ゲゲゲの鬼太郎 もう一人の末裔   作:朝ノ陽

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お待たせしました、夜ノ鬱です。
今回は後味が悪い展開かもしれませんが最新話をどうぞ。


うごめく陰謀

襲い来る牛鬼の大群を前に鬼太郎ファミリーは皆それぞれ必死に戦っていたが牛鬼の策略により、猫娘は牛鬼に変えられ、避難してきた人々も既に支配下に置かれていた。

鬼太郎は突如現れた仮面の者と対峙していたがそこに現れた牛鬼と化した猫娘、そして蜘蛛島の長老の孫、利明を操る牛鬼本体の前に窮地に陥っていた。

 

 

 

 

「か…は………」

 

牛鬼と化した猫娘の糸に体の自由を奪われた鬼太郎に仮面の者の放った妖気弾が直撃し、その直後間髪入れずに牛鬼本体の巨大な脚が鬼太郎の体を貫く。

この怒涛の連続攻撃にかのゲゲゲの鬼太郎も遂に力尽きてしまった。

 

「鬼太郎ーー‼︎」

 

衝撃で放り出された目玉おやじが必死の思いで我が子の名を叫ぶ。

 

「と・父…さ…………」

 

ボロボロになりながらも鬼太郎は父の声が聞こえる方へとぎこちなく振り向くも言い終わる前に、膝からガクリと倒れていった。

 

「ハ〜ハハハ!あっけない幕切れだったなぁ、き〜た〜ろ〜う‼︎」

 

利明の高笑いが響く中、牛鬼は巨大な脚を宿主の体に収納すると右肩から牛鬼の顔を出しながらゆっくりと近づき、倒れた鬼太郎の首を掴んで持ち上げる。

締め上げると微かに意識を取り戻したのか、苦しそうに呻き始める。

 

「相変わらずしぶとい奴だ。まだ意識があったとはな。」

「早くトドメを……‼︎」

「まぁ、慌てるな。どうせこいつはもう何もできやしない。」

 

牛鬼が利明と会話をしているのをみて目玉おやじが異変に気がついた。

 

「そ・その声は利明君?なぜお主が牛鬼と……」

 

声のする方へと向いた牛鬼は、肩から自分の顔を引っ込め、目玉おやじを一瞥すると指をくいっ、と動かす。

その途端、土の中から糸がひとりでに生え、瞬く間に目玉おやじを拘束した。

 

「俺と利明は鬼太郎に恨みを持つ者同士、利害が一致していた。それだけのことさ。」

 

そう短く告げると牛鬼は反対の手から糸を生やし、鬼太郎を包み込もうとする……がそんな牛鬼の肩を後ろから叩く者がいる。

振り向くと仮面の者が静かに見据えていた。

仮面に隠れて表情はわからないが心なしか牛鬼を戒めているようにも見える。

無言でこちらを見つめる仮面の者に対し、牛鬼は小さくため息をついた。

 

「あ〜そうだった。鬼太郎と目玉おやじはこのまま生かしたままあの男に差し出す。そういう約束だったな……………」

 

そういうと牛鬼は渋々ながらも鬼太郎や目玉おやじを糸で拘束すると

そのまま地面に転がした。

そしてゆっくりと仮面の者の方へと向き合う。

 

「全く神経質なお方だ。裏切ったらどうなるかはあの時にもう十分理解したのだが…………」

 

牛鬼がおどけたようにそう呟くとそれまで無口だった仮面の者が非常に無機質な声で話し始めた。

 

「ナラバ、コノアト、ナニヲスルベキカ、ワカッテイルハズ……。コンゴトモ、ウタガワシキ、ゲンドウ、コウドウハ、ツツシメ‼︎」

「ああ、わかったわかった。だが軍門に下った奴らは俺の物だ。そういう約束だからなっ!」

「スキニシロ…ダガ、ケッシテ、ケイカイヲ、オコタルナ…」

 

最後の方で嫌味を少し込めて牛鬼がそう告げると仮面の者はやれやれと言わんばかりに肩をすくめながらも牛鬼に忠告をし、くるりと後ろを向いてそのまま何処かに歩いて行ってしまった。

(おのれ…今に見ていろ‼︎いつか貴様らの鼻を明かしてやるからな!)

 

牛鬼は内心舌打ちしながら改めて鬼太郎の方に向いた。

苦しそうに呻き続ける鬼太郎を見下ろしながら、意味深な表情を浮かべる。

以前あの男に新たなる力を与えられて間もない頃、彼の体を乗っ取ろうとしたことがあった。

だが当時は力を十分蓄えていないこともあってか逆に取り込まれそうになり、許しを得たことにより、命拾いをした。

だが牛鬼は決してあの男に心からの忠誠を誓ったわけではない。

鬼太郎の体を乗っ取り、絶対的な力を手に入れた後、自分に新たなる力を与えたあの男に反旗をひるがえす予定だった。

しかし彼の刺客である仮面の者に完全に見透かされていた。

姿は見えないが何処かで先程のとは別の仮面の者が自分を見張っているに違いない。

このままあの男のいいなりになり続けるかと思うと耐えられなさそうに思える。

それにしても何故鬼太郎親子だけはこのまま引き渡させようとするのか。力を与えられた直後、命令に従うことと同時に告げられた条件に牛鬼はふと首をかしげた。

まぁ、鬼太郎を仕留める事は出来たし、何よりもこれからは今まで以上に多くの人間から恐怖を吸い取れる上に、作った兵力は文字通り自分の好きにして良いとされている。

そのことを考えれば牛鬼にとってもメリットは大きく、何とか割り切れる。

 

「さてと、そろそろ迎えが来る頃だ。よかったなぁ、鬼太郎。貴様は命拾いしたのだ。」

「…………なんだ…」

「あぁ?」

 

鬼太郎がかすかなうめき声とともに何かを言っているのだが上手く聞き取れず、牛鬼は再度問い直した。

 

「あの男とは…誰なんだ…なぜ僕と父さんを………」

 

鬼太郎が苦しみながらも牛鬼を上目遣いで睨みながら問う。

 

「それは直接本人に聞け。もうすぐご対面できるのだからな。」

鬼太郎の問いを一蹴した牛鬼は何かに気がついたのか、ゆっくりと振り返る。

すると誰一人としていないはずだったその場に一瞬霧がかかったかと思うと悲しみを表した仮面を着けた者がすうっ、と現れた。

姿を表した仮面の者はゆらゆらと揺らめきながらゆっくりと鬼太郎に近づいてくる。

 

「もうすぐ、お前らが会いたがっているあのお方に会える。そこで思う存分質問をしてくれ。その間に俺がお前の仲間とやらを配下にするからな。」

 

牛鬼が勝ち誇ったように言うのと同時にすぐ近くにまで来た仮面の者は首元をカクッ、と力なく傾けた後、品定めするかの様にじっくりと眺める。

 

「本当に信用がないね〜、そいつは間違いなく本物だって…………」

 

と利明の声が聞こえた直後の事だった。

不意に仮面の者がくるりとこちらを向いたかと思うと牛鬼(利明)の鳩尾辺りをめがけて強烈な正拳突きをお見舞いしたのである。

 

「ぬぅ…‼︎」

 

吹っ飛ばされたもののすぐに態勢を立て直して反撃の姿勢をとる。

だが牛鬼にとってさらに予想だにしないことが起きた。

 

「ば‥馬鹿……な……!この…音‥は……‼︎」

 

突如この土地一帯に美しく綺麗な音色が響く。

その音を聞いた誰もが心を奪われるほどに透き通る音色、だが牛鬼にとっては苦痛以外の何物でもなく、その証拠に耳を塞ぎながら激しく苦しみ始めた。

上空を見ると鳥頭人身の姿をした者が笛を吹いている。

その姿を見て牛鬼は苦しみながらも憎々しげに睨みつける。

 

「か・迦楼羅ぁ…‼︎何故ここに…⁉︎」

「ずいぶんと天狗になっちまってたよなあ。気分爽快ってとこかい?」

 

苦しみながらも声のする方を振り向くと仮面の者が、いや、それになりすましていた者が正体を現した。

 

「お‥お前は……‼︎」

「何故生きているかって…?あんたらは俺たちの作戦に見事にかかったのさ」

 

仮面の者の姿が揺らいだかと思うたとそこから先程仕留めたと報告が入っていたはずの蒼坊主が姿を現した。

そしてそれだけでなく支配下に置いたはずの牛鬼兵が同じく揺らいだかと思うと元の猫娘の姿に、満身創痍で拘束されていたはずの鬼太郎も万全の状態で姿を現した。

 

「ど…どういう……」

 

迦楼羅様の霊力に必死で抵抗しながらも牛鬼は今の状況が飲み込めず、狼狽えている。

そんな牛鬼に鬼太郎は静かに告げる。

 

「牛鬼、計画通り事が進んだのはお前達じゃない…僕達の方だったのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

事は数十分前に遡る。

鬼太郎は牛鬼復活の通達を受け取った後、この街のアパートで長老の話を聞いているときのことだった。

長老の孫の利明が顔を青ざめ、恐怖のあまりガタガタと震える時、ほんの僅か、そして一瞬の事なのだが牛鬼の妖力を探知したのだった。

そして念のため猫娘を通じて蒼坊主に利明の行動を見張らせたのだった。

そして利明が恐怖のあまり周りを煽っていく時、そして皆が避難民達に気を取られている間に牛鬼の妖力がまた一瞬の事だったとはいえ、今度は明確に妖力を発散させたことに気づいた蒼坊主はパニック寸前だった周りを落ち着かせることも兼ねて、額に隠れている第三の眼を解放した。

この眼は主に相手に幻覚を見せ、更に体に入り込んだ有害物質を読み取る力も秘めている。

この能力によって牛鬼は幻覚に見事乗せられてしまい、指示を送った気になったり、罠を張り巡らせ間違えたりした。

その結果街の人々や蜘蛛島の人々が妖怪達と共に蜘蛛島に向かい、迦楼羅様に入念にお祈りをする時間を稼ぐことになんとか成功したのだった……。

 

 

 

 

 

 

「何…では‥俺の軍隊は……」

「逃げ遅れた人間達は残念ながら牛鬼になったけど横丁の皆は牛鬼軍団を食い止めてくれた。今頃牛鬼になった島の人達や街の人達は解放されているはずだ」

 

牛鬼は膝を地面につきながらいよいよ激しく苦しみ始めた。

苦しみと憎しみで顔を歪め、更に恐ろしい形相でこちらを睨む。

その迫力に猫娘は思わず鬼太郎の側に寄ってしまう。

 

「ふぅ‥ざぁ…けるなぁ……フゥゥザァァァケェェルルルナァァァァ‼︎‼︎」

 

牛鬼はせめてもの抵抗としてありったけの憎しみを込めながら腹の底から怒りを吐き出し、山全体を震わせるほどの咆哮をした。

しかし敗北を悟ったのか、やがて力なくがっくりとうなだれる……と思いきや牛鬼は突然狂ったように笑い始め、元の牛鬼の姿へと戻っていった。

 

「何がおかしい…⁉︎」

「鬼太郎‥これで終わったと思うな……。俺に力を与えた…男……仮面の王…には……お前達では…敵わない……」

 

それだけ告げると牛鬼の目に光がなくなった。

そのままくるりと背を向け、迦楼羅様に導かれるが如く山を下り、そのまま蜘蛛島へと向かっていった。

とりあえず牛鬼襲撃の件については一安心といったところか。

そう思い、猫娘は安堵のため息をついた。

だが鬼太郎は牛鬼を見送った後も、しばし無言のまま立ち尽くしていた。

どうしたのかと思い、猫娘が心配そうに覗き込むが鬼太郎の顔が非常に険しくなっていたのを見て驚いた。

仮面の王…その名を耳にした瞬間、鬼太郎にはあの日の事が蘇ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼太郎達がぬらりひょん一家、バックベアード軍、チー一味達と激しい戦いを繰り広げ、勝利をつかんだ。

バックベアード軍やチー一味は敗走し、ぬらりひょん一家は天狗ポリスに連行された。

そんな中、鴉天狗たちに連行される最中、ぬらりひょんは静かに笑い出した。

 

「とうとう奴は動かなかったか ……。」

「……⁉︎」

 

奴、その言葉にその場にいた者達は全員疑念を抱く。

ぬらりひょんはそこで静かに、しかし含みのある笑みを浮かべながら話を続ける。

 

「妖怪界の裏社会において常に影として暗躍し続けた男……………鬼太郎、そいつはこう呼ばれている……」

 

聞きもしていないにも関わらず淡々と述べ、最後にぬらりひょんは鬼太郎の方へ向きながらその者の名称を告げた。

 

「仮面の王…とな………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮面の王……」

 

鬼太郎はあの日の事を思い出して、その名を呟いた。

仮面の王とは一体何者なのか、なぜ今になってこんな事を……考えたところで情報が少なすぎるのでどうしようもない。

取り敢えず今は皆と合流するべきだ。

そう判断し、猫娘と蒼坊主と共に山を下っていった。

 

 

 

その後牛鬼は宿主の利明から分離され、再度封印されることとなった。

迦楼羅様は今度こそ決してこの牛鬼岬に二度と立ち入ってはならない、と島の人達に、そして一緒に祈りにきていた港街の人々に非常に厳しい表情でそう告げ、誰からも見られること無く再び社へと戻っていった。牛鬼にされた人達は無事に元の姿に戻ることが出来、絶えず与えられる恐怖から解放されたのだった。

だが残念なことに万事解決という訳にはいかなかった。

蜘蛛島も、この港街も牛鬼軍団の前に観光地としての復帰、漁業の再開には相当長い月日がかかると思われるほど壊滅していた。

そして何よりも………………………………………………………

 

 

「あ・ああ……あああっ………!」

「あ・あ・ああー」

「あうっ…ああうっ……」

 

解放された人達の中には恐怖に耐え切れず、精神が崩壊してしまった者も見られ、その人達の家族や友人は深く悲しんだ。

そんな中、解放され、いま胡座をかいた状態で座り込んでいる利明に長老は問い詰めた。

 

「利明、話は全て鬼太郎さん達から聞いたぞ」

 

静かに、しかしはっきりと怒りがこもった声だった。

握りしめた拳が微かに震えている。

 

「見てみろ……お前一人の身勝手な振る舞いでこれだけ多くの人たちが傷つき、大切なものを失っていった。それがどんなに許されないことがわかるな………」

 

利明は目の前の惨状に罪悪感に苛まれた表情を浮かべながらも、どこかムスッ、とした態度をとり続けている。

そんな孫の態度に長老はとうとう怒りを爆発させる。

 

「利明!!!!!」

 

島中に聞こえるのではと思われる程の怒声が響き、その迫力に利明は思わずかたをすぼめる。

だがすぐに心底悔しそうな顔でこちらを見た。

 

「なんだよ……俺だって被害者なんだよ!職場の奴らに強要されて…それで‥‥つい……。」

「それが言い訳になるか‼︎被害にあった人の中には元の暮らしを取り戻す希望さえも潰えた人だっている!!!それなのによくも…………」

 

取り返しのつかない程の大きな過ちを犯しながらもまだ自身の罪を認めようとしない利明に長老はさらに声を張り上げながら怒鳴る。

そんな彼らに駆け寄る者がいた。

 

「親父…これ以上利明を責めないでやってくれ……」

「もう十分でしょう。利明だって被害者なのよ?」

 

それは利明の両親だった。

先程我が子が牛鬼に操られたと連絡が入り、中継で牛鬼を見ていたこともあり、慌てて駆けつけたのであった。

 

「親父‥‥母ちゃん………」

 

利明は涙目になりながら2人を交互に見渡す。

 

「そこを退け…今回ばかりは俺たちだけの問題で済む話ではない………‼︎」

「親父、利明は前の土地開発の仕事に失敗した日から職場の連中からいびられるようになってたんだ。職場での信頼を取り戻そうと焦っていた中、牛鬼の話を聞いていた上司が牛鬼岬に立ち入ろうと言って聞かなくて、利明は立場に押されて従わざるを得なくなった。」

 

父は「そうだったよな…利明………」と言って我が子をうなずかせ、再び長老の方へと向き直る。

 

「本当に憎むべきは利明に封印を解かせた奴ら、利明を利用してこの地を荒らし回った牛鬼だ。」

「その憎むべき者の力にうつつを抜かし、人々を自分の思いのままに操ろうとしていたとしてもか………」

 

長老はこのことだけは切り出したくはなかったし、信じたくなかった。

だが真実を知りたくもあった長老は実は牛鬼と現実で対峙していた。

そして幻覚に囚われた牛鬼と利明が自身の本性をあらわにするのを目の当たりにした事で認めざるを得なくなった。

長老の言葉を聞いた2人は一瞬その場に凍りついたようになった。

だがすぐに母親の方から口を開く。

 

「お義父さん…いったい誰からそれを聞いたの…」

 

長老は間髪入れずに口を開いた。

 

「もちろん、鬼太郎さん達からだ。そして……」

 

実際に自分もこの目で見た、そう言おうとした。

だがそれよりも早く利明が今にも泣きそうな顔で口を開いた。

 

「爺ちゃん!それは嘘だ‼︎俺はそんなこと言ってない‼︎」

「利明‥!この期に及んで……」

 

こんな時でもまだ自分の罪を包み隠そうとする利明の醜さにいよいよ拳を振り上げそうになった。

だが必死に訴える利明を援護するかの如く、父と母も応じた。

 

「親父…まさかあんな得体の知れない奴らの言うことを鵜呑みにしたのか⁉︎」

「そうだとしたらどうかしているわよ。あいつらだって牛鬼と同じ妖怪なのよ!」

 

父も母も非難の色を浮かべながら長老を糾弾する。

長老は絶句した。

自分たちのことを顧みず、戦ってくれた鬼太郎たちを種族が同じというだけで破壊活動をした牛鬼と同類だとみなしたのである。

ついに怒りが限界値を超え、腹の底から声を張り上げそうになるが、周りがガヤガヤと騒がしくなったのに違和感を覚え、見渡してみるといつのまにか周りに多くの人々が集まっていた。

なにやら互いにヒソヒソとささやき合い、電子機器をいじっている。

一体何を…長老がふしぎに思って辺りを見渡す中、利明は誰に気づかれることなくニヤリと笑っていた……。

 

 

 

 

 

結局利明は周りの人間に、そして牛鬼に振り回された一人の被害者として片付けられた。

一応牛鬼岬は今まで以上に立ち入り禁止が強化されることとなり、島の住民達も言い伝えを守り続けるだろう。

その日の夜、利明はタバコを買ったついでに牛鬼岬の辺りをうろついていた。

一服しながら利明は顔を歪めた。

またしても鬼太郎の介入によって牛鬼という強大な力は失うと言った腹立たしい結果になった。

先ほど言っていた土地開発の失敗以来いびられるようになったというのは事実だが牛鬼岬を提案したのは他でもない利明の方だった。

妖怪の噂を信じない一方でもしかしたらと本当に…と思う節もあり、話題性を使って誘導したのである。

結果は見事成功、牛鬼に乗っ取られたものの散々自分をバカにしてきた上司や同僚が必死に命乞いする様は見ていて本当に爽快だった。

職場のムカつく上司や同僚は口封じも兼ねて徹底的に恐怖を与えて精神を崩壊させ、今まで自分を軽視してきた連中も恐怖のどん底につき落とせた。

取り敢えず今まで募りに募った怒りを晴らすことができたのだ。

そして長老が見た利明の本性というものも証拠も無く、父と母も全面的にバックアップしてくれるから真実として明るみに出ることはない。

今後は職場での立ち位置もましなものとなり、今度こそ一儲けしてみせる、そんなこれからの人生の希望に笑いを抑えられず、一人で「クククッ‥」と笑い始めた。

 

「随分と楽しそうですね………」

 

ふと誰もいないはずの森の中から声が聞こえる。

驚いて目を凝らすと暗闇の中からその声の主が姿を現した。

 

「鬼太郎…」

 

利明はさも忌々しそうな表情を浮かべて鬼太郎を睨んだ。

 

「君は自分が何をしでかしたのか、まだわかっていないみたいだね」

 

鬼太郎はゆっくりと近づきながら静かに利明にそう告げる。

利明は鬼太郎が一歩前に出るたびに二歩ほど後ずさりしながらもフン、と鼻で笑うと「何のことやら…………」と言ってから、憎々し気に言い放った。

 

「あんたこそ何の用だよ!もう用はないはずだろ⁉︎」

「利明君…今からでも遅くはない。己のおかした罪を皆に正直に話し、償って生きるんだ‥!」

「はぁ?罪を償え?俺は牛鬼に操られた被害者なんだぜ⁉︎妙な言いがかりはやめてくれないか⁉︎」

 

利明は小馬鹿にしたような態度をとり、開き直った態度をとる。

その浅ましい姿を鬼太郎は静かに見据える。

 

「今までこの島と共に生きてきたんじゃないのか‥!この島も近くの町も滅茶苦茶に荒らされ、住人の多くは、今も苦しんでいる。心が痛まないのか………⁉︎」

 

冷静さを保とうにも怒りを隠せないでいる鬼太郎。そんな彼を利明は心底鬱陶しそうに言い放った。

 

「ああ、痛まないねぇ!さっきから俺を犯人扱いしやがって!俺がお前の言う罪人に値するって言うなら証拠を示してみろ、証拠を‼︎まぁ、お前みたいな妖怪の言うことなんて誰も信じたりはしないけどな‼︎」

 

そこで利明は勝ち誇ったの様に醜い笑みを浮かべた。鬼太郎はそんな彼の浅ましさを静かに見つめていた。

 

「さあ、帰れ‼︎これ以上俺の邪魔すんじゃねえよ!」

 

利明は目の前の妬ましい相手に自分のありったけの恨みをぶつけた。

そもそも利明にとって島の人々との日々にあまり良い思い出は無かった。

何かと長老の孫して扱われ続け、幼い頃は誇りに思っていたものの、常に本当の自分を見てはもらえない、そんな現状にいつしか彼は寂しい思いをするようになった。

そんな現状を打開する為に彼は島を離れ、都会へと移り住んだ。

だが今度は怪談話由来の地から来た者といった一種の変わり者として扱われる始末だった。

周りに自分が自分として見てもらう為に、何としても結果を残し、周りを見返してやろうと必死に勉学に励み、就職後にはそれで得た知識を活かしていった。

そして遂に大事業の責任者を任されるようになり、いよいよ自分の苦労が報われる時が来たと思った矢先、妖怪の存在理由に開発を反対するその地の住人が立ちはだかった。

妖怪の地だが何だか知らないがやっとの思いで手に入る栄光を手放す真似だけはしたくはなかった利明はあらゆる細工を施して、事業の邪魔をする住人を抑え込もうとするもそこに現れたのがゲゲゲの鬼太郎だった。

祖父から話を聞いていたが年を重ねるにつれて、ただの空想だと馬鹿にしていたが、実際に現れた際は自身の障害となるこの地の守り神を何とかしてくれるとこの時は思っていた。

しかし鬼太郎も自分の邪魔をした。

そして怒る守り神が雷を轟かせ、大いに暴れたことで、現場の人たちが逃げ出してしまい、開発どころではなくなったことで必要以上にこの地に干渉しないと言う条件を飲まされてしまった。

そして信頼を築き上げたはずの職場では多大な費用をかけたにも関わらず、開発を断念してしまったことで疫病神扱いされるようになり、これまでうまくやって来たはずの上司や同僚にしょっちゅういびられる日が続いた。

名誉挽回の為に今度は故郷の蜘蛛島に手をつけようとするもまたしても伝承を固守する連中と対立し、自身の協力者として名を挙げてくれた人達も結局自分を上手い具合に利用して、最後は手柄だけ横取りする算段を立てていた。

利明はそれ以来誰も信じられなくなって来た。

もう他がどうなろうと知った事か。

誰よりも懸命に生きようとしても結局バカを見続け、損していくだけなのだ。

どんな手を使っても最後に勝利を掴みとればそれで良いのだ。

牛鬼の力で周りを従わせられると知った時の、あの今まで満たされなかった何かが満たされる感覚は最高だった。

だがまたしても鬼太郎に邪魔された。

本当に腹立たしい。

無力に戻った自分では先程のこと以外では、怒りをぶつけるぐらいしか出来ない。

そんな利明に対して鬼太郎は溜息をついた。

その行為が自尊心を傷つけられたと利明は苛立ちをさらに募らせる。

「何だよ、その態度は!俺をどこまで……」とさらに声を張り上げる利明だったがそれまで俯いていた鬼太郎がゆっくりと顔を上げた。

そして利明はしばし言葉を失い、蛇に睨まれたカエルの如くその場に立ち尽くしてしまった。

今の鬼太郎の表情は可愛らしく親しみやすいと言った第一印象が瞬時に打ち消されるような、見る者を戦慄させる冷たい表情だった。

 

「本当に悔い改める気は無いのか………………」

 

改めて問いかける鬼太郎に利明は慄きながらも虚勢を張って言い返す。

 

「う・うるせぇ!俺を犯人にしたいなら………」

「なら、もういいです………」

 

自身のすることを全く認めず、先ほど同じことを繰り返し言う利明に鬼太郎は心底がっかりした表情を浮かべながら言葉を遮る。

そして自分を罵り続ける利明には目もくれず、くるりと後ろを向き、去り際に「君はすぐに後悔することになる…………」と静かに告げるとそのまま森の中へと消えていった。

利明はやっと憎たらしい存在が自分の目の前から消えてくれた事に清々し、溜まったストレスを和らげる為にタバコをまた一本取り出した。

と、その時だった。

周りの雰囲気が急激に変わっていく。

目の錯覚かと思い目を擦ってみるが変化はどんどんと進行していき、前方に見える海が、後方に見える森がまるで黒いインクで塗りつぶされるかの様にどんどんと暗闇に染まっていく。

それだけでなく、自身の体がまるで入れ物の中に放り込まれたかの様に身動きが取れなくなり、窮屈な感覚に襲われる。

 

「何だよこれ、どうなっているんだよ……誰か…誰かーーー!」

 

何も見えない真っ黒な世界で利明は懸命に助けを求める。

しかしどれだけ叫んでも、誰も彼に返事をしてくれる者はいない。ただ静かに時間だけが過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はたして何回助けを求めて叫んだ事だろう。時間が経つにつれ、暗く狭いところに閉じ込めらたかの様な感覚が脳を襲い、いよいよ気がおかしくなりそうだ。

誰でもいい、早く光を浴びたい、頼むから助けて‼︎‼︎

利明は益々必死になって叫び続けた。

 

「オヤジィィィィ‼︎カァぁぁぁぁちゃぁぁあん‼︎じいぃぃぃぃちゃあああああん‼︎………「やかましい……」えっ…」

 

そろそろ喉が引きちぎれそうな時、ようやく自分のSOSに応答してくれる者がいた。

誰だか分からないがありがたい。取り敢えず早くここから出してもらおう。

 

「頼む、鬼太郎のせいでここから…「知っている…」っ…‼︎」

 

利明は声を聞いてハッとした。

この聞き覚えのある声は………………………

 

「牛鬼さん…?あんたは封印されたんじゃ………」

「どうやら、俺の妖力とお前の肉体が結合していたらしい。お前の肉体は俺もろとも封印されたというわけだ。」

 

利明は身の毛がよだつ思いがした。

今の話が本当ならば自分の体は牛鬼岬の祠に完全に閉じ込められたことになる。

じゃあ今までの出来事は…………………

 

「哀れだなぁ、鬼太郎が頼み込んだらしくてな、迦楼羅はお前の魂を何とか切り離して一旦仮の肉体を与え、本当に悔い改めるか見定めていたのさ。だがお前は己の罪をもみ消そうとした事で魂が本当の肉体に戻るよう鬼太郎に誘導された………そして今に至ると言うわけだ」

 

牛鬼はそこで嬉しそうに声を弾ませた。

 

「どうせ愚かな人間どものことだ。何十年か先になれば俺の封印を解くものが必ず現れる。だが今は俺とお前の何かの縁だ。思う存分活用させてもらう……なぁに簡単に壊しやしない、貴重な食糧だからな……」

 

そう言い終わるや否や利明の全身に寒気がした。

そして次の瞬間、言葉では言い表せない、声を上げずにはいられないほどの恐怖が駆け巡ってきた。

利明はあの時自身がとった行動や態度を今になって激しく後悔したがもう遅い、遅すぎた。

封印の結界によって作られた空間でいつ終わるかもわからない地獄が繰り広げられていることを外の者は誰も知る由もなかった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜あ〜牛鬼はやられちゃったか……。」

 

男が巨大なモニターを眺めて非常に残念そうに、だがどこかワクワクしてもいるかのように呟いた。

手に持っているティーカップを置いて、最後のドーナツを食べながら傷心したような雰囲気を醸し出した。

 

「しっかし随分とこっ酷くやられたね〜。蒼坊主の幻術、全然無効化できてないって………」

 

男はくるりと椅子を回転させて後ろを向いた。

そこには蒼坊主と対峙していた悲しみを模した仮面をつけた者がいた。

だが黒マントは煤け、破れたマントと所々かけた仮面ではっきりとは見えないが体の方も動きがぎこちなく、見えるところから傷跡が確認できる事から負傷しているのは確かと言える。

先程蒼坊主と対峙した際、隙をついて彼の鳩尾に強力な一撃を加え、至近距離で妖力の弾丸を叩き込んだはずだったがそれは全て幻覚で実際には自身の体を攻撃しており、結局そのまま蒼坊主に返り討ちにされた、というわけだ。

 

「まぁ、いいや。今回の情報を元に強化改造していけばいいし、それに………」

 

そう言った後、先程の人を食ったような雰囲気とは打って変わって、低い声で彼らに告げた。

 

「ちゃんとあれ……()()()()()()()()……?」

 

そう言うと仮面の者のうちの一人が現れ、何やら巨大なカプセルの様な物を懐から取り出し、それを無言で差し出した。

そのカプセルの中に何やら赤黒い色をした液体のような物が一人でに蠢いている。

 

イェクセレント!それさえしっかりできれば今回も成功と言えるさ!」

 

よほど大事なのか、戦力を一つ失ったにも関わらず彼は今までにないくらいハイテンションな調子でそう叫び、カプセルを受け取った後もしばし満足そうに眺めていた。

仮面の者達はそれを眺めていたが、深手を負った一人を残して霧が晴れるかの様にすぅ……っと消えた。

その後彼はカプセルを持ってある場所へと向い、仮面のものもそれに続く。

 

「人間の負の感情は本当に僕を楽しませてくれる。さあて、次はどいつを送り込もうかなぁ♪♪♪」

 

まるで明日の予定を立てるかの様なノリで男は目的の部屋へ入っていった。

 

そして部屋に入って周りを見渡し、「クフフフフフフッ!」と楽しそうに笑った。

部屋の中には非常に高度なコンピューター、そして部屋の両端には液体で満たされた複数の巨大なカプセルがずらりと並んでいる。

その中では様々な種類の妖怪が培養液に抱かれ、うずくまる様に眠っていた。




利明の末路についてはいろいろあるかと思いますが彼のしでかした事と事件後の態度からこれもありかなと思いました。
余談ですが幼少期の幽人の脳内CVは大谷育江さんでお願いします。
感想・アドバイスをよろしくお願いします。
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