運命の魔術師   作:兵庫人

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#09

 イッセーと悪魔の契約を結んでから二週間が経った。

 

 この駒王町に引っ越してからもう一ヶ月になるが、この町はいい町だと思う。町には色々な施設も揃っているし、近所の人達やクラスメイトもいい人ばかりだ。

 

 駒王町に引っ越す前は神霊聖杯戦争なんて一生で経験する苦難や不幸を十倍にして圧縮したような経験をした為、引っ越し当時に先生に言われた通りしばらくはこの町でゆっくりしようと思っていたのだが、どうやら俺はトラブルに好まれやすい体質なのか最近周囲がきな臭くなっている。

 

 事の始まりは一週間。イッセーが「他者の傷を癒す」という神器を持つシスターを町外れにある教会に案内したという事だ。

 

 駒王町の一般の人達は知らないだろうが、引っ越しした時に先生からもらった資料によると町外れの教会は今でこそ廃墟となっているが、元は「悪魔祓い」や「代行者」と呼ばれる異教徒や人外の者達を排除する教会の戦士達の前線基地だったのだ。そんな所に神器持ちのシスターがやって来たと聞いて俺が怪しいと思っていると案の定、その数日後にイッセーが教会から袂を分かった「はぐれ」と呼ばれる悪魔祓いに襲われて重傷を負い、教会に案内したシスターはそのはぐれ悪魔祓いの仲間であった。

 

 幸いイッセーは仲間の救援が間に合って助かりリアスさんのお陰で傷を治してもらったのだが、昨日街中で一ヶ月に彼を殺そうとしたレイナーレという堕天使に再会して再び重傷を負ったという連絡を受けた。

 

 何というか最近死にそうになってばかりじゃないか、イッセー? ……流石にこれ以上は何も起こらないよな?

 

「あのドラゴンの小僧の事が気になるのか、ご主人?」

 

 俺がイッセーの事を考えていると横からタマモキャットが話しかけてきた。

 

「……そうだな。少し気になっているな」

 

「ふむ。魔術師とは本来条理の外側に生きる者。根源の渦に至るという目的の為ならば何をしても気にも止めないという外道の類いと聞いていたのだが、ご主人は随分と仲間思いで普通の学生に見えるのだな」

 

 隠すことでもないし俺が正直に自分の気持ちを言うとタマモキャットが俺の顔を興味深そうに見ながら言う。彼女の言う通り、魔術師とは本来外道の類いだ。自らの研究の為ならば友人どころか実の親や子を実験材料にする者だって珍しくはない。

 

 そんな魔術師から見れば俺は変わり者で魔術師に向かない性格なのだろうが、そんな事は自分が一番分かっている。

 

「かもしれないな。先生からも俺はフラット先輩の次くらいに魔術師らしくないと言われているよ。……変か」

 

「うむ。変だな」

 

 俺がタマモキャットに聞くと即答されて少し落ち込んだ。だけどその直後にタマモキャットは「だが」と言って口を開く。

 

「しかしご主人? 覚えているか? ご主人が神霊聖杯戦争に参加するきっかけとなった事を」

 

「え? ああ」

 

 ここで何故神霊聖杯戦争の話になるんだと思いながら俺はタマモキャットに頷いてみせる。

 

 俺が神霊聖杯戦争に参加したのはいくつもの偶然が重なった結果だった。

 

 偶然、日本に帰国した際に先生からも新発売のゲームを買うように頼まれて、そのゲームの発売場所で一人の少女と出会い、

 

 偶然、出会った少女が神霊聖杯戦争に参加するマスター候補で、

 

 偶然、マスター候補の少女がサーヴァントを召喚した直後に爆弾で殺されることが他のマスター達に仕組まれている事を知って、

 

 偶然、自分が殺されようとしていることを悟ったマスター候補の少女に「助けて」と涙混じりに助けを求められて、

 

 結果、俺はマスター候補の少女を助けて、彼女の代わりにタマモキャットを召喚してマスターとなり、神霊聖杯戦争に参加する事になった。

 

「ご主人はあの時、マスター候補であった少女を助け、神霊聖杯戦争に参加した事に後悔しているのであるか?」

 

「いや、後悔はしていないな」

 

 タマモキャットの言葉に俺はすぐに答えられた。確かに神霊聖杯戦争に参加した事で俺は比喩でもなんでもなく数回死にかけたが、あの時あの少女を助けた事に後悔はしていなかった。

 

 俺がそう答えるとタマモキャットは笑みを浮かべて頷いた。

 

「他者を思いやり己の力を振るうご主人は魔術師らしくはないだろう。だがキャットはそんな魔術師らしくなくて優しいご主人のことが好きだゾ」

 

「あー……。それはどうもありがとう……」

 

 笑みを浮かべながら言うタマモキャットに俺はそう答える事しかできなかった。なんと言うか、そんな真っ正面から好意を伝えられると対応に困るんだけど……。

 

 俺がタマモキャットの顔を直視できずに顔をそらすのと同時に携帯の呼び出し音がなった。俺が携帯を手にとって通信を入れると、携帯から聞こえてきたのは先程まで話題に上がっていたイッセー本人の声だった。

 

【ミサト! アーシアがレイナーレに拐われたんだ! 頼む! アーシアを助けるのに力を貸してくれ!】

 

「落ち着け、イッセー。アーシアって誰だよ? 最初から説明してくれ」

 

 とりあえずイッセーを落ち着かせて話を聞いてみると事情は次の通りだった。

 

 まずアーシアというのはイッセーが教会に案内したという神器持ちのシスターのことらしい。そして彼がレイナーレに重傷を負わされた時、そこにはアーシアも側にいたそうだ。

 

 イッセーがアーシアに聞いた話によると、彼女は元々教会で「聖女」と呼ばれていた存在だったのだが一人の傷を負った悪魔を神器で治療したことにより教会を追放されたらしく、行き場をなくしたアーシアはほとんど騙された形でレイナーレ達堕天使に拾われたらしい。そしてレイナーレ達の正体を知ったアーシアはレイナーレの元から逃げ出してその先でイッセーと再会したのだが、結果として彼女は連れ戻しに来たレイナーレに捕まってアーシアを助けようとしたイッセーは返り討ちにあって重傷を負った。

 

 リアスさんのお陰で何とか怪我が回復したイッセーは、リアスさん達にアーシアを助けてもらうように頼むがそれはできないと言われ、それならば一人でもアーシアを助けようと決意して今に至るという訳だ。

 

 イッセーはレイナーレがアーシアを町外れの教会に連れ去ったことを俺に伝えると「頼むぜ! 待ってるからな!」と一方的に言って携帯を切った。

 

「全くイッセーの奴、俺を何だと思っているんだ?」

 

「それでどうするのだ、ご主人?」

 

 タマモキャットに聞かれて俺は少し考えてから自分の考えを口にした。

 

「……そうだな。俺はーー」

 

 ☆

 

「頼むぜ! 待ってるからな!」

 

 アーシアが拐われた教会へ向かいながら携帯で話をしていた俺、イッセーこと兵藤一誠はそれだけ言うと携帯を切った。話をしていたのは一ヶ月前に知り合った友人のミサトだ。

 

 ミサトは神霊聖杯戦争に優勝した凄い魔術師で、キャットさんと言う強力なサーヴァントも側にいる。リアス部長にアーシアを助けてほしいと頼んだが断られた時、ミサト達の顔が頭に浮かび上がった。あいつらが力を貸してくれればアーシアもきっと助けられるはずだ。

 

「兵藤君。今話していたのって君が契約している魔術師の彼かい?」

 

 俺に話しかけてきたのは俺と同学年で駒王学園でも有名なイケメン、木場祐斗だ。こいつも俺と同じリアス部長の眷族悪魔で、アーシアを助けるのに手を貸してくれていた。

 

「ああ、そうだよ」

 

「……兵藤君。その彼は信用できるのかい?」

 

 俺が答えると木場はいきなり訳の分からないことを言ってきた。

 

「どう言うことだよ」

 

「……魔術師とは本来非情な人達です」

 

 俺の言葉に答えたのは木場ではなく、木場の隣にいる子柄の美少女。彼女の名前は塔城子猫ちゃん。俺の一つ下の一年生で駒王学園のマスコットキャラ。彼女もリアス部長の眷族悪魔で木場と同様にアーシアを助けるのに力を貸してくれていた。

 

 子猫ちゃんの言葉に木場が頷く。

 

「そう、魔術師は基本的に自分の利益の為にしか動かない。そんな魔術師の彼が見ず知らずのアーシアさんの救出に手を貸してくれるとは僕には思えないんだ」

 

「………! そんな訳ないだろ!」

 

 木場と子猫ちゃんの言葉に俺は思わず声を荒らげた。

 

「兵藤君。でも……」

 

「ミサトは初めて会った時、俺を助けてくれたんだ! それにこの一ヶ月ずっと話をしてきたけど、あいつは凄くいい奴なんだ。そんな自分の事しか考えない冷たい奴なんかじゃない!」

 

 俺はそう叫ぶと、ミサトとキャットさんは後で必ず来ると信じて町外れにある教会へと走り出した。

 

 そうだ。俺は一刻も早くアーシアを助けに行かないといけないんだ!

 

 

 それから俺達は町外れにある教会へと辿り着いた。教会に着いた途端、以前俺に重傷を負わせたフリードというイカれた白髪のはぐれ悪魔祓いとの戦闘になったが、それに何とか勝利するとアーシアがいる教会の地下にある儀式場へと向かった。

 

 しかし俺達が儀式場に着いた時にはアーシアはレイナーレに神器を奪い取られていた。レイナーレの目的は最初からアーシアの神器だったらしく、神器を奪われた人間はすぐに死んでしまうとレイナーレの口から教えられた。

 

 ちくしょう! せっかくここまで来たのにアーシアを助けられないのかよ!

 

 俺が神器を奪われて死にかけているアーシアを抱きしめて自分の無力さに歯噛みしていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「おお、これは中々の修羅場であるな」

 

「全く……自分から死地に向かうだなんて何を考えているんだよ、イッセー? とりあえず簡単に説明してくれないか?」

 

 ……………!?

 

 聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには魔術師の友人とそのサーヴァントである魅力的なケモミミメイドの姿があった。

 

「ミサト! キャットさん!」

 

「「キャット(Yes)」」

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