この小説での牛鬼は以前よりも(個人的に)だいぶ性能が上がっています。
ほんの数分前まで何気ない1日を送っていた街の人々は突然現れた数十体ものの怪物によって、恐怖のどん底に陥っていた。
牛の体に蜘蛛の体が特徴的な妖怪-牛鬼は港から姿を現わすと瞬く間に周りにあるもの全てを破壊し始めた。
あたり一面火の海に包まれる中、逃げ惑っているうちに牛鬼の出す糸に次々と捕らえられる。
そんな惨劇を近くの山から静かに見下ろす者がいる。
黒いマントにフード、ドクロを模した仮面をつけており、何者かはわからない。
その者は無機質な声で静かにこう言った。
「コレはマダジョショウにスギない、ホントウノキョウフは…コレカラダ………」
そう言い終わるとまるで霧が晴れるかのようにすうっと消えていった。
「一反木綿!!」
鬼太郎はある妖怪の名を叫んだ。
「はい、任せんばい!」
白い布切れに手が生えたような妖怪-一反木綿が鬼太郎のかけ声に応じ、彼を乗せてくれた。
「猫娘、君は今すぐに横丁に行って応援を呼んできてくれ!」
牛鬼がいずれ蜘蛛島の近くにあるこの港町に現れることはわかっていた。
しかしまさか牛鬼がこれ程までに数を増やして来たことは完全に想定外、というか牛鬼には本来そんな能力はないはずだ。
色々と疑問が浮かび上がるものの、はっきりと言えることは今いるメンバーだけでは到底食い止め切ることはできない。
そこで鬼太郎は自分たちが何とか足止めをし、その間に残った1人が応援を呼びに行くのが妥当だと判断した。
倒す事が出来ずとも再封印する策は何かあるかもしれない、とにかく今は牛鬼を海の方へ引きつけ、これ以上被害を広げないのが先決だ。
「………わかったわ!気をつけてね、鬼太郎!!」
「それともう一つ頼みたいことがあるんだ」
そういってもう一方の用件を話した後、二人は互いに頷き、鬼太郎と一反木綿は牛鬼たちのいる街の方へ、猫娘は横丁に通じる道を目指して駆け出した。
妖怪横丁と人間の世界を境には灯籠があり、火の妖怪であるつるべ火に頼む事で人間界の灯篭につなぎ変えることで人間界のあらゆる所に向かうことができる。
途中、猫娘が振り返ると街を次々と壊していく牛鬼たちとそれを止めるため戦う鬼太郎たちの姿があった。
その時、彼女の頭の中にふとあることがよぎる。
(やっぱり、私はこれぐらいのことしかしてあげられないのかな)
ぬらりひょんたちとの最終決戦の時も最初は後方支援が中心で仲間の妖怪たちが傷ついていくのを見て、自分はこんなところにいていいのかと思うことがあった。
やっと戦いの場に赴いても敵は皆強豪揃い、下っ端はまだしも幹部クラスになるととても危く、幾度と無く命の危険にさらされ、その度に仲間の妖怪に何度も助けてもらっていた。
猫娘は砂かけ婆や子泣き爺たちと比べるとお世話にも妖力は高いとは言えず、そのことで猫娘は自分は皆の足を引っ張ってしまってしまっている、と感じていた。
皆と一緒に戦えるように、皆の為になれるようもっと強くなりたい、そう思い、飛騨の天狗道場で修行したこともあった。
だが元々妖力が低いこともあってか、強敵相手に善戦できるようになっても倒すには至らない、そんな自分に限界を感じていた。
今回鬼太郎に頼まれたのも信頼されているということもあるが、同時に妖力の低い自分が危険な目に出来るだけ合わないよう配慮してくれていると悟った。
無論、あの時、そして今自分に任せられたことは戦いにおいて非常に重要なことであることも十分理解していた。
それでもやはり、はっきりと割り切れない自分がいた。
(……いや、今はそんなことで悩んでいる時じゃないわ!)
猫娘は頭の中でのしかかっていたものを振り払うように首を振った。
鬼太郎たちのためにも今この場で自分にしかできないことを必ずやり遂げてみせる、その思いを胸に猫娘は再び力強く走り出し、横丁への入り口に入って行った。
「「「「グォォォォォォォォォォ!!!」」」」
不気味な咆哮を上げながら街の中心部にまで進軍してきた牛鬼達、先ほどよりもさらに数が増えている。
建物の殆どが既に粉々にされており、鬼太郎たちの活躍で近くの山に無事避難できている者は蜘蛛島から逃げてきた者たちと合わせても千人を満たすか否かだった。
逃げ遅れた者は互いに押しのけあいながら我先へと逃げようとている。
そんな中、牛鬼に囲まれ逃げ場を失った者達がいた。
「い・嫌だ、だ‥誰か……!」
恐怖のあまり言葉が途切れ途切れになる。
足は小刻みに激しく震え、もつれた拍子に倒れてしまった。
そんな人間をじっと見下ろしていたかと思うと口から吐き出された糸は何の慈悲もなく人間を捕らえようと迫ってくる。
「た…助け……。」
もうおしまいだ、そう悟り思わず目を固く閉じたその時だった。
「指鉄砲!!!」
その声が聞こえた次の瞬間、牛鬼は横っ面を殴られたかの如く吹っ飛ばされた。
一瞬何が起きたのかわからず、あっけにとられている人間たちを前に一人の少年が降り立った。
周りにいた牛鬼は目の前のたった一人の少年を瞬時に敵と見なし、鋭い鉤爪がついた前足を一斉に振り下ろした。
だがご存知の通り、彼には頼もしい味方もいる。
「ぬ〜り〜か〜べ〜!」
「砂かけぇ!!」
「オンぎゃ〜〜〜!」
牛鬼にも劣らない巨大な壁がそこから発せられる力で牛鬼を突き飛ばし、妖力のこもった砂を手にした婆がその砂で複数の牛鬼の目を眩まし、金の字が書かれた赤い腹掛けに蓑を羽織った爺がその体を石に変え、その重さで牛鬼にのしかかった。
時間にしてほんの数秒ほど、だがその間に繰り出された攻撃に牛鬼の軍団は一斉に後退し始めた。
「「「ひ・ヒィィィィィィィ!」」」
何が起きているのかよくは分からなかったがとにかく今のうちだ、そう判断するやいなや人間たちは蜘蛛の子を撒き散らすように逃げていった。
そんな人間たちを逃がすまいと態勢を立て直した牛鬼たちが再び人間を捕らえるための糸を吐き出す。
しかし鬼太郎とて黙って見てたりはしない。
鬼太郎は再び指鉄砲で撃ち落とし、髪の毛を刀に変えて妖力をこめ、粘着質な糸をなぎ払っていった。
他の妖怪たちも協力して糸を引きちぎったり、本体を攻撃するなどして牛鬼の進行を阻む。
その抜群のコンビネーションの前に牛鬼たちはただただ翻弄されるばかりだ。
やがて牛鬼たちは彼らに背を向けて海の方へ引き上げていった。
だがあらかた牛鬼の軍団を退けた次の瞬間、鬼太郎たちですら予想だにしなかったことが起きた。
「「「「「「「「うああああああああああああああああああああああっっ!」」」」」」」」
後ろの方から人間たちの悲鳴が聞こえる。
何事かと思い、駆けつけた鬼太郎たちの目の前で恐ろしいことが起きていた。
鬼太郎たちが切り裂いたり、引きちぎられた糸の残骸たちが連結したり、増殖しながらひとりでに蠢き、人間たちを絡め取っていているのである。
「何だよこのっ、離れろ!」
「いやっ!だ‥誰かっっ!!」
「嫌だ、たすけてくれぇーー!」
人間たちは拘束から逃れようと必死に抵抗するも、糸はそんな彼らを嘲笑うかのようにますます絡みつき四肢の自由を奪っていく。
「一体どうなっとるんじゃ?」
「牛鬼にこんな能力はあったのか?。」
砂かけ婆と子泣き爺は目の前の現状に理解が追いつかない。
「やめろっ!」
鬼太郎は捕まった人々を助けようと駆け出す。
するとそれを察したのか糸たちは新たに増殖して手のようなものを作り、自身に縛り付けられた人間たちを鬼太郎に向けて指をトントンと叩くようにさし、同時に捕らえられた
この行為が何を意味するのか、それは誰が見てもはっきりとわかる。
ーー下手なことをすれば命はないとーー
「くっっ…!」
こうなってしまったらもう完全に向こうの思うがままだ。
鬼太郎たちはその場でただ黙って見ていることしかできなくなった。
そうしている間に糸はますます絡みつき、とうとう完全に人間たちを包んでしまった。
鬼太郎たちの前に無数の繭があちこちに転がっている、そんな静かな状況が数秒過ぎた次の瞬間、「あああああああああああああああっっっ!!!」と先ほどよりも遥かに大きい声で、そして遥かに苦しみに満ちた声が繭の中からあたり一面にこだまし、それと同時に繭に光がともり、中の様子が影ではっきりと見えた。
無数の紫色の光の粒が這う様に糸を辿り、頭部にたどり着くと内部向かって進み、身体中に管の様についた糸を通して人間の体の中にに入っていく、それによって人間が苦しみ悶えると同時に身体中についた糸からより濃い紫色の光がこれまた糸をたどって放出され、先ほどの過程を得てまた人間の体の中に入っていくという有様だった。
その光景に鬼太郎は見覚えがあった。
「これは、牛鬼が人間から恐怖心を奪う時の……。」
そう、牛鬼は捕らえた人間を自分の巣に持ち帰ると、蜘蛛の糸で縛り付け、そこから妖力で定期的に恐怖を与え、それによって発生したエネルギーを吸うことで食事を摂る。
だが今目の前で起きていることはそれよりも遥かに悪質だ。
四方八方から恐怖を絶えず送り込まれ、そこから生成された妖気がより強い恐怖を生み、また身体中に及んでいく生き地獄、どんな屈強な人間や妖怪でも間違いなく気が狂ってしまう。
「なんと酷いことを……。」
砂かけ婆はこの惨状に思わず言葉を漏らした。
「…っっ!これ以上は……!」
これ以上見過ごすわけにはいかない、そう判断するや否や繭を破壊しようと皆で駆け出した。
だがその途中、彼らの進路を阻む者たちが再び姿を現した。
「「「「「「グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」」」」」」
先程鬼太郎たちが撃退したはずの牛鬼たちが数を増やして再び彼らの前に立ちふさがった。
何体かの牛鬼がまるで卵を守る親鳥のごとく繭の前で身構え、残りの牛鬼が鬼太郎たちに襲いかかる。
「髪の毛針!」
鬼太郎は牛鬼の顔に頭の毛を針にして飛ばし、そこで牛鬼が怯んだ隙にぬりかべがねじ伏せる。
砂かけ婆も子泣き爺も一反木綿もそれぞれの長所を生かして奮戦する。
長時間続く戦いの中、彼らは着実に敵を圧倒していた。しかし………
「数が多すぎる、これじゃきりがない!!!」
退けても退けても新たなる牛鬼が次々と現れてくる現状に鬼太郎は焦りを隠せなくなってきた。
一匹一匹の戦闘能力はさほど高くなく、数々の激戦を乗り越えてきた鬼太郎たちならば勝てない相手ではない。
しかし数で勝る牛鬼たちはその利を活かしながら連携を取り、彼らの体力を削り、そしてついに彼らを押し始めてきた。
その間にも繭はますます人間の恐怖エネルギーを吸い上げより一層強く光り始める。
そんな中鬼太郎、砂かけ婆、子泣き爺、一反木綿、ぬりかべが陣形を取りながら自分たちを取り囲む牛鬼を相手にしていた。
「鬼太郎、ここはわしらが食い止める。」
「お前さんは早く人間たちを…!」
砂かけ婆と子泣き爺が背中合わせに鬼太郎にそう告げる。
ちょうど牛鬼たちが自分たちを仕留めるために前進していたのか、繭の方はすっかり手薄になっていた。
「おばば、子泣き爺……」
鬼太郎は思わず二人の方へ顔を向ける。
ただでさえ数では絶望的に劣る中、身を呈して引き受け、自分を先に進めようとしてくれる。
「わかった、ありがとう皆!牛鬼たちは任せた!!」
そういうや否や鬼太郎は仲間の思いを胸に走り出す。
当然牛鬼たちはそれを見逃すはずもない。
一斉に糸を吐き出したり、前足を振り下ろすなどして進行を阻もうとする。
「ぬうっ!!」
だがぬりかべは自らを盾に牛鬼たちの攻撃を受け、鬼太郎の道を作る。
「痺れ砂じゃ!!!」
砂かけ婆が糸を出して隙が生じた牛鬼に相手の体を麻痺させる砂で攻撃して動きを封じる。
仲間の健闘もあって鬼太郎は繭までの距離を詰める。
だが繭の方ではますます光を強め、中にいる人間もより激しく苦しみ始める。
そしてついに変化が始まった。
中の人間が体を仰け反らせ初めた直後、体が徐々に膨らみ始めたかと思うと人の体が人あらざる者の体へと変わっていく。
そしてついに繭に収まりきれなくなったのか、まず蜘蛛の前足が繭を突き破り、それで繭をかっ開き、姿を現した。
その有様はまさにさなぎから蝶が羽化する瞬間だった。
「「「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ」」」
新たに生まれた牛鬼たちは力強く産声をあげ、その声は町中をこだました。
「っっ……!間に合わなかったか…。」
仲間に隙を作ってもらってまでしたのに、牛鬼の誕生を許してしまった。そんな自分に不甲斐なさを覚える。
新たに生まれた牛鬼は目の前に
「まずい、そっちは・・・。」
おそらく寄生している人間の脳から情報を得たのだろう。
牛鬼たちが向かっているのは山の方、そこには牛鬼軍団の被害から逃れてきた人々がたくさんいる。
「そんなことはさせるか……!」
これ以上牛鬼の好きにはさせない、そう思い急いで後を追う。
しかし牛鬼はそんな彼に集団で道を阻んだ。
鬼太郎は牛鬼たちを一網打尽にしようと着ていたちゃんちゃんこを振り上げるが………………
「………っ!しまった!!!」
四方八方から伸びてきた糸によって動きを封じられてしまった。
髪の毛を伸ばして操り、襲いかかる牛鬼たちを投げ飛ばしたり、自身を包もうとする糸を払いのけ、引きちぎろうとする。
だが拘束から逃れる直前で牛鬼たちはまた新たに糸を吐き、彼の体の自由を奪っていく。
そしていよいよ鬼太郎は疲弊していき、徐々に糸が包もうとするのを許し始めた。
一方の砂かけ婆たちも少ない数で大勢の牛鬼を相手に奮戦していた。しかしとめどなく押し寄せてくる牛鬼を前に妖力が段々と減っていき、そしてほんの一瞬の隙を突かれて皆糸に絡め取られてしまった。皆必死で抵抗するも糸は容赦なくまとわり付き、包み込もうとする。
万事休す、ここに居るだれもがそう思った。
だがここで転機が訪れる。
不意に身震いするほどの冷たい風が吹き抜けた直後牛鬼たちの足元が一瞬にして凍りつき、動きを封じる。
「こ…これは‥。」
今起きた現象に顔を上げた次の瞬間、砂かけ婆たちと対峙していた牛鬼たちが突如足元に広がった影にとらわれ、飲み込まれていった。
何事かと戸惑っている牛鬼たちだったが間髪入れず赤い毛むくじゃらの妖怪が体当たりで牛鬼を突き飛ばした。
この毛むくじゃらは赤舌と呼ばれる妖怪だ。
水を粗末にする人間に怒り、結果鬼太郎たちと対立してしまったことがあったが事件後、人間をもう一度信じて欲しいと頼まれたこともあり、とりあえずは和解した。
その後は残念ながら粗末にする人間もいるにはいるがそれと同じく水を大切にしようと取り組む人間もたくさんいることを目の当たりにした。
そこで赤舌は粗末にする人間をやりすぎない程度に懲らしめ、大切にする人間を見守っていく守り神として今も鬼太郎に協力している。
「鬼太郎殿、遅くなってすまない。」
とても丁寧で誠実さのこもった声がして首を後ろに回して見るとカラスの妖怪が鬼太郎の糸を取りにかかっていた。
「黒鴉さん……。」
彼の名は黒鴉、彼の住む飛騨には妖怪の悪行を取り締まる天狗ポリスという妖怪世界の警察・司法機関があり、彼はそのエースを務めている。
砂かけ婆や子泣き爺たちの方も部下の鴉たちが既に救出しており全員無事だった。
「「「「「グオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ」」」」」
足を地面に固定している氷を必死で引き剥がそうとする牛鬼、だがそれを見逃す彼女ではなかった。
「ごめんなさい、少しばかり氷の中にいてもらうわ」
彼女はそう呟くと口から冷気を吐き、牛鬼の体を氷で覆った。
彼女の名は葵、雪女と呼ばれる冷気を操る妖怪だ。
かつてとある事情から鬼太郎を憎み、命を狙っていた時期があったが今では和解し、心強い味方となっている。
葵や黒鴉たちが鬼太郎たちと対峙した牛鬼たちを止めている隙をついて街の人たちが避難している山に向かって牛鬼たちもいたが…………
「これはこれは、大人しくしてもらいますよ。」
旅の僧の姿をした妖怪が牛鬼たちの影に素早く杖を突き立てた次の瞬間、影がひとりでに動き、あっという間に牛鬼たちの動きを封じてしまった。
彼は夜道怪という妖怪で闇を操るという絶大な力を持った妖怪だ。
彼もかつて鬼太郎たちと一悶着あったものの、こちらも今では心強い味方だ。
「今、別のところでも横丁の皆が戦っておられる。ここは我々に任せてあの山のところへ。猫娘殿や蒼坊主殿もそこで待っておられる。」
そういって糸をほどき終えると黒鴉たちは残りの牛鬼を前に果敢に立ち向かっていった。
「ありがとう……みんな………!」
幾度と無く窮地に陥り、追い詰められた時、自分には一緒になって戦ってくれる仲間がいる。
鬼太郎はかけがえのない大切な存在に恵まれていることをとても嬉しく思っていた。
「鬼太郎、ここは黒鴉たちに任せてわしらは早く猫娘たちと………」
「はい、早く合流して………蜘蛛島に向かわないとですね。」
皆の思いを今度こそ無駄にはしない、そう思い鬼太郎は目的地に向かって急いで走っていった。
鬼太郎が向かった山はもともと住民の避難場所に指定されている。
そんな山には今から妖怪の襲撃から命からがら逃げてきた人々で溢れていた。
「鬼太郎………」
どうか無事でいてほしい、猫娘はそんな思いで胸がいっぱいになる。
やっぱり皆が戦っている中、自分だけここにいていいのかと思い悩んだ。
先程鬼太郎に仲間を呼ぶよう頼まれた際、牛鬼たちを食い止めている隙に蜘蛛島まで避難してきた皆で向かうとしており、その間避難してきた人間たちのことを任されていたのであった。
「心配すんなって、猫ちゃん。鬼太郎のことだ、すぐにこっちに向かってくるさ。」
そんな彼女を明るく励ます青い髪に青い行脚僧の格好をした妖怪がいた。
彼が先ほど黒鴉が言っていた蒼坊主と呼ばれる妖怪だ。
各地で悪さをする妖怪を封印するため、全国をさすらっており、鬼太郎にとっては兄同然の存在でもあった。
「うん……そうよねっ!鬼太郎ならきっと………」
………とそこまで言った時だった。
「やっぱり無理だ!俺たちはもうおしまいなんだ………!!」
人混みから少し離れた所で街を見下ろし、一人慄いている者がいた。
((まったく………!))
猫娘と蒼坊主は心の中で深いため息をついた。
蜘蛛島の長老の孫である利明はさっきから周りの人の不安を煽るようなことばかり言ってはガタガタと震えており、結果今ここにいる人々がパニックに陥りそうになった。
幸い猫娘が周りをうまくなだめ、蒼坊主の能力で人々をおちつかせたので事なきことを得たが山の麓の光景を見てまた恐怖が蘇っただろうか………。
そんな利明に対してついに業を煮やした猫娘は蒼坊主に少し顔を向け、彼もそれにうなづく。
「ちょっと、利明君!」
つかつかと歩きながら利明の服の裾を掴むと人混みから離れた場所へと連れて行った。
「いいかげんにしなさいよ、大の男がいつまでも怖気付いてんじゃないわよ!」
腰に手を当てながら利明をたしなめる猫娘。しかし利明はますます顔を青ざめ、目に涙を溜めながら震えるばかりだ。
「もっと気をしっかり持って!これからが本番なんだからね!!」
この後鬼太郎と合流し、蜘蛛島に避難してきた人々で向かうことになっている。
皆誰もが不安や恐怖を抱えている中、こうやって恐れをあからさまにに表し、周りの不安を煽ってしまうよう者が一人でもいるのは困るのだ。
もっとも彼からしてみると自分の常識が通じない出来事を目の当たりにして、恐ろしい思いをしたので中々受け入れられずにいるのだろうが。
「だっ……だってよ…………。」
涙ながらに、か細い声でそう呟く。
「ぎ…牛鬼は………倒すことは……できな………いんだろ………。だったら……今………勝っているからって…」
徐々にはっきりと大きく声を出し、また周りの不安を煽るようなことを言おうとする彼だったが………………
「ニャーーーッ!!!!」
「ひっ!!」
あまりにも軟弱で漢気のないその有様に苛立ちが頂点に達した猫娘は美少女の顔から化け猫の顔に変え、一喝して黙らせた。
「あんたがそうやって震えている間にも誰もが必死に戦っているのよ!みんなの前で二度とそんな情けないこと言うんじゃないわよ!!」
それだけ言うと猫娘はくるりと背を向けると、蒼坊主や避難してきた人たちがいる所へと戻っていこうとした。
利明はへたれてその場に座り込みながら俯いてぶつぶつと呟いた。
「無理に決まっている………だって………………………………………何もかもが計画通りだからなぁっ!!」
急に利明の声が聞き覚えのある別の声に変わった次の瞬間、それに驚いて振り向いた猫娘は彼の手のひらから出された糸に捕らえられ、そのまま引き寄せられて首を締め上げられる。
「
そういう利明の目は赤く光り、背中から8本の蜘蛛の足が、こめかみからは二本の牛の角ひとりでに生えてきた。
「後は……貴様を利用し、今度こそ鬼太郎の力を手に入れる…!そうなれば俺は最早無敵だ!!ハハハハハッ!フハハハハハハハハハッ!!」
ぞっとするような高笑いをした後、利明はいや、彼に寄生した牛鬼は首を絞めている方とは反対の手を高らかに上げ、力強く握りしめた。
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