好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された 作:小賢しいバドミントン
酷い誤字でも……気づかないもんやなって……
それと書き溜めと見直しするので次の更新は6・7話くらい溜めてからになります。
一応今三話ストックあるんで、そんな遅れんやろ(旗)
更新しない間にサブタイトルが味気ないので変えていこうかな~と
「嘘、でしょ」
「勝ちやがった、デンマークの代表と、大学生に」
「す、凄い!凄いよあやのん!バッサー!」
「あやのん?」
「バッサーって、俺ですか?」
コートから出た刹那、なぎさを除く北小町の面々が二人を祝福した。
元々
しかも対戦相手の一人はあのコニーというのが拍車をかけていた。
周りからの向けられる笑顔と称賛に、綾乃はパァァと黄色い一輪の花のような明るい笑顔を浮かべ、嬉しそうにほんのりと赤く染まった頬を緩める。
弦羽早もまた嬉しそうに笑顔で返しつつも、チラリと対戦相手のコートを眺める。
反対のコートはこちらとは真逆でどんよりと湿った空気が流れており、大磯がコニーに謝っていた。
「ごめん、俺のせいで…」
「…嘘でもそんな事言わないで。負けたのは私達よ」
ダブルス、それも初めて会うパートナーだとか、ミックスダブルスだからとか、このスコアはそんな言い訳が通じる結果ではなかったし、コニー自身自分のプレイが完璧であるものとは到底思えなかった。まったく越えることができない綾乃の前衛と、崩すことができない弦羽早の後衛。
その二人にコニーはチームとしても、個人としても完膚なきまでに負けたのだ。
「…最後まで付き合ってくれてありがと」
綾乃に怯え、惨めなスコアになりながらも最後まで試合を続けてくれた大磯に礼を告げると、コニーは自分のバッグを持って体育館を去った。
「ずいぶん私の後輩を苛めてくれたようだな?」
「し、志波姫先輩…」
相変わらず綺麗なようなあくどい様な、弦羽早の苦手な笑みを浮かべながら、部員達に囲まれる綾乃を見守っていた弦羽早の隣へ中学時代のかつての先輩が寄る。
「また強くなったわね。もうシングルでは勝つのは厳しそうだ」
「できれば一生やりたくないですね」
中学一年の時に何度も味わった屈辱――というより楽しくない試合が脳裏をよぎる。
この志波姫は人の嫌がらせをすることに関しては、弦羽早は誰よりも天才的だと評価している。相手の得意なことは徹底的にさせず、じわじわと微弱な毒が巡るように弱らせていくのが彼女のプレイスタイルだ。
あの時の弦羽早は貪欲で、女バドの選手からも技術を盗もうと、志波姫にアドバイスに行ったのが全ての間違いだった。そこから面白そうな子だと目を付けられ、スマホの中の綾乃の大量の写真を見られたことからこの上下関係が続いている。
弦羽早の嫌味に対し、志波姫はまたもニヤリと笑みを浮かべる。
「あれ、どうした?さっきまでの口調とは随分違うんじゃない? デンマークの代表とやらをいっちょ揉んでやろうぜ? だっけ。と~ってもカッコよかったよ」
「ぬあああ!止めて下さい!」
勝つきっかけになったとはいえ、小学校時代の自分の口調を、中学生特有の病気からようやく脱出できた今になって再現するのは、中々恥を忍んでの行動だった。
膝を抱えるようにしゃがみ込む弦羽早の頭を愉快そうに笑いながら、ポンポンと慰めるように彼の頭に手を置く。
「だからあなたのいる前でああいう事やりたくなかったんですよ!」
「いや~、懐かしいな。入学した時もまだあんな感じだったねぇ」
「……北小町に来て良かった」
宮城に在中していたら合同練習も兼ねて今以上に彼女と顔を合わせていただろう。
弦羽早にとってはまさに悪夢であった。
それから日が落ちるまでの間、合同練習は続いた。
大学生メンバーは各々自宅に帰り、合宿メンバーは近くの旅館に泊まる事となっている。
皆思いは一緒で、まず何よりも汗を流すことを優先して温泉に入ったあと、フレ女のメンバーも交えて宴会場で夕食を過ごす。
大学生がいなくなったことで圧倒的な男女差となり、男子三人は端っこで仲良く今日の合宿について語り合っていた。もっとも学は頷くか首を振るかで、ほとんど弦羽早と行輝が話していたが。
「そこで決まったと思ったんだけど――」
「弦羽早」
男子三人は女子より先に早々に食べ終え、お茶を啜りながら行輝の試合の反省会をやっているところへ、一人の少女が割って入る。
「クリステンセン?」
美人は何を着ても似合うというのは本当らしい。学校指定の体操服という味気ない格好のはずだが、彼女が着ると他の生徒とは別の服に見える。学校のパンフレットにでも乗せたら今以上にフレ女への入学希望者が増えるに違いない。志波姫を始め他の生徒達も整った顔立ちが多いが、彼女はその中でも群を抜いて綺麗過ぎるのだ。
間近で見るコニーに行輝は顔を赤らめ、弦羽早も彼女の美貌に感心するように息を吐く。唯一無反応なのはやはり学だった。
「コニーでいい」
「うん、じゃあコニー、どうしたんだい?一緒に混合ダブルスの反省会でもする?」
「や、優しい口調の癖にいい性格してるじゃない」
頬をピクピクと動かし、露骨に声のトーンが上がる彼女に思わず吹き出してしまう。見た目は大人びている彼女だが、性格は綾乃と違った意味で幼い。
弦羽早もプレイを通して、そういう人一倍負けず嫌いなところを理解したからこそのちょっとした冗談だった。口が裂けても本気で落ち込んでいた大磯の前では言わない。コニーが落ち込んでいないと思ってはいないが、彼女は既に立ち直っているのは見て取れた。
「…弦羽早は、ミックスで出るのよね?」
「うん、羽咲さえその気なら」
真っすぐと自分を見つめるコニーの真剣な表情に、弦羽早も体の正面を机からコニーへと向ける。
「なら、私も出るわ。他校の子と組んで、インターハイで弦羽早と綾乃に勝つ。勿論、シングルスでも綾乃に勝つ。勝ち逃げなんて、絶対許さないから」
「ああ、楽しみにしてる」
デンマーク代表にしてフレ女のエース。女子でありながらミックスの試合をメイキング出来る程の実力を持つ彼女が、本気でミックスダブルスを組んで自分と戦ってくれると言うのなら、バドミントン選手としてこれ程嬉しいライバルはいない。
弦羽早はふと、ある案が浮かぶ。
「コニー、そのパートナーだけど、心当たりはあるかい?」
「え? そんなの無いけど、私ならパートナーの十や二十、見つかるに決まってるでしょ?」
ファサッと金色の髪をサラリと靡かせながら笑みを浮かべるコニー。そのシャンプーの匂いが男子達の鼻腔をくすぐり、根っからの綾乃一筋である弦羽早でさえ思わず頬の筋力が抜けてしまい、行輝に至っては誰が見ても分かるくらいにデレデレと目元まで下がっている。
もし仮にコニーが初心者であったとしても、この美しさがある限り希望者は後を絶たないだろう。それがデンマーク代表ともなればパートナーは選び放題だろうと、三人とも頷く。
「なら一人知り合いがいるけどどうかな? あそこは確かフレ女ともそう遠くないし、実力は折り紙付きだよ」
「ふ~ん、弦羽早が言うならそうなんでしょうけど、誰?」
「中学時代のパートナー。ちょっと待ってて」
ポケットからスマートホンを取り出すと、早速電話帳に登録された”
『もしもし、弦羽早君?』
「うん、久しぶり。今ちょっといい?」
物柔らかな口調に男にしては少し高めの声。本人はそれを気にしているようだが、未だ声は低くなっていないらしい。そのやり取りを思い出して弦羽早は口元を上げる。
『大丈夫だよ。どうしたの、急に電話で』
弦羽早は立ち上がると、コニーを手招きして廊下へと誘う。ここは電話をするにはいささか五月蠅すぎた。
「今日ある学校と合同合宿があってね。そこでミックスのペアを探してる女の子がいたから、どうかなと思って」
『え~、ミックスかぁ。あんまり興味ないなぁ…。あ~、でも弦羽早君とやるなら一番確実だよね』
「今年はちゃんとシングルスも練習してるって。その子隣にいるから今スピーカーにするね」
雑なパス回しにコニーも電話越しの陸空も声を上げるが、弦羽早はそれを無視してスピーカーボタンを押す。二人は戸惑うものの、基本的に人見知りをしないコニーがすぐに切り出した。
「始めまして、コニー・クリステンセンよ」
『どうもご丁寧に。金成陸空で―――ごめん弦羽早君、これってドッキリ?』
「嬉しい事に俺の隣にいる子はモデル顔負けの金髪美少女だよ」
「綾乃に言いつけるわよ?」
「可愛い女の子を褒めるのは男の義務だから」
綾乃に対してもそれだけ浮いたセリフが言えたら少しは恋愛に興味を持ちそうだがと、花屋での出来事を思い出す。だがその直後、「そもそも、言ったところで何とも思われないし……」と哀愁漂わせながら呟く彼に、コニーの視線は本日何度目かの同情へと変わる。
そして返事のない弦羽早のスマートホンを、爪で数回コンコンとノックした。
「もしもし、聞いて――」
『――組みます!組みます!僕で良ければ!いえ、こちらからお願いします!』
「え、え~と?」
電話越しからの絶叫に近い声にコニーは冷や汗を流しながら、弦羽早に助けを求めた。
弦羽早のパートナーだった陸空は、ガタイはしっかりしているが優しいというより気弱そうな顔立ちをしており、その柔らかい口調と他人に流されやすい性格故に真面目だと思われがちだったが、かなりのミーハーだった。別段不良という訳ではないが、パートナー時代からコロコロ気になる意中の相手は変わっており、最初は部活の女子何人かと付き合っていたが、その不誠実さが広まってモテなくなった。
その頃はまだヤンチャだった弦羽早とは、口調も恋愛の価値観も真逆だったが、奇妙にも噛み合っていた。
とりあえず彼の恋愛での話は隠して、ミーハーであることだけ伝える。
「実力不足だとか、合わないと感じたら断るけど、それでもいい?」
『勿論です!誠心誠意、コニーさんに合わせます!』
そうじゃないんだけどなぁと、全く遠慮のない陸空に弦羽早は苦笑いを浮かべる。
「じゃあえっと……また今度弦羽早を通して連絡するから。じゃあね」
『えっ?せっかくですので直に連絡――』
ツーツーとスマホの機械音が、宴会場の騒ぎをバックに無機質に鳴る。色々言いたげなコニーの顔に弦羽早はゴメンゴメンと謝りながらも。
「大丈夫、さっきも言ったけど実力は保証する。ペアの時は陸空が後衛だったからコニーと相性がいいし、試合中の性格面でも、良くも悪くも流されやすいタイプだから、メンタルの強いコニーといいと思う」
「日常的に合うか甚だ疑問なんだけど?」
「そこは適当にあしらっといて」
「…弦羽早って、綾乃のこと以外結構雑ね」
「あ~…そうかも。自覚しておくよ」
先程電話をした軽薄な男とは打って変わって、一途とも重いとも言える恋愛観を持つ弦羽早。
そんな彼にしてやられたと太ももをトントンと指で叩くコニーだったが、後日陸空との個人練習で、まさかあそこまで”バドミントンの”息の合う相手だとは想像しなかった。
食事も終わり、明日に備えて各々部屋に戻るようにと引率の先生やコーチたちが告げる。
せっかくお互い仲良くなれたのにと、女子達から不満げな声が上がるが、合宿先の引率の先生には勝てない。特に名門のスポーツ校である以上、年功序列の意識は他校より高い。
皆ゾロゾロと帰る中、弦羽早も学と行輝と一緒に部屋に戻ろうとするが、宴会場を出たところで綾乃に呼び止められた。
「秦野」
「ん、羽咲? どうかしたの?」
「ちょっと話がしたくて」
弦羽早の心臓を一瞬ドキリと大きく鼓動し、いかがわしい妄想が脳内を過るが、すぐにあり得ないなと、邪な自分を嘲笑する。
「じゃあ外の庭にでも行こうか」
「うん」
田舎という土地の有り余った場所に建てられた旅館の庭ということもあり、その広さはグルリと一周回れば、それだけで老人には適度な運動になるくらいの広さはあった。しかしその分手入れは行き届いてなさそうだったので、二人は旅館付近の見栄えがいいところをぶらぶらと歩いていた。
「(はぁ~、やっぱ羽咲めちゃくちゃ可愛い…。コニーも美人だけどそうじゃないくて。とにかく可愛いんだよなぁ)」
綾乃は可愛い顔立ちをしている方だが、仮にも母国では国民的スターとも言えるコニーを比較する辺り、フィルターが何重にも重なっているらしい。
「それで、話って何かな?」
夜の中庭、男女が二人っきり、周囲には虫の鳴き声などはあれど人の気配はない。告白するにはこれ以上ないシチュエーションだったが、そんなものされるとは欠片程しか期待しておらず、また結果は見えていたのでする気もなかった。
話の内容はある程度は予想できた。まさかここまで来て、近くのコンビニまで肉まん買いに行くのを付き合って欲しいとかではないだろう。
「今日の、試合のこと。秦野に伝えようと思って」
「そっか。どうだった?」
「楽しかった」
小さい声だったが少しトーンが上がっているのが分かり、それに釣られて弦羽早も頬を柔らかく崩した。
「俺も、凄く楽しかった」
静かな自然に合った穏やかなトーンで弦羽早は返事をする。二人は道なりに歩いていると、左手に大きな池が見え、それまで木に隠れていた月が、空と水面に二つ映っていた。
風景画に興味のない弦羽早だったが、その光景に小さく声を漏らして足を止めた。隣では綾乃もまた、目をキラキラさせて同じ光景を見ていた。
おそらくこの景色は、世界の美しい景色などに任命された絶景ポイント等に比べると、足元にも及ばないちんけな景色なのだろう。旅館の従業員も、夜のこの池がお奨めだとは一言も話していなかった。
でもそのちんけな光景に一瞬でも心を奪われたのは、一々心の中で再確認せずとも分かっていた。ただ彼女が隣にいてくれるというそれだけで、こんなにも見るものが違っているのだと、自分の気持ちの強さを再確認する。
「えっと、まずはそのこと伝えたかった。誘ってくれたの、秦野だから」
「いいって。どの道俺がいなくても、女ダブで参加してたんだ」
「誘ってくれたのもだけど、試合でちょっと昔の秦野に戻ったの。あれも。あのちっちゃい体育館での、楽しかったこと、思い出せた」
「あ~~……うん。できれば二度と、特に志波姫先輩の前では死んでもやりたくないけどね」
「私、あの秦野、好きだよ?」
ぴょこりと後ろ髪を跳ねながら、綾乃は見上げるように首をちょこんと傾けた。
「ぅっ…」
綾乃の言葉が、弦羽早の望む意味での好きではないことは弦羽早自身が一番理解していたが、意味は違えど言葉は同じ。彼女の声で紡がれたその言葉に弦羽早の頬は、熱を帯びているかのように真っ赤になる。
今なら行けるのでは?
そう確信する自分が心のどこかでいた。
小学校からずっと想い、中学時代別々でもその想いはブレず、同じ高校に入学する為に他の強豪校の推薦を蹴って、そこまでされて嫌な女の子はいないだろう。
自分の中で自分の価値を無理やり上げようとして、この想いが成就するだろうと妥協を望む。
「秦野?」
「いや~、勘弁してほしいな。ほら、今の方が爽やかでいいでしょ?」
「え~、自分で言うの?」
弦羽早はそれを押し殺す。
まだ今はそうじゃないと。
告白が成功するとかしないとか、自分の事ばかり考えていたがそうじゃない。
昼頃、自分の試合を見た後の綾乃の辛そうな顔、ミックスダブルスで第一ゲームが終わった後の青ざめた表情。今は笑顔を浮かべてくれているが、綾乃は色々なものを抱えている。
それを一つずつ一緒に解決したい思いがある反面、綾乃の悩みの一つに自分が関わっている事にも薄々気づいていた。
だから今弦羽早ができるのは、なるべくいつも通りの、綾乃に憧れて一緒にミックスで優勝を目指したいと願っている秦野弦羽早でいることだった。
「口調に関してはこれが今の俺だから、すぐになれるよ。うん」
「んー、分かった。で、何の話だっけ?」
「今日の試合のこと?」
「そうだった。でね、コニーちゃんがね、インターハイに来てって。来たら、お母さんの事話してくれるって」
「…やっぱり、おばさんと何かあったんだね」
「…お爺ちゃん達から聞いた?」
ボケているようで、代々続く老舗和菓子屋の店主だけあってちゃっかりしている祖父と祖母の笑顔が頭に浮かぶ。
「いや、帰ってからはまだご挨拶してないよ。ただ、羽咲にとっておばさんは、大きな人だったから」
綾乃がバドミントンを避ける程に大きな出来事が確かに起こった。
学校の友人関係、部活、クラブチームでのいざこざ。そして家族関係。綾乃の母、有千夏と何かあったことは、あるいは有千夏の身に何かあったことは、確信があった訳ではないが可能性の一つとして候補には上がっていた。
「…話した方がいい?」
「そうだね、いつかは聞きたいかな。でも、今は無理しなくていいよ」
「……ありがと。まだ色々分かんないことだらけだから、助かるなぁ…」
池の傍の石垣に腰かけて、ジッと湖に映る月を見つめる綾乃の横顔は、ずっと太陽の日差しを浴びていない弱った花のようだった。
能天気なほわほわとした綾乃、小学校の時と少し雰囲気が似ている今の綾乃、コニーとの試合で見せた背筋が凍るような冷たさを持つ綾乃。
久々に再会した彼女は、それぞれ持つ一面が極端すぎた。人は誰しも時と場合によって、あるいは相手によって違った仮面を被るものだが、綾乃はその仮面が一際強い。
「…私、インターハイに出る。コニーちゃんとそこで会って、お母さんの事を聞きたい」
「…そっか。俺も、協力するよ。日城でコーチや先輩にしごかれたから。ノックとか試合とか、手伝えると思う」
インターハイに出てシングルスでコニーと当たる。場合によっては一回戦で当たるかもいしれないが、トーナメント次第では数多の強敵たちを倒した末に、決勝で当たる可能性もある。
綾乃は確かに他者を寄せ付けぬ、王道とは離れた特殊な才能を持っているが、しばらくのブランクもある。北小町の部員数的にも、団体戦にダブルスとシングルス両方で出るのは避けられない。
加えてこの短い間でミックスダブルスを加えるというのは、精神的にも体力的にも無理がある。
故に弦羽早は、少し遠回しにだが協力すると告げた。ハッキリと自分の口から、自分の事は気にするなと言えないのは、受け入れたくない現れだったのだろう。
「…だけどね、それとは別に、秦野とダブルス、やってみたい」
一瞬、想像していなかった綾乃の言葉に思考が止まり、反応が遅れた。
「…いいの?練習量、かなりキツイと思うよ?」
「? だって、インターハイって夏でしょ?」
まさかの能天気な回答に弦羽早は今一度耳を疑った。人一倍頑張るからとか、そういった答えをちょっぴり期待していた弦羽早だったが、見事に打ち砕かれる。
単にこの少女はインターハイ出場と、そこで勝ち抜くと言う意味を理解していなかったらしい。
「…その前に県予選があるでしょ。団体戦は離れているからいいとしても、シングルスとミックスは一ヵ月切ってるよ」
「…え?」
「付け加えると神奈川って、人口多いから当然強い人も多いし、ミックスと言っても最近は力を入れている学校やペアも増えてる」
特に男子は守備範囲がシングルスとそこまで変わらないという点から、シングルスの上位プレイヤーが仲の良い女子を誘って参加、というパターンもこの年頃だと多い。そういったペアも存外強くて気が抜けない。
勿論今日の二ゲーム目以降の流れをつかめたら、練習せずとも多少の相手には負ける気は弦羽早も無かったが、一ゲーム目のグダグダした感じが抜けないのなら、そういった即興ペアに負ける可能性も充分にある。
「…夏から本気出すのじゃ遅いの?」
「遅いね…。正直、明後日からでも遅いよ」
「……」
「その、やべぇめんどくさい事言ってしまったって顔、やめてくれない?」
「な、なんでッ?」
「分かりやす過ぎるの」
やっぱり極端だな~と、綾乃の持つ多面性に笑いながら、綾乃の隣の石垣に弦羽早も腰を掛けた。綾乃は気づきもしないだろうが、まだ肌寒く感じる夜風を遮るように。
綾乃もまた、おかしそうに笑う弦羽早に頬を膨らませながらも、吊られるように口元を上げた。
「それでも、楽しかった。秦野とのミックス。ダブルスはパートナーに気を使うから苦手だったけど、今日は違った。嫌だったり面倒だったり、思ったけど、それ以上に…秦野と繋がってる感じがした」
「ダブルス選手冥利に尽きるよ」
「だからね、私、秦野と楽しいバドミントンがやりたい。今も、頭の中ゴチャゴチャしてて、正直よく分からない。でも、繋がり合えるダブルスで――」
――私も人の事を思いやれるんだって
綾乃の中にある別の仮面が、そう強く願う。でもそれは、試合の時に感じた弦羽早に対する苛立ちと同様に、今の綾乃には自覚する事のできないモヤモヤとした感情へと変わる。
突然言葉が続かなくなった綾乃はギュッと胸元のシャツを握りしめる。
ゴチャゴチャして、イライラして、弦羽早と再開してからはその原因が次から次へと降り注いで。
でも本当に嫌だったのは、自分の感情を理解できずに逃げ出そうとする自分自身である事を、コニーの言葉、弦羽早とのダブルス、そして今この時間を得て、初めて綾乃は自覚することができた。
でもそれに気付いたところで、今度は周りへの苛立ちから自己嫌悪へ移り変わるだけだった。
「(ッ…駄目だ、考えるのが…辛い…)」
シャツを握る手とは反対の手で、ズキリと痛む頭を押さえる。
その時、ポンと頭に優しく弦羽早の手が置かれた。
「秦、野…?」
「焦らなくていいよ。羽咲のその悩みは、多分バドミントンをやり続けて、より色んな人と繋がっていけば、きっと解決する」
「…どうして?」
「羽咲以上にバドミントンと繋がった人生を送ってる人は他にいないから。だから羽咲の今の悩みはバドミントンに関係することなんだと思う。それは、コートの外で悩んでも、今バドミントンから離れている羽咲にはきっと解決できない」
弦羽早が初めて綾乃と会った時、彼女は既に経験者だった。聞けば彼女は物心ついた時から既にバドミントンを始めていて、世間のプレイヤーにとっては”努力”と呼ばれる行為は、彼女にとっては母親との楽しい遊びであり、ごく平凡な日常の一部で。
彼女に追いつく為、弦羽早もまたこの八年近くをバドミントンにつぎ込んでいたからこそ、彼女の悩みが異質で、会話の一つや二つで解決できないことは分かっていた。
「だからさ、一先ず深く考えないで一緒にやろう、楽しいバドミントン」
「……うん! よろしくね、秦野!」
「こちらこそよろしく、羽咲」
完
あんまりオリキャラってゾロゾロ出したくないんですけど、流石にコニーのパートナーがぽっと出なのはどうかということで軽く出してます。
メインがミックスである以上どうしてもこうなってしまいますが、男キャラは出ますね。
目標としては主人公以外はなるべく程よい程度の出番で、かつ試合で強キャラオーラだしたい。ただそれが出来たら苦労しないんだよぉ!