好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された   作:小賢しいバドミントン

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大会の去り際いくさまで書き終わったので投稿。

溜める理由は色々あってモチベ維持とか見直し面倒とかもありますが、綾乃ちゃんの心境がコロコロ変わるからね、その中で自分の書きたい綾乃ちゃんの整合性が難しいねんなって

急にギスギス






負けた相手だって

「勝って終わりじゃないんだよ…。負けた相手だって努力して、強くなるんだよ?」

 

一早く体育館を去った放課後。部活で消費したカロリーを補う為に、のほほんとした表情で肉まんを頬張る綾乃に対しエレナは告げる。

 

大会が残り二週間間近に迫り、エレナとのり子はマネージャーとなった。シングルスだけでなく弦羽早(つばさ)とミックスで出場することとなり、それでも緊張感もなく、あちこちのコンビニに寄り道をする綾乃へ、エレナはこう語った。

 

緊張感を持ったら?

 

コニーは綾乃に勝つために今凄く頑張っているかもよ

 

コニーに限らず、綾乃が倒してきた相手だって一度は勝ったかもしれないけど、いつか、追い抜かれるかもしれないよ。

 

 

そして、冒頭の台詞へと戻る。

 

エレナの言葉は、今の”羽咲綾乃”にはもっとも耳に痛い台詞であった。

高校入試の進路相談で、担任の”今のままでは厳しい”という言葉や、これまでバドミントンを教わっていた先生やコーチ達からの”何やっているんだ”と叱咤より、ずっと心が重くなり呼吸が苦しくなる。

 

綾乃はギュッと手に持った肉まんを握り絞め、具がポトリと地面に落ちる。

 

「…あ、綾乃?」

 

エレナにとってもまた、彼女の反応は想定外だった。てっきり、自分の言葉を青天の霹靂だったと、口を開く綾乃の姿をどこか想像していた。

だが彼女は顔を俯かせるだけでジッと動かないまま。ただ綾乃の取り囲む空気が、呼吸をする毎に下がっていくような不気味さを感じてしまった。

 

友人に猜疑心を抱いたことにエレナは一瞬自己嫌悪に陥るが、彼女の抱いた感情は間違えでは無かった。

 

もし友人で無ければ、エレナはおそらく逃げ出していた。コンビニの明かりが周囲を照らしてくれたのが幸いで、もし電灯の明かりしかない暗闇であれば本当に逃げていたかもしれない。

 

それくらい、綾乃の口から紡がれた声は”怖かった”。

物理的な音ではなく、籠っている感情が。いつもの彼女と同じ声だと言うのに、トーンが少し下がっただけでここまで変わるものかと狼狽する。

 

「…知ってるよ、それくらい。負けた相手が”成長してくる”ことは、誰よりも知ってる。でもね、エレナは知らないんだぁ」

 

「な、なにを?」

 

「そんなことができる人間はね、ほんの一握りなの。ほーんのちょっとだけ」

 

 

チリチリと綾乃の脳内に、かつての出来事が思い浮かぶ。

 

 

中学校に上がり、それまで各々がクラブチームでスポーツをやって来たが、大多数の者は部活へ移転する。バドミントンに限った話でなく、他のスポーツも、芸術系も、趣味等も、対応する部活があれば皆そうなる。

 

綾乃もまたその大多数の一人だった。学校の友達と、先輩たちと、一番の長い練習相手であった弦羽早はいなくなったが、彼・彼女らとバドミントンができると心から思っていた。

 

だが結果は酷い有様だった。

入部すぐ、経験者と言うことで中三の男子の主将とシングルスで戦ったが、2ゲーム合わせて2点も取られる事なく綾乃は勝った。あまりにも一方的な試合だった。

 

その試合に、綾乃を凄いと褒める人は一人もいなかった。それまで仲の良かった小学校からの友達も、”酷い””可哀そうだ”と綾乃を責めた。

 

何故? 自分はルール違反は勿論、煽ったりとマナー違反もしていない。正々堂々戦った結果がスコアに現れた、それだけだ。

 

何よりも、綾乃にとって負けた相手が努力する事は当たり前の事、いわば義務とすら思っていた。

勝てないのは努力が足りないから、バドミントンにつぎ込んできた、時間が、気合が、熱意が、想いが、そして才能が足りないからだと。もし悔しいと欠片でも思うのなら努力すべきだと。

 

”だって秦野がそうだったもん”

 

どんなに一方的に負けても、それこそ一点も取れずスコンクで負けたって、彼は悔しそうにしながらも、時には泣きながらだって、綾乃にアドバイスをもらって何度も全力で立ち向かってきてくれた。

 

狭いながらも質の高すぎる世界でバドミントンをやってきた綾乃にとって、勝った自分にアドバイスも貰わず、ただ責めるだけの彼女らの言葉は理解できなかった。

 

でも綾乃は自分は優しい少女だと思っていた。周りの反応が理解できないながらも、励ましの言葉を対戦相手の先輩に送った。

 

「先輩ももっと努力すれば、その内私にも勝てますよ」

 

私に勝てると、お世辞にも言ってあげたのだ。

 

だと言うのに、彼はギロリとこちらを睨みつけた直後にラケットを地面に叩きつけると、折り曲がったラケットを投げ捨てて体育館を去って行った。そんな選手としてあるまじき行為をしたのにも関わらず、女子も男子もひそひそと白い目で自分を見つめる。主将を悪く言う人は一人もいない。

 

未だに綾乃は理解できなかった。ただ、その部活の甘ったるいお遊戯の”バトミントン”をやる気はさらさらなかった。

 

結局すぐに部活を辞めた綾乃は別のクラブチームに入って大会に出場する事となるが、当然同じ中学校のバドミントン部も出場していた。実際に女子の一番上手い三年生とも対戦したし、その倒した中三の男子主将の試合も見たが、思わず笑いそうになるくらいに酷く、同時に理解した。

 

「(ああ…。負けても努力できるのって、ほんとに一握りなんだ)」

 

あの頃より全く上手くなっていない男子主将に、負けてすぐは泣き出す癖に、30分後にはお菓子を食べて友達と好きな男子について語り合う女子。

 

その時、綾乃は心底格下の相手に失望した。

 

彼女がそれまで、どんなに一方的に勝っても楽しいと思えたのは彼がいてくれたから――そう思える程に綾乃は優しくなく、ただただ失望するだけ。

 

綾乃が三年生になってもそれは変わらない。母校のバドミントン部は、誰一人としてメダルはおろか賞状すら貰っていなかった。

 

 

 

 

「だからさぁエレナァ。大丈夫だって。だってあの時の合宿、見てたよね?最後のゲーム、二点だよ、たったの二点!しかもたまたまライン上に乗ったマグレ球! ほんとはさぁ、あれもアウトだと思うんだよね。でもさ、判官贔屓っていうんだっけ?どうせあの線審達も、試合に影響ないからって可愛そうだから点数入れてあげたんだよ」

 

「あッ、綾乃ッ! アンタ自分が何言って!」

 

「分かってないのはエレナだよぉ。負けて努力の出来る人間なんてほんの一握りだけ。大多数の人間なんてね、この蟻みたいに群れるしかできないんだよ」

 

自分が零した肉まんの具に群がる足元の蟻を踏みつぶしながら、綾乃はにっこりと微笑んだ。

 

「ッ!」

 

エレナの脳裏にシュッと横切ったのは、コニーのパートナーだった大磯という大学生。試合直後の彼は悔しいというよりも、酷く怯えるように挙動不審だった。弦羽早とシングルスの試合で負けた時は悔しそうにしながらも笑っていた彼が、ミックスで負けた時はまるで死刑宣告を言い渡された死刑囚のようで。

その姿に違和感を覚えていたので今もその光景をよく覚えているが、その理由が嫌な程に分かった。

 

ガクガクと足が震え、今にも逃げ出したかった。

 

誰だ? 目の前にいる少女は本当に親友の羽咲綾乃なのか?

いつもは蟻の列をぽわ~とした表情で眺めてそうな彼女が、今は笑顔で足元の蟻を踏みつぶしている。

 

分からない、怖い、逃げたい。でも――と、エレナはキュッと拳を握った。

 

「あ、綾乃が目指しているのは、そういう”諦めない人たち”が集う場所でしょ!」

 

その瞬間、にこやかだった綾乃の表情が曇る。

 

「……」

 

「負けて負けて、そこから努力して!わ、私は偉そうな事は言えない!バスケ部だったけど、全然いいところ行けなかった!でも勝ち上がる人たちが、最初っから強かったなんて、一度も思った事ない!」

 

エレナは思考を放棄するのを止めない。頭は上手く回らないが、それでも今この綾乃の言葉に頷いて、この話を流す訳にはいかないと必死に口を動かす。

 

ギリッと綾乃は唇を噛み締めたあと、イライラしたように前髪を乱雑に掻き上げる。

 

エレナの言葉は言い返す余地のない正論中の正論。その事を知っているのは他ならぬ自分自身であるのに、他人に言われるとどうしてここまで心がざわつき、イライラするのだろう。

 

「ッ!あぁ~、だからさぁ~、それも分かってるって言ったじゃん…。だからさっきまで練習してた。みんなと一緒に始めて、みんなと同じ時間に帰った。それで緊張感を持て? だったらみんなにも同じこと言ってあげて。二回戦突破も厳しそうですから緊張感持ってくださいって」

 

「なっ、あ、綾乃!いくら私でも本気で怒るよ!」

 

「…怒れば? 負けた癖に努力したことのないエレナに言われたって何も思わない。じゃあ、帰るから」

 

ガンと通りがかったゴミ箱を蹴とばして、ゴミ箱の側面に肉まんを捨てると、綾乃は一度も止まる事なく夜の闇に消えていった。

 

残されたエレナは呆然としながらも、ただやけくそになって感情に身を任せはしなかった。

何故綾乃が急にあんなに豹変してしまったのか。少なくとも自分の一言が爆発のきっかけとなったが、あの口ぶりは元々溜まっていた想いのようだった。

 

バドミントンを再開してからの綾乃は酷く不安定だ。楽しそうだったり、キラキラと目を輝かせたりとするが、同時に顔色が悪くなったり、痛むのか頭を抑えたりとする。

 

チラリとコンビニを見ると、店員の男性が綾乃を追いかけようとしており、慌ててエレナが呼び止める。

 

「ごめんなさい!彼女、喧嘩して凄くイライラしているんです。普段とってもいい子で、優しくて!私が片づけますから、許してやってください!」

 

「……次やったら、学校に連絡しますからね」

 

「はい…。ほんとに、すいません」

 

 

 

 

「…イライラするよぉ」

 

口調やトーンは普段の綾乃に戻っていたが、纏う空気は依然冷たいままで、時折横切る者は大の男であろうと綾乃に道を譲る程に不気味だった。

 

ここまでイライラするのは合宿で弦羽早のシングルスを見て以来だろうか。しかしあの時はまだ保っていたので、多分今の方が機嫌が悪いのだろうと、普段の綾乃らしからぬ自己分析する。

 

何となく今家に帰りたくなかった。あのほわほわとした過剰なまでの自分に甘い空間は、おそらく自分がこんな状況で帰って来ても何も言わずに優しくしてくれるだろう。以前までの綾乃ならそれを望んでいたが、エレナの正論性は綾乃も理解しており、ここで家に帰ることは即ち逃げであると冷静な自分がそう評価している。

 

だが正論だと分かっていても、それを他者に言われると、無性に苛立ちが止まらない。

 

家に帰りたくない時、一番頼りだったのはエレナだった。でも彼女とは今喧嘩したばかりで、のり子もまた用事があって帰宅する際はドタバタと慌ただしそうにしていた。

 

公園でぶっ倒れるくらいまで素振りでもして、何も考えられなくなるまで追い込むのも面白いかもしれない。

ニヤリと口元を上げた綾乃は、家の近くのタコの滑り台がある公園にやってくると、ただひたすら、無我夢中に素振りとフットワークを始める。

 

「(負けた相手が強くなる?そんなの分かってる。でもそれができない奴だって大勢いる。私はそんな奴等じゃないのに、負けて努力したのに何も手に入らなかった。毎日吐くぐらい努力して、私は勝ち続けたのに何も得られない。たった一回しか負けてないのに!)」

 

走る。走る。我武者羅に終わりの無いフットワークを延々と続ける。前後のフットワークを100回ほど繰り返してもまだ思考力の衰えず、コートを想定して一周するようにフットワークの順番を変える。振って振って、ひたすら走り続け、時に飛び跳ねて無理やり体力を消費する。

 

「ハァ…ハァ……。ッ…」

 

素振りを始めてからどれだけ経っただろうか。部活では涼しい顔でフットワークをこなす綾乃が、吐き気を覚え、視界が回転するまでぶっ続けで走り続けた頃。

 

「羽咲!?」

 

ああ、別のストレスの原因が来たと、綾乃はやつれた顔を彼へと向けた。

秦野弦羽早。幼馴染で、ミックスのパートナーで、バドミントン仲間で、時々意味も無くイライラする相手。

 

「何やってる!? 一人で遅い時間に、それに汗も尋常じゃない。どれだけやってたんだ!?」

 

「…口調、戻ってる?」

 

「当たり前だ!そんなになってるお前を見て怒らない訳ないだろ!」

 

「やっぱり、そっちの方が好きだなぁ…。昔、みたいで」

 

綾乃はフラフラとした足取りと手で、なお素振りをしようとラケットを動かすが、強い力で左手が抑えられた。

 

「…どうした?」

 

怒鳴った声は一転して、今度は心配するような子供をあやすような優し気な声で自分を見つめて来た。

そう言えばと、綾乃はもう一つ弦羽早と自分との関係性を思い出した。

 

彼は”妙に”自分に甘いところがある気がする。

 

「…今日、帰りたくない。秦野の家に泊めて」

 

「…………え」

 

 

 

 




主人公がいるおかげで羽咲さんの性格が良くなるって?
んなわきゃねーだろーい!


明日も投稿しまふ
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