「魔術師? それにサーヴァント? ……ふん! 下等な人間の魔術師とそれに契約した汚らわしい妖怪風情がよくも私の邪魔を!」
黒い翼の女性、堕天使はサーヴァントという単語を聞いて一瞬怪訝な表情をするが、すぐに怒りの表情となって俺達を見てくる。
サーヴァントの存在を知らなくてタマモキャットの正体に気づかない、か……。どうやらこの堕天使の女性は堕天使の中でも下位、末端もいいところだろう。これなら俺達でも倒せそうだし、倒しても大した問題にはならないだろうな。
「キャット。魔力を回す、好きに暴れろ」
「よかろう」
サーヴァントであるタマモキャットは、その身体能力を十全に使うのにマスターである俺の魔力を必要とする。堕天使の女性と戦う事に決めた俺は自分の魔力をタマモキャットに送る。すると俺の右手の甲に刻まれた四角形の痣が赤く輝く。
俺の右手の甲に刻まれた四角形の痣は「令呪」という聖杯戦争の時に聖杯から与えられるサーヴァントとの契約の証であり、三回だけサーヴァントに強制命令を出せる使い捨ての魔術回路である。俺の令呪は元は影木家の家紋と同じ三重の四角形だったが、亜種聖杯戦争で二回令呪を使ったので、今は単なる四角形となっている。
「手が光っている……!」
「な、何だその紋章は!?」
黒髪の男と堕天使の女性が俺の令呪を見て驚く。しかし……。
「なぁ、堕天使さん? 俺にばかり気をとられていていいのか?」
「何? どういうこと……あの妖怪はっ!?」
俺の言葉に堕天使の女性は、令呪の輝きに気をとられている間にさっきまで俺の側にいたタマモキャットの姿が消えている事に気づくがもう遅い。タマモキャットは宙に浮かんでいる堕天使の女性の更に上空に飛んでおり、今まさにその無防備な背中に獣の腕を振り下ろそうとしていた。
「ぶっ血KILL!」
「っ! ぎゃああああっ!?」
タマモキャットに背中を切り裂かれ堕天使の女性は悲鳴をあげて地面にと墜落する。
それにしても随分とあっけなかったな。堕天使や悪魔には、自分達こそが最も優れていて他の種族は下等な存在だと信じて疑わない者が多いと聞くが、どうやらあの堕天使の女性はその典型的な例のようだ。
しかしそんな慢心を持った状態で勝てるほどタマモキャットは弱くない。
「う、うう……! どうして高貴な堕天使の私が……。『神器』(セイクリッドギア)の所有者を排除するか、神器を抜き出すだけの簡単な作業のはずだったのに……」
地面に倒れた堕天使の女性が呻き声と共に怨嗟の声を漏らす。
それにしても神器、ね……。成る程、あの見るからに普通な黒髪の男が堕天使の女性に狙われた理由が分かったよ。
「ふむ。今日の夕食は手羽先で決定であるかな?」
堕天使の女性を見下ろしながら何やら変なことを言い出すタマモキャット。
手羽先って、まさか堕天使の女性の翼を調理する気か? そんなの食べたくはないぞ……て?
「ま、待ってくれ! 夕麻ちゃんをどうする気なんだ!?」
今までしりもちをついていた黒髪の男が立ち上がってタマモキャットに声をかける。夕麻ちゃんって、あの堕天使の女性のことか?
「どうするもなにも、このカラス女はご主人とキャットの敵であるからして、倒した後はご主人とキャットの糧となるのが決定事項なのである。これも弱肉強食の掟なのだな。ニャンマンダブ、ニャンマンダブ」
「何も殺さなくても……!」
「そこまでにしなよ。君はあの堕天使の女性に殺されかけたんだぞ?」
両腕の肉球を合わせて奇妙な念仏を唱えるタマモキャットにいい募ろうとした黒髪の男を止める。自分を殺そうとした相手を心配するだなんてコイツって、現状を理解できていないのか? それともよほどのお人好しなのか?
「だけど! ……え?」
黒髪の男は俺に何かを言おうとしたが急に動きを止める。その視線を俺を見ておらず、彼の視線の先を見てみると、空中に真紅に輝く魔法陣を浮かんでいた。
あれは悪魔が移動の際に使う転移用魔法陣か?
「……くっ!」
俺達が空中に現れた魔法陣に気を取られた隙をついて堕天使の女性が空を飛んで逃げ出した。
しまった。油断した。
「逃げたか……。すまぬご主人、せっかくの手羽先を逃してしまった」
「いや、気にしなくていいから」
心から残念そうに言うタマモキャットに俺はそう言った。というか本気で堕天使の翼を調理する気だったのか? キャットよ。
そんな事を話していると魔法陣から一人の人影が現れて俺達の前に降り立った。現れたのは真紅の髪をした非常に整った容姿の美女で、黒髪の男は彼女の姿を見て驚いた顔となる。
「り、リアス先輩!? 何で空中からって言うか魔法陣から出てきて!?」
真紅の髪の女性のことを知っているのか黒髪の男が彼女の名前を口にする。
それにしてもリアス? リアスってもしかして……。
「そこの貴方。見たところ魔術師のようだけど、私の領地で勝手な真似はしないでくれないかしら?」
黒髪の男にリアス先輩と呼ばれた真紅の髪の女性が俺に厳しい視線を向けてくる。
あ、あれ? もしかして俺って、この騒ぎを起こした犯人に思われている?
「ま、待ってくださいリアス先輩。そいつとそこのケモミミお姉さんは夕麻ちゃんから俺を助けてくれたんですよ」
どう説明しようかと考えていると黒髪の男が説明してくれて、それを聞いて真紅の髪の女性の俺達に向ける視線が柔らかくなる。
「あら、そうだったの? ごめんなさい、勘違いだったみたいね」
「いえ、気にしないでください。あの、貴女は……」
「待って。詳しい話をする前に落ち着いて話ができる場所に行きましょう」
俺が話しかけようとすると真紅の髪の女性がそれを遮って地面に先程よりも大きな転移用魔法陣を描く。そして次の瞬間、俺とタマモキャット、真紅の髪の女性と黒髪の男は見覚えのない木造の建物の部屋に転移したのだった。
☆
「どうぞ」
木造の建物、黒髪の男が言うには駒王町にある駒王学園の旧校舎に転移させられた俺達は、何故か旧校舎にある応接間に案内されて今は黒髪をポニーテールにした女学生から紅茶を出されていた。
「ありがとうございます。……美味しい」
「うむうむ。結構なお手前で」
黒髪をポニーテールにした女学生が淹れてくれた紅茶はとても美味しくて、プロ級の料理の腕を持つタマモキャットも納得するものだった。
「そう。貴方がミサト・カゲキだったのね。私はリアス・グレモリー。この辺りを統治している者よ」
俺達が紅茶を飲んでいると真紅の髪の女性、リアスさんが自己紹介をしてくれた。
「貴方のことはロード・エルメロイから「二世です」聞いて……え?」
俺は先生の名前を呼ぶリアスさんの言葉に割り込んで言った。
「だから二世ですよ。ロード・エルメロイ二世。先生は二世を抜いてその名前を呼ばれる事を嫌っているので、先生の名前を呼ぶ時は二世をつけるのを忘れないでください」
人が話しているのに割り込むのは失礼だと思うが、これは先生がいつも言っていることなので弟子の俺としては言っておかねばならなかった。
「そう、分かったわ。改めて貴方のことはロード・エルメロイ二世から聞いているわ。ここに暮らすうちは貴方の安全を保障するわ」
「ありがとうございます」
「うむ。感謝するゾ」
リアスさんの言葉に俺とタマモキャットは頭を下げて礼を言った。
よかった。これで俺達もしばらくは安全かな。
「気にしないで。私の方も貴方のような優秀な魔術師が来てくれたのは誇らしわ」
「俺が? 俺はそんなに優秀じゃないですよ」
リアスさんの言葉に俺は首を横に振る。
前に先生も俺のことを優秀だと言ってくれたけど、俺は自分のことを優秀だと思った事はない。俺が所属していた先生の教室には俺よりもずっと優秀な人が大勢いるのだから。
「謙遜しなくてもいいのよ。なにせ貴方はあの『神霊聖杯戦争』の優勝者なのだから」
俺の言葉にリアスさんは笑みを浮かべながらそう返してきた。
神霊聖杯戦争? 何ですか、それ? 俺が参加したのは亜種聖杯戦争ですよ?
俺が首を傾げているとリアスさんが説明してくれた。
「貴方が参加した亜種聖杯戦争は今はそう呼ばれているのよ。あの亜種聖杯戦争に参加したのは神の化身、神の子、神の代弁者、現人神と神に関係する英霊ばかりだった。
インドの二大叙事詩『ラーマーヤナ』のラーマ。
同じくインドの二大叙事詩『マハーバーラタ』のアルジュナ。
北欧の戦乙女の一柱ブリュンヒルデ。
元は土着の地母神であったギリシャ神話のメデューサ。
古代エジプトの歴史で最も魔術に通じているとされるファラオ、ニトクリス。
そして貴方のタマモキャット。
恐らくは今まで行われた中で最大の規模の亜種聖杯戦争。それを勝ち抜いた貴方は魔術師だけでなく『私達』も少し注目しているのよ?」
リアスさんは「私達」の部分を強調して言うと俺を興味深そうな目で見てきた。
「ねぇ? 異色の陰陽師にして人形師、ミサト・カゲキ君?」
どうやらリアスさんは俺の事を色々と調査済みのようだ。……何だか、少しイヤな予感がしてきたんだけど気のせいだよね?