好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された   作:小賢しいバドミントン

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原作前の話とかないです。
書けないです


私、バドミントンしたくない

中学生で早くも実家を離れ寮暮らしを始め、ひたすらバドミントンに打ち込み、そして引退してからは受験に打ち込み、ずっと待ちわびていた好きな女の子との再会。

この三年間の努力の源ともなっていたものは、無情にもあっさりと打ち壊された。

 

「やだ、私、バドミントンしたくない」

 

「…え?」

 

 

 

北小町高校。弦羽早の地元にあるごくごく普通の公立高校。時折有名な選手を輩出してはいるが、強豪校と呼ぶ程ではなく、バドミントンの推薦も取っていなかったので、慌てて受験勉強をすることとなった。

弦羽早が他の推薦を蹴ってまでこの学校に来たのは、他でもない羽崎綾乃がこの学校に来るのを、彼女の親友である藤沢エレナとの電話で知ったのだ。

綾乃とはあれから会えていない。弦羽早(つばさ)は中学二年と三年で全国に出ており、トーナメント表に記された綾乃の名前を一度見かけたが、タイムスケジュールの違いやそもそも男女ということで種目が違う事もある。

 

だが今日ようやく再会できる。高鳴る心臓、思わず上がってしまう口元を意識して抑え込むと、弦羽早は教室の扉を開き、室内を見渡した。こっちを向いた男子クラスメイトと「よろしく」と男子らしく雑な挨拶を交わす。

その一方、弦羽早の入室に、机にだらしなく腰かけていた女子は慌てて背筋を伸ばすよう立ち上がると、前髪を整えて、化粧したての笑顔で彼に少し甘い声であいさつする。

 

弦羽早はそれにも男子同様に作り毛のないナチュラルな態度で返しながら、窓際の席で肘を立ててうたたねしている綾乃の姿を見つけた。

 

三年ぶりの再会だがあまり顔立ちは変わっていなかったのですぐに分かった。小学校の時よりも髪は少し短くなっただろうか、肩甲骨辺りまで伸びていた髪は肩辺りまでになっており、ひょっとしたら一度髪を切ったのかもしれない。だが後ろ髪をゴムで結ぶスタイルは変わらないままだ。

 

小学校の時もコートの外ではほほんとした雰囲気を出していたが、三年の歳月はその雰囲気は減るどころか増しており、家の中でのんびりと日向ぼっこをするぐーたらな猫のようにも見える。

入ってきた好青年が弦羽早だと気付いたエレナはひらひらと手を振ると、すやすやと寝息を立てている綾乃の背中をつついて起こす。

 

んあ?と華も無く綾乃が起きる。

 

「入学初日から寝るなんて相変わらずだね、羽咲」

 

綾乃にとっては聞きなれない低い声に、ごしごしと目をこすりながら見上げると、爽やかな好青年が笑みを浮かべて立っていた。

 

「…だ、誰?」

 

インターホンに映る知らない大人を警戒するかのような視線と声に、弦羽早は苦笑し、その様子を綾乃の背中から見ているエレナは声に出さないように笑う。

 

「俺だよ、秦野。秦野弦羽早」

 

「秦野って、あの?」

 

「うん、その秦野で間違いない」

 

「わー、久しぶりだ」

 

「そうだね。ほんと、久しぶりだ」

 

綾乃の記憶にある秦野弦羽早は教室でぎゃーぎゃー騒いでおり、よく男子の中心にいた悪ガキという言葉が似合う風貌の少年だった。確かに一緒にバドミントンをやるようになってからは落ち着いたかもしれないが、少なくとも爽やかさの欠片もなく、目の前の男子の雰囲気とは似ても似つかない。

 

「その羽咲、覚えているかい?卒業式に言ったこと」

 

「ん?」

 

「あはは、やっぱり…」

 

覚悟していたとはいえ、純粋無垢な笑みで、なんだそれ?と首をかしげる姿に、傷つかない男はいないだろう。

しかし同時に弦羽早は、三年前の自分のファインプレーに心の内でガッツポーズをしながら、カバンから取り出した紙を綾乃の机に置いた。

紙は折り目も皺もあり、ついでに書かれた字も汚い杜撰なものだったが、それでも綾乃の能天気な記憶を呼び覚ますには確かな効果があった。

 

サーと綾乃の表情が目に見えるくらいに青くなる。

おそるおそる弦羽早を見上げると、エレナに貸してもらった少女漫画に出てくる先輩キャラのような、キラキラとした笑顔を浮かべていた。

 

「え、えっと…」

 

「ん~、なになに。秦野弦羽早が全国で一位になったら高校でミックスダブルスを組むのを誓います。羽咲綾乃」

 

後ろの席のエレナが身をより出して契約書の内容を音読する。

なるほど、卒業式の日に二人で話し合って何か書いていたのはこれだったのかと、三年越しの謎が解明し一人勝手に納得する。

 

「え?てことは全国一位なったの?」

 

「うん、といっても個人じゃなくて団体なんだけど、ちゃんとスタメンだよ。はい、これが賞状」

 

弦羽早が次に取り出したのはチームとは別の個々に渡される賞状。そこには確かに男子ダブルス団体戦の全国優勝の賞状で、弦羽早の名前が刻まれていた。

 

「そういうことだから……だから羽咲!俺とミックス出て、一緒に優勝しよう!」

 

『おおー!』

 

『きゃー!』

 

入学初日からの熱い告白(のようなもの)に教室から男子からは関心の声が、女子からは黄色い声が上がる。その中には同じく小学校からの同級生の三浦のり子の姿もあった。

 

弦羽早には自信があった。それは契約書があるからという合理的な自信ではなく、この三年間で努力によって磨き上げて来た自信。小学校の時よりも多くの負けを経験し、同時に沢山の相手と戦い、そして全国大会の決勝で団体戦のダブルスのスタメンとして、強敵を相手に勝ち続け、勝利に貢献した。

多くの相手と出会って、内面的にも少しは成長できたと自負している。

その努力の証こそがこの賞状であり、今なら綾乃のパートナーとして恥ずかしくない強さを持っているという自信。

 

「…やだ」

 

だからこそ、駄々こねる子供のような口調の返事に耳を疑った。

 

「え?」

 

「私、バドミントンしたくない」

 

「……えええっ!?」

 

 

 

 

めでたくフラれたことになっている弦羽早は、入学式を終え自由時間に入った頃にはクラスメイトの男子たちから優しく歓迎されていた。入室時に女子の注目を浴びていた爽やかイケメンということもあり、弦羽早の肩を叩く男子生徒たちは嬉しそうだ。

 

「元気出せって秦野。まだ高校始まったばかりだぜ」

 

「入学式前に振られるとは北小町史上、最短記録だな」

 

「失恋じゃないって!そもそも告白とかじゃないから!それにしたって羽咲、バドミントンしたくないなんて、なんで…」

 

チラリと綾乃の方へと向けると丁度視線が合い、彼女は慌ててそっぽを向いて音の鳴らない口笛を始める。あそこまでベタなのも清々しく、弦羽早を含め周囲の男子達も白い眼を向ける。

 

しかし、と弦羽早は机を腰かけにして顎に手を当てる。

 

「(あの羽咲がバドミントンしたくないってどういう事だろう?あれだけバドミントン一筋だったのに。そもそもこの北小町だって、特別バドミントンに力を入れているわけじゃ…)」

 

いや、そもそも今の綾乃にはどこか違和感があった。中学生という多感な年頃を越えたのだから小学校の頃と全く変わっていないと、そんな乙女チックな事は微塵も考えていない。自分だって随分と変わった自覚はある。

だからこそ変わったというよりも、抱くのは違和感。

 

事情を聴くならやはりエレナか。綾乃の進学理由は間違いなく彼女がこの学校を選んだからだろうし、小学校の時から綾乃はよくエレナと一緒にいた。今もエレナの机に綾乃とのり子の三人で話している。

 

弦羽早は勇猛果敢にもガールズトークを繰り広げる女子の中へと歩み寄り、まず初めに綾乃と視線を交えたあと小さく笑い、エレナの名前を呼んだ。

 

「藤沢、ちょっと話いい?」

 

「な~に、綾乃にフラれたから私にしようってわけ?」

 

「これでも自分では一途な方だと思っているよ。聞きたいことがあってね」

 

「エレナが行くなら私も―――」

 

さも当然のように続こうとする綾乃に、エレナは小さくため息を吐いた後、彼女の額にデコピンを打つ。ボンと鈍い音を奏でる一撃は、綾乃の反応を見ても本気で痛い時に出る音だと判断できる。

 

「ッ――!?」

 

「少しは空気読みなさい」

 

額を抑え涙目になりうずくまる綾乃を横目に、エレナは長い髪を靡かせて廊下へと向かう。

 

先程の綾乃への一件が無ければ、弦羽早が男子達の嫉妬の目を集める程に、エレナは昔よりもずっと美人になっていた。

ただ今弦羽早の元へ注がれる男子の視線は嫉妬は込められておらず、生暖かい優しい眼差し。

フラれてなお、何とか綾乃に近づこうとする一途な男の子に見られているのだろう。実際その通りなので失笑するしかないのが惚れた弱みか。

 

エレナの長い髪に続く様に廊下に出ると、彼女は壁に背を預けた。

 

「話、綾乃のことでしょ?」

 

「うん、どうしてバドミントンがやりたくないって」

 

「私じゃなくて本人に聞けば」

 

「羽咲は…ちょっと癖があるっていうか、個性的って言うか――」

 

「変わってる」

 

弦羽早がどうオブラートに包もうかと言い淀んでいる中、もっとも彼女に合った容赦のない一言が挟まれる。

意中の相手が変わっているのには重々承知しており、少年はうんと苦笑しながら頷く。

 

「性格面でもバドミントンの実力的にも、ね。だからまず藤沢に聞きたくて」

 

「ん~」

 

窓から吹き込む風に靡く長い髪を弄りながら、エレナは考えるように小さく喉を鳴らす。

 

「よく分かんないんだよね。私も部活あったしさ、あの子は学校じゃなくて別のところでやってたし」

 

「ほんとに何も?」

 

「うん」

 

エレナが綾乃の事を大事に思っていると言うのは重々理解している。だからこそ綾乃がエレナに懐いていることも。

だが久しぶりに再会した弦羽早から見れば、エレナの綾乃に対する興味はどこか冷めている様にも見えた。

 

 

 

放課後。綾乃を呼び出して話をしようとしたが、その前に窓から木を伝って逃げられた為、問い詰めるのは明日にしようと素直に諦めた。あの猿のような動きは衰えるどころか、この三年でパワーアップしていたらしい。

因みに彼女の人間離れした身体能力に、クラスメイトは口を開いており、これで小学校の時のように、第一印象から綾乃が運動できないという思われることは無くなっただろう。

 

弦羽早は別館の体育館へと向かっていた。

 

北小町高校バドミントン部。

バドミントン進学校ではないが、数年に一回、時々大きな結果を残し、近年ではトップランカーである赤羽選手を輩出したことから、全く力を入れていない訳ではない。体育館の使用頻度は他の室内スポーツに比べると多く、どちらかと言えば優遇されている方ではあった。

 

その為他の部活の平均よりは賑わっているというのが弦羽早の予想だったが、体育館の扉を開くとそこは活気とは程遠い静けさで、ごく普通の体育館なのに殺風景にすら見えた。

 

体育館の中にいたのは僅か七人。その内一人は髪を金色に染めている事からコーチであるのは見て取れる。つまり生徒は六人、男子に至っては二人しかいなかった。

 

「…あの、入部希望なんですが」

 

「おおおお!新入生か!」

 

金髪のコーチらしき人物が土煙を上げるかの如き勢いで弦羽早の元へとやってくると、手を引いて体育館の中央へと引っ張る。

 

「いやー、よかったよかった!ただでさえ少ないのに新入部員も来なかったらどうしようかと思ったんだ。見たところ経験者のようだし」

 

金髪の男性は弦羽早が抱えているバドミントンバッグをチラリと横目で見ながら、それはもう満面の笑みを浮かべていた。

あれこれ質問する間もなく、集合している六人の部活性の前に立たされた弦羽早は、新手の新人苛めかと内心苦笑しつつ、六人をそれぞれ見つめて特徴を掴む。

女子は四人で、胸の大きい背の高い短髪、明るく元気そうな前髪を上げてまとめた子、物静かそうな糸目、眼鏡を掛けたロングヘアー。男子は二人で、物静かな糸目と天然パーマの活発そうな男子。

中々個性的で、特徴だけならすぐにつかめそうだ。

 

「俺はコーチの立花健太郎。男子は伊勢原、葉山。女子は荒垣、海老名、伊勢原、泉だ」

 

「…これで、全員ですか?」

 

「え~と…」

 

しみもどる健太郎をよそに、部員全員がコクンと一斉に頷いた。

部活の人数=強さとは言わないが、しかし練習相手は多い方が良く、パターンにも幅が出る。しかしこれは、練習パターンはおろか、団体戦にすら出られないレベルだ。

僅か数年でここまで廃れるものなのか。変な汗を流しながらも爽やかな笑みを壊さない。

 

「秦野弦羽早です。小学校一年からやってて、中学は宮城の日城(にちしろ)です」

 

「日城?日城って、あの日城か!?」

 

「コーチ、知ってるんですか?」

 

声を荒げる健太郎に、その日城だと小さく頷いて肯定する。綾乃と会った時も似たようなやりとりをしたなと思いながらも、母校を知る者がいて少し誇らしげになる。

 

「去年の全中団体で優勝だ。ダブルスも二位だった筈。待てよ秦野、秦野…二刀流の?」

 

「はい」

 

弦羽早は中学時代に何度かバドミントン雑誌やテレビなどの取材も受けた経験がある。無論中学時代からも、彼より強い選手はたくさんいるが、その特殊なプレイスタイルは良くも悪くも話題になりやすい。

 

「これは凄い新人が来てくれたぞ!練習の幅も広がりそうだ」

 

「伊勢原、まさかの男子バドミントン部に期待の新人だぞ!」

 

「…ダブルス、俺達のどちらか落ちるな」

 

「はっ!?」

 

二人しかいない肩身の狭い男子バドミントン部は新入部員に喜ぶのも束の間、伊勢原兄のボソリと呪詛のように淡泊な言葉に、葉山の天然パーマが大きく揺れる。

 

「いえ、自分は男ダブで出る気なくて」

 

「ん?秦野はダブルスメインだよな。高校からシングルに力を入れるってことか?」

 

「いえ、勿論出るつもりではありますが、シングルスはどうも。高校はミックスで優勝するって決めてるんです」

 

一瞬なるほどと頷きかけた健太郎だが、それより先に疑問が浮かぶ。確かにシングルスではなくミックスに力を入れるというのは分かる。だがそれなら、北小町(ここ)よりももっと強豪校に行くべきだ。それこそ中学と同じ宮城に拠点を置いていれば、あそこにはフレゼリシア女子短大付属高校がある。あそこの生徒と組めば、まさに鬼に金棒だろう。こんな男子部員はおろか、女子部員さえ四人しかいない高校に入る道理はどこにもない。

 

「ミックスか。確かに前からやってる葉山と伊勢原には組んで出て欲しいからそれは助かるが、なら他にパートナーにあてでもあるのか?」

 

男子校、女子校とあるなかでミックスは少々特殊であり、同じ県内の生徒であればペアを組んで公式戦に出るのが許可されている。その分、出場枠も限られており、どの県も優勝者しか全国に上がれない。

 

見たところうちの生徒達に知り合いはいないようなので、県内に伝手がいるものと健太郎は踏む。

 

「それがここの生徒なんですが…。そうだコーチ、今女子部員も少ないですよね?」

 

「ああ…。ついこないだ…八人…辞めちまってな…」

 

あからさまに声と肩が沈み、ついでに顔色も悪くなる健太郎に、眼鏡を掛けたロングヘアーの少女、泉理子が背中をさする。

 

「一人、すっごい才能持っている子を知ってるので、一緒に勧誘しません?」

 

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