運命の魔術師   作:兵庫人

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♯08

 駒王町に引っ越してから二週間の月日が経った。

 

 駒王学園に転入した俺は二年のB組となってそこはイッセーと同じクラスだった。そしてイッセーはやはりというかリアスさんのスカウトをうけて彼女の眷族、転生悪魔になったらしい。

 

 転生悪魔になったと言ったイッセーは「悪魔になったからには美少女の眷族を沢山つくってハーレム王になる!」とスケベ心丸出しの顔で言っていたが、コイツってばハーレムが目的で悪魔になったのか? ……まぁ、本人がいいんならそれでもいいけど。

 

 そして駒王町で住む場所も決まった。俺とタマモキャットが住むことになったのは日暮荘という二階建てのアパートの近くにある一軒家だ。

 

 日暮荘に住んでいる人達な皆いい人達ですぐに知り合いになれたのだがちょっと変わっていて、この一週間の間は特に騒がしかった。

 

 

『僕はゼルが最強だと思うがね!』

 

『直撃世代をナメるなよ!』

 

「む? この声は森下か? 一体何を騒いでおるのだ?」

 

「ドラグ・ソボールマニアの友人でも訪ねてきたんじゃないか?」

 

 森下さん、普段は物静かでいい人なんだけど、ドラグ・ソボールが関わると人が変わるんだよな……。

 

 

『ミルたんを魔法少女にしてほしいにょ!』

 

「この咆哮はネコ耳トロールのものであるな」

 

「それ、本人の前で言うなよ? ミルたんな? ミルたん」

 

 どうせ怪しげな商品を売りにきたセールスマンの言葉にミルたんが反応したんだろう。確か先週も似たような事があったよな?

 

 

『うわっ! あー! あー! あー!』

 

 ブン! ブン!

 

「この悲鳴に何かを振り回す音……スーザンさんか? また害虫Gでも出て刀でも振り回しているのか?」

 

「うむ。以前、キャットが害虫Gを駆除したら結構な業物の小太刀を献上してくれたゾ」

 

 スーザンさん、日本文化に憧れて留学してきたって言っていたけど、あの人が持っている刀や甲冑ってかなりの年代物なんだよな? スーザンさん、どこで手に入れているんだ?

 

 

 そんな騒がしい一週間が終わったと思った日の夜。家に帰るとポストに一枚のチラシが入っていた。そのチラシには「貴方の願いを叶えます」という怪しげな一文の他に見覚えがあるマークが記されていた。

 

「このマーク……悪魔が使う転移用の魔法陣? それでこの紋章はグレモリー?」

 

 転移用の魔法陣の中心に描かれていたのは、リアスさんの実家であるグレモリー家の紋章であった。

 

 魔法陣が記されているチラシを見て俺は、最近の人間は命をかけてまで悪魔を呼び出して願いを叶えてもらおうとしないので、今では悪魔の方から転移用の魔法陣を記したチラシを配って人間と契約を結んでいるという話を思い出した。……何というか、悪魔にも色々あるんだ。

 

「あれ? そういえばアレってどうなったんだ?」

 

「アレ? ご主人、アレとは何だ?」

 

「一ヶ月前の堕天使だよ」

 

 グレモリー家の紋章を見て思い出したのは一ヶ月前、この町に引っ越してきた時の二度目の堕天使との戦い。あの時俺達は二人の堕天使と戦い、一人は俺が殺してもう一人はタマモキャットに倒されて戦闘不能になったところをリアスさんが連れていった。

 

 あの後、堕天使がどうなったのか。そしてイッセーを殺そうとした堕天使はまだこの町にいるのか気になった俺は、詳しい事情をリアスさんに聞いてみようと思った。

 

「ご主人? そのチラシを使うのか?」

 

「ああ、リアスさん達に詳しい話を聞いてみる」

 

 俺はタマモキャットに答えるとリアスさん、あるいはリアスさんの眷族を呼び出すべく転移用の魔法陣が記されたチラシを使用した。俺の呼び出す意思に反応してチラシに記された転移用の魔方陣が紅い輝きを放つ。

 

 ……しかし転移用の魔法陣は十数秒間紅い輝きを放つとやがて輝きを失ってしまった。

 

「どうした、ご主人? 失敗であるか?」

 

「いや、転移用の魔法陣は確かに起動したんだけど……?」

 

 辺りを見回してみたが、部屋には俺とタマモキャットだけで、リアスさんやリアスさんの眷族の姿はない。一体どうなっているんだ?

 

「まあ、失敗したなら失敗したでよいではないか。それよりご主人、そろそろ夕食にするゾ。今日の夕食はキャット特製麻婆豆腐である。気絶する程の辛さ、痺れる程の酸味、そしてそれを包み込む旨味を堪能するとよい」

 

 転移用の魔法陣が起動したのに誰も現れない事に首を傾げていた俺だったが、気を取り直すとタマモキャットの作ってくれた夕食を食べる事にした。タマモキャットが作ってくれた麻婆豆腐は、彼女が言う通り非常に美味であった。

 

 

 ガン。ガン。

 

 俺とタマモキャットが麻婆豆腐を食べていると誰かがドアをノックしてきた。

 

 一体誰だ? こんな時間に?

 

『ちわーっス。グレモリーの眷族の者なんですけどー』

 

「「………」」

 

 ドアの向こうから聞こえてきた声に俺とタマモキャットは思わず顔を見合わせた。

 

 ……この聞き覚えのある声ってアイツだよな?

 

「遅れてすみません……って! ミサト!? お前何でこんな所にいるんだよ?」

 

 ドアを開いた先にいたのは予想通りイッセーで、イッセーは俺を見て驚いた顔をする。

 

「何でって、ここは俺の家だぞ? イッセーこそどうしてここに……て、そういえばお前もリアスさんの眷族だったな」

 

 なるほど。だからリアスさん、グレモリーの眷族であるイッセーが俺の呼びかけでここにやって来たわけか。

 

 それは理解した。だけど……。

 

「でもどうしてこんなに時間がかかったんだ? 普通、チラシの魔法陣を使ってすぐに転移してくるんじゃないのか?」

 

「うるせぇよ! 俺だって夜中にチャリ飛ばすより、悪魔らしく魔法陣で転移したかったよ! ウワアアアン!」

 

 俺は至極まともな疑問を口にしたつもりだったのだが、何故かイッセーは俺の言葉に怒りを露にしてその場で泣き出してしまった。……いや、本当に何事?

 

 

 その後、俺とタマモキャットはイッセーに麻婆豆腐を分けて落ち着かせて事情を聞いてみることにした。

 

 食事をしながら聞いた話をまとめてみると、悪魔になって美少女の眷族を集めようと意気込んでいたイッセーだったが、眷族を持てるのは上級悪魔だけで転生したばかりのイッセーは下級悪魔。上級悪魔になるのに一番確実な方法は、多くの人間の願いを叶えて契約を結ぶことなんだけど、イッセーは失敗続きでまだ誰とも契約を結べていないそうだ。

 

 しかもこれは悪魔になってから分かったことなのだが、イッセーは通常の下級悪魔に比べても特別魔力が低くて転移用の魔法陣もまともに起動できず、チラシで呼び出されたら自転車で依頼人の所に向かっているのだとか。

 

 ……話を聞けば聞くほどイッセーも大変だよな。

 

 女性にモテたくて女子生徒が多い駒王学園に入学したのに、その言動のせいで女子生徒達にモテるどころか毛虫のごとく嫌われて?

 

 ようやく彼女ができたかと思ったら、その彼女はイッセーの神器を命ごと狙って近づいてきた堕天使のハニートラップで?

 

 悪魔に転生したら美少女の眷族を集めてハーレムを作れると思ったけど、いざ悪魔に転生したら下級悪魔からのスタートで眷族を持てるようになるのは上級悪魔に昇格する必要があって?

 

 トドメには赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)という神滅具(ロンギヌス)の一つを所有していてもまだろくに使いこなせない上に、魔力を初めとする悪魔としての才能が皆無で上級悪魔への道は限りなく険しい、と……。

 

 何て言うか散々だな。イッセーの奴、悲惨ってレベルじゃないぞ?

 

 悪魔の実態や仕事をろくにリアスさんに聞かず転生してしまったイッセーの自業自得だと言えばそれまでだが、悪魔になればすぐにハーレムを作れると思っていたイッセーにしてみれば詐欺にでもあった気分なのだろう。

 

「「………」」

 

「おい、二人とも。何で俺をそんな憐れむような目でみるんだよ?」

 

 気がつけば俺とタマモキャットは優しい目でイッセーを見ており、その視線にイッセーが反応する。

 

「気のせいだろ? 気にするな」

 

「そうか? ……それで二人が俺を呼び出した用件って何だ?」

 

 イッセーが自分を呼び出した用件を聞いてくる。

 

「ああ、そうだった。忘れていた。俺がイッセー……というかリアスさんの眷族を呼ぼうと思ったのは堕天使の件だよ。ほら、俺達とお前が初めて会った日に襲ってきたあの堕天使だよ」

 

「っ! ……夕麻ちゃんのことか?」

 

 俺の口から堕天使という単語が出てイッセーの顔色が変わる。

 

「あの日、タマモキャットが倒した堕天使はリアスさんが連れていっただろ? あの堕天使がどうなったとか、イッセーを殺そうとした堕天使が今どうしているとか詳しい話を聞きたかったんだよ。イッセーは何か聞いていないか?」

 

「……いや、知らない。俺も一度リアス部長に聞いたんだけど、部長達は堕天使の事は自分達が何とかするから俺は気にしなくてもいいと言って、何も教えてくれなかったんだ」

 

 俺の質問にイッセーは首を横に振って知らないと答えるが、俺はそれをある意味当然だと思った。

 

 イッセーはよくも悪くも純粋で一直線な性格なのはこの短い間で理解できた。もし彼が演技だったとはいえ自分の元彼女であった堕天使の事を知ったら、すぐに彼女の元へ行ってしまうだろう。

 

 そう考えるとリアスさん達がイッセーに堕天使の事を知らせず、関わらせないのも仕方がないことだと言える。

 

 しかしそうか。イッセーは堕天使の情報を持っていないのか。だったら……。

 

「なあ、イッセー? 堕天使の情報を知らないのだったら、別の情報をくれないか?」

 

「別の情報? 一体何だよ?」

 

 俺は訝しげな表情を浮かべるイッセーの左腕を指差した。

 

「お前の神器、赤龍帝の籠手の情報だ。世界に十三しかない貴重な神滅具の一つ。俺だけじゃなくて俺の先生も興味を持っているから調べさせてほしいんだよ。悪い話じゃないと思うぞ? お前は契約が取れる上に自分の神器の事が分かって、俺も貴重な神滅具のデータが取れる。報酬はその時の情報を記録したレポートと俺が作ったマジックアイテムでどうだ?」

 

「………!?」

 

 俺の提案にイッセーはまるで雷に打たれたような顔となって無言となった。一体どうしたんだ?

 

「イッセー?」

 

「……なあ、ミサト? それって俺と契約をしてくれるってことか?」

 

「? そうだけど?」

 

「……」

 

 ようやく口を開いたと思ったイッセーだったが、俺の言葉を聞いて再び黙ってしまう。本当にどうしたんだ?

 

 俺とタマモキャットが一体どうしたのかとイッセーを見ていると、イッセーはゆっくりと立ち上がって天井を見た。

 

「ぶ、部長ぉーーー! 俺! 俺、ついに契約をとれましたーーーーー!!」

 

 突然天井に向かって叫ぶイッセー。この時のイッセーは泣いていた。それは一つの事を成し遂げた男の熱い涙であった。

 

 そこまで契約をとれたのが嬉しかったのか? イッセー?

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