運命の魔術師   作:兵庫人

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 何だか面倒な事になったな。

 

 俺は目の前の光景を見てそう思った。

 

 イッセーからの電話を聞いてアイツが言っていた町外れの教会に来てみれば誰もいなくて、魔術でイッセーの気配を辿って教会の地下室に行ってみればそこには何十人もの堕天使の信徒が武装して集まっていて、地下室の一番奥には力無く倒れているシスターを抱きしめているイッセーの姿があって……。タマモキャットの言う通り修羅場だな……ん?

 

 視線を感じてそちらを見ると、どこかで見覚えがある駒王学園の制服を着た金髪の男子生徒と小柄な女子生徒が驚いた顔で俺達を見ていた。あの二人って、イッセーと同じリアスさんの眷族悪魔だよな? それが何で驚いた顔で俺達を見てくるの?

 

「ミサト! アーシアが!」

 

 俺が内心で首を傾げているとシスターを抱きしめているイッセーが、涙を流しながら俺に向けて大きな声を上げてきた。

 

「アーシアがレイナーレに神器を奪われたんだ! このままだとアーシアが死んでしまう!」

 

 ………!? 神器が奪われたってマジかよ?

 

 生まれながら所有者の身に宿る神器は、所有者の魂に深く結び付いている。それを抜き取るというのは言わば体の内臓を強引にえぐり取るのと同意で、よほど念入りに所有者の命の安全を考慮した儀式で行わない限り、神器を奪われた所有者は死んでしまう。

 

 アーシアというのはまず間違いなく今イッセーが抱きしめているシスターのことだろう。神器を奪われた以上、彼女はもって後数分の命しかない。

 

「頼む、ミサト! アーシアを助けてくれ! 俺にできることなら何でもする! だから頼む!」

 

 シスターのアーシアを守るように抱きしめながら涙を流して助けを請うイッセー。

 

 ここまで悪魔らしくない悪魔なんてそうはいないぜ、イッセー? ……全く、仕形がないな。

 

「キャット! 援護を頼む!」

 

「心得た!」

 

 覚悟を決めた俺は自分に身体強化の魔術をかけるとイッセーとアーシアの元へと向かって駆け出した。途中で堕天使の信徒達が俺の行く手を阻もうとするが、それらは全てタマモキャットによって撃退されていく。

 

「イッセー!」

 

「ミサト!」

 

「……ふん。一体誰かと思ったら、あの時の魔術師のガキと獣人じゃない」

 

 俺とタマモキャットがイッセーとアーシアの元に辿り着いたと思ったその時、頭上から不愉快そうな女性が聞こえてきた。

 

 頭上を見上げるとそこには、一ヶ月前にイッセーを殺そうとした堕天使が宙に浮かんでこちらを見下ろしており、彼女の手には神器と思われる強い波動を放つ指輪があった。……恐らくあの堕天使がレイナーレで、あの指輪が奪われたと言うアーシアの神器か。

 

「イッセー君の助けに来たみたいだけどおあいにくさま。アーシアの神器はすでに頂いたわ。その子はもう助からない。貴方達は死にゆくアーシアを見ながら自分達の無力さを噛み締めなさい」

 

「レイナーレ! テメェ!」

 

 アーシアの神器を手に入れたのがよほど嬉しかったのか、こちらに向けて嘲笑を浮かべるレイナーレにイッセーが怒声を上げる。正直俺も直死の魔眼でメッタ刺しにしてやりたいくらい腹が立ったが、今はやるべき事がある。

 

「イッセー。アーシアだっけ? そのシスターの彼女をこっちに貸せ」

 

「え? ああ……」

 

 神器を抜き取られた影響で苦しそうな顔をしているアーシアをイッセーから受けとると、俺は彼女を救うべく自分の神器を呼び出した。

 

『命溢れる竜の心臓』(ドラゴン・ジェネレータ)

 

 俺が神器の名前を呼ぶと胸元にドラゴンの頭部を模した首飾りが現れた。

 

 この首飾りこそが俺の神器。効果は竜の如く強靭な生命力を生み出し所有者へ送る常時発動型のドラゴン系神器だ。

 

 俺達魔術師は生命力を魔力に変換して魔術を使用する。その為、強靭な生命力を生み出すこの「命溢れる竜の心臓」(ドラゴン・ジェネレータ)はイッセーの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に比べ物にならないくらい地味だが魔術師に非常に相性が良く、この神器のお陰で俺はタマモキャットを維持しつつ魔術を制限なく使用できるのだ。

 

 俺が「命溢れる竜の心臓」(ドラゴン・ジェネレータ)から生み出される生命力をアーシアに送ると、先程から苦しそうにしていた彼女の呼吸が穏やかになった。

 

「彼女に俺の神器から生命力を送っている。これですぐに死ぬことはないはずだ」

 

「本当か、ミサト!」

 

「ふふっ。だけどそんなの焼け石に水でしかないわよ」

 

 俺が説明するとイッセーは希望を見つけた表情となるが、上空からレイナーレの馬鹿にするような声が降ってきた。

 

「確かにそれだと彼女はすぐに死なないけど、所詮はその場しのぎ。もって三十分くらいしかもたないんじゃない?」

 

「ああ。そうだろうな」

 

 俺はレイナーレの言葉に同意する。確かにあの堕天使の言う通り、今俺がやっているのは単なるその場しのぎでしかなく、アーシアの命は三十分しかもたないだろう。だが……。

 

「だけどな……その三十分の間にお前からアーシアの神器を取り戻して彼女に戻せば命も助かるよな?」

 

「……何ですって?」

 

 俺の言葉にさっきまで勝ち誇った笑みを浮かべていたレイナーレが不機嫌そうな表情な表情となり、怒りの視線を向けてきた。

 

「今、何て言ったの? 下等な人間の分際で……!」

 

「お前を倒してアーシアの神器を奪い返すって言ったんだよ。……キャット!」

 

「応さ! 手羽先よ、今宵こそは逃さぬぞ……さあ、狩りの時間である」

 

 レイナーレにそう答えてから俺がタマモキャットに声をかけると、タマモキャットは獣のような笑みを浮かべて戦闘体勢をとる。彼女の言う通り、今回は逃さないぞ。




命溢れる竜の心臓(ドラゴン・ジェネレータ)
 影木操人に宿っている常時発動型のドラゴン系神器。
 体の中に宿っている通常状態では1ターン毎に「神器の熟練Lv×100」の生命力が回復して、
 体の外に出した完全起動状態では1ターン毎に「神器の熟練Lv×200」の生命力が回復する。
 ちなみに現在の影木操人の熟練Lvは「18」。
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