「ブ、『赤龍帝の籠手』ァ! それって本当なのか、キャット!? 『竜の手』じゃなくて?」
「
驚く俺の言葉にタマモキャットは自信ありげに頷いて答える。彼女がこう言い切る以上、兵藤の神器は間違いなく「赤龍帝の籠手」なのだろう。
「「………」」
兵藤の神器が「赤龍帝の籠手」だと分かって俺は思わず息をのみ、リアスさんも真剣な顔となって兵藤を見る。するとこの中で唯一「赤龍帝の籠手」の重要さを理解していない兵藤が俺に質問してくる。
「な、何だよ? そのブーステッドとかトゥワイスとかって? これってそんなに凄い物なのか?」
自分の神器でありながらその価値に全く気づいていない兵藤の質問に、俺は自分の考えをまとめる意味も兼ねて答えることにした。
「『竜の手』というのは所有者の力を倍加させる神器で、神器の中ではありふれた物だ。俺も前に『竜の手』の所有者を何人か見たことがある。
だけど『赤龍帝の籠手』は別だ。『赤龍帝の籠手』はいくつもある神器の中でも十三種しかない非常に強力な神器の一つで、その十三種の神器は極めた者は神をも滅ぼす力を得られることから
そして『赤龍帝の籠手』の能力は発動してから十秒毎に所有者の力を倍加させるというもの。例えば発動させてすぐに使えば力を二倍に、発動させて十秒してから使えば二かける二で四倍に、更に十秒してから使えば八倍にといった感じだ」
「ただしその『赤龍帝の籠手』はまだ完全に目覚めていないようで、今はまだ『竜の手』と同程度の力しか発揮できないようだがナ」
俺が時計塔の資料で知った「竜の手」と「赤龍帝の籠手」の情報を兵藤に説明すると、そこにタマモキャットが一言加える。しかし兵藤はタマモキャットの言葉があまり耳に入っていないのか、興奮した表情で自分の左腕にある神器を見る。
「うおおっ!? そ、そんなに凄い代物なのか、コレ!?」
「ふふっ、そうね♪ そんな凄い神器の所有者と神霊聖杯戦争の優勝者が揃って私の前にいるなんて凄い幸運よね♪」
左腕の「赤龍帝の籠手」を見ながら子供のようにはしゃいでいる兵藤をタマモキャットと一緒に眺めていると、突然笑いをこらえきれないといった感じの声が聞こえてきた。イヤな予感がしつつも声がした方を見るとそこには、声の主であるリアスさんが獲物を見定めた肉食獣のような笑みを浮かべてこちらを見ていた。
敵意は感じられないが凄く恐い……! というかこれって、もしかして俺もリアスさんのターゲットになっていないか?
「……? そう言えばさっきもリアス先輩が言っていたけど、シンレーセーハイセンソーって何なんだ?」
俺がリアスさんの笑顔に危険を感じて何とか話題をそらそうと考えていたら、兵藤が神霊聖杯戦争について聞いてきた。
よし! ナイスだ、兵藤!
「神霊聖杯戦争は俺が参加した異種聖杯戦争のことだよ。そして聖杯戦争っていうのは、複数の魔術師がサーヴァント……使い魔として現代に甦った英霊を召喚して、互いのサーヴァントを戦い合わせるバトルロイヤルみたいなものだ。それでその時俺が召喚したサーヴァントがここにいるタマモキャット」
「よろしくナ!」
話題をそらしてくれた兵藤に感謝しつつ俺が聖杯戦争について説明をすると、名前を呼ばれたタマモキャットが兵藤に挨拶をする。
「あっ、ハイ。どうも……。そ、それでその聖杯戦争とかに優勝すると何かあるのか?」
タマモキャットに挨拶を返してから聞いてくる兵藤に俺は頷いて答える。
「もちろんだ。聖杯戦争の優勝者には聖杯という万能の願望器が与えられてどんな願いでも叶える事ができるんだ」
「マジで!? じゃあ、ハーレムを作るって願いも叶うのか!?」
どんな願いでも叶うと聞いて兵藤がまた興奮した表情で顔を近づけてきた。
……兵藤の奴、本当にコレばっかりだな。
「……ああ。聖杯は貯蔵した魔力で世界の因果律を歪めて願いを叶える。だから兵藤、お前を何をしても女性にモテる魅力あふれる男にすることも簡単にできるだろうさ」
「スッゲェ! 聖杯戦争マジでスッゲェ! 俺も聖杯戦争に参加した「止めとけ」……い?」
気づけば俺は、聖杯戦争に参加したいと言い出した兵藤の言葉を、自分でも驚くくらい冷たい声で遮っていた。
「兵藤。聖杯戦争は試合でもスポーツでもない。正真正銘の戦争、殺し合いだ。さっき俺は聖杯戦争は召喚したサーヴァント同士を戦い合わせると言ったけど、サーヴァントを無力化させる方法には『サーヴァントのマスターである魔術師を殺す』という方法もあるんだ。
事実、俺が参加した神霊聖杯戦争は俺を含めて六人の魔術師が参加していたが、生き残ったのは俺ともう一人の魔術師の二人だけ。他の四人は敵の魔術師かサーヴァントに殺されたんだ。
……兵藤。お前がハーレムに強い情熱を持っているのは分かったけど、それは他の人達と殺し合ってまで叶えたい願いなのか?」
「そ、それは……」
パン! パン!
俺の言葉に兵藤が言葉に詰まっていると、軽い何かを叩くような音が聞こえてきた。音が聞こえてきた方を見ると、そこには手を叩くリアスさんの姿があった。
「まあまあ、ミサト君も落ち着きなさい。兵藤君も悪気があった訳じゃないんだから。……それにそろそろ今日のところは話はここまでにしましょう。二人とも詳しい話はまた今度という事で」
「え? あ、はい」
「……分かりました」
リアスさんの言葉に逆らえるはずもなく俺も兵藤も頷き、この彼女の言葉でこの場は終了となった。
☆
「………」
「………」
駒王学園からの帰り道。俺とタマモキャット、そして兵藤は一緒になって歩いていた。
「……なぁ? お前って、ホテルに泊まるんだろう? 道、逆だぜ?」
道を歩いていると兵藤が話しかけてきた。
兵藤の言う通り、俺とタマモキャットが泊まる予定のホテルは全くの逆方向で、その事は俺も分かっているのだが……。
「別にいいだろ? ホテルに行く前に街で買い物がしたかったんだ」
買い物というのは嘘だ。俺がホテルとは逆方向まで行って兵藤と一緒に行動を共にしたのには理由がある。
「そうかよ。……なぁ」
「何だ?」
「その……公園では夕麻ちゃんから助けてくれてありがとうな。そういえば自己紹介をしていなかったよな? 俺は兵藤一誠。イッセーって呼んでくれ」
兵藤……いや、イッセーは俺達(というかタマモキャット)が公園で堕天使から助けた事の礼を言ってから自己紹介をしてきた。
そういえば俺達も自己紹介をしていなかったな。
「俺の名前は影木操人。ミサトでいいよ。それでこっちは……」
「キャットはタマモキャットなのだな。よろしく頼むぞ」
「ああ。二人ともよろしくな……て」
イッセーはそこまで言うと言葉を止め、ある方向を見た。イッセーの視線の先にあったのは彼が堕天使の女性に殺されかけた公園で、イッセーはゆっくりとした足取りで公園に入っていく。
「おい、イッセー?」
俺がイッセーに話しかけると、イッセーは公園の噴水を見ながら一人呟くように話し出した。
「俺、あの時夕麻ちゃん……えっと、堕天使だっけ? 堕天使の女の子とデートしていたんだ。最初はとっても可愛い女の子だったんだけど、でもこの噴水の所でいきなりあの姿になって俺を殺そうとしてきたんだ。夕麻ちゃんは俺のことが好きだって言ってくれて、俺はそれが凄く嬉しくて……でもそれが俺を殺して神器を奪うための芝居だったなんて……。正直、事情を聞かされてもワケ分からねぇよ……!」
「イッセー……っ!?」
辛そうに言うイッセーに俺が何かを言おうとしたその時、公園を人払いの結界が包んだ。
「な、何だこれは……羽根?」
イッセーも異変を感じたようで周囲を見ていると空から無数の黒い羽根が降ってきた。空を見ると二人の背中から黒い翼を生やした人影が浮かんでいた。
「むむっ! 手羽先の仲間であるか?」
タマモキャットも気づいたようだ。この状況で、しかも黒い羽根となるとあの人影はやっぱり堕天使……!
堕天使と思われる二人の人影は男と女があり、男の方が俺達を見て口を開く。
「あれがレイナーレ様が言っていた神器の所有者と、その抹殺を邪魔した者達か」
「今度は二人がかりでイッセーを殺しに来たってことか……!」
二人の堕天使から感じる殺気に俺は自分の予感が正しかった事を確信する。あの執念深そうな堕天使の女性がイッセーを殺し損ねてそのままにしておくはずがないものな……。
「っ!? まさかミサト、キャットさん? お前達、俺を守る為に……!」
イッセーが何かに気づいたような顔になって俺とタマモキャットを見てきたが、別にそんなんじゃない。ただ、せっかく助けた命がその日の内にまた殺されるのは、自分のした事が無駄に終わるみたいで嫌だっただけだ。
「カラワーナ。お前はあの獣人を始末しろ。私はあの魔術師を始末する。神器の所有者はその後でゆっくりと始末すればいい」
「分かった」
「む? キャットをご指名か?」
カラワーナと呼ばれた女の堕天使は、男の堕天使に頷いてみせるとタマモキャットに殺気を込めた視線を向け、タマモキャットの方も女の堕天使の視線を受けて臨戦体勢を取る。
それにしても簡単に始末始末と言ってくれるけど、俺もタマモキャットも甘く見られたものだ……。流石にちょっとムカついてきたな。
「キャット、女の堕天使は任せたぞ。イッセーは安全な場所に下がっていろ」
俺はタマモキャットとイッセーに指示を出すと、荷物から黒い外套と白い人形を取り出して、外套を羽織り人形を地面に置いた。すると地面に置いた白い人形はすぐ様大きくなり、大人程の大きさの白い武者甲冑となる。
「これは……!?」
男の堕天使が俺が作り出した白い武者甲冑を見て驚いた顔となる。
「少しは驚いたか? これが俺の魔術『陰陽主従』だ」
俺は驚いた顔をする男の堕天使に自らの魔術名を名乗った。
さあ、戦闘開始だ。
主人公の強化の為に#01の文章を一部変更しました。