運命の魔術師   作:兵庫人

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♯07

「俺が支取会長の眷族に……ですか」

 

 俺は支取会長の言葉を呟いた。

 

 眷族というのは上級とされる悪魔に忠誠を誓うことによって悪魔に転生した人間で、眷族悪魔や転生悪魔とも言う。

 

 悪魔は永い時を生きる代わりに子供を産める確率は非常に低く、その上大昔にあった悪魔と天使と堕天使の三竦みの戦争によって純血の悪魔はその数を大きく減らした。このままでは種の存続を保てなくなった悪魔は人間を悪魔に転生させる技術を編み出し、有能だと思った人間を悪魔にする事で人材を確保すると同時に種の数を増やす事にしたのだ。

 

 そして今、俺は支取会長の眷族にスカウトされようとしていた。

 

「あの……支取会長? 俺は支取会長の眷族に相応しくないと思いますよ?」

 

 魔術師にとって悪魔の眷族になるのは非常に魅力的な事だ。

 

 全ての魔術師達の悲願、根源の渦。そこに到達するには長い研究と研鑽が必要で、その為には人間の理性を保ったまま永い時を生きられるようになる眷族の体は理想的であった。

 

 だから魔術師の多くは悪魔の眷族になる事を望み、悪魔の眷族となる為ならそれこそ山のような財宝を積んでもいいと言う魔術師だって珍しくない。そう考えると支取会長に眷族にならないかと誘われている俺はこれ以上なく幸運なのだろう。

 

 しかし俺は自分が支取会長が求めているような人材だとはとても思えなかった。だから幸運が目の前に現れても喜ぶより先に戸惑った俺がそう答えると、支取会長は面白そうな顔をして俺を見てきた。

 

「あら? 謙遜もすぎれば嫌味になりますよ? 私から見て貴方はとても興味深い人材ですよ。陰陽師であり人形師、神霊聖杯戦争の優勝者であり英霊を使い魔にした魔術師。そして直死の魔眼と『神器』の所有者でもある」

 

「………!?」

 

 支取会長の言葉に俺は思わず息をのんだ。

 

 直死の魔眼だけでなく神器の事まで知っているだなんて、どれだけ俺の事を調べているんだよ?

 

「えっ!? こいつも神器の所有者……って、直死の魔眼?」

 

 首を傾げる匙に支取会長が直死の魔眼の説明をする。

 

「直死の魔眼というのはあらゆるものを殺すことができると言われているこの世で最も希少な魔眼です」

 

「ええ~……。嘘くせぇ……」

 

「匙、貴方は……」

 

 直死の魔眼の説明を聞いてあからさまに胡散臭そうな表情をする匙に、支取会長はため息を吐いてから横目で俺を見てくる。

 

 ああ、これは直死の魔眼の力を見せろってことですね。まあ、支取会長にはこれからもお世話になるかもしれないんだし、それぐらいならいいか……。

 

「支取会長。できるだけ頑丈で壊してもいいものと、できるだけ鈍な刃物を用意してくれませんか?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

 支取会長は俺に頷くとペーパーナイフを差し出し、魔術で俺の背丈程ある氷柱を作り出した。

 

「私は水の魔術を得意としていて、その氷の柱は下手な金属よりも強固です」

 

「そうですか……」

 

 俺は支取会長の言葉にそれだけ答えると目に意識を集中させて直死の魔眼を発動させる。そうして氷柱に浮かび上がった「死」の線を支取会長から受け取ったペーパーナイフでなぞると氷柱は簡単に斬り裂かれて、それを見ていた匙を初めとする生徒会メンバーが驚愕の表情を浮かべる。

 

「う、嘘だろ……! 会長の氷がただのペーパーナイフで?」

 

 信じられないっといった顔で言う匙の言葉を聞きながら俺は氷柱に浮かび上がっている「死」にペーパーナイフを突き刺す。すると氷柱は魔力となって霧散して、それを見ていた支取会長が小さく拍手をしてくれた。

 

「お見事。ペーパーナイフを魔術で強化したわけでもなく、特別な技術を使ったわけでもないのに私の氷を簡単に切るなんて……。やはり貴方の直死の魔眼は本物のようですね。今頃リアス達は兵藤一誠君をスカウトしているでしょうし、私としては何としても貴方を眷族にしたいところですね」

 

 俺が直死の魔眼の力で氷柱を切り裂くのを見て、支取会長が笑みを更に強くして俺に視線を向けてくる。

 

 それにしてもイッセーの方は今リアスさんのスカウトを受けているのか。でも考えてみればそれもそうだよな。せっかく見つけた「赤龍帝の籠手」の所有者を見逃すはずがないものな。

 

「兵藤一誠? リアス先輩があの変態トリオの一人をスカウト? 一体どうしてですか?」

 

 支取会長の言葉を聞いて匙が信じられないといった表情となって支取会長に質問する。見れば彼だけでなく他の生徒会メンバーも似たような表情をしていた。

 

「なぁ、匙? イッセーが変態トリオの一人ってどういうことだ?」

 

「ん? ……ああ、そうか。影木は転入生だから知らないんだな。兵藤一誠はな、この駒王学園で知らない奴がいないくらいの変態なんだよ」

 

 匙の話によると、イッセーは元浜と松田という生徒と一緒に常日頃から「モテたい」とか「ハーレムを作りたい」とか言っており、それなのに女子のクラスメートが見ている前でエロ本やアダルトDVDの交換会をやったりして、挙げ句の果てには女子生徒の着替えの覗きの常習犯だったりするらしい。そのせいかイッセー達の名前は駒王学園だけでなく周辺の人達にも悪名として知れ渡っており、元は女子校で女子生徒の比率が高いこの学園で彼ら三人の人気は当然ながら最底辺なのだそうだ。

 

 ……何をやっているんだよ、イッセー?

 

「やはりあの坊主、清々しい程に性欲にまみれていたのだな」

 

 匙の話を聞いてタマモキャットが納得したように頷く。どうやら彼女の人を見る目は確かだったようだ。

 

「そういえばイッセーの奴、昨日も神器や聖杯戦争の説明をしている時、『ハーレムを作れる神器はないのか?』とか『聖杯の力を使ったらハーレムができるのか?』とか聞いてきたな」

 

「マジかよ。本当にしょうがねぇな、アイツはよ……」

 

 俺が昨日のイッセーの会話を思い出して言うと、匙は呆れたような顔になってため息を吐いた。するとそれまで黙って俺達の会話を聞いていた支取会長が匙に話しかけた。

 

「匙。兵藤一誠君は伝説の神滅具の一つ、赤龍帝の籠手の所有者なのですよ」

 

「はあぁっ!? あ、あんな奴が赤龍帝の籠手の所有者ぁ!?」

 

 神滅具と赤龍帝の籠手の事は知っていたらしい匙は、支取会長からイッセーが赤龍帝の籠手の所有者だと聞かされるとオーバーリアクションで驚く。

 

 ……うん。その気持ちは痛いくらいに分かる。でも事実なんだよね。

 

「匙。どんなに認めがたいことでもそれが事実です。……それで影木君? 私の眷族になりませんか?」

 

 支取会長は匙に現実を突きつけると、再び俺に眷族にならないかと聞いてきた。

 

 これは千載一遇の好機なのだろう。

 

 神霊聖杯戦争の時は仕方がなかったとはいえ根源の渦へ至る機会をふいにしてしまった。聖杯の力なくして根源の渦へ至るには永い時間をかけて研究と研鑽を重ねるしかない。

 

 だから支取会長の言葉は非常に魅力的で、正直すぐに頷いてしまいそうになったが、この町に来る前に先生に「眷族にされないように気をつけろ」と言われたことを思い出した。あの時の先生の言葉の意味を思い出して俺は結論を出した。

 

「すみません、支取会長。その眷族の話……お断りします」

 

「おい! せっかく会長が誘ってくれているのに何が不満なんだよ!」

 

 俺が支取会長のスカウトを断ると、怒った匙が詰め寄ってきたので、俺は断った理由を説明することにした。

 

「別に不満がある訳じゃない。これは俺の『起源』の問題なんだ」

 

「起源?」

 

 首を傾げる匙に俺は頷く。

 

「起源というのはあらゆる存在が持つ本質だ。全ての人間はこの起源を元にして人格を作り、存在意義を持つと言われている。

 そして魔術師の場合、この起源は使う魔術に大きな関係があるんだ。自分の起源が関係している魔術は修得もいいし相性も当然いい。だが起源が強く表に出ている魔術師は、通常の魔術とは相性が悪いが、起源に関係する魔術に特化した専門家になりやすい。

 ……ここまではいいか?」

 

「お、おう。何とか……」

 

 俺が起源について説明すると匙は額に汗を流しながらも頷く。支取会長も俺の話を聞いて興味深そうな顔をしていた。

 

「そ、それでその起源と会長の話を断ったのと一体どんな関係があるんだよ?」

 

「それも今から説明する。俺の起源は『人』。俺の場合それほど強く起源が表に出ていないから通常の魔術も問題なく使えるけど、それ以上に自分の体を初めとする人のカタチをしたものを操作したり操ったりする魔術の方が得意だ」

 

 この起源があるから俺の両親は「人」の魔術を操る者という意味で「操人」という名前を与えてくれて、先生も人形を使った魔術の陰陽主従を教えてくれた。……そしてあの神霊聖杯戦争で、聖杯が空けたあの穴の中にいた「アレ」とも目がマトモに合っても人としての理性を保っていられるのもこの起源のお陰だろう。

 

「それで悪魔に転生したとして、その時俺が悪魔になった自分を『人とは根本から違うモノ』と認識したら、自分の起源を自ら否定したとして何が起こるか分からないんだ。人格とか変調するくらいならいいんだけど、最悪修得した魔術が使えなくなるかもしれない……それだけは絶対に避けたい」

 

「人格がイカれるのがマシなのかよ……?」

 

 何故か匙が冷や汗を流しながらこちらを見てくるが、俺はそれに構わず言葉を続ける。

 

「だから俺はそう簡単に悪魔に転生できないんだよ。……悪いな」

 

「……そういうことなら仕方がありませんね」

 

 匙に小さく頭を下げて謝る俺に声をかけてきたのは支取会長だった。

 

「魔術師にとって魔術とは己の命よりも重いものだと聞いています。それを奪ってまで貴方を眷族にしようとは思いません。今の話は私からリアスに伝えておきましょう。そうすれば彼女も無理に貴方を眷族にしようとはしないはずです」

 

「ありがとうございます、支取会長」

 

「うむ。感謝するゾ」

 

 こちらの事情を理解してスカウトを諦めてくれた支取会長に俺とタマモキャットは礼を言って生徒会での会話はこれで終わった。

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