ゲゲゲの鬼太郎 もう一人の末裔   作:夜ノ鬱

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お久しぶりです。
皆さま、長らくお待たせしました。最新話をどうぞ。


悩み

「誰か………返事して…………」

「一体……何処……」

「帰りたいよ………」

 

いつも通りの道を歩いていた彼等は気が付くと暗く陰惨な世界に足を踏み入れていた。じめじめとした空気と朽ち果てた木々や大地が迷い込んできた者達の不安を煽る。辺りを駆け回り、声を何度も上げて助けを求めるも誰一人応えてくれる者はいない。やがて不安と恐怖に打ちのめされた誰もがこの世界の()()()()()へと足を運ばせていくのであった…………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふた~り…さんに~ん、よ~にん……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失踪事件…」

「ええ、あちこちで行方不明になる人間たちが増えているみたいなの……」

 

 

ゲゲゲハウスで鬼太郎は猫娘が持ってきた情報を聞いていた。話によるとこの数週間の間に何十人もの人々が突如行方不明になる事件が多発していた。最初は単なる誘拐事件として警察の捜査が入ったものの一向に足取りがつかめず、行方不明者は増え続けるばかりで最近では宇宙人や怨霊の仕業ではないか、という都市伝説も生まれてしまっている有様だった。

「神隠し」と称されたこの一連の事件に町の住人達、特に子供を持つ親は次は自分達の番ではないかと慄き、学校を休ませ、外出時には必ず同伴する様にする、などしてとにかく子供を一人で外に出さないようにするなどしていた。

 

「…それでそれを町の猫達から聞いた後のことなんだけれど………」

 

そう言いながら猫娘は少々浮かない顔をしながらも先程自身が遭遇した出来事について話し始めた。

 

 

 

 

 

集会で猫達から話を聞いた猫娘は以前にこの事件と類似したものが発生した事、かつて倒された妖怪が今妖怪事件の裏で暗躍しているとされる「仮面の王」達によって以前よりもさらに力をつけて復活し、人間達を脅かしている事を考え、すぐにでも鬼太郎に相談をしようと横丁へと続く道を急ぎ足で向かおうとした時のことだ。

ふと誰かに見られている様な感覚に襲われて猫娘が走りながらも辺りを見渡した直後の事だ。行く先で微かに妖気を探知したのだ。猫娘の警戒心が一気に跳ね上がり、思わずその場から後ろへ大きく飛んで距離を取った。彼女の視線の先には夕焼けを背景にした何の変哲もない住宅街が広がっているだけだった。だが先程感じた妖気は微細ながらもはっきりと感じ取れる。目を凝らしてよく見てみると目の前の風景がゆらゆらとはためくように歪み始めており、しかも少しづつこちらに近づいているようだ。

得体の知れない現象に猫娘は辺りを見渡しながらもゆっくりと後ずさりをする。そんな彼女を後方から静かに狙っているものがいた。

数十メートル離れた先、成人男性の様な背丈をした何かがこちらをじっつと伺っている。その者はゆっくり深呼吸した後、すぐさま次の一手に打って出た。静かに手を前にかざすと手の先から水紋が広がるように空間が揺らめき始め、今猫娘の目の前で起こっている事と同じように歪んだ何かが発生した。それはゆっくりと彼女の行く手を完全に阻み、前後から挟む様に迫って来ている。成功を確信したのかかすかにその者の微かに見える唇がニヤリ、と歪んだ。そのまま歪んだ空間が前後から迫って猫娘を捕えようとした。

 

「「「フギャーオ!!!」」」

 

突然何処からか猫達がよってたかってその者に飛び掛かり、その中でも黒い猫はかざしている手の甲や腕に思いっきり噛みつき、他の猫達もあちこちに爪や牙を立てた。

 

「ウワッッ!!」

 

成功を確信して完全に油断していたことからそのものは思わず声をあげ、集中力が乱れてしまう。その結果発生させた空間の歪みが消えてしまったのだかその者はそれどころではなかった。猫達を乱暴に押しのけ、手に噛みついている黒い一匹の猫に対しては執拗に地面にたたきつけながらも引きはがした。

呻きながらも噛まれた部分を抑えながら先程とは反対の手で再び空間を歪めようとする。

 

「ニャー!!!」

 

ひときわ大きな猫の声がこちらに向かって来るのを聞いたその者が顔を上げようとした直後、シュッ、と何かが掠めたかと思うとたちまち激しい痛みに襲われた。

 

「ウウッッッッ!」

 

再び苦悶の声をあげながら後退するも追撃の手は止まなかった。猫娘は間髪入れず腹部に蹴りを入れて相手を吹っ飛ばしながらもその勢いを利用してとんぼ返りしながら一旦距離を取り、着地をばねに一気に駆け出し、そのまま得意の回し蹴りを食らわした。

猫達の声とともに前方に発している妖気が後方からも探知できた事、何よりもその者のがかざしたその手は明らかに人あらざるものだった。猫達の奮闘で猫娘は迫り来る窮地を脱したのだった。

怒涛の攻撃の前にその者は壁に思いっきり叩きつけられ、そのままピクリとも動かなくなった。

 

「ありがとう……みんな……!」

 

猫達の奮闘が無ければ自分はあの者の手に陥っていたであろう。猫娘は周りに集まってきた猫達に感謝した。

敵を倒した事に猫達は歓声を上げたものの何匹かの猫がニャーニャーと忙しなく鳴き始めた。急いで向かうとあの者に立ち向かった際、 真っ先に手の甲に噛み付いた黒猫は地面に余程執拗に叩きつけられたのかぐったりと倒れ込んでいる。猫娘は急いで駆けつけるとゆっくりと抱き上げた。幸い息はしているものの依然として目を開ける様子がない。

 

「クロ…………」

 

猫娘は黒猫の名を呼びながら急いでこの場を後にしたのであった………。

 

 

 

 

「………今起こっている誘拐事件も妖怪の仕業に間違いない…クロを病院に運んだ後、行方不明になった人間達の情報を集めてみたんだけど……………」

 

 

猫娘は自分の身に起こった事の全てを語って聞かせ、事件に関して自分が集めた情報をまとめたものを机の上に広げ始めた。

鬼太郎は妖怪ポストの手紙と猫娘の集めた情報を照らし合わせ始めた。集めた情報から猫娘の言う通り、以前にも殆ど手口が同じ事件が発生している事、そこから今回も「仮面の王」によるものだと察した。

針女の件から数ヶ月、かつて倒されたり、封印された妖怪が更なる力をつけて復活し、人間達を脅かす事件がより高い頻度で発生しており、その度に鬼太郎達は迎え撃ち、解決している。だがこれらの事件を影で操っている「仮面の王」について未だその全貌に近づく事も出来ず、青坊主からの連絡も音沙汰無しだ。黒鴉率いる天狗ポリスや横丁の皆も捜索に当たっているがこれといった収穫が無く、現状敵に対して依然として後手に回らざるを得ない状況に陥っているのである。

 

(せめて、今回の事件で何か手掛かりが掴めれば………)

 

進展しない現状に段々と焦りを覚えていた鬼太郎だったがふと猫娘の方を見ると妙にそわそわしていた。

集めた情報に目を通そうとするもチラチラと外の方へと目が泳いでいる。

 

「猫娘……」

「……っっ!どうしたの…?」

 

鬼太郎が声をかけると猫娘は少し間があいてから慌てて取り繕うように返事をした。

 

「クロの事が心配なんだろ…後はこっちで何とかするから、君は…」

 

猫娘の心情を察した鬼太郎が穏やかにそう提案した。

 

「でも…」

 

一瞬顔を輝かせたものの猫娘は申し訳なさそうに言いよどんだ。

実際猫娘はあの後、クロは動物病院で手当てを受け、幸い命に別状はないもののやはり身体の負傷は相当なもので完治できるかはわからない、障害が残るかもしれない、と医師からは言われた。責任を重く受け止めているのか、猫娘は気丈に振る舞いながらも無意識のうちに俯いている。

クロは猫娘にとって最も付き合いの長い猫でまさに親友といっても良い間柄だ。その親友が自分を助けるために一生物になるかもしれない傷を負ってしまった事に心を痛めていると同時に自分がもっと早く敵の接近に気付けていれば、と自責の念に苛まれており、直ぐにでも病院でクロの見舞いに訪れたいとも考えていた。

だがその一方で猫娘は前々回の牛鬼の件、前回の針女の件で妖怪大戦争時に抱いていた己が無力であるがゆえに自分は鬼太郎の足を引っ張っているだけなのではないか、という考えに再び苛まれていた。

そして自身の心にうずいている葛藤を払拭するためにも鬼太郎達の役にもっと立たなければ、もっと強くならなければ、とここ最近の妖怪事件を通してより強く心に誓った。だがそれは実際には自分でも気づかぬうちに彼女を急き立て、焦らせてしまっている。

 

「猫娘、お前が傍に居てやる事でクロもきっと生きる気力を取り戻すじゃろう。必死で守ろうとしてくれた友を今度はお前が支える番じゃ」

 

思い悩む猫娘を見て、目玉おやじも横から勧めてくれている。

だがそれでも猫娘は返事に窮している。

そんな彼女を見かねて一人の来客が横から口を挟んだ。

 

「それに、今のままじゃあ足引っ張りかねないからな」

 

いつのまにかゲゲゲハウスの窓からねずみ男が此方にのぞかせていたのだ。

 

「おめえ、さっきから見てりゃ他の事に気がいっちまってるのか全く人間達から集めた情報に集中できちゃいねえじゃねぇかよ」

 

ねずみ男の指摘に猫娘は心臓がズキリ、と痛んだ。

今の自分はそこまで浮ついていたのかと自己嫌悪に陥りそうな猫娘にねずみ男はさらに畳み掛けた。

 

「そんなんじゃ妖怪との戦いに身もはいらねぇだろうし、おとなしく身を引いた方が互いのためだな」

 

歯に着せぬ物言いをするねずみ男だったが今回ばかりは全くもってその通りだ、と納得せざるを得ないと感じた。実際未だ意識を取り戻さないクロのためにも一刻も早くクロの傍にいてあげたいという思いもあり、先ほどから作業が全くはかどらない。これでは確かに足手まといになるだけだ。先程から重苦しい雰囲気の中、彼らの言う通りにすべきだ、そう思った猫娘は漸く重い腰を上げた。

 

「……そうね、今回はお言葉に甘えてそうさせてもらうわ、後の事はよろしくね…」

 

そう聞いて、鬼太郎も目玉おやじも安堵した様に頷いた。

 

「たくさんの情報をありがとう。クロに僕達からもお大事に、って伝えておいて……」

 

鬼太郎の礼に猫娘は「うん……」と短く告げるとゲゲゲハウスを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほんと、最悪だよねー」

「ね、マジでうざいー」

 

夜、今どきの派手な格好をした四人の女子高生が帰り道、ここにおらぬ者達への悪口や愚痴を言い合いながらはしゃいでいた。

 

「ねえ…本当にこの後……」

 

グループの中で一人浮かない顔をしている者が声をかける。

 

「何、もしかして怖いの?」

 

グループの一人が挑発するように聞き返し、あとの二人もじっ、とこちらを見つめている。

 

「…いや、そうじゃなくて……だって今…」

 

必死に否定するもうまく言葉が紡げない。そうしている間に押しの強い一人が畳みかける。

 

「じゃあ、いいじゃん…ちょっと見に行くだけなんだしさ…」

「それに今更帰るとか、マジ空気読めなさすぎなんだけど……」

「う・うん…」

 

すっかり気圧されてしまったのか、彼女はそれ以上何も言わなかった。

 

 

 

 

 

「この辺り…なんだよね」

 

そう尋ねられるとスマホと友人を交互に眺めながら少し慄くように頷いた。他の三人も進むにつれて口数が無意識のうちに減っている。この辺りはもうすっかり暗くなっており、人気も全くない。すぐ近くにはうっそうと生い茂った林が佇んでおり、風になびいて音を立てている。

 

「ねえ…やっぱりやめない…なんか気味悪いし……」

「嘘、今になってまたビビってんの!?」

「え~まさかあんな噂、信じちゃってるの~~」

 

おびえてしまっている者が引き返すことを提案するが好奇心に胸を腹話ませている二人がそれを茶化し、残りの一人は全く意に介していない。

このところ発生している誘拐事件を警戒した親達に夜遅くまで外出しないようくぎを刺されていたが今いる四人の中の三人、特にグループのリーダー各の子はは反抗期真っただ中なこともあってその忠告をいとも簡単に反故にして、頻繁に夜遅くまで出歩いていた。その上親への反抗心から自ら危険な地に踏み込んでやることを思いつき、それで誘拐事件解決に貢献したら儲けものだ、とも考えていた。

 

「いくよ…!」

 

一人に煮え切らない態度に痺れを切らしたリーダー格の一声でもゆっくりと前へ足を踏み出した。ほかの二人がそれに続き、引き返すことを提案していた残りの一人も結局逆らえず、一歩一歩足を踏み入れていった。

 

「そこで何してるんだい……」

 

ふと後ろから彼女たちを呼び止める声がした。

 

突然声がしたので驚いて後ろを振り返るといつの間にかそこに青い学童服に黒と黄色の縞模様のちゃんちゃんこを羽織った少年が佇んでいた。

 

((((何、この子…………))))

 

その場にいる四人が皆同じような事を考えていると、目の前の少年が先に口を開いた。

 

「今この辺りで誘拐事件が起きている。君達のような女性が夜遅くまで出歩いていると大変な事に巻き込まれるよ……」

 

非常に淡々とその少年は忠告するも、彼女達の方は皆「いや、そういうあんたの方こそ……」とツッコもうと口を開こうとしたその時だ。

少年の頭部の髪の毛がピン!とアンテナの如く逆立ち、同時に少年の顔つきも一際厳しくなった。

今度は何事かと身じろぐ彼女達だがふと背中からぞくり、と寒気を感じた。

後ろを振り向こうとするがそれよりも先に少年が叫んだ。

 

「今すぐここから逃げろ!」

 

先程とは違い、迫力ある声に彼女たちはたじろいぐが突然の事で状況が呑み込めず、次の行動に移れなかった。。

 

「早く!!!」

 

更に気迫に満ちた一括でよくはわからないがただならぬ事が今起ころうとしているのをようやく理解したのか、全員脱兎の如く駆け出した。

そのうちの一人は走りながらもふと林の方へと顔を向けた直後、心底恐怖を覚えた。

暗い林の中、何者かが木陰からこちらをじっと見ているのをはっきり目にしたのだ。その者の目はギラギラと赤く光っており、こちらに向けて手をゆっくりとかざしてきたのである。

 

 

 

 

 

 

鬼太郎は猫娘からもらった情報を頼りに周辺を捜索していた。

誘拐事件は主に夕方や夜の時間帯に多発しているという共通点を見つけた。だがそれ以外の共通点を見つけることができなかった。被害者の特徴も年齢もバラバラ。どうしたものかと考え、取り合えず何か手掛かりになるものはないか事件のあった現場を一つ一つ当たることにした。

一件目、二件目と何一つ収穫がないまま三件目の事件へと向かった時にはすっかり辺りは暗くなっていた。

その三件目の事件の起きた場に到着した鬼太郎はそこで大きな溜息を一つついた。

年頃の女性が四人、暗い暗い林の中に足を踏み入れようとしているのだ。人間界でも誘拐事件が多発している事が大きく話題になっている以上、当然彼女たちの耳にも入っていると考えても問題はない。だとするならば好奇心に駆られてここに訪れたのだろう。妖怪大戦争を終えた後にも妖怪と人間のいざこざが起きることはあった。だがその中でも元はといえば人間が不用心に妖怪の住処や禁固とされている場に足を踏み入れたことで発生、もしくは事が悪化してしまうケースが多い。

ましてやここ最近の事件は種族間のいざこざなどどその様な話では済まされない。彼女達が自ら命の危険に晒している事に気づきもしていない。

 

「そこで何してるんだい……」

 

呆れながらも鬼太郎は彼女達を呼び止めた。

突然声をかけられて驚いたのか、一瞬肩を震わせてからおずおずと振り返った。

 

 

「今この辺りで誘拐事件が起きている。君達のような女性が夜遅くまで出歩いていると大変な事に巻き込まれるよ……」

 

一応忠告しては見るもののやはりすんなりと聞き入れてくれそうにない。どうしたものかと考えたその時だ。ふと林の方から妖気を探知し、妖怪アンテナが強く反応した。

 

(これは……!)

 

警戒心が一気に高まり、林の方へと注意深く目を見張った。

 

(いた……)

 

林の奥の木陰に二つの赤い光がうっすらと光っており、よく見てみると何者かが木陰から此方を伺っている。

 

「今すぐここから逃げろ!」

 

身の危険はすぐそこまで迫っていた。鬼太郎は一刻も早くこの場から離れるように声をかけるも彼女達は戸惑うように互いに顔尾を見合わせてその場から動こうともしない。

そうこうするうちに木陰から此方を伺っていた何者かがその手をかざしてきた。

 

(まずい…!)

 

彼女達が立ち往生しているうちに敵が仕掛けてきたのだ。

 

「早く!!!」

 

切羽詰まった状況下で未だ動かない彼女達に鬼太郎はさらに声を荒げて一喝した。

ここで漸く彼女達が行動に移ってくれた。

一方何者かの方はゆっくりとその手をかざした。すると彼女達の後ろの景色が暗がりで見えにくいものの妖力を帯びた何かによって景色が歪み始めたのを鬼太郎は確かに見た。そのままかざした腕を前へ押し出すとゆっくりと彼女を追うようにその歪んだ何かかが動き始めた。

 

「リモコン下駄!」

 

鬼太郎が木陰に向かって下駄を放ちそのまま林の奥へと突入していった。敵は間一髪それに気づいて躱したもののこれは鬼太郎の狙い通りだった。

 

「指鉄砲!」

 

飛び上がりながら追撃する下駄をはじいた敵に鬼太郎が空気弾を放った。これが功を奏したのか敵に命中し、更に体勢を立て直す間を与えず、下駄が連撃を加える。

 

「クソッ!!」

 

苦悶の声をあげながら敵の体に赤黒い線が這いずり回るように広がり、輝き始める。

 

「ウオオオオオッッ!」

 

シルエット的に人間の物に近かったその姿は完全に妖怪のそれへと変貌していた。

 

「ジャマヲスルナアアア!!!」

 

悍ましい叫び声を上げながら妖怪は鬼太郎に音波を仕掛ける。周りの木々が葉を散らしていく中鬼太郎はちゃんちゃんこを翻してこれを凌ぐ。

 

「霊毛ちゃんちゃんこ!!」

 

音波攻撃を受け止めつつも鬼太郎はちゃんちゃんこを敵に向かって投げつけるとちゃんちゃんこは相手の攻撃を耐えつつ向かっていった。そうはさせまいと妖怪もさらに妖力を高めて攻撃するもののちゃんちゃんこの進撃を食い止めることはできず、遂に妖怪もろともすっぽりと包み込んでしまった。

無論中で妖怪が暴れまわるもちゃんちゃんこはびくともせず、更にちゃんちゃんこが一気に収縮し始めた。

鬼太郎はそのままちゃんちゃんこを此方に寄せようとしたが不意にちゃんちゃんこがおとなしくなった。

それどころかあれ程激しく上昇していた妖気がピタリと音沙汰無しとなったのだ。

 

「…父さん」

 

目玉おやじを頭から降ろさせてから鬼太郎はちゃんちゃんこを着なおそうとしながらもゆっくりと辺りを見渡す。不気味な程に静まり返った中、敵の気配は全く無い。そして後ろの方を向いたその時だ。

空間が歪んだと思いきや右手から妖怪が鋭い爪を立てて襲い掛かった。

 

(モラッタ…!)

 

妖怪がそう確信したのだがそうはならなかった。鬼太郎は相手の攻撃を受け流すとそのまま相手の腕を抑え込み、次の一手へと打って出た。

 

「体内電気!!」

 

鬼太郎の体が光り輝いた直後妖怪の体に強い電流が襲い掛かった。

 

「グオワァァァァァァァァァ!!!」

 

妖怪の断末魔が辺りに轟いたもののやがてプスン、プスンと火花が散り、その場に倒れこみ、妖怪の姿から人の姿へと戻っていった。

 

「一旦彼を横丁に連れて帰りましょう……」

「うむ…連れ去られた人間達の事についていろいろ聞かせてもらわんとのう……」

 

目玉おやじを再び頭に乗せた後、鬼太郎は彼を担いで横丁へ戻る事にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

林の中で今起きた戦いの一部始終を眺めていた者がいた。

その者は木の上で両手に頬を当てながら彼の背中を眺め、足をバタつかせ始めた。

 

「かわいい…!優しい…!凛々しい…!」

 

一通り鬼太郎に対する感想を呟いた後、妖音はそのまま仰向けに倒れこんだ。

逆さまにぶら下がりながら恍惚とした表情を浮かべた。

 

「鬼太郎…あなたって本当に最高…♡」

 

愛しき鬼太郎への想いで妖音の胸が高まり、それに呼応するかのように彼女の顔や腕からはあの赤黒い線が這いずり回るように広がり始めていた。

 

「ふふ…ウフフフフフフフフフ…♡♡♡」

 

久しぶり彼の姿を目にした事がよほどうれしかったのか彼女は歪な笑みを浮かべながら堪えきれず笑い出した。実は彼女は針女の事件以来、こうして遠くからとはいえ鬼太郎に会う事ができたのは久しぶりの事だった。

話は調度鬼太郎がぬらりひょんと対談していた時の頃に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ちょっ、どういう事!?」

「そノマまノイミだ。コレからシバラくのアいだ、キミはこのシセつでタイきし、ヨウリョクノちょうセイをオコナってもらう……」

 

妖音は声を荒げるが対する髑髏仮面の者は非常に淡々と先ほど告げた事と全く同じ内容を再び発した。

 

「冗談じゃないわ!今すぐにでも鬼太郎に会いたいのに……!!」

 

彼女にしてみれば一秒でも鬼太郎との交流をお預けにされるのは納得いかない。取り消すよう抗議するものの髑髏仮面の者は全く取り合おうともしない。

 

「ハナシはイジョウダ…」

 

それだけ言うと髑髏仮面の者は立ち去ろうとする。

 

「ッッ!待ちな……」

「シタガウきがないのならスキにスルガいい…タだシ…」

 

まだ話は終わっていないと言いたげな妖音の言葉を遮ると髑髏仮面の者はゆっくりと指さす。

 

「イマのきミではスグにでもアのヨウにナルノガオちだ…」

 

その方向へと目を向けた妖音は先程まで抗議していたにも関わらず口を閉ざしてしまった。

髑髏仮面の者の指先には適合に失敗して赤黒色をした伸縮自在の何かに変わり果ててしまった者がカプセル内の培養液を泳ぎ回っていた。

妖音も改造を受けた者の一人、今はこうして見事に適合しているものの妖力を開放しすぎたりするとあの様に物も言えぬ、妖力の塊になってしまう事は聞かされていた。

彼らの協力者となってから幾度と無く適合に失敗、もしくは成功しても妖力の乱用であの様に成り果ててしまった者達を見続けてきたがやはり戦慄を覚える。

 

「…コレはキミのタメデモある…ハヤルきもちがアるコトはせメはシナイ…ダガ、モクテキヲ、、ハタスタメには、トキに、トオマわりにオモエるこトもヒツヨウだ…」

 

それだけ言うと髑髏仮面の者は再びこの場を後にし、闇に消えていていった。

あとに残された妖音は自身のあの忌まわしい過去、そして悲願を達成するためにもここはあの髑髏仮面の言う通りにすべきだと考え、施設内の支持された所へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖力の調整に専念したかいあってか妖音は以前よりも妖力を開放しすぎても問題になりにくくなり、今こうして鬼太郎の姿を拝むこともできた。

妖音はゆっくり体を起こすとふと大きな溜息をついた。そしてここにいない彼に語り掛けるように話し始めた。

 

「でも鬼太郎…そいつ連れてっても()()()()()()()()()()()()()()()と思うんだけどなあ…」

 

そう言って木から飛び降りた妖音は自身の仕事へと戻っていった。




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