好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された 作:小賢しいバドミントン
時は少し遡り、フレゼリシア女子短期大学付属高校と北小町高校との合宿が行われた五日後の金曜日。
打倒綾乃&
あれからコニーはメンタル、気の持ち方を変えた。
これまで自分を大きな栄える華だと思っていた事を改めた。まだ自分には超えるべき頂がある。全てを出し切ってやっと手にした勝利というのを知らない。
たった二点しか取れなかったという、才能を開花してからのコニーが味わった事の無い初めての屈辱は、彼女のどこか冷めていた闘志を山火事の如く燃え広がらせていた。
と言ってもどこかの誰かのように、ある日突然豹変したりはしない。大人びているようで実は子供で、メンタルは弱くはないが腑抜けており、自己中でマザコンのコニーの芯はこれっぽっちも変わってはいない。
しかし芯は変わっていなくとも、いくつかの成長はあった。まず部活メンバーと仲良くなれた。
元々部長の唯香のおかげもあって、コニーはその高慢な性格でも比較的上手くやっていたが、彼女の方から他のメンバーにアプローチをすることが多くなり、前に比べて接しやすい空気を自ら出す様になっていた。
次にダブルスについて、特にミックスダブルスについての勉強を始めた。
通常のダブルスについてはこのフレゼリシア女子、全国レベルのプレイヤーが多くいるこの部において、参考にする相手は困らない。しかしこの部の最大の欠点は女子しかいないことで、ミックスダブルスでインターハイを目指すコニーにとっては学ぶべき相手はネットか本かに限られていたが。
他にもナルシストだったのが多少落ち付いたり、夜真面目にランニングをしたりとの成長もあった彼女だが、今はかなり曖昧な顔をしている。
その理由がこれからこの体育館にやってくる、弦羽早の中学校時代のパートナー、
連絡先を教えることに抵抗のあったコニーは、弦羽早を仲介として陸空と連絡を取り、今日彼がこっちに来て軽く練習をすることになっている。
弦羽早曰くミーハー或いは惚れっぽいらしい陸空を、コニーは今のところ良い印象を抱いていなかった。
コロコロ意中の相手が変わりやすい男と聞いたら、男であろうと女であろうと、プラスイメージを抱く人間の方が少数だ。
しかし弦羽早と一緒に全国二位、団体では一位になった彼が、合う合わないはあっても実力不足であることはまず無いだろう。
さて、どんな人物がやってくるのかとコニーはチラチラと体育館の玄関を気にしていると、鉄の扉がガラリと開いた。
「こんにちはー!」
男にしては少し高いが女声ではない、少々独特な声が体育館に響き渡り、コニーだけでなく全員の視線がそちらへと向かう。
そこに立っていたのは物腰の弱そうな少年。美形というよりは優しそうというのが第一印象で、しっかりとした体つきをしているが、運動選手にしては細身なのはバドミントンプレイヤーの傾向か。
一言でいうならば、アンバランスなのが特徴だろうか。
身長もコニーより高そうな事から、男子の中でも長身の部類に入る。体格は良い。でも声は高くて顔だけ見ると弱そうだ。
もし弦羽早と陸空のペアを何も知らずに相手をするなら、誰もが陸空を狙おうとするだろう。
「白川高校の金成陸空です!今日はよろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!』
彼の挨拶に体育館の女子部員達が返事をする。なんとも非日常な光景だった。
彼はペコリと一礼をすると、体育館の隅へとバドミントンバッグを置く。
てっきりもっとデレデレすると予想していたフレ女の部員達は、意外な反応にヒソヒソと囁き合う。既に彼の人柄は主に唯華が原因で広まっている。
もっとも唯華は人の弱みは握っても、嘘を吐いての悪口は言わない。彼女の口から出たのは誠であると、すぐに証明されることになる。
「コニーさん!」
シューズを履きラケットを手にした彼は、床に座って準備運動をしているコニーの元へとやってきた。
コニーはスッと立ち上がり背筋を伸ばすが、彼の目線は自分のより高い。やはり177くらいはありそうだ。自分より低い身長の男子も珍しくなく、特にこのフレ女で生活していたらまず経験の無い視線の位置に少し新鮮味を抱きながらも、不敵な笑みを浮かべる。
「アンタが陸空ね。今日は私に相応しいかテストしてあげるからその気で――」
「好きになりました!付き合ってください!」
突如頭を下げられ、体育館中に響き渡る声でそう告げられた。
他校の男子からの告白に黄色い声で盛り上がる女子生徒は一人もおらず、コニーも心臓が高鳴る感覚を一ミリも味わない。むしろスーと頭の中が急激に冷めていく。
「……その気でいてちょうだい」
「まさかのスルーですか!? お、おかしいなぁ…。出会い一発目の告白はインパクトがあって成功率が上がるってネットにあったのに」
コニーも絶世の美少女。その自負はあり、謙遜もしない。だからデンマークでも告白されるのは珍しい事でもなんともなかった。だが名乗った二言目に告白してくる男は初めてだ。
彼女は心底悪い意味で驚いていたが、気持ちを切り替える。
今コニーにとって大事なのは何よりもバドミントンで、ミックスダブルスを組むにはパートナーが必要だ。
パートナーの十人や二十人簡単に見つかると言ったは良いものの、有象無象ならともかく、インターハイで通用するレベルの、学校の近い男子というのはかなり限られる。
「(性格で判断するのは駄目ね。綾乃、唯華、ママ。性格悪いのに強いプレイヤーはいくらだっている)」
自分の事を棚に上げて置きながら、一先ず陸空の実力を見る為に軽い基礎練へと入った。
バシュン!と無数のシャトルの音が鳴る中、一際大きく乾いた、通る音が体育館に響いた。
「ッ!」
コニーはすぐさま手を伸ばしてクロスへと飛んできたスマッシュへとシャトルをタッチさせるが、速すぎて正確に面に当てることができずにネットへと引っ掛かる。
「(これが陸空のスマッシュ。まだ高校一年生なのになんて速さ…。いや、速さもだけど重い)」
バドミントンのシャトルは、必ずしも速さ=重さとは限らない。同じような速度でも体重を乗せて打つか、ただ手の力だけで打つかでレシーバーの負担は大きく異なる。手の力だけで打つ、いわゆる手打ちのスマッシュは、速くてもラケットが押し返されるような重さがないのでレシーバーからするとコントロールがしやすい。
しかし重いスマッシュはガットとシャトルが触れた瞬間に、重さからブレやすくなり、細かいコントロールの修正が途端に困難になる。
「もう一回やるわよ」
「はいッ」
コニーと陸空はワンコート使ってのラリー形式の練習を行っている。つまり点数の無い試合と様式は変わらない。
コニーから渡されたシャトルをすくって左手に持つと、ネット越しの相手が構えたのを境にショートサーブを繰り出す。
「(さっきのスマッシュはマグレじゃない。ならネット前の実力を見せて貰うわ)」
トンとショートサーブに対してヘアピンでストレートの前に落とす。ロブにも対応できるように中央に戻る準備をしながら、相手の出方を伺う。
陸空は上げないようにと再びヘアピンをそのままストレートに返す。やはり手足が長い分、そのフォームには余裕がある。
「……」
もう一度様子見をするか。今度はよりサイド寄りへとヘアピンを送り、相手の出方をジッと見つめる。
ヘアピンは絶妙な力加減が必要になる。強すぎれば浮かび、かといって弱すぎてはネットを越えない。特に強い球に対して前に落とすのであれば、飛んできたシャトルの勢いを利用すればいいのでほとんど力は必要ないが、威力がほぼ無いヘアピンはただ当てるだけではネットを上手く超えてはくれない。だからこそヘアピンの上手さは上級者の中でも格を別ける。
「ッ!」
流石に技術面ではまだまだのようだ。ここは逃げようという陸空の意志が放たれたロブからは見られる。
ラウンド側へと飛ぶロブ球を追いかけながら、チラリと相手コートを確認する。
やはりコニー以上の手足の長さを持つ彼は、もう中央付近にまで戻っている。
「(今度は守備のテスト!)」
バシュンと並みの男子にも後れを取らないストレートのスマッシュがコニーから放たれる。だがその凄さは速さや角度ではなく、正確なコース。サイドラインがシャトルに合わせて収縮するかと思える程際どい。
だがやはりダブルスプレイヤーだけあって、また守備向きの弦羽早のパートナーが務まるだけあって一打程度では崩れない。その球を拾ってクロスへと落とす。
しかしコントロールまで完璧ではないようで、クロスへと打つつもりだっただろう球は中央までしか飛んでいない。
「(それでも
まあ合格点だろうと口元を上げながらラウンドへのアタックロブを放つ。通常のロブとは違い高く弧を描くようなものではない、シングルスにおいては効果的な攻撃的なロブだ。
陸空はその球を背中を向けながら追いかける。
「(ハイバックか。そうなるとストレートのロブとクロス前が高い。私相手にネット前はやりたくないはず)」
コニーの読みは当たっていた。だがその速さまでは予想していなかった。大き目でリアコートまでは届かないロブが来ると予期していたが、威力のあるドリブンクリアがハイバックから放たれた。
元々ハイバックとは打ち方の都合上威力が付きにくく、またコントロールの難易度も高い。バドミントン歴が長くとも、苦手なプレイヤーは少なくない。
「(あれだけのスマッシュが打てるんだから、ハイバックでも十分奥まで伸びるのも当然か)」
少しは驚いたがプロの世界では高い威力のハイバックは珍しくもない。とはいえ、女子はやはり力の関係上、フォームの甘いハイバックは絶好球になりやすい。
多少強引にでもハイバックから奥へと持って行けるのは男子の特権だ。
コニーは上がって来た球を再びスマッシュを繰り出す。今度はサイドではなく陸空のボディ。
それをコニーとは反対側のサービスコートへとクロスのドライブで返す。
「チッ…」
手足が長い分やってきたシャトルに対して速くレシーブができる。リーチの長いプレイヤーはボディが弱いと言うが、それは鋭い球を差し込まれた場合である。
地面まで距離を詰めるドライブ球へと追いつくと、それまでスマッシュを警戒して封印していたロブを解禁する。
しっかりとコート奥まで飛んだがチャンスボールには変わりない。
陸空は素早く後ろまで下がると、前へと飛びながらジャンピングスマッシュを打ち放つ。
バシュン!と再び乾いた激しい音が体育館に響く。シャトルはお返しと言わんばかりにコニーのボディへと飛ぶ。
「ぐっ…!」
今度の球は角度は特別ないが伸びが良い。故にシャトルは押し込むようにとコニーへと詰めてくる。
「(まずっ、これは想像以上ッ)」
咄嗟に体を逸らす様にしてバックハンドで受けるが、先程とは異なる軌道なのもあり、面で当てるので精いっぱいだった。そんな球はろくにコースも調整されず、すぐさま前へと詰めた陸空によって叩かれた。
ドンと陸空の踏み込む足音と共にシャトルはコニーの顔の横をすさまじい勢いで横切った。
そう、174㎝近くあるコニーの顔と同じ高さでシャトルが飛んで行ったのだ。
結果は見ずとも分かるが、一応線審をしてくれていた子へと視線を向ける。案の定アウトのポーズと取っており、シャトルは一番後ろの線、バックパウンダリーラインからラケット一本半近く後ろに飛んでいる。
「ああ!?またやってしまったぁ!」
「(…弦羽早が前衛担当だったのがちょっと分かるかも)」
ノビ、角度、重さ、速さ。それらを使い分けできるスマッシュのクオリティに比べ、ハイバックを除けばそのレベルは全国一位というにはまだ甘さがある。ただ前述の通り、スマッシュのクオリティは桁違いだ。
弦羽早のレシーブ力もあのスマッシュを受けていたらと思うと納得がつく。もっともそれだけで無い事は当然コニーも理解しているが。
「(弦羽早も特別前衛向けじゃなかった。それでも前なのはこいつがいたからね)」
弦羽早は全国トップレベルで見れば、そもそもトップアンドバック自体があまり向いていない。彼の得意なのはサイドバイサイドからの徹底的な守備で、カウンターから崩してじっくり攻めていくこと。
「(…なるほど、確かに私とは相性がいい。このスマッシュに対して並みの選手はロブは勿論ドライブだってできない。大抵は当てて前に落とすだけ。私は前でプレッシャーをかけて、甘い球を誘い出しコイツが打つ。その逆だってできる。だけど少々ピーキーなプレイヤーね)」
この何回かのラリーを通して分かったのが、彼は特別大きな弱点がある訳ではないが、平均的な性能で言うなら弦羽早より低い。だがことスマッシュに関しては全中一位を言えるほどの質を持っている。
最強の矛と最強の盾。これだけ言うと強そうに聞こえるが、トップアンドバックの時は弦羽早の強みは活かせず、サイドバイサイドの時は陸空の強みが活かせないちぐはぐなコンビだ。
弦羽早が神奈川に帰ると言った時、さしてコンビ解消を残念がっていない二人の姿は想像しやすい。お互いパートナーとしてやるよりも、相手として戦う方が合いそうだ。
コニーには特質すべきプレイスタイルというのは存在しない。どれにおいても一級の質を持つオールラウンダー。
だが性格上、彼女は守りよりも攻めるのが好きだ。
勿論大好きなママである有千夏に守りを中心に戦えと言われたらそれができるのがコニーだ。
「とりあえずアンタの実力は分かったわ。申し分ない。実際にペアを組んで、問題なければ明日にでもエントリーできるくらいに」
「ほ、ほんとうですか?良かったぁ。コニーさんの評価基準は厳しいから覚悟しておけって弦羽早君に言われてて、冷や冷やしてましたぁ」
「…アンタって見た目だけじゃなくて口調もやわっちぃのね」
「コニーさんがお好きであれば今すぐワイルドな口調にもなれますよ!」
面倒な話の種を撒いてしまったなと、にじり寄ってくるアンバランスな男にコニーは一歩後ろへ下がる。
「…え、遠慮しとくわ」
「ではどんな口調がお好みで? 俺様タイプでしょうか、はたまた王子様系か、もしかして年下系とか――」
そのどれもがお前に似合わないだろうというツッコミをフレ女メンバーが入れる前に、"彼女"によってその軽口は閉ざされた。
「おやおや、金城。コート内でウチの子をナンパするとは随分偉くなったみたいね。お姉さん感心感心」
刹那、ビクンと陸空の肩が大きく震えると共に、地面に触れたラケットが振動し、カタカタカタと規則的な音を鳴らす。
ギギギと何年も油を付けていない錆びたブリキ人形を連想させるほどに不自然な挙動で、陸空はゆっくりと振り向いた。
肩に毛先が軽く掛かる長さの黒髪。細身の体。瞳の大きさ、眉の長さ、口や鼻の形状は整っており、コニーは別格としても、間違いなくこの部の中でもトップクラスの美人に入る美形。
髪を耳に掛ける仕草は彼女の癖なのかあるいは余裕の現れなのか、中学校時代となんら変わりない。
その美しさはバドミントン部男子の半分近くが、彼女からのバレンタインの10円チョコのお返しに、中学生にとっては重い1000円近くの出費をも厭わない。
あの一途な弦羽早でさえ、彼女には誕生日もクリスマスプレゼントもホワイトデーも欠かさずに送り、彼女が卒業する日には、卒業生含め部員たちが十人十色の思いで泣き出すほどに彼女は慕われていた。
「こ、こここんにちは、志波姫先輩。きょ、今日もとてもお美しいですね」
「ふふっ、お世辞でも嬉しいよ」
「お、お世辞なんてとんでもないです!」
彼女が一歩詰めるごとに一歩後退する陸空の姿は、この間の弦羽早を連想させる。
「改めて言うよ、金城。君は、いつから、このフレゼリシアのコート内で、ウチの子を口説けるほど偉くなったんだい?」
「ひぃっ!? お、お願いですコニーさん!も、もうあんなことは言いません!真面目にバドミントンだけします!だから助けて下さい!」
「え、え~…」
涙を流しながらコニーの生足にしがみついてくる陸空の姿は、いっさいの下心なく心の底から救いを求めていた。食べ物を求める乞食や、飼い主を求める捨て犬のように。
コニーも唯華に握られた弱みは一つや二つではないが、これは弦羽早以上の反応だ。
確かに中学生男子というのは何かと黒歴史を持つものだが、いったいどれほどの弱みを握られているのか。
コニーは改めて言わずとも性格は良くない。有千夏の娘だけあって、方向性は違うがその辺りも受け継いでいる。
だからぶっちゃけ面白いというのが偽りなき本音だが、こと同じく唯華に弱みを握られている者としては少し同情する。
「(ここで助けずに一からペア探すのも面倒だし)」
「唯華、さっきのはちょっとしたジョークよ。そういった感情はコート内に持ち込んでないわ」
「…ふむ。コニーがそう言うのなら今回はそういうことにしてあげる。でももし、ちょっとでもウチの子達に変な目を使ったら――分かってるよね?」
「は、はぃぃ!」
ニッコリと笑みを浮かべる唯華に対して、陸空はコクコクと何度も頷き続ける。
唯華は他のコートの様子を見てくると二人の元を去ると、陸空はヘナヘナと崩れ落ちるようにして地面に倒れ込む。
いったい何をやったんだと訝し気な瞳で唯華の背中を見つめていると、一瞬彼女は振り向いてウィンクをした。
「(…これは借りにしないわよ。…ていうか)」
「あんた、なんで唯華がフレ女にいるって知らないのよ? 有名でしょ」
「ぼ、僕も聞いたんですよちゃんと!で、でも弦羽早君が、今志波姫先輩は海外に行ってるって……まさか!?」
「あ~、弦羽早も弱み握られてたみたいだった」
やっぱりコニー書くと前半のイメージになります。
中盤以降は有千夏と再会したのもあってか幼くなってて、なぎさ戦とか羽咲さん以上に書きにくすぎる。
あの子怖いわぁ。