「これは傀儡か……。フン。だがそれなら操り手を狙えば……何!?」
俺が出した白い武者甲冑を見て男の堕天使は鼻で笑ってから俺に狙いを定めようとしたが、すぐにその顔を驚愕に変える。
「あの魔術師の小僧がいない!? 一体何処に?」
男の堕天使は「白い武者甲冑のすぐ側」にいる俺の姿を見失っていて周囲を見渡している。
そう、今の男の堕天使は白い武者甲冑しか見えておらず俺の姿は見えていないのだ。俺が今使っているのはそういう魔術なのだから。
俺の家は、俺で四代目になる少し変わった陰陽道を伝える魔術師の家系だ。
陰陽道というのは、星空や地脈を読み吉凶を占うことで、事前に結界などの災いを防ぐ手段を講じる魔術である。そして俺の家の陰陽道は、その災いに「外敵からの認識」も含まれると考えて、隠密性に優れた結界を得意とするものであった。
俺が今使っている魔術はその実家の陰陽道をベースにして先生からのアドバイスを元に、人形術や己の穢れを人形に移す「撫物」の呪法、世界各地にある身代り人形の魔術、果てには日本の伝統芸能である人形劇の「黒子」の概念を加えて完成させた魔術だ。
この黒い外套の魔術礼装を羽織り一定の距離で白い武者甲冑を操っている間、敵の認識という災いは全て白い武者甲冑に集り、俺は敵に見つかることはない。
主人である魔術師は陰の中に隠れ、従者である傀儡は陽の中で囮になる。
故に「陰陽主従」。
「魔術師よ! 何処にいる……っ!?」
俺は白い武者甲冑を操作して、俺を探している男の堕天使に斬りかからせた。白い武者甲冑の刀は男の堕天使の右脚を斬り裂き、鮮血が宙を舞う。
白い武者甲冑の刀は魔術で強化しているとはいえ、元は何の銘もないただの刀だ。それで手傷を負わせられるって事は、あの男の堕天使もイッセーを殺そうとした堕天使の女性と同じ下級のようだ。……だったら俺でも充分勝ち目があるな。
「ぐうっ!? 木偶人形風情が……! だったらコイツから!」
右脚を斬られた男の堕天使は、俺が操作する白い武者甲冑に狙いを定めると、右手に光の槍を作り出して突撃をする。
ああ、そうだ。それが正解だ。白い武者甲冑を破壊すれば陰陽主従の効果は失われ、男の堕天使は俺の姿を捉える事ができるだろう。
……でもな、堕天使さん? 白い武者甲冑に集中してがら空きになったその背中を俺が見逃すと思っているのか?
俺は懐からナイフを取り出すと男の堕天使に意識を集中した。すると男の堕天使の全身に不気味な黒い線と点が浮かび上がる。
男の堕天使だけじゃない。地面にも、公園の噴水にも、離れた場所で俺達の様子を見ているイッセーの体にも、俺の手足にも。
形あるもの全てに不気味な黒い線と点が浮かび上がって「世界がひび割れる」。
一瞬気が遠くなりそうなくらい気分が悪くなるが、それでも俺は気を強くもって白い武者甲冑を操作すると、男の堕天使が突き出した光の槍を刀で受け止めて相手の動きを止めた。
「ちぃっ! 木偶人形ごときが調子にのる……がっ!?」
白い武者甲冑が刀で光の槍を受け止めて男の堕天使が動きを止めた瞬間、俺は男の堕天使の背中、翼の付け根辺りにある黒い点にナイフを突き立てた。するとナイフは全く抵抗なく男の堕天使の背中に突き刺さり、男の堕天使は一瞬で絶命すると黒い砂となって散っていった。
これで俺の方は終わり。さてタマモキャットの方は……。
「巫女と言ったがあれは嘘だ!」
「ギャアアアッ!」
タマモキャットの方を見てみると、よく分からない発言と共に放たれたタマモキャットの拳(?)によってカラワーナと呼ばれていた女性の堕天使が派手に吹き飛びされていた。カラワーナという名の堕天使は四度五度と地面をバウンドしてからようやく止まり、その姿はボロボロで辛うじて生きているものの、戦う力は残っていないようだ。
しかしキャット、お前いつ自分を巫女と言ったんだ? ……そう言えば神霊聖杯戦争で召喚したばかりの時、巫女みたいな着物を着ていたかな?
「す、スゲェ……。ミサトもキャットさんも……あれは?」
もう安全だと思ってイッセーが出てくると、地面に魔法陣が出現してそこから数人の人影が現れた。その内の一人はリアスさんで、他には俺達にお茶を入れてくれた黒髪の女性に爽やかな表情の俺とイッセーと同い年くらいの男子生徒、それに銀髪で小柄な女子生徒もいた。
「お疲れ様、ミサト君。堕天使を倒してくれてありがとうね」
まるで見ていたかのように堕天使を倒したことに礼を言うリアスさん。これってやっぱり……。
「リアスさんもイッセーの様子を見ていたんですね?」
俺達と同じようにリアスさんもイッセーが堕天使に狙われていることを理解していたようだ。だからイッセーを監視して万が一の事があればすぐに現れるように備えていたのだろう。
でも堕天使が現れてもすぐにやって来ず、戦いが終わった後でこうして出てきたってことは……。
「堕天使が出てきた時はすぐに顔を見せようとしたんだけど、せっかくだから貴方達の力を見せてもらったわ」
やっぱりか……。
悪びれることなく言うリアスさんの言葉に俺はため息を吐いた。
「そうですか……。それで? 俺とキャットの戦いはお気に召しましたか?」
「ええ、そうね。お陰で面白いものが見れたわ。タマモキャットさんの戦いぶりも凄かったけど……それが噂の『直死の魔眼』なのね」
リアスさんが俺の目を指差して言う。
直死の魔眼。
それが先程、男の堕天使を殺すのに使った能力であり、俺が神霊聖杯戦争で目覚めた力だった。
直死の魔眼というのは物体が内包している「死」を「線」と「点」で視認する事ができ、この線をなぞり点を突けばどのような存在も殺す事ができるという、世界で最も希少とされている魔眼だ。
元々俺は生まれながらの魔眼持ちだったが、最初俺の魔眼は直死の魔眼ではなく、霊などこの世のものでは無いものを見るという能力しかなかった。しかし神霊聖杯戦争でサーヴァントの戦いに巻き込まれ、文字通り死ぬような思いを何度もしたせいか、俺の魔眼は「死」を見る能力を得て直死の魔眼となったのだった。
「サーヴァントのタマモキャットさんに傀儡を使った戦闘魔術の陰陽主従、そして直死の魔眼……。ふふっ。兵藤君だけじゃなく貴方にも興味が出てきたわ」
そう言うとリアスさんは学校で見せたのと同じ肉食獣のような笑みを俺とイッセーに向けた。
どうやら俺、本格的にリアスさんにロックオンされたようだ……。