「あ、あの~」
俺とリアスさんが話をしていると、それまで無言であった黒髪の男が恐る恐るといった風に手を上げてきた。
「あら? 貴方は確かうちの学校の兵藤一誠君だったかしら? どうしたの?」
リアスさんに名前を呼ばれた黒髪の男、兵藤一誠は「え? 何で俺の名前を?」と軽く驚いた後、ためらいがちに質問を口にした。
「その……何だか色々ありすぎて何から聞いたらいいか分からないですけど……。まずリアス先輩達って、何者なんですか?」
兵藤の質問は理解できる。何しろ堕天使に殺されかけて、そこを魔術師の俺とサーヴァントのタマモキャットに助けられて(実際に助けたのはタマモキャットだけなのだが)、その直後にリアスさんが現れたかと思うと公園からこの旧校舎に転移して……。普通の人だったら質の悪い夢だと思うだろうし、俺を含めてリアスさん達を何者だと疑問に思うだろう。
「そうね……。兵藤一誠君、単刀直入に言うわ。私は悪魔なの」
兵藤に何者かと聞かれたリアスさんはあっさりと自分の正体を話した。
そうリアスさんは悪魔で、先生が話を通したという悪魔というのは彼女だったりする。ソロモン七十二の悪魔の一柱「グレモリー」の一族で、この辺りの土地の管理を実家から任されているそうだ。
「………え?」
自分の事を悪魔だと言うリアスさんの言葉に、兵藤が呆けた表情となる。
まあ、普通だったらそういう反応になるよな。
「ま、待ってください。リアス先輩がオカルト研究部の部長なのは知っていますけど、だからってリアス先輩が悪魔って……」
信じられないって顔をする兵藤だったが、それに対してリアスは静かに立ち上がり悪魔の証である蝙蝠の翼を出現させて広げてみせた。
「な……!?」
「ふむ、蝙蝠の翼か。そう言えば異国には蝙蝠の肉を使ったカレー料理があると聞いたのだが今晩はカレーでよいか,ご主人?」
リアスさんの悪魔の翼を見て絶句する兵藤の横でタマモキャットが物騒な事を言ってきたが全力で無視する事にした。
「……あの、リアス先輩が悪魔で今まで起こった事が全部本当だとして、何で俺は夕麻ちゃんに殺されそうになったんですか?」
兵藤も今までの出来事が現実であると本当は気づいていたが、リアスさんの翼が決定打となって現実を受け入れると、あの公園で堕天使の女性に殺されかけた理由を聞く。
「そうね……。私も何で貴方が堕天使に狙われたのか「神器ですよ」……え?」
俺がリアスさんの言葉に割り込んで言うと、リアスさんと兵藤の二人が俺の方を見てきた。
「ミサト君? 一体どういうこと?」
「あの駄天使の女性が言っていたんですよ。神器の所有者を殺すか、神器を抜き取るだけの簡単な作業だって」
リアスさんの言葉に俺は答えた。
神器とは遥か昔に「聖書の神」が創造したとされる所有者に超常の力を授ける存在である。過去、歴史に名を残した偉人の多くがこの神器をその身に宿していたらしく、神器の中には神や悪魔、堕天使の世界を脅かすものもあるらしい。
そしてこの神器は俺達魔術師にとっても非常に重要なものである。
神器とは言ってみれば決して色あせず失われない神秘だ。神器の所有者は神器を所有しているというだけで、本来の実力が低くても家系の歴史が浅くても、魔術師の世界で一目置かれる存在とされる。
だからこそ俺も、たとえ先生からの協力があったとはいえ、中学を卒業してすぐに時計塔に入学できたという訳だ。
「そう……。兵藤君が神器の所有者……なるほどね」
「え? あの……。お、おい。そのセイク……何とかって何なんだよ?」
俺の言葉に何かを考え出すリアスさんを見て兵藤が俺に質問をしてきた。
「
「魔術や超能力? それって本当かよ?」
「本当だって。手から炎を出したり、一度行った場所に移動したり……神器はその種類によって効果は違うけど、使い方次第ではどれも大きな力になる」
「っ!? じゃ、じゃあハーレムを作る神器っていうのもあるのか!?」
俺の説明を聞いて兵藤が目の色を変えて聞いてきたがハーレムって……。
「何というか清々しいくらい色欲にまみれた坊主なのだな」
タマモキャットが何故か感心した顔で兵藤を見る。確かにここまで欲望に忠実な奴も珍しいな。
「そうだな……。精神を操作したり異性を魅了する神器とかだったらハーレムくらい余裕で作れるんじゃないか?」
「おおっ!? な、なあ! 俺の中にもその神器があるって言っていたけど、それってどうやって出すんだ!?」
とりあえず俺が質問に答えると興奮した兵藤が顔を近づけて聞いてきた。「むむっ! まさかの衆道であるのか?」という寝言を無視してリアスさんを横目で見ると、彼女は興味深そうな笑みを浮かべて頷いてみせた。
……俺が教えろってことね。
「兵藤。お前の中で最強の存在ってなんだ?」
「え? えーと……ドラグ・ソボールの空孫悟かな?」
俺の質問に兵藤は少し考えてから答える。
ドラグ・ソボール……あの昔の漫画か。懐かしいな。俺も昔は再放送のアニメをよく見て、ガンドで空孫悟の必殺技「ドラゴン波」の真似事をやったな。
「神器は所有者の強い心に応える。自分の神器を目覚めさせる手っ取り早い方法の一つは、自分の中にある最強の存在を全身全霊で表現することだ。……そうだな。ここで全力のドラゴン波でもやってみたらどうだ?」
「ここで!? それはちょっと「面白そうね。兵藤君、やってみせて」……ええっ!?」
俺の言葉に兵藤は反論しようとするがそれをリアスさんが肯定する。戸惑う兵藤だったが自分を見てくるリアスさんの笑顔に諦めたような表情となって頷いた。
「分かりましたよ。……これが俺のドラゴン波だぁ!」
リアスさんの笑顔に勝てなかった兵藤は椅子から立ち上がると、俺の助言に従って全力のドラゴン波を行なった。すると次の瞬間、兵藤の左腕が光輝き甲の部分に緑色の宝玉が埋め込まれた赤の手甲に覆われた。
あれが兵藤の神器か……。手甲から竜の気配が感じられるけど、あれって
竜の手というのは所有者の力を倍化させる神器の中でもありきたりなもので、時計塔でも何人か「竜の手」の所有者の魔術師を見たことがある。
堕天使の女性に狙われるくらいだから珍しい神器を持っていると思っていたので、俺が内心でがっかりしていると、タマモキャットが兵藤の神器を目を細めて見て意味深に呟いた。
「この懐かしくも忌ま忌ましい匂い……。
『『……っ!?』』
「え? 何?」
タマモキャットの言葉に俺とリアスさんは驚きで目を見開き、ただ一人事情を把握していない兵藤が呆けた表情となる。