運命の魔術師   作:兵庫人

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♯01

 この世界には人間以外の、そして人間を遥かに超える力を持った存在が多く存在する。

 

 悪魔、天使、堕天使、ドラゴン、吸血鬼、妖怪等……。少し探せばこれらの存在が住む「世界の裏側」はいたる所にある。

 

 そして人間というのは昔から好奇心が旺盛な種族で、古来からそんな人外の存在の力を学ぼうとする人間は大勢いる。そうして得た超常の力を「魔術」、魔術を使う人間を「魔術師」と言う。

 

 だが大きな力というのは災いを招きやすいもので、魔術を学ぼうとする魔術師は結果的にトラブルの遭遇率が高い。実際魔術師見習いの俺もほんの先日まで、ちょっとしたアクション映画みたいなトラブルに巻き込まれて何とか奇跡的に生き残れたのだ。

 

 しかし……。

 

「はい!? 退学ってどういう事ですか!?」

 

 どうやら俺に起こった不幸はまだ終わっていないらしい。

 

 先程言ったアクション映画みたいなトラブルに生き残った俺は、学校の先生に報告した途端、その先生から退学通知を受けてしまった。

 

【落ち着け。退学とは言っていない。休学しろと言ったんだ。ただし休学の期間は決まっていないがな】

 

 携帯電話から聞き慣れた学校の先生の声が聞こえてくる。

 

 確かに先生は休学と言うが、いつ復学できるか分からない休学なんて退学と同じじゃないか!

 

「一体どうして俺が休学なんですか?」

 

【仕方がないだろう? 今戻ったらお前は確実に実験体にされて、最悪ホルマリン漬けにされるぞ?】

 

「……………!?」

 

 携帯電話の向こう側の先生の淡々とした言葉に俺は思わず絶句した。実験体やホルマリン漬けって……マジで?

 

「な、何故俺がそんな目に……?」

 

【それはお前が「亜種聖杯戦争」の勝利者で「サーヴァント」の契約者だからだ】

 

 亜種聖杯戦争にサーヴァント。

 

 先生が口にしたその単語を聞いて俺は事情を理解した。

 

 聖杯戦争というのは魔術師達が「聖杯」という万能の願望器を手に入れる為の魔術儀式だ。もちろんこの聖杯は聖書に記されている聖杯とは全くの別物で単なる魔力の集合体なのだが、その魔力を使えば世界の因果律を歪めて大抵の願いを叶える事ができるらしい。

 

 元はとある三家の魔術師達が日本で秘密裏で行っていた魔術儀式だったが、数十年前に一人の魔術師がこの儀式のシステムを世界に広めた事で、今や世界中で聖杯戦争がもちろん秘密裏で行われている。

 

 この世界中で行われている聖杯戦争が亜種聖杯戦争。本来の聖杯戦争に比べて規模や聖杯の質は劣るが、それでも聖杯の力は魅力的で亜種聖杯戦争を開催してそれに参加したいと思う魔術師は後を絶たない。

 

 俺が巻き込まれたと言ったトラブルとはこの亜種聖杯戦争だ。

 

 もちろん自分から参加しようと思ったわけじゃない。学校の休みを使った旅行先で偶然亜種聖杯戦争が行われて、どういう偶然かそれの参加者にされてしまったのだ。

 

【いやしかし、あんな燃費の悪いクラスのサーヴァントと契約して亜種聖杯戦争を勝ち抜けるとはな】

 

 携帯電話から先生の呆れているのか感心しているのか分からない口調の声が聞こえてくる。

 

 サーヴァントとは過去の英雄が現代に蘇り使い魔となった存在だ。聖杯戦争に参加した魔術師はこのサーヴァントと契約して、他の魔術師と契約したサーヴァント達と戦い、自分のサーヴァント以外の全てのサーヴァントを倒した魔術師が聖杯戦争の勝利者となる。

 

 当然俺も亜種聖杯戦争が始まってすぐに一騎のサーヴァントと契約した。そしてサーヴァントの彼女と共に戦い、何とか彼女以外のサーヴァントを倒して亜種聖杯戦争の勝利者になったのだった。

 

 そこまでだったら俺は「亜種聖杯戦争を生き残った優秀な魔術師見習い」と見られるだけだったのだが、問題はその後だ。

 

【だが、聖杯の力を使って契約したサーヴァントを自分専用の使い魔にしてしまったのはやり過ぎだ。亜種聖杯戦争で厄介な能力に目覚めた上にサーヴァントと連れ歩いているお前は、他の魔術師達から見れば格好の実験材料だ】

 

「……はい」

 

 携帯電話から聞こえてくる先生の声に反論できず頷く俺。

 

 巻き込まれて亜種聖杯戦争に参加した俺は聖杯の使い道を全く考えておらず、聖杯の入手後ひょんな事で契約していたサーヴァントを聖杯の力で自分の使い魔にしてしまったのだ。

 

 亜種聖杯戦争の勝利者は何人もいるけど、聖杯戦争が終わってもサーヴァントを持ち続けているのは俺くらいなもので、しかも亜種聖杯戦争の最中で目覚めた能力の事も考えると、先生の言う通り俺は魔術師達から見ればこれ以上ない研究材料だろう。そう考えると先生の休学通知は他の魔術師達から俺の身を守る救済措置なのだろう。ありがとうございます、先生。

 

「分かりました。それで俺はどこに行ったらいいんですか?」

 

 先生に休学するように言われた時、俺は学校ではない別の場所に行くようにも言われていたのだが、突然の休学通知に驚いて行き先を聞いていなかった。

 

【お前の出身国の日本の駒王町という町だ。その辺りを管理している悪魔とは話を通してある】

 

 悪魔が日本の町を管理していると先生は言うが俺は驚かなかった。現在、悪魔は日本だけでなく世界中に現れていて裏から統治しているのだが、俺達魔術師達はそれを歓迎している。

 

 俺達魔術師が使う魔術は所謂神秘で、一般人に知られるとそれだけ神秘が薄れて力を失ってしまう。だが存在自体が神秘とも言える悪魔が統治している土地ではその心配はなく、揉め事を起こした時のペナルティは恐ろしいが、魔術師達は悪魔が統治している土地を絶好の研究の地としているのだ。

 

【だが、そこの悪魔に気に入られて眷族にされないように気をつけろよ】

 

 携帯電話から先生の警告の声が聞こえてくる。

 

 悪魔は人間を悪魔に転生させる技術を持っていて、才能や実力がある人間を悪魔に転生させて自分の眷族にすることがある。俺が知っている魔術師の先輩にも、ある日いきなり悪魔の眷族になったっていう人が何人もいる。

 

「大丈夫ですよ。向こうの悪魔も俺なんかには目も向けませんって」

 

【……ふん。どうだかな。「時計塔」に入学して一年程で亜種聖杯戦争に勝利するだけの魔術師だからな、お前は。悪魔に狙われるくらいの才能は充分あるよ。……全く妬ましくなるくらいの才能だよ】

 

 俺が笑いながらそう言うと、先生からかなり本気の嫉妬の言葉をいただきました。

 

 時計塔とは俺が通っているイギリスにある学園で、魔術協会の総本山とも言われている。

 

 俺は中学まで日本の中学校に通っていたが、中学校を卒業すると、知り合いのマッケンジー夫妻を通じて知り合った先生のツテで時計塔に入学した。そして先生の元で魔術を習って一年くらい経った頃に亜種聖杯戦争に巻き込まれたのだ。

 

【まあいい。とにかくお前はまだ十七だろう? いい機会だから普通の高校生活でも送ってゆっくりしたらどうだ? ああ、そうだ。日本についたらゲームを買って送ってくれ。買ってほしいゲームのリストと代金は後日送る】

 

「……分かりました」

 

 最後の辺りが先生らしいなと思いながら俺は電話を切ると、先生の言う通り日本に向かう準備にとりかかった。

 

 ……しかしこの時、俺や先生は駒王町に向かったことでゆっくりするどころか、亜種聖杯戦争なんか目じゃないくらいの激動の日々が始まることに気づいていなかった。

 

 ☆

 

「ここが駒王町か……」

 

 先生から休学通告を受けてから数日後。俺は駒王町に辿り着いたのだが、駒王町についた頃には日がくれかけていた。

 

 思ったより時間がかかったな……。ここを統治している悪魔への挨拶は明日にして、今日はもうホテルにでも行こうかな? いや、でも悪魔は夜が本番だし今行ってても失礼にならないかな?

 

「さて、どうしようかな……っ!?」

 

 これからどうしようか考えながら町の中を歩いていると、突然奇妙な違和感を感じた。これは……術式は分からないけど、効果は間違いなく人払いの結界!

 

 こんな町中で何、大規模な結界を作っているんだよ!

 

 俺は内心で舌打ちすると、慎重に足音を立てないように違和感の元、人払いの結界の中心へと向かう。人払いの結界の中心は噴水がある公園で、そこには二人の男女の姿があった。

 

 男の方は俺と同じくらいの年齢の見るからに普通そうな黒髪の男で、女の方は背中から黒い翼を生やして宙に浮かんでいる際どい衣装を身にまとった女性。……黒い翼ってことはあの女性は堕天使か?

 

 二人の男女は俺に気づいていないようで、男は何がなんだか分からないといった表情で堕天使の女性に質問をしているのだが、堕天使の女性はそれを嘲笑いながら殺気を強めるとやがて右手に魔力を集めて光の槍を作り出した……って! ヤバイ!

 

 堕天使の女性が男に向けて光の槍を投げつけた瞬間、俺は考えるより先に「彼女」の名前を呼んだ。

 

「キャット!」

 

「応さ!」

 

 俺が名前を呼ぶと同時に虚空から姿を表したのは半人半獣の女性だった。

 

 一見すると非常に美しい十代後半ぐらいの美女なのだが、両手両足は獣で、頭には獣の耳が、腰には尻尾が生えている。それでいて服装はメイド服を身にまとっていて、その姿は「ケモミミメイド」という単語がこれ以上なくしっくり来ていた。

 

 このケモミミメイドの名前は「タマモキャット」。

 

 亜種聖杯戦争で俺が契約したサーヴァントで、自称「ブレブレなキャラであることにブレない良妻系サーヴァント」なのだそうだ。……うん。分かっている。何を言っているのか俺にもいまだに分からない。

 

 だがこのタマモキャット。外見も言動もふざけているようにしか思えないが、それでも俺の優秀な相方であることには変わりなく、今も指示も出していないのに俺の意思を察して行動してくれている。

 

 タマモキャットは実体化するや否や、堕天使の女性と彼女に殺されそうになっている男に向かって跳躍すると、堕天使の女性が投げた光の槍に向けてその獣の腕を振るった。

 

「てい☆」

 

「なっ!?」

 

 タマモキャットが振り下ろした獣の腕によって光の槍は粉々に砕けて虚空に消えて、それを見た堕天使の女性が驚愕の表情を浮かべる。……ふう、ギリギリで間に合ったか。

 

「大丈夫か?」

 

「え? ああ……」

 

 俺が殺されかけた男に近づいて声をかけると、その男はしりもちをついて相変わらず何がなんだか分からないといった表情を浮かべながらも返事をしてくれた。

 

「お前達! よくも私の邪魔を! 一体何者だ!」

 

 俺の側にいる男を殺すのに失敗した堕天使の女性が、怒りの表情を浮かべて俺とタマモキャットに怒鳴る。……やれやれ、成り行きとはいえここまできたら覚悟を決めるか。

 

「俺は影木操人。それでこっちはタマモキャット。通りすがりの魔術師とサーヴァントで、今日からこの町に引っ越してきた者だ」

 

「宜しくナ!」

 

 俺とタマモキャットは堕天使の女性に名乗りをあげる。

 

 これがこの駒王町での激動の日々の始まりであった。




……続く?
反応がよかったら続きを書くかもです。
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