好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された 作:小賢しいバドミントン
ども。とりあえず大会開始までの目途が立ったので更新します。
ただ今回羽休めというか、為にならないバドミントンの会話がほとんどでして、ぶっちゃけ雑です。明日から本気出します
てかはねバドとバキのコラボってなんだよ…(困惑)
合宿を終えた翌日。授業終了のチャイムと共に綾乃は席を立つ。入学すぐのこの頃は、席順はあいうえお順で、綾乃のすぐ前の席には
席替えが決まった日には彼はお通夜のように沈むか、あるいは駄々っ子のようにごねるか、早くもクラスメイトの間で心底実にならない賭けをしていた。
クルリと振り向いた弦羽早はリュックを持って。
「よし、じゃあ部活行こうか」
「え?今日はもう帰るよ」
「…え?れ、練習は!?」
「スマホ、壊れちゃったから買い替えないと…」
「……ああ。確かに、スマホが無いのは致命的だね」
「でしょ?」
このご時世、スマホ中毒という言葉がある程にスマートフォンの重要性は高い。これまでバドミントンに時間をつぎ込んできた二人であっても、その認識は世間大多数となんら変わらなかった。
「どうして秦野もついてくるの?」
「どの道羽咲とは放課後潰して一度話したかったから」
信号が青になり、カッコーと鳥の鳴き声が響く横断歩道を二人は並んで歩く。傍から見ればお互い容姿の整った仲睦まじいカップルだが、かれこれ七年近く片思い状態から進展していない。
「何を?」
「ダブルスの取り決めやセオリー」
これから新しいスマホを買いに行くというのに、色気のない話で、綾乃は面倒くさそうに顔を顰める。もっとも彼女にとっての色気のある話とは、美味しい肉まんか、良くて可愛い服が少し入るぐらいのものだが。
一昨日の夜のいい雰囲気はどこにいったのだろうと、女子にあるまじき顔をする綾乃の頭にポンと手を置く。進展があると言えば、少しだけスキンシップが取りやすくなったことだろうか。綾乃も頭に手を置かれて、嫌そうな顔はしない。
「フッ。秦野、覚えてないの?この間の試合」
「羽咲こそ、第一ゲームのスコア覚えてないの?」
「うっ…」
21‐8だったか。あそこまで屈辱的なスコアを味わった事のない綾乃にとっては、普段忘れっぽい彼女もその数字は覚えていた。
「ハッキリ言って第二ゲーム以降の噛み合ったのは偶然。あとコニーと大磯さんのペアが攻撃的で相性が良かったのもある」
「でも前衛が私で後衛が秦野でいいんでしょ?」
「基本はね。でもそれだけで通用するほどダブルスは甘くないよ」
車道寄りを歩く弦羽早は、目的地の駅前の携帯ショップの支店を見つけ、あれかと指を指す。綾乃は頷きながら、むぅと唇を甘噛みする。
「その話、時間かかる?」
「お題だけで言うと、まずローテーション、サービス周りの立ち位置、攻撃の配球パターン、守備の返球パターン、守備のフォロー、中間に来た場合の取り決め、ドライブ勝負に入った時の動き、左右のラケットの使い分け、掛け声。細かく別けるともっとあるけど、今から聞く?」
「…スマホ、買ってからで」
「了解」
大量の課題を言い渡された大学生のように心底嫌そうな顔をしながら、綾乃は携帯ショップ店の自動ドアを潜った。
「だったら連絡の一つぐらいしてくれ」
「す、すいません。つい…」
「羽咲とのデートが嬉しくってか?」
「あははは…」
スマホを買い終えると、ダブルスについての取り決めなどは綾乃の家でやることとなった。弦羽早も綾乃の祖父祖母に挨拶したかったのもあってお邪魔したが、それから間もなくエレナが健太郎となぎさを連れて、家にやってきた。
そして初日から部活に来ない綾乃を心配し、家までやってきた健太郎となぎさに睨まれているのが、弦羽早の現状だった。
「なんつーか、秦野はあれだな」
「綾乃の事以外だと、雑よね。色々と」
「ノーコメントで」
連絡一本かエレナに一言告げておけばよかったものの、それを怠る辺りに弦羽早の本質が伺える。
エレナはチラリと机の上に広げられたノートを眺める。今日の午前中にノートが汚いと現国の先生に怒られたのと同一人物とは思えない、バドミントンの用語が並んだ綺麗なノートだった。
それから健太郎が有千夏の取ったトロフィーを発見し、綾乃の母親が神藤有千夏であることを知ったり。また有千夏と会った事の無いエレナと、去年の全日本ジュニアで戦った相手が綾乃本人であると確信したなぎさが、アルバムを隠し見ようとして一悶着あったりなどしたが、「明日からちゃんと来いよ」と告げて、健太郎達は帰って行った。
そして綾乃の部屋にて座布団を敷物に話し合いを再起しようとするが、綾乃はスマートフォンを手放そうとはしなかった。
「ねえ、この設定の仕方分かる?」
「俺よりお爺ちゃんに聞いた方がいいんじゃない? というか、夕方になってるんだからいい加減始めるよ」
「え~」
「今から初めても遅いくらいなんだから」
「ん~、じゃあ泊まっていけばいいじゃん」
「……明日藤沢に殺されそうだから止めておくよ」
いくら祖父祖母や住み込みの従業員がいるとはいえ、警戒心の欠片も無い綾乃の言葉に一瞬心惹かれたが、バレたらエレナだけでなく有千夏にも殺されそうだったので止めておく。
有千夏のスマッシュならブラジルからでも自分の頭目掛けて飛んできそうだと、背筋を震わせる。
「まずは俺達のスタイルと勝ちパターンから。俺達の基本的なプレイスタイルは守りだ。守備からのカウンターを軸として、それを起点に相手を崩していく。ただダブルスはシングルスと違って、カウンターが上手く決まっても、フォローし合えるから決定的な一打とはなりにくい。ただそこで流れを変えられるのは確かだ」
「知ってるてば…」
「いいから。自分たちの強みを再確認するのは大事だ。特にラリーが続く最中は最低限の掛け声しか時間がないんだから。それに俺は羽咲みたいに前衛にいながらカウンターなんてことは早々できない。カウンター一つに対してもスタイルが違う」
「秦野は崩しから入ってる」
「そうだね。俺は速い球は素直にロブで打ち返して相手のスタミナを削って、相手の重心が崩れたタイミングでカウンターに入る」
バドミントンの花形であるスマッシュだが、よく筋力が全てだと思われがちだがそんなことは無い。勿論最終的にいきつくのはやはり筋力による有無だが、力を籠めずともある一定レベルの速いスマッシュは打てる。むしろただ力任せに打つスマッシュはむしろ遅くなる。
よくスマッシュの最初の練習として初心者が行うのが、コート後ろからネットを越えるようにシャトルを投げるものだ。
その理由として、野球のピッチャーのピッチングとスマッシュは使う体の動きが似ている。
まずピッチャーは手を後ろに持って、利き手の鎖骨辺りを前に出しながら、その勢いでそのまま体を前に出し、続いて肘を、そして最後に全身の溜めた力を肘から先を鞭のようにしならせて、ボールを投げる。
そしてその際に利き手側の足を軽く曲げることで、下半身の力と体重を込めている。ピッチャーが投げた後に足も一緒に出るのは、それだけのエネルギーを一点に集中し、他の部分の力を抜いているからだ。
流石にバドミントンではあそこまで一球に全力を籠めたら次の球が取れないが、大部分の流れは似ている。
話が長くなったが、つまるとこ重心の安定していないスマッシュというのはそこまで怖くなく、逆に安定しているフォームから繰り出される球は警戒せざる得ない。
ブレのないフォームから放たれるスマッシュを前衛で狙ってカウンターするなど、通常あってはならない。だからこそこの間戦った大磯は、綾乃の異常性に怯えていたのだ。
「ただ俺のロブは基本はセオリー通りのクロスが多い、つまりサイドバイサイドの状態で俺がクロスに上げた場合は、次はほぼ100%羽咲にスマッシュが来る。女子でかつストレートなんて狙わない理由がないからね」
「…私が返せないって?」
「まさか。でも返球は俺とはまた違ってくる。どれだけタッチが出来ても、力の差がある以上、打たれ続けたら押されるのは事実だ」
「じゃあセオリー通りクロスのドライブで返せばいいじゃん」
「いや、こっちがサイドバイサイドって事は、相手はトップアンドバック。つまりクロスに打てば前衛が間違いなく狙っている。余程強い球でカウンターできない限りね。だから羽咲はストレートで前に落としてくれ。そしてそれと同時にすぐ前に出て、俺が後ろに下がる。これでサイドバイサイドになっても、すぐにトップアンドバックに切り替える」
「スマッシュを打ち返すの好きなんだけどなぁ」
「勿論それができるのなら理想だけれど、ミックスは女子が前っていうパターンが王道中の王道だから、前衛が得意な女子が多い。生半可なドライブだと狙われやすい。あとは単純に男子のジャンピングスマッシュは角度も深い。サイドバイサイドの状態での羽咲は、いかに連続して打たれないかが鍵になる」
「…秦野は大丈夫って言うの?」
「これでもダブルスも二位だよ?スマッシュ狙われない程度には警戒されてたよ」
「初耳」
「そうだっけ」
弦羽早はノートにボールペンで書いたコートに、消せるようにとシャーペンで話の流れに合わせて矢印を書き足していく。
「逆にトップアンドバックになった時、この時はどんどん取ってくれて構わない。トップアンドバックではこちらは打たれないって事が理想だけど、羽咲が前衛にいる時はその常識が覆る。球の重さや速さによっては軽いレシーブになるかもしれないけど、速球を前衛がタッチしてくるだけで相手としては凄くやりずらいはずだ。自然と上がりやすくなる」
「ならずっと維持でいいよぉ」
「そうもいかない。羽咲の身長的にハーフ球に対しては無力だ。羽咲を警戒した場合の相手の戦略として必ず羽咲を越えるハーフが来る。それを続けられた場合、相手が守備が上手ければ今度は俺のスタミナが先に切れる可能性もある。まあ生半可な守備なら無理やり突破するけど、出来る限り攻撃のバリエーションは持っておきたい。そこで」
弦羽早は一度ノート上に書かれたごちゃごちゃした線の群れを消すと、真っ白になったコートの上に再度書き足していく。
「羽咲のブロックを越えてかつ、スマッシュが打てない微妙なハーフ球に対して、俺の取れる選択肢は落とす、飛ばす、そしてドライブで攻める。攻めを継続するならドライブが理想的だけど、ドライブの弱点は、球速が速い分カウンターも強烈になる。で、もし相手がレシーブが上手ければ、ドライブのカウンターとしてクロスのリアコートに返してくる。そうなったとき羽咲がフォローに回って、予めシャトルの射線上に位置取ってドライブを打ち取ってくれ」
「うん、まあ、ダブルスのセオリーだよね?」
「だね。でも女子が後衛に下がる事が少ないミックスに置いて、もしその球がリアコートまで飛ぶものだったら、女子は男子に任せるパターンが多い」
「じゃあそれも拾えばいいんだ」
「いや、基本は取らなくていいよ」
「え~?じゃあどうするの?」
「俺がきつそうだったらカバーに入って」
「…それ、どうやって判断するの?」
「そこは選球眼いいから分かるんじゃない? 相手のハーフ球の角度と着地点、そこから俺の打った球の速さと角度で俺の位置と態勢を把握して、レシーブが来た時に判断してくれればいい」
「そこまで…考えるの?」
「勿論。これが出来る前衛とできない前衛では圧が更に変わってくる。これを一回でも決めたら、いよいよ相手はハーフ球のレシーブも選択肢から消えて、大きなロブになる。そこからは完全に俺の仕事だから」
シングルスはシングルスで配球、攻撃パターン、コース、フェイントなども考えるが、ダブルスはやはりシングルスとは勝手が大きく違う。シングルスでは負けた相手にも、ダブルスなら勝てるという話は全く珍しいものではなかった。
確かにダブルスのいろはを知らなければ、相手によっては一対二の方がやりやすいと感じそうだと、綾乃は頭を抱えて机に項垂れる。
「ふぅ…」
「何終わったみたいな顔してるの。次、サービス周りの立ち位置決めるよ」
「えっ!?」
「他にも、真ん中の打球に対して今のままじゃ衝突するでしょ。ある程度目安は決めておかないと」
「そ、そういうの、掛け声でいいんじゃ…」
「羽咲の声小さいから、実際の会場だと聞こえない。だから言ったでしょ?放課後潰して話し合いたいって。ちゃんと頭に叩き込んでもらうから」
結局夕食は羽咲家でご馳走になり、食後もすぐに再開してようやく九時頃に弦羽早は家を去った。
久しぶりにここまで勉強したと、受験一ヵ月前の自分を思い出した。
最低限の礼儀として弦羽早を玄関先で見送った綾乃は、ヨロヨロと自分の部屋まで戻ると、ベッドに倒れ込んだ。チラリと机を見ると、先程まで開かれていたノートが閉じてある。
明日の授業に提出物が無いのが幸いだったと、綾乃は一息吐いた後、ノートを手に取った。
ベッドに横になりながらノートを開く。
綺麗な字だ。そう言えば右手も使えるようになったから、文字が滲まないようにと右手で書く様になったんだったか。
確か弦羽早が両利きを目指す様になったのは小学校四年生の頃だった。三年では別々のクラスだったが、それ以外は一緒のクラスで、お互いクラブが無い時はよく一緒に帰ってあの体育館で練習していた。
あの頃の弦羽早の奇行は今でも覚えている。突然右手で鉛筆を持ち、箸を持って、登下校中も右手をクイクイ動かしていたり、あるいは右足も慣れるために昼休みはリフティングをしていたり。おかげでその当時は下手なサッカー少年よりリフティングが上手かった気がする。
右利きの選手が左手でプレイできるようになるのは決して珍しい話ではないが、その逆は早々聞かない。しかもシングルスでは元々の利き腕である左手でやるのだから尚更おかしいものだ。
「(それでも右利きを目指したのって、私の為――そんな訳ないか)」
弦羽早は確かに、自分に憧れて両利きになったとは言っていたが、自分と合わせる為にとは綾乃に対しては話していない。
「細かいなぁもう」
ズラリと書き並んだ文字にチカリと眩暈がするが、番号が割り振られていたのが幸いして、受験合格を機にすっかり勉強嫌いに戻った綾乃にも何とか読むことができた。
書かれていたのは弦羽早が後衛にいる場合での配給。王道のパターンとしてはスマッシュ(七割)、スマッシュ(四割)、ドロップ、スマッシュ(全力)だとは書いているが、説明する際、このメモはあんまり参考にするなと言っていた。なら何故書いたとツッコミを入れるには、その時の綾乃には気力が無かった。
ただ重要なポイントとして、あえて相手がカウンターしやすいコースに打ってカウンターを誘発し、それを綾乃に叩いてもらうというのが理想的な流れだと三回くらい聞いた。
次以降コニーと戦うなら、ネット前のヘアピン勝負を挑む場合は100%とは言わずとも、6割以上は勝ってくれないと困るとも二回くらい言っていたか。
綾乃はノートをパラパラとめくりながら、小さく息を吐くと、パタンと閉じる。
「…秦野の癖に」
天井に向かってポツリと呟く綾乃の口は無意識にそう動いた。
私の地の文…薄すぎ?