったある者の眉がピクリと動いた。

そのまま周りを一通り睨みつけてから、口を開いた。

 

「……この山を守る為だ……」

 

吐き捨てるように言い放った。だが直後にがっくりと肩を落としながら俯き、か細い声で呟いた。

 

「俺が出来る唯一の……贖罪だ……源五郎師匠への………」

 

その様子に気づいた猫娘が駆け寄った。

敵意を向けられているのはわかる。それでも彼が後悔の念に苛まれているのを見ると放ってはおけなくなる。彼女はそういう妖怪だ。

猫娘は彼の肩にに優しく手を置いた

 

「ねえ……私達に話してほしいの……あなたやあのお婆さん、そして源五郎さんの身に何が起きたのかを…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜道怪が自身の能力で先程から動けない針女を拘束し、一つ目小僧と目玉おやじが鬼太郎を介抱している際、杖をつきながらある妖怪が近づき、こんな事を言い放った。

 

「全く……バカ親父の息子も相変わらずのバカときたもんだ!」

 

深手を負った鬼太郎に悪態をついたこの妖怪は井戸仙人。妖怪界の薬剤師でもあった彼の力無くして今回の勝利はなかった。

夜道怪の影を通して戦線離脱した一つ目小僧の身体を注意深く探った所、彼の手首に細い何本もの針が刺さっており、調べてみるとやはり先端に痺れ毒が塗られていた。

過去に起きた妖怪大戦争の時に使われた毒と形質が非常に近いものであったことから応急処置として痺れを和らげる薬を作り上げ、夜道怪の影を通じて、針女の住処に忍び込み、ぬりかべが足止めしている隙に鬼太郎に応急処置を施した。

本来は一つ目小僧と協力して大百足を倒す予定だったのだが、一つ目小僧の身を心配した鬼太郎は自身の生命力の高さを理由に単身で大百足に立ち向かった。

息子共々馬鹿呼ばわりされて、抗議する目玉おやじを無視して井戸仙人は自分の身よりも仲間の妖怪の身を案じ、無茶をする鬼太郎にまた一つ大きなため息をついた。

 

「お・おい…………」

 

ふと彼らに声がかかったので、その方へと振り向くと腰を抜かした真柴が未だ膝をガクガクと震わせながらもこちらに問いかけた。

 

「あんたら……さっきの…化け物を…退治してくれたんだよな………」

 

真柴は地に伏しているお婆さんを指差す。

鬼太郎達は何一つ答えないでいたがそれを肯定と捉えたらしい。

 

「は・はははっ…助かった……俺は助かったんだ……!」

 

命拾いした事に真柴は脇目も振らず大喜びし、狂ったように笑い出した。鬼太郎達がそれを静かに眺めていたが真柴は一旦笑い終えると倒れているお婆さんの方へと向くと、憎悪の色を浮かべて言い放った。

 

「ざまあみやがれ!この化け物が!!」

 

真柴のこの一言にこの場に居た者全員の顔が憤怒の色に染まる。

だが真柴はそれに気付く事も無く、そのまま倒れているお婆さんに石を投げつけた。

だがその石がお婆さんにぶつかる事はなかった。

お婆さんの前に一人の妖怪が立ちふさがり、真柴が投げつけた石を握り潰したのだ。

 

「おい……随分、姑息な事してくれるじゃねーかよぉ……」

 

火車が静かながらも心底軽蔑しきった目で真柴を睨みつける。

彼もまた針女に影を囚われていたのだが、針女が拘束された事で無事に解放されたのだ。

鋭い眼光と湧き上がる熱波を浴びて真柴は震え上がった。

 

「な・何だよ……そいつの…化け物の味方すんのかよ…」

 

完全に気圧され、後ずさりながらも虚勢を張る真柴だが、その後ろを輪入道が立ち塞がった。

 

「……何だよ、その顔……」

「身に覚えがない、とでも言うおつもりですか……」

 

突然鋭い声が突如した事に驚き、真柴は尻餅をついた。いつのまにか鬼太郎が真柴の近くに来ていたのだ。

冷たい目で鬼太郎は肩で息しながらも、静かに真柴を見下ろしている。蛇に睨まれた蛙のごとく、萎縮していた真柴に鬼太郎は静かに告げた。

 

「罪を償ってください……」

「は・はあ?」

 

鬼太郎の言葉に真柴は目の前の少年が何を言っているのか分からないと言わんばかりの表情を浮かべ、付き合ってられないと言わんばかりに立ち上がろうとする。だが既に自分の周りには複数の妖怪が取り囲んでいた。

皆自分に非難の目を向けている、その状況に真柴はだんだん腹が立ってきた。

 

「ああ……あの音声の事か……」

「それ以外に何がありますか……」

 

鬼太郎がそう答えると真柴は俯きながら静かに舌打ちをした。

それから鬼太郎の方へ再度視線を移すとわざとらしく大きなため息をついた。

 

「あ〜あ〜俺が悪いってわけか…冗談じゃねぇ……」

 

そう毒づくと真柴は開き直り、一気にまくしたて始めた。

 

「いいか、よく聞け…物事ってのはな、大局的に見て不要な物を切り捨て、必要な物を増やしていく事が重要なんだよ!!この工事は元々土砂崩れの懸念や交通の便の向上を考慮したもんだって、お偉いさんとの話をつけておいていた!それをあの老いぼれどもは自然を守る為だの何だの正義漢面しやがって…こっちが下手にでりゃ……」

 

と、真柴は源さんやお婆さん達への罵詈雑言をまくしたてた。

真柴はこれまでも開発に反対する者、自然保護活動に取り組んできた者達と何度も衝突してきたのだが、こうした輩が吐くほどに嫌いだった。

自身のビジネスの邪魔をしてくるからなのは勿論だが、何故自分達の行いを否定するのかが全く理解出来ない、というのが大きい。

確かに人前で胸を張れないような事を真柴はこれまで何度もしてきた。

だが自分達が請け負った工事が完了すれば、歯向かってきた輩よりも遥かに多くの人々の暮らしの役に立てる。

つまり自分のしている事は金儲けであると同時に非常に大きな社会貢献でもあり、非難される筋合いなど何処にも無い。だがこれまで自分に反対してきた者は自分達の故郷が、自然がとか、要するに自分達の事や下らない正義感に溺れ、それが社会にどれほどの不利益を産むのかを考えていない。自分達は今を生きて暮らしていかなければならないのにそれを理解しようともしない。

こういうバカは害悪以外の何者でもない。

金を積んで出来る限り穏便に済ませ、それでも逆らうのなら、いかに自分達が愚かか分からせてやる、真柴はその事に罪悪感を微塵も感じてないない。全て社会の利益を第一に考慮して動く自分に逆らうから悪いと信じて疑わなかった……。

 

 

 

真柴はまだまだ声を荒げて言いたいことがたくさんあった。

だが緊迫感が溶けた後に一気にまくしたてたのか、俯きながらゼェゼェと肩で息をしており、上手く言葉にすることが出来なかった。

そんな彼を鬼太郎達は冷めた目で見降ろしていた。

体のいい事を並べ立て、自分の思い通りにならなければどんな手を使ってでも言う事を聞かせようとし、それができないのなら自分の手は汚さずに始末する。

こんな卑怯者に源さんは殺されたのかと思うと心の底から怒りがこみあげてくる。

だが不思議なことに本当に、心の底から怒っている時には表情が失せるものだろうか。

 

「言いたい事はそれだけですか…分かりました………」

 

鬼太郎は静かにため息をついた。その何処までも自分を見下した態度に真柴はかあっ、と頭に血が上っていくのを感じたちょうどその時だった。空から一反木綿が降りてきて、鬼太郎に何やら耳打ちをしていた。

一通り聞き終わると鬼太郎は一言礼を言ってから真柴の方へと向いた。

 

「先程猫娘達から連絡が入りました。源さんのお弟子さんや会社の重役達が全て話す決心をしたそうです。勿論貴方に脅されていたこともね……」

「まさか…あいつ……!」

 

自分がさらわれた隙をついてあの男は証拠をかき集めたのか…。

それまで怒りで歪んでいた真柴の顔が一気に青ざめていった。

そんな彼を目玉おやじが突き放した。

 

「お前は今回の一件でこれまで自分がした事報いを受ける事になるじゃろう……その間、自分がすべき事は何か、よくよく考えておく事じゃ……」

 

音声が残っている上に、殺害の実行者である弟子が全てを話し、内部告発もセットとなれば、真柴は少なくとも何らかの罪に問われるはずだ。

愕然とした表情でうつむきながら真柴は呪文の様に口ごもり始めた。

 

「ふざけんな…ふざけんな…ふざけんな……ふざけんな……」

 

鬼太郎は真柴にゆっくりと背を向けた。もうこれ以上ここにいる必要もない、と彼のみならず、ここにいる誰もががそう思ったその時だ。

 

「ここで終わってたまるかっっっ!!!」

 

突然真柴がだっと駆け出したかと思うと、立ち塞がった火車の目に砂をぶつけ、怯んだ隙に突き飛ばし、そのまま倒れているお婆さんに襲いかかった。

 

「しまっ………」

 

鬼太郎が取り押さえようとするも、再び激痛が襲い、反応が遅れてしまった。その隙に真柴がお婆さんを盾にして鬼太郎達の前へと突き出した。

 

「動くな……!」

 

そう叫ぶ真柴の手には刃物が握られており、お婆さんの首には先を当てた。鬼太郎達の動きが一旦止まる。

それを見て真柴は下衆な笑いを浮かべる。

 

「それでいい、絶対に動くんじゃねえぞ……」

 

鬼太郎達がその場で静止している間に真柴はお婆さんの懐から音声レコーダーを取り上げ、それを自分の懐にしまおうとした。

だが次の瞬間、真柴の首筋に鋭い痛みが走った。

 

「あ…が………」

 

痛みと共に全身が痺れてきた。ばったりと倒れこむ真柴の背後にいたのは気を失い、人質にされている筈のお婆さんだった。

嫌、人質にされていたお婆さんは未だ真柴の下敷きになっている。

呆気にとられている鬼太郎達を一瞥するとお婆さんは真柴を見下ろした。

 

「せめて、源さん殺しの件だけはもみ消そうとしたんだね……あの時、私にしたのと同じ様に……」

 

そう言って手をかざすと下敷きになっていたお婆さんがゆっくりと起き上がったかと思うとそのまま立っているお婆さんにまるで吸い寄せられる様に取り込まれていった。

 

「て・てめぇ……何で……」

「簡単な事さ……鬼太郎さんの攻撃を受けている間、何とか体の節の一つを密かに分離させておいたのさ……」

 

そういうとお婆さんは真柴の手首を力強く踏みつけ、音声レコーダーを奪い返した。

これに真柴は怒りが湧き上がったものの、身体が全く動かない。

それどころがだんだん息が苦しくなってきた。

苦しみ始めた真柴にお婆さんは冷め切った目で恐ろしい事を口にした。

 

「今注入した毒はあんたの為に、大百足の毒に私が独自で調合したとっておきのやつさ……直ぐにあんたは四肢が動かなくなり、呼吸すらも自分で出来なくなる……今更人間の法に守ってもらえると思うな…これがあんたの報いだよ……」

 

お婆さんが言い終わる頃には真柴は口から泡を吹いて苦しそうに呻いていた。そんな彼を複雑な表情で見つめ、鬼太郎の方へと向き直った。

 

「鬼太郎さん……わたしゃ………」

 

お婆さんが口を開いた直後のことだった。

 

「うッッ…アアアアッ………!」

 

突如、苦悶の表情を浮かべながら胸を抑えるお婆さん。

その身体にあの赤黒い線が彼女のありとあらゆる部位を貪るかの如く這う様に広がり始めていた。

 

「店長……」

「ああ……これは一体……?」

 

火車と輪入道の視線の先では倒れ込んでいる針女がお婆さんと同様に赤黒い線がものすごい速度で広がり始めている。

両者ともに異常なまでに妖力が急上昇している。

見たこともない現象なのかあの井戸千人ですら動揺を隠せていない。

ただはっきり言えることは一つ、お婆さんの命も針女の命も危機に瀕しているという事だ

 

「お婆さんっっ!」

自身の身体の痛みも忘れて鬼太郎はお婆さんの元へと駆け寄ろうとするも、お婆さんはそれを手で静止した。

 

「どうやら……()()が来ちまったみたいだね……」

 

苦しみながらも自嘲気味に笑うお婆さんだったがふと顔を上げた瞬間、非常に安堵の表情を浮かべた。

不審に思い、振り向いてみるとお婆さんの視線の先、鬼太郎の直ぐ後ろに髑髏仮面の者が佇んでおり、その後ろでは火車と輪入道が地に伏していた。

 

「っっっ!!!」

 

突如背後から現れた得体の知れない敵を前に鬼太郎達は戦闘態勢を取った。

 

(妖怪アンテナには何の反応もなかった……)

 

鬼太郎のみならず、誰もがこの者の存在に気づかなかった。鬼太郎の妖怪アンテナは元々高い探査能力を持ち、妖怪大戦争を通してさらに高めている。だが髑髏仮面の者はそれを潜り抜け、こちらに接近していた。

場の緊張感が高まる中、彼らの横を通り、お婆さんが体を引きずる様に髑髏仮面の者へと向かっていく

その表情は正に自分が信じ続けて来た神がこの地に降り立った事を喜ぶ宗教信者そのものだ。

髑髏仮面の者の動きを封じようと一つ目小僧が文字を刻み込もうと指を動かそうとしたその時だ。

突如パンッ、と軽い音がなったと同時に一つ目小僧が後方に勢いよく吹っ飛ばされたのだった。

呆気に取られている内に、夜道怪も後方に吹っ飛ばされていった。

背後からぬりかべが応戦するも、髑髏仮面の者はお婆さんを抱きかかえると、そのまま素早く距離を取った。

手負いとはいえ、いくつもの修羅場を乗り越えて来た妖怪をこうもあっさりといなしてしまうこの髑髏仮面の者の実力の高さに鬼太郎の警戒心が更に高まる一方、今の攻撃に違和感を覚えていた。

 

(あの攻撃…まるで………)

 

鬼太郎の頭の中に一つの疑念が浮かび上がる。

髑髏仮面のの者は鬼太郎達を一瞥すると仮面の奥からくぐもった声を響かせた。

 

「ソノカラダでコのワタしにイドムソノユウキ、アッパレナモノダといっテオこウ…」

 

そう告げるとこちらに見上げるお婆さんを労わる様にその背中に手を回した。その手は非常に痩せこけていて骨が完全に浮かんでいる。

 

「……申し訳ありません……私は…ここまでの様です……」

 

お婆さんが謝罪の言葉を述べると髑髏仮面の者はゆっくりと背中をさすりながらこう言った。

 

「アんズルな、キミのケンとうはケッシテムダニハナラナイ……」

 

髑髏仮面の者にそう告げられるとお婆さんは悔しげながらもどこか安堵した様な表情を浮かべた。そしてそのままゆっくりと目を閉じた。

その間にも赤黒い線がお婆さんの身体を覆いい、そのまま全身を覆い尽くしてしまうとやがて人間としての面影を消してしまい、音声レコーダーが地面に落下した。

髑髏仮面の者はそれを拾い上げるとそれを鬼太郎の方へと投げ渡した。そしてゆっくりと立ち上がり、この場を去ろうとした。

 

「ま・待て…………!」

 

つどつど襲ってくる激痛に耐えながらも、鬼太郎は今回の事件の首謀者と思われる髑髏仮面の者を呼び止める。

髑髏仮面の者は首を締めながら苦しんでいる真柴を一瞥してから鬼太郎の方へ向くこともなく問いかけた。

 

「鬼太郎……ナゼキミはこのオトコのショギョウをしりながらモ、カノじょタちのジャまヲした?カノじょタチがムネんをはらシ、マエへススもうとしテイタコトはワカッテイたはずだ……」

「その無念に漬け込み、自分達の目的の為に利用したお前が言うな……!」

 

怒りに燃える目で睨みつけ鬼太郎はそう言い返した。

 

「確かに……そいつのした事は到底許せるものなんかじゃない……だけど復讐に囚われるあまり自分を失い、関係の無い多くの人間達まで傷つけようとする事を僕は見過ごすわけにはいかない……」

 

妖力を解放したお婆さんも、針女も明らかにその力に呑まれていた。

仮にお婆さんが復讐を果たしたとしても、心の渇きが癒えるのはほんの一瞬に過ぎず、その後も自身の渇きを癒すために故郷に足を踏み込んでくる者達を片っ端から始末していくだろう。

針女の方もかつて黒影村の人々を苦しめて来た時の様に無関係の人間にまで危害を加える事は容易に想像がつく。

それ以外にも鬼太郎はこの様に憎しみに囚われてしまった者の末路を何度も何度も見て来ていた。

だからこそ止めなければならない。これ以上の被害が出ない様に。

深く傷つき、妖力も大分消費している。それでも鬼太郎は臆する事なく、髑髏仮面の者に向き合った。

場の緊張感が更に増す中、髑髏仮面の者はヒョイと肩をすくめるとその痩せ細った指を指しながら無機質に告げる。

 

「ケッキょく、キミはコレまデもしイたげられてきたもノタちに、ワりをくわセテきタだけとイうコトにイいカゲんきづクべきダ」

そう言い終わるとくるりと背を向け、最後にこう述べた。

 

「ゲゲゲの鬼太郎……キみとハ、コレからナンドもメぐりアうこト二なるダろう……………」

 

そう言うや否や、髑髏仮面の者は闇夜へと消えていった。

後に残された鬼太郎の頭の中には髑髏仮面の者の言葉が未だうずいていたが今すべき事を分析し、身体に鞭打ちながらも倒れた仲間の救護へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、黒影村の人々は今更ながらも今回の一件を重く考え、針女の祠を直すとともに源五郎の墓、そして反発する者もいたのだがお婆さんの墓もその近くに建て、毎日お参りしては謝罪と彼らの安らかな往生を願った。そして工事で無残に切り崩された所は交通発達に回す一方、かつて源五郎が行ってきた様にそれ以上の開発には反対の意思を貫いた。

源五郎の弟子はあの音声レコーダーを持って自ら出頭し、事の全てを警察で話した。

真柴はと言うとあの後、毒がまわってすっかり寝たきり状態になり呼吸すらもままならなくなった。

会社の方も内部告発と弟子の証言もあってか捜査の手が入った事で負の部分が公になり、開発工事どころでは無くなってしまってしまい、あの現場監督はといえば会社の負の部分を本当に知らなかったのか公にされた時には驚き、そして罪悪感に苛まれる事になった。

鬼太郎は今回の戦いに強力してくれた妖怪の治療を優先させ、自身の傷の事は後回しにした。そして黒鴉にある者との面会を頼んだ。

黒鴉は承諾こそしてくれたものの相手が相手なのでそれなりの月日を要するとの事だった。

そして鬼太郎は今源五郎とお婆さんの墓の前に訪れていた。

今回の一件で源五郎が守り通そうとしたものは曲がりなりにもひとまず通す事ができたかもしれない。

だが、これしか方法は無かったのだろうか。源さんが生きてこの山の事を守り通す事は本当に不可能だったのだろうか。

かつて針女を相手に共に闘ったあの男の事を思うと鬼太郎は本当にやるせない気持ちになる。

花を供え、手を合わせて彼の供養している最中の事だ。

 

「鬼太郎……」

 

後ろから彼を呼ぶ声がする。振り向いてみると、妖音が手に花を持って立っていた。

妖音は「隣いい?」と一言許可を取ってから、お婆さんの墓の前に立ち、手を合わせて黙想した。

 

「妖音さん……聞きたい事があるけど……」

 

妖音が黙想し終える頃合いを見計らって鬼太郎は口を開いた。

「なぁに…?」といいながら妖音が笑顔で振り返る。

鬼太郎は懐から今回の依頼書である手紙を取り出した。

 

「この手紙……書いたのは妖音さんだよね……そしてあの音声レコーダーを贈ったのも…」

 

妖音の表情が少し曇った。それから少し儚そうに笑いながら頷いた。

 

「そうだよ……でもどうしてわかったの……?」

「ああ、ねずみ男に聞いたのさ……」

 

鬼太郎は今回の事件を起こしたのが針女とあのお婆さんであるのならば誰がこの手紙を送ったのかについて疑問を抱いていた。

だからこそあの後手紙を渡したねずみ男に尋ねてみた。

すると彼をこう答えたのだ。

 

ーー酒で酔っている最中に渡されたからあんまりよく覚えていねぇけどよ、鬼太郎に渡さなければならない事だけは何故かはっきりと覚えていたんだよーー

 

鬼太郎はこの事象について覚えがあった。

そして工事で自然が無残に壊されている場に突如彼女が現れた事、お婆さんの証言から鬼太郎は妖音が今回の事件を密かに教えてくれたのではという推論に至ったのである。

 

「ごめん……私、あのお婆さんに本当の事を教えて、無念を晴らしてあげたかっただけなの。まさかこんな事になるなんて………」

「気に病むことは無いよ。あの音声レコーダーが無ければ多分あの男の全ての罪は公にはならなかった……源さんやお婆さんの無念をこうして晴らしてあげれたのは間違いなく妖音さんのおかげだよ。」

 

鬼太郎は優しく語りかけた。妖音は彼の顔を見て内心別の意味で穏やかではなかったのだが何とか冷静を保つよう努めた。

 

「私はこれで………また…会おうね……鬼太郎」

 

妖音が気恥ずかしげに言うや否や、すっと立ち上がると元来た方に戻ろうとした。

 

「妖音さん………」

 

鬼太郎が呼び止める。

妖音が立ち止まり、振り向く前に鬼太郎が口を開いた。

 

「何か相談したい事があったらいつでも横丁においでよ……」

 

その言葉を聞いた瞬間、妖音はゆっくりと振り向いたかと思うとそのまま物凄い速度で鬼太郎に抱きついた。

これには鬼太郎もそれなりに平常心が乱れる。だが妖音は鬼太郎が身動きが取れない程に力強く抱きしめ、彼の耳元で囁いた。

 

「ありがとう…相変わらずだね……鬼太郎……」

 

そう言い終わると名残惜しそうに抱擁を解き、今度こそ元来た道へと戻っていった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

カプセルの培養液の中ではある者が苦しそうに呻いている。

その者の身体にはあの赤黒い線が蟲が這うように動き回っており、光度が高くなると共に身体が激しく痙攣する。

 

「ウウウウウウウウウウッッッ!!!」

 

声にならない声を上げる最中、遂に赤黒い線が身体全体を覆い尽くし、そこから別の姿へと変えていった。

 

「おおっ!おおおおおおっっ!?」

 

この反応を待っていたと言わんばかりに男はカプセルに顔を密着させた。そしてある妖怪の姿へと遂げ、そしてまた元の姿へと戻っていった。

 

「ハハッ……ハハハハハッッ……適合……成功………!」

 

男は狂った様にカプセルの中で起きている現象に喜んだ。

一方ある者は再び妖怪の姿へと変わるとそのまま蹲った姿勢を取り、眠る様に目を閉じた。

満足気にカプセルを見つめている男の背後に悲しみを模した仮面の者と怒りを模した仮面の者がすうっ、と姿を現した。

 

「おっ、終わったんだ……で、どうだった?」

 

男は二人の方を向くとニヤリと笑いながら右手を差し出した。

両者ははコクリと頷くと懐からカプセルを取り出した。

男は装着しているゴーグルを動かしながら、その中の物をじっと見る。数分後、ゴーグルから発せられる機械音と共に男は嬉しくてたまらないと言わんばかりに口を押さえながら笑った。

 

「くふふ〜〜今回も大量大量〜〜♪」

 

男が仮面の者達が回収して来たカプセルを見ながら手を叩いた。

今回も多くの報酬が手に入った。

仮面の者達が差し出したカプセルの中には牛鬼の時と同じく、赤黒い液体が独りでに激しく波打って蠢いている。

 

「いや〜にしても、僕ら今回ほ〜んと徳を積んだよね〜」

 

くるりとモニターの方を向きながら男はカプセルを撫でながら芝居がかった声で独りでに語り始める。

 

「無力に打ちひしがれたか弱き者達に力を貸し与え、そしてくたばっちまった時にはこうやって割り増しで返してもらう。

依頼者は悲願を遂げるチャンスを得る!僕らは返納の度に更なる力を得る!これぞまさにWIN WINってやつだよねえ〜〜」

 

上機嫌に男は皿に山盛りに積まれたドーナツボールを口いっぱいに放り込んだ。

 

「よく言うわよ……」

 

そんな彼を見て妖音が呆れた様にため息をついた。

 

「そもそもあの真柴って奴の所にあの山の開発工事を提案したの……あんたじゃない……」

 

その言葉に男は口の中のドーナツを呑み込んだからゆっくりと振り返る。その表情は悪戯が成功して得意気になって喜ぶ子供の様な笑顔だ。

 

「いや……僕はあくまでも()()()()()()()()に過ぎない……あの真柴(クズ)が起こした事はぜ〜んぶあいつが勝手にやった事だしね〜」

 

男はそう言いながらコーヒーを一口飲むと少し忌々しげに今回の密告者へと向く。

 

「ってかそれ言ったら君だってそれを間近で見ながらもしたり顔であのお婆さんに近づいたじゃないか……」

「あら、復讐はあのお婆さんとて心から望んでいたのよ…真柴だけじゃない。そいつに乗せられて、一緒になって追い詰めた村人達も同罪……無力感に苛まれながら生き続けるよりはよっぽどましだと思うけど……?」

「ほ〜それなのに鬼太郎をわざわざ呼びつけたんだろ……針女やお婆さんがしようとしている事を知ればどんな行動をとるか分かっていながら、しかも勝手に……」

 

男としてはもっと被害が広がってからの方が望ましかった。

力を使えば使うほどその分の見返りも増え、何よりも日本中に妖怪の恐怖を周知させることも出来る。

最も後者はある者の意向なのだが………………

 

「あの時にも言ったでしょ……その方が効率がいいって……」

 

墓参りの際に鬼太郎に言った事とは全く正反対の事を妖音は笑みを浮かべながらも澄まして答える。

男は少しばつが悪そうな表情を浮かべながらも「まあ、違いない……」と言いながらもモニターの方へと向き直った。

今回、針女を改造、復活させる際、男はある者を通して真柴達に接触し、とある事をしてもらった。

真柴達はもともとあの山の開発に目をつけており、お偉いさんからの要請という大義名分を得る事であの凶行に走った。

そして針女以外にも依頼者を募り、結果その憎しみの深さの分の成果を出す事に成功した。

 

「まあ、この調子でどんどん兵力を増していこう。焦りは禁物!僕は愚かな人間どもの潰しあい、しっぺ返しを受ける様をゆっくり眺めるとするよ……」

 

そういうと男はモニターの画面を切り替えた。

そこには新たに送り込んだ妖怪が人間達にその力を振るっている姿が映っていた。




皆さんお体に気を付けてください。
感想・アドバイスをよろしくおねがいします。
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