ゲゲゲの鬼太郎 もう一人の末裔   作:朝ノ陽

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お久しぶりです、皆さん。
夜ノ鬱です。
最新話をどうぞ


それぞれの使命

依頼人の手引きで家の中へと招かれた鬼太郎、猫娘、ねずみ男、現場監督は互いに囲炉裏を囲むようにしながら座った。

依頼人はこの村に長いこと暮らしている一人暮らしのお婆さんだ。

お婆さんは囲炉裏で沸かした茶を人数分の湯飲みに入れ、それ皆に配った。そしてその際、鬼太郎を見て、目を見開いた。

 

「鬼太郎さん……こんなにも傷ついて…………」

 

先程の戦いで鬼太郎の身体は応急処置が施されているもののあちこち傷ついており、ちゃんちゃんこも修復してきているとはいえ、ところどころ糸がほつれている。

 

「いえ、気にしないでください。先程猫娘に手当てしてもらいましたし、これぐらいはどうってことありませんよ。」

「いえ…でも……」

「なぁ、婆さん。あの妖怪は確か随分前に退治したはずだよなあ。なんでまた復活してんだよ?この村で一体何が起こっているんだよ?」

 

鬼太郎はお婆さんに気負わせないよういつものように穏やかでのんびりとした声で応じる。

そんな彼に気遣い、何か出来ることはないか聞こうとしたが、ねずみ男が慄いたような表情を浮かべるが横から矢継ぎ早に質問してきた。

 

「ちょっとあんたねえ………!」

「しょーがねーだろ!俺だって何が何だかさっぱりでよ……」

 

ねずみ男が余りにも一方的に話しかけるのを見かねた猫娘が彼を窘めようと猫の顔になって威嚇し、ねずみ男の方も彼女に抗議するも………

 

「失礼いたしました。確かにこの村で何があったのか貴方達にも知っていただかないといけませんね。」

「あの妖怪は針女ですね。確かもう何十年前に…………」

 

針女は自在に伸びる針の髪を持つ妖怪で元々は山に入った人間を誑かすだけだった。

だがある時突然人間達に激しい憎悪を抱くようになり、その結果山に入ってくる者達を次々と襲うようになった。

結果村の人々は長い間彼女の脅威にさらされる事となったのだが、この時、当時猟師だった源五郎という男と死闘を繰り広げており、依頼を受けた鬼太郎の協力もあってついに退治されたのである。

ねずみ男の質問攻めに一瞬圧倒されていたものの、彼らがここに来た理由を思い出し、改めて事の経緯を話し始めた。

 

「はい、あれは半年前のことでした………」

 

 

 

 

 

 

 

針女が倒された後、源五郎は勝負には勝ったもののこの山を針女の物だと言い、鬼太郎と共に村へと降りだのだった。

その後源五郎はこの山に入る時は必要以上に狩猟・採取をしない事、山を決して荒らさない事を村人達に言い聞かせた。

そして山の中に自分の財産で互いに命をかけて挑んだ相手でもあり、好敵手ともいえなくもない、そんな歪な関係であった針女の為の祠を建て、その中に針女の髪の毛を入れて祀った。

この事に当時反感を買うものも少なくはなかったが、源五郎が村を救った男である事から、支持者も多くそれほど大きな問題にはならなかった。

そして何十年の月日が流れ、その祠の近くにそびえる木々はとても丈夫で、近年増加している大雨による土砂災害を軽減してくれているらしく、村の人はもしかしたら針女がこの山を守ってくれているのだと思うのであった。

そんなある日の事、この村にとある建設会社の社員を名乗る者達が訪れた。

話によるとこの辺りにある山を切り崩して整備して道路を作り、トンネルを拓くとの事だが地元の人々は当初、自分達の故郷を、そしてこの山を荒らされては困ると猛反対した。

だが相手の方も土砂崩れなどで近隣に被害を及ぼしかねない、この周辺を開通すれば交通はさらに良くなるなどとまくし立てた。

事実この辺りは以前近くに大きな病院やスーパーも無い上に大きな街へ行こうにも時間もそれなりにかかる程不便だった。

だが数年前に道路の開発を進めた事で大きな街へ向かう時間を大幅に短縮する事に成功し、大きな街との流通も改善された。

山から少し離れた所に小さな日用品店も建てられ、山の方も多少は人間の手が加えられたとはいえ、祠もそのまま残った。

要するに彼らが挙げた問題は既にある程度解決しており、これ以上の開発は必要なかったのである。

その後しばらくの間、会社側は住人の生活は保証すると言いつつも工事の意義を説明し続け、住人達はそれに反対の声を上げ続けた。

だがある日の説明会で開発の代表者から信じられないことを告げられた。

 

「賛同者が多数を占めましたので説明会を終了し、来月辺りから工事を開始します」と………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後で聞いた話ではどうやら県の方で既に取り決めていたらしく、住人達の方は近隣の方々の安全と公益のためだの言ってうまく丸め込んだらしいです。当時の人達も針女は実際にはもういないから切り崩しても問題無いとのことで…………」

 

そこまで言うとお婆さんは悔しそうに顔を歪ませる。

やはり時代と共に異形への恐れが薄れてしまうのが人間なのだろう。

ましてや針女の場合は封印されているわけではなく、あくまでも遺骸を祀っているに過ぎない。

そこへ自然災害による被害や開通による経済の発展、何よりも住人の生活は保証するなんて言われたら先のことを考えてなびいてしまうのも仕方がないのかもしれない。

 

「そして工事が始まった際、業者の方々はこの山をあからさまに壊しにかかった………」

 

そう言ってお婆さんは目を伏せる。

工事が始まった途端、業者の人達はおもむろにこの街を崩しにかかったのである。近隣の住民は工事の事故に巻き込まれない為と殆どが立ち退きさせられた。

そうして道を整備し、どんどんと山を切り崩していった。

そしてついに針女子を祀っていた祠も工事の際に壊されてしまったのである。

もちろんお婆さんをはじめ、村の者はこの事に抗議したが業者の人々は誰も取り合おうとはせず、むしろ彼女達を邪険に扱う始末である。

そうこうしている間に工事はどんどんと進んでいき、結局黙って見ているしかなくなった………。

 

 

 

 

 

 

「黙って聞いてりゃずいぶんと言ってくれるじゃねえか、婆さんよ………」

 

それまで腕組みしながら話を聞いていた現場監督が苛立たしげに口を開いた。

 

「何度もおんなじ事言わせんな…・あの辺りは特に工事しなけりゃならねぇんだよ。この村のため、この辺りを通る人々のためにもな……」

 

お婆さんは静かに睨みつけるが、彼はそれをあえて無視し、話を続けた。

 

「確かにこの辺りじゃあの巨木のお陰で土砂崩れの被害は少ないかもしれないがゼロってわけじゃない。月日が流れれば劣化は免れねぇ。万が一の事が起きた時をちゃんと考えてんのか?」

「だからといって何もあんな強引に………」

 

お婆さんの抗議に耳を傾けず、監督は少しずつ口調が荒くなりながら話を続ける。

そんな様子を鬼太郎達は静かに耳を傾けていた。

 

「既に県の方からは大きな被害を出す前にあの山を切り崩して交通網をより良くするよう依頼されてるんだ。それに道路が完成し、トンネルが開いたら今よりもっと交通の便も良くなる。くだらねえしきたりにいつまでも縛られてねえで、今の時代こそもっと先を見据えて「今のは聞き捨てなりませんね………」っっ‼︎」

 

どんどんとヒートアップしながら己の正義を唱える監督にそれまで黙っていた鬼太郎が静かにしかしはっきりと口を開いた。

突然異議を唱えられた監督は一瞬驚いた表情を浮かべて鬼太郎達の方へと目をやる。

 

「そういやあんたらにしなきゃならない事があったな。さっき助けてくれたことは本当に感謝している。ありがとう………」

 

監督は深々と頭を下げて礼を言った。だが顔を上げるとすぐに怪訝な顔になって反論した。

 

「だが一体俺の言うことの何が間違っているっていうんだ?さっきも言ったが今の時代に必要なのはいかなる時でも先を見据え、実現させる。その為にも不要な物はどんどんと切り捨て、必要な物を作る。

公益のためにも少数の言い分を切り捨てていくことも必要なんだぞ……!」

 

己の理屈の正当性を信じて疑わない監督に鬼太郎は冷静に反論した。

 

「確かに工事が貴方達人間にとって必要な事でしょうし、先のことを考えなければいけない事も十分分かっています。ですが昔ながらの言い伝えや、しきたり、そして何よりもそこに住む者達を蔑ろにしようとするのは感心できませんねえ………」

「しきたりや言い伝えじゃ食ってくことはできやしない。何を重視しなければいけないかは世の移り変わりによって形を変えていく。何が必要で何が不要かを合理的に判断し、実行に移す。これこそが今あるべき人間の歩み方だ」

 

現場監督とてしきたりや言い伝えが全てデタラメだとまでは思っていたわけではない。

特に先程針女の尖兵達に襲撃された時はこの世には今の科学では証明しきれない事が実際にあるという事を目の当たりにした。

だが昔ながらの風習や言い伝えが今の世の中において全て固守するべきなのかといえばそうではない。

今の時代には世の中のためにもむしろ必要あればどんどんと切り開いていくことの方が重要だ。

何よりも大災害の元となり得るかもしれないと判断された今、この山をそのまま放置するわけにもいかない。

上からの命令を遂行しなければならない立場ではあったが彼自身この事業に対して強い責任感を持っていた。

現場監督が鬼太郎達をしばし睨みつけていたがそこにお婆さんが割って入ってきた。

 

「あんたらとしては儲けになるからそれでいいのかもしれないけど、切り捨てられる方の立場に自分を置いて考えた事が一度でもあるのかい?針女だって黙っちゃいない。これ以上山を荒らすようなことをすればきっと今よりもっと酷い事が起きる…!」

 

最初こそは強引な開発を進めた事への非難をしているお婆さんだが針女の名を出した後はすっかりと青ざめてしまっており、恐怖で小刻みに震え始める。

 

「最初の時もそうだった……。彼女は何の前触れもなく姿を現した………」

 

慄きながらそう呟くとお婆さんはまた話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

それは祠が壊されてからほんの数日後に何の前触れもなく訪れたのだった。

その日立退きを免れた住人達が突如行方不明となった。

無事だった何人かは警察へと捜索願を出し、夜何人かで見回りをするもあまり良い報告は無かった。

この時何人かはまさかと思っていたがそんなはずはないと振り払った。

そしてある日、日もとっぷりと暮れた頃、いつもの様に作業を終え、家に戻ろうとしたときのことだった。

突然山の方から絶叫が辺り一面にこだました。

一瞬心臓が止まるのではないかと驚いたがすぐに持ち直し、声のする方へと目を向けたお婆さんはそのまま恐怖で腰を抜かしてしまった。

視線の先には黒く大きな髪の束が宙に浮かび、逃げ惑う村人を次々とその髪の毛で捕らえてる。

その姿をおばあさんは忘れたことは決してない。

 

「は…針女……………」

 

かつて源五郎という1人の猟師と戦い、そして敗れたあの妖怪は今こうして目の前にいる。

その事が最初とても信じられなかったが目の前の光景が事実を物語る。

暗闇にギラギラと光るその目にはあの時以上の憎悪を表し、その時こだました彼女の怨嗟の声がお婆さんの頭の中に強くこびりつき、恐怖を引き起こす。

 

 

 

この…裏切り者どもめ‼︎

 

 

 

 

 

 

「夜…!針女は影のできる時間帯にしか人は襲えないんじゃ………」

「はい……ですが…あの時は確かに……陽の沈んだ夜に、それも……影では無く…………人そのものを捕らえていました」

 

あの日の恐怖が蘇っていたもののそれを必死に抑えながらお婆さんは説明を始める。

 

「多分山を本格的に荒らした人間、そいつらを手招きした村の奴らが心底許せなかったんだろうなぁ。針女も影を狩るだけでは生ぬるいと感じたんだろうぜ」

 

ねずみ男が横からしみじみと呟くが鬼太郎の表情が更に厳しくなったのを見てそれ以上口を開かなかった。

鬼太郎は今回も裏で暗躍している者がいると見ていた。

ねずみ男が言ったことも確かに一理あるだろうがそれでも今まで通り影を奪えば十分だ。

奪われた影は感覚そのものは肉体と結びついたままで針女の針に刺されるとその刺された影の部位と同じ所に激痛が走る。

にも関わらず、わざわざその影のない時間帯に襲撃した。

先程の戦いで大勢の糸人形の兵達もそうだ。

以前よりも妖力を増し、且つ本来持ち合わせていないはずの能力を得て妖怪が復活する。

前の牛鬼の件と同じく、あの男(?)が関わっているだろう。

 

「奴はまず自分達と共に生きてきたはずの……この山を売った私らに目をつけた。その結果この村に残っていた者達はあらかた捕らえられ、そして今日………工事の人達を標的に変えた。私は何とか難を逃れ……あなた達に…………今回の依頼を……」

 

最後の方はもう言葉になっていなかった。

余程恐ろしかったのか、それとも山を守ることのできなかったことへの後悔からなのか、お婆さんはその後しばらくの間暗い表情でずっと俯いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時…私はあいつに敗れた…………」

 

先程鬼太郎の指鉄砲で深傷を負った針女は仮面の者達の手で傷の手当てを施された。

その甲斐あってか、今はだいぶ傷が塞がり、自由に動けるまでに回復している。

自分の寝床で捉えた人間たち、森を順々にを見渡し、最後に仮面の者の一人の方へと顔向けるとそのまま再び話し始める。

 

「私は…この山に我が物顔で入り、汚していく人間を憎み……そしてそいつらの影を幾度と無く狩ってきた………だが私はある日長年戦い続けてきた源五郎と言う老いぼれに狩られた時はついにこの山を奴らに明け渡す事になると悟った…………」

 

そこで針女は一旦うつむきながら黙った。

今彼女と向き合って話を聞いている仮面の者は黒いマントを身に纏い骸骨を模した面をつけている。

先程から針女の話を頷くこともせずただただそこに立って聞いている。針女は再び顔を上げ、話を続けた。

 

「だが私の意識は微弱ながら一本の髪の毛として残った。そこであの男が私にこの山を譲り渡したことを知った…」

 

そこで針女は一瞬心底悔しそうに顔を歪めた後、自嘲気味に鼻で笑った。

 

「情けない話だよ……!人間ごときに敗れただけで無く、情けまでかけられちまうなんて………‼︎だが今更嘆いた所で何も変わりゃしない。私はこの山の大木の祠に入れられ、長い間そこで過ごす事となった。」

 

仮面の者はまるで反応らしい反応どころかその場からピクリとも動かない。あくまでも淡々と彼女の話を黙って聞いているようにも見えるがまるでただそこにいるだけに見える。

それでも彼女は話を続けた。

 

「奴は他の人間どもがこの森に入る際、決して汚すこと無いよう周りに働きかけてくれたみたいだ。人の出入りこそあったがここに暮らす者達も受け入れてくれていたのか、この森は至ってのどかでいい所所になった……」

 

針女は昔を懐かしむかの様にしみじみと呟いた。

 

「だがそれも永くはは続かなかった……!ある日よそから来た人間があの時と同じ、いやそれ以上に我が物でこの豊かな森に土足で踏み込み、壊し始めた……‼︎」

 

ここから彼女の声は一気に憎々しいものとなった。

 

「一度目はまだ許せた……この森自体にそれほど手を加えたわけではなかったからな……。だが…‼︎今回のは絶対に許せない‼︎木を切り倒し、泉を埋め、そこに暮らす者達の住処を荒らし始めた……‼︎そんな奴等の横暴を何とこの村の住人が了承したというじゃないか!!!」

 

そう言い終わるや否や針女子は立ち上がり、切り立った崖の方へと目をやる。

そこには先程捕らえられた作業員達が全員磔にされ、恐怖でガタガタと震えている。

先程まで皆声を張り上げて助けを求めていたりしていたのだが、烈火のごとく怒る針女の余りの気迫にに皆すっかり肝を潰してしまい、命乞いすらままならなくなっている。

 

「私は今度こそこの山を守る……この世にあるものは皆自分達の所有物だと自惚れる人間どもからなぁ!!!!」

 

そう言うと針女は髪の毛を一斉に伸ばすと磔にされた人間達にめがけて突き刺した。

 

「「「「「ぐああああああああああっ…………!」」」」」」

 

刺された瞬間、彼らに激痛が走る。

磔にされながらも激痛に悶え、のたうちまわる。

そのまま針を引き抜いた次の瞬間、血が滴り落ちる刺し口から紫色に光る何かがまるで蟲が這うかの様に線を描き、体に広がり始めた。

 

「「「あ‥が…ああああああっっっ」」」

 

紫の線が体に広がるごとに作業員達は何かに体を貪られていく様な痛みが増し、自分の体が壊されていくのを感じた。

そして紫の線がついに体全体に広がった瞬間、作業員達はこえをあげる間も無く、巨大な一束の糸へと姿を変え、地面にぽとりと落ちた。

 

「さあ、これから一生、お前らは私の手となり足となり、この山を守る為に働いてもらおうじゃないの………」

 

怨嗟の声をを発しながら針女の目にぼぅ、と紫色の光が灯った瞬間、地面に落ちていた糸の束が独りでに束をほどき、自身を編み始めた。

それからわずか数分後、先ほどまで捕らえられていた作業員達は皆それぞれ一束の糸に、そして今それらは先程工事現場を襲った糸人形へと姿を変えた。

皆まるで糸の切れた人形の様にがっくりと首を垂れている。

針女はそんな彼等を一通り見渡した後、ギラギラと目を光らせながら声を張り上げた。

 

「さあ、お前達‼︎これからが本当の聖戦だよ!!!」

 

その声を聞いた瞬間、がっくりとうなだれていた糸人形が皆何かに引っ張られるかの様にむっくりと起き上がる。

それと同時にあちこちからぞろぞろと他の糸人形達も姿を現した。

 

「今からお前達は()()()()()を仕留め、ここに連れてくるんだ!決して殺すんじゃないよ……そいつはこの私が直々に仕留めてやる……!」

 

彼女の命を受けた尖兵達は回れ右をするとまるでマリオネットの様なおぼつかない足取りで一斉にぞろぞろと山を下って行った。

 

「首を洗って待っていなさい……人間どもめ……‼︎くっ・はは…アハハハハハハハハハハハハハハハハッ‼︎」

 

辺り一面に針女の狂気に満ちた笑いが響き渡る。

仮面の者は相変わらず黙って見ているだけだったが仮面の奥で一瞬目が赤黒く光ったのを彼女が知る由もなかった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、鬼太郎は山の方を睨みながら今回の事件で捕らえられた人達をどうやって助けるのかを考えていた。

今夜はまんまるお月さんだったのだが先程雲が月を隠してしまい、今辺り一面闇夜に溶け込んでいる。

今回もおそらく激戦になるだろう。それを見越して、猫娘に応援を呼ぶ様頼んだ。今、彼はこの工事の事について考えていた。あの後の話で現場監督は妖怪退治が済んだら工事は再開し、何が何でも完遂する意思を明らかにしたのだ。

元々上からの命令あって工事している事もあってか、彼自身に工事を控えろと言うのは確かに無理がある。

とはいえ、本人も工事を完遂する気でいるのは察しがついた。

お婆さんは此の期に及んでまだそんな事を、と抗議したものの監督は全く取り合おうとはしない。

鬼太郎達も一応念を押して忠告したものの彼は頑として譲らなかった。それどころかこんな事を言いだす始末だった。

 

「悪いが鬼太郎、あんたらが何と言おうがこの工事はやめるつもりはねえ。俺らとて食っていかなきゃならねぇし、何よりも災害を防ぎ、この国を切り開いていく義務があるからな」

 

あまりに頑固な彼にすっかり呆れて、周りは一斉にため息をついたのだった。

だがその一方で彼自身強い義務感と責任感を持っているという事は理解できた。

だからこそ、この件が済んだ後、どうすべきなのか考えてしまう。

 

「確かに彼の言い分も分からんわけではない……じゃが今不要だからといってあんなに強引にせんでものう……」

 

目玉おやじがしみじみとそう言いながら、山の方へと振り返る。

元々そこは樹々が生い茂っていたであろうか。

今彼らの視界に入ったのは樹々がなぎ倒され、崩されたまま放置された状態で佇む森だ。

 

「普通誰にだって長い間住み続けてきたところには愛着が在るもの。何よりもこの世界は人間の都合だけで成り立っているわけではないのに………」

 

鬼太郎もそう呟きながらしばし山を見続けていたその時だった。

不意に誰かが鬼太郎の頬を指で突き、その瞬間バチッ、と静電気が発生した。

考え込んでいたこともあり、鬼太郎は驚いて思わずその場で尻餅をついてしまった。

痛む尻をさすりながら顔を上げるがそこには誰もおらず、ただただ暗闇が広がっているだけだった。

と思いきや辺りに女性の無邪気な笑い声が聞こえる。

不審に思いながら辺りを見回すと今度は肩に手を置かれた。

咄嗟に鬼太郎は飛び退いて距離を取った。

 

「も〜っ、そんな怖い顔しないでよ〜。ほんのちょっとイタズラしただけでしょ♡」

 

女性の声が辺りに聞こえるも、未だ姿を現さない。

鬼太郎は先程の静電気から微かに妖気を感じた事から今自分に近づいてきた者が妖怪であると気づきいていた。

鬼太郎はそのままゆっくりと後ろの方へと向く。

そこには暗い夜の闇が広がっているだけだ。だが鬼太郎はそのまま真っ直ぐ前を見て言った。

 

「僕に何か用でもあるのかい?そこにいるのはわかっている。姿を見せてくれないか?」

 

鬼太郎が穏やかな表情でそう告げたちょうどその時、月が雲から再び顔を出し、その光がその者の姿を照らし出した。

 

「こんばんは、鬼太郎……♡」

 

ほんのりと頬を赤らめながら茶色のショートヘアにゴスロリ系の服装を身に纏った女性がうっとりとしながらこちらを見つめている。

その顔を見た鬼太郎は意外そうに声を上げる。

 

「あれ…?君は確か………妖音さん…だよね……」

「嬉しい♡鬼太郎……私の事覚えていてくれたんだ♡」

 

よほど嬉しかったのか、ぱあっと顔を輝かせる妖音、実はこの二人の出会いは今回初めてでは無く、今から数年前に遡るのである。




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