今回は珍しく早めの最新話投稿です。
それではどうぞ。
「はぁ………はぁ………」
一人の女性が息を切らしながらも走り続けていた。
足がもつれて何度も転んでしまうがそれでも彼女は何度も立ち上がった。
「一体、何処なの………」
不安気に辺りをキョロキョロと見渡しながら女性はまたスマートフォンを取り出し、もう何度目になるか分からない家族や知人との連絡を取ろうとする。だが返ってくるのは電波が届かないという事だけ。
刻一刻と過ぎる内に女性の心に不安と恐怖が募り、冷静さが削り取られていく。
「もう……何なのよ………」
心細さから彼女は涙声になってしまう。
先程まで友人と買い物を済ませ、いつもの帰り道を通っていたこの女性はほどなくして突如辺りが見えなくなる程の霧に遭遇した。
視界が悪くなり、慌てて元来た道に戻ろうと小走りで戻り、しばらくすると霧が晴れたのでホッと一安心した。
だが辺りを見渡してみるとそこはいつもの住宅街などでは無く、自分が全く知らない所だった。
空はどんよりとした紫色に染められ、空気もとてもジメジメしていて長居すればこちらの気も沈んでしまいそうになる。草木は枯れ果て、地面は乾ききってヒビが入ってる。
自分の見る見知った場所の中にこんな不気味な荒野は存在しない。決して見ることのないこの風景に女性の心に不安と恐怖が芽生えた。
急いでスマートフォンを取り出して位置情報を調べようとするも、電波が全く届かないところにいるのかうんともすんとも言わず、親に連絡を取ろうにも一向に繋がらない。
この辺りに誰かいないか、とにかく今は会ってこの不安を和らげたい。その想い一心で夢中になって走り回った。
だがどれだけ時間が過ぎようとも人一人で会う事は無く、またどれだけ連絡を取ろうとしても一向に繋がらず、その内心細さから遂に座り込んでしまった。
「お母さん……お父さん…………」
いつもは生活習慣や進路の事などで口うるさい存在だと疎ましく思っていたのだが、こんな時になってこのままもう会えないのではという寂しさから急に涙がこみ上げて来たのだ。
遂に女性は俯いて泣き続けた。しかしそんな彼女に寄り添ってくれる者は誰もいない。また刻一刻と時間だけが過ぎていくのであった…………………
「ッッ!!」
物陰から
「マズハ……一人目………」
絞り出す様につぶやく彼(?)の表情には達成感というものが微塵も感じられなかった。
寧ろまだ始まったばかり、これからだと言わんばかりに力強く握りしめ、妖力を高めていく。その証拠に彼(?)の血走った目が赤黒く染まり始めていた。
「落ち着きなって……」
横から彼(?)の頭に手を置く者が姿を現した。
「オチツイテナドイラレナイ……マダマダ………」
「忘れたの?僕の忠告を……」
「ッッ!」
そう言われて妖怪は自分が何としてでも成し遂げたいことがある事、
「ヴヴヴッッッッッッガアアアアアアアアッッッッ!!」
カプセルの中で妖怪が苦しそうにもがき続けていた。
その身体には赤黒い線が貪るかの様に全体を這いずり回っている。
やがて赤黒い線が妖怪の身体をすっぽりと覆い尽くしてしまい、光り始めた。
「おおおっ!?」
男がカプセルの方へと駆け寄る。
だが光り始めかと思いきやすぐにその輝きを失い、後には赤黒い色をした伸縮自在の物体がカプセル内を蠢いているだけだった。
「あ〜あ〜適合失敗か………」
男は残念そうに溜息をつくものの、「ま、いっか……」とすぐさま切り替えてモニター画面の前へと戻っていった。
席に着くとモニターを凝視したまま声を上げた。
「今見た通り、目的を達成しようとしても志半ばであんな風に散ってしまう者もいる………そう思うと君は本当に運がいい、嫌…想いの強さがなし得たと言ってもいいね。」
そこまで言うと男は立ちあがり、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
一連の現象を目の当たりにして平常心でいられるこの男に改めて寒気を感じていた。
男は思い出したかの様に指をパチンと鳴らした。
「ああ、そうだ。言い忘れていたんだけど君は今は無事に妖力が馴染んでいるけれども感情が昂りすぎて妖力を乱用した場合……あんな風になっちゃうかもしれないからね………」
「ッッ!」
男が唐突に放ったその言葉にいよいよ震えが止まらなくなる。
そんな様子を見て男は意地悪く笑った。
「どうしたの……急に怖気付いちゃった?」
あからさまな挑発だが確かに、一瞬自分は底しれない恐怖に打ちひしがれかけるも何故こんな悪魔の居る所へ転がり込んできたのか、それを思い出すと自分の中にいる弱虫は同時に巣作っている激しい怒りと湧き上がってくる新たな力に潰された。
「……いや、心配ない……ソンナコトハ、カクゴノウエダッ!」
高ぶる妖力に身を任せ、力強く睨み返す。
その目は爛々と輝いており、彼の強い覚悟を余す事なく示していた。
それを見て男は満足そうに頷いた。
「その粋だ……さあ、テストも兼ねて始めましょうか………」
そう言って外に出る男の後に続いた。
ーーソウダ…ココデオワルワケニハ……!ーー
妖怪は自分のなすべき事を再確認すると目を閉じ、ゆっくりと深呼吸し始めた。
男の助けもあってか一呼吸ごとに心が落ち着き、高ぶっていた妖力も安定してきた。ひと段落すると妖怪は男の方へと向いた。
男は標的の方へちらりと視線を送った。
遠くからではっきりとは見えないが標的の表情は妖怪の狙い通りのものとなってあるのが伺える。
「タスカッタ………アリガトウ…………」
「気にしなさんな。
礼を言われて男は妖怪の方へと視線を戻した。
「後の事は君の手腕にかかっている……僕等は僕等で勝手にやるから……」
妖怪がゆっくりと頷いたのを確認すると男はこの場を後にした。
後に残された妖怪は冷静さを保ちつつも、身体の底から湧き上がる力の奔流に酔いしれていた。
あの頃とは違う、今の自分ならきっと果たせる!
妖怪はその高揚感のままに飛び回り、そのまま
ここは妖怪刑務所。その奥の牢獄で鬼太郎はかつての宿敵、ぬらりひょんと牢越しに対峙していた。
針女の一件からかなりの月日を要すると言わらていたのだが大天狗が事の緊急性を考慮し、一月もせずに対談出来る事となったのだ。
戦いの傷が十分に癒えてはいないのだがここ最近起きている妖怪の問題の首謀者と思われる仮面の王について出来るだけ情報を聞き出しておきたかった。
ぬらりひょんは宿敵が鬼太郎が傷を負っている様を興味深そうに見つめている。
「お前程の妖怪がここまで追い詰められるとはな……そこは流石と言っておこうか……」
そこまで言ってぬらりひょんはニヤリと不敵に笑った。
「実に腹立たしいが俺は敗れ、こうしてお縄についた………いいだろう、丁度退屈していたところだ。奴について知っていることをいくらか話そう。」
意外にも素直に話す気になったぬらりひょんを鬼太郎や黒鴉は訝しんだ。
だがぬらりひょんはそれを見透かしたかの様に二人を軽く煽った。
「信用できないか……まあ無理も無い。だが貴様らとて奴のことを今直ぐ知るのに他に手立てはないと思うが……?」
確かにその通りだ。信用する為の判断材料は全く足りていないが今は他に手が無い。
蒼坊主が無事戻ってくるかは絶対とは言い切れない。
警戒を強めながらも鬼太郎は重々しく口を開いた。
「わかった……話を聞こう………」
それを聞くとぬらりひょんはゆっくりと口を開き始めた。
「仮面の王……奴を知る者は俺達悪党妖怪の中ではおろか、俺やベアード、チーといった統率者でもその全貌まで知っている者は殆どいない……」
その言葉に鬼太郎や黒鴉も驚いたがぬらりひょんは気にせず話を続けた。
「あの勢力は戦争の資金や技術の提供、暗殺や裏切り者の始末などを請け負い、常に悪党妖怪の影として活動をしてきた。だがその一方で他の妖怪をけしかけ、人間どもと衝突させたりもした………」
ぬらりひょんはそこで鬼太郎に問いかけた。
「鬼太郎…今回お前が戦った針女は以前も人間を襲っていた。それもある日突然………」
そう、針女は元々山に入った人間を誑かす程度の事しかしなかった。
だがある日を境に自分の山に入ってくる人間を激しく憎む様になり、村の人々を苦しめてきたのだ。
唐突に当時の針女の事件を持ち出されたのだが話の流れから鬼太郎はその裏に隠された真相に勘付いた。
「まさか……!」
「当時、人間どもによって木々を次々と切り倒され、環境が破壊されていくのを針女は目の当たりにし、自身の居場所を失う不安と奪おうとする人間どもへの怒りが募り、そのまま仮面の王の術中に嵌り、凶暴化したのだ。勿論自然破壊を目の当たりにさせたのも奴の手引きだ。」
ぬらりひょんは更に話を続けた。
「それだけでは無い。目目連の海外逃亡の際のベアードとの接触、百々鬼が俺の所へ転がり込んできた際の仲介を担っていた。西洋妖怪の地獄侵攻、パンサーの襲撃、黒雲坊の復活など、奴はこれまで貴様らに知られる事無く暗躍し続けていたのだよ……」
黒雲坊、その名を聞いた瞬間黒鴉の表情が一段と険しくなった。以前、自分は大天狗に育てられてきたのだが自分の出生がその大天狗と敵対していた黒雲坊の実の子であると知った時、そのことを隠し続けてきた大天狗を憎み、それを利用されかけた。
だが最後は彼の教えを思い出し、本当の父は大天狗であると断言した。そして黒雲坊にとどめを刺し、決着を付けたのだった。
「会議に参列する者はいつも決まって表情を模した仮面を着けており、その代表格は髑髏仮面を着けている。だがその髑髏仮面の者も自分はあくまでも仮面の王の使いだと言い続けてきた。
仮面の王を見た者は誰もいない、もしかしたら
鬼太郎と黒鴉はその後も話を聞き続けていたが結局仮面の王の正体について有力と思える情報は手に入らなかった。
いや、本当はまだ気づいていないのである………
自分の研究室に戻った男は早速カプセルのある部屋へと向かっていった。培養液に抱かれた妖怪達が埋まっている中、適合に失敗した赤黒い物体は三つ程。それぞれが忙しなくカプセル内を泳ぎ回っている。
男は変わり果てたその姿に憐れみ、彼らに哀悼を捧げた。
「……さ〜しよっかな〜♪♪」
ものの数分もしない内に男はウキウキとした表情でカプセルのレバーを引いた。すると中の培養液が排水される。
完全に水を抜き終わるとカプセルが開かれ、中にいる赤黒い物体が尺取虫のように這い出てきた。
「じゃあ…始めよっか………」
そう言うと同時にゴーグル越しに男の目が赤黒く光り始める。
するとそれに魅入られたかの様に赤黒い物体が先端を持ち上げ、コクリと頷いた。
そしてそのまま一箇所に集まると男は何やら品定めをする様にじっと見つめて、それから右端の一体に指差した。
すると指名された赤黒い物体はその先端をくわっ、と大きく開いたかと思うとそのまま真ん中の個体に噛み付いた。
だが真ん中に並んだ個体は抵抗するそぶりを見せず、右端の個体のなすがままだった。あっという間に丸呑みにするとそのまま左端に並んだ個体にも食らいつき始めた。
左端に並んだ個体も同じくされるがままに飲み込まれていく。
やがて三つあった赤黒い物体が大きな一つの個体へと完全に
扉の前の装置に暗号を打ち込むとセキュリティが解除され、重々しく扉が開かれた。
そこには刀、銃、斧などといった武器や鉄屑などがぎっちりと詰められていた。
「え〜と…今回はどうしよっかな〜」
男が様々な武器を取り出しながら試行錯誤をする。
彼にとって適合の成功は戦力の増強において無限の可能性に繋がるのだが、こうして適合に失敗したとしても悪い事ばかりではない。
兵力としては申し分ない上、時間こそ遥かにかかるがある程度は
何より彼にとってはこうやって無数の武器や鉄屑をどうやって組み合わせるか、それでどんなものが出来るのか、この事自体がとても楽しいのである。
二山程の武器や鉄屑を持ち運び、それを赤黒い物体の前に置いた。
すると赤黒い物体の身体から触手の様なものが伸び始め、武器や鉄屑を取り込み始めた。
やがて男が持って来た分の武器や鉄屑は全て赤黒い物体を埋め尽くしてしまった。
すると今度は赤黒い線が一塊の鉄に蟲が這う様に広がり始め、寄せ集まった鉄を
やがて赤黒い物体は人型の機械人形へと姿を変えた。
右手の指はそれぞれがピストルになっており、左手は手刀サイズのチェーンソーが備わっている。更に右足には電流が迸っている。
何よりも浮き上がった血管の様に機械の身体のあちこちにあの赤黒い線が張り巡らされている。
完成したのを見届けると男は満足そうに頷いてから口を開いた。
「今回は完全に元々の力を
そういうと男は懐からある物を取り出した。
「今日から君はこれをつけて僕の手となり足となり、働いてもらうね!」
機械人形はコクリと頷いた。
男が差し出したのは黒いマントと仮面だった。
そしてその仮面が模していた表情は『苦しみ』。この世の地獄、悲痛な面持ちがこれまたまるで生きているかの様に見事に再現されていた……。
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