好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された   作:小賢しいバドミントン

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デレ咲さんになっても相変わらずミントンやってます。

デート回なんぞ知らん


あとデンマークオープン始まりましたが、まだ試合も結果も見てないのでどうなってるかは知りません。

実際コニーの世界ランクってどれくらいなんでしょう。




リアクションステップ

「怠い…」

 

麗暁(リーシャオ)紅運(コウウン)との死闘の翌日。弦羽早は疲れの取れない体で、男子シングルスの地区予選会場に足を運んでいた。

たかだが21点の1ゲーム。小学校二年、綾乃に憧れてバドミントンを始めてからほぼ毎日動かし続けていた体はその程度で悲鳴を上げるはずがないが、何事にも例外がある。

 

絶対に負けられない試合の相手が世界最強の二人。

 

体全身働かせ、脳をフルスロットル、全神経を集中させ、最後には感情を爆発させてようやく勝ち取る事ができた試合。あれ程の疲労感を覚えた試合は中三の決勝を含めても初めてかもしれない。

 

おかげで手足に上手く力が入らず、疲れているのか口は甘いものを欲し、頭がボーとしてやる気が出ない。

これでも昨日寝る前までは有千夏と再会した事、世界ランク一位に勝った事、そして何より綾乃を自然と名前呼びできるようになってハグもしたことでテンションが上がって勢いに乗っていた。

上がり過ぎて寝れなかったのが間違いなく不調の一番の原因だろう。

 

「おい秦野大丈夫か~?」

 

「…体調、悪そうだな…?」

 

試合を共にする行輝と学がラケットバッグを猫背で背負う弦羽早へ語り掛けるが、覇気のない返事が返ってくる。これが別の高校の選手であればライバルが減った事に喜ぶべきだろうが、北小町期待の新人が一回戦負けとなれば笑い話にもなりはしない。

おかげでその一歩後ろでそのやり取りを見ていた健太郎は朝早くから頭を抱えていた。

 

「(おいおい!なんで昨日世界ランク一位に勝ったのにそんなにテンション低いんだよ!羽咲ともいい雰囲気になって至れり尽くせりじゃねーか! 不味い。完全に予想外だぞ…。確かに昨日の試合は限界以上の力を出し切ってたが…)」

 

何でこうもうちの新人二人は強い癖に変な傾向があるのかと内心絶叫しながらも、半分は冷静な自分を保って何とか弦羽早のモチベーションを上げる方法を考えようとしたが、徒労に終わった。

 

「弦羽早!」

 

男子三人と健太郎の背中から少女の声が聞こえる。聞き覚えのあるがその明るいトーンに、行輝は違和感からギョッと目を見開く。学もまた口を数ミリ開いた為一応驚いているのだろう。

 

弦羽早の名前を呼び止めたのは、制服姿の綾乃だった。半袖のシャツから露出した腕や太ももに湿布が貼られていることから昨日の疲れが残っているのが分かるが、その表情は明るかった。

 

「羽咲!?」

 

昨日アリーナを出たあと、気絶するように眠ったため今日は家にいるものとばかり想像していた彼女の姿に、弦羽早は思わず癖で苗字が出る。

呼び方に不満があったのか、彼女は眉を寄せて目を細べながら。

 

「ちゃんと名前で呼んで」

 

「え? あ、綾乃…。その、大丈夫なの? 家で休んでた方がいいんじゃ…」

 

筋肉痛になっているのか綾乃の歩き方は少し不自然で歩幅も狭い。とにかく綾乃の事となると挙動不審になる弦羽早はオロオロと彼女を心配するように歩み寄る。

 

因みにここまでは店の従業員が送迎してくれたのか、見覚えのある車種が校門の前を横切ったがそれに気づく者はいなかった。

 

病気の子供を心配する親のような弦羽早に、綾乃は目をパチクリさせたあと、小さくクスリと笑みを浮かべた。どこかゆとりのあるその仕草と雰囲気に、ついには学も瞬きを繰り返す程で、行輝に至っては空いた口が塞がらない。

 

「確かにちょっと辛いけど大切なパートナーの試合なんだよ? 応援するに決まってるよ」

 

「え…? もしかして、応援に来てくれたの?」

 

「うん!頑張ってね!弦羽早なら絶対、シングルスでもインターハイ行けるよ!」

 

 

 

 

アリーナ中で行われる10の試合は体育館中に音を響かせるには十分な音源であった。シャトルの音、フロアを蹴るシューズの音、審判のジャッジに声援。

 

二の句が続かないとはまさにこの事だと健太郎は呆然とそのコートを見下ろしながら思う。今朝弦羽早を心配した彼ほどではないが、なぎさを含む女バドメンバー全員も彼と似たような心境だろう。

 

「シャアッ!」

 

他の試合の音を掻き消さんとばかりの激しいスマッシュが対戦相手のコートを突きし、グッと拳を握って掛け声を上げる弦羽早を見れば、普段の彼を知る人物が口を開くのは当然だった。

 

弦羽早はまさにノリに乗っていた。初戦から三年生が相手だったがそんなものはお構いなしと2ゲームストレート勝ち。続く二回戦も同じく1ゲーム落とさずの快勝。

 

「ほんとどうしたのバッサー…。いや、それを言うならあやのんもだけど…」

 

「ナイッショー弦羽早ー」

 

さしてやる気の感じられない声援を送る隣席の綾乃を横目でチラリと見る。

悠だけでなく、昨日の試合を見ていない健太郎となぎさを除く面々は疑問ばかりが浮かぶ状況だ。

 

「…綾乃がなんで秦野を名前呼びかは知らないけど、あいつの絶好調の理由はまあ」

 

全員の視線がコートで行われてる試合を集中して見ている綾乃へと集まる。

素人目から見ても絶好調の弦羽早だが、余りにも単純過ぎるだろうと、勝っているのにも関わらず冷めた視線を同校メンバーから浴びていた。

 

 

 

それから短針が1時を周り、激しい点数差がつく試合も減ってきた頃、弦羽早とまで好調とは行かずとも学も行輝も順調に勝ち進んでいた。

三人しかいない北小町男子バド部全員が残っているというのもあり、少なからず他校の注目を浴びていた。

彼等の他の注目選手は、やはり女子同様、港南高校と逗子高校のメンバーが頭角を表している。

 

次の行輝の相手はその二つとは別の高校ではあるが、去年高校一年でベスト4入りの実力者というのもあり緊張していた。

弦羽早の対戦相手は港南の二年、学は逗子の三年と当たることとなっているが、どちらも団体戦レギュラーメンバーであるがエースではない。

 

「次の試合作戦あるの?」

 

「今日調子がいいからそんなには。でも遅い展開が好きみたいだから、序盤低めでいくつもり」

 

もう間もなく今日最後の試合ということで、綾乃に背中を押してもらい足を伸ばす。

寝不足気味の弦羽早だったが、今日はほとんどの時間綾乃が隣に居てくれ応援してくれるおかげで、エンジンは衰えることなく稼働し続けている。ただ自分でも一時的なものであると自覚はあったので、待ち時間中も意識して休息は取っていたりと自己管理は忘れていない。

 

「綾乃はどう思う? シングルの公式試合って久しぶりだから先輩として」

 

「私は…動かした方がいいと思うな。今日は弦羽早動きも速いし、無理して決めにいかなくていいんじゃない?」

 

バドミントンには試合のラリーの速さというのが当然存在する。シングルもダブルスもミックスでもそれは例外ではないが、基本的にシングルの方がラリーの緩急が激しい。というのも、ダブルスはコートに二人いるため甘い球は叩かれやすくなり、自然ネット寄りの配球が増えてくる。一方シングルは多少角度が甘くとも相手のいないコースを狙えば叩かれる可能性は少ないので、プレイヤー同士の駆け引きによって速くなったり遅くなったりと変化が大きい。

 

「そっか。確かに調子的にそっちの方がいいかも」

 

「でも弦羽早は緩急の付け方が得意だから、ラリー毎に上手く相手が嫌なペースに持っていくのが一番だよ」

 

「そのペースを見抜くのが難しいんだよね」

 

その辺りの読みが出来るのは志波姫や薫子といった頭脳派と、綾乃やコニーのような直感派であるが、弦羽早はプレイヤーとしてコートに立つとそこまで頭が回らず、かといって直感でラリーのテンポを変えられるセンスもない。

中学時代ほとんどダブルスオンリーであったのも原因の一つだろう。

 

まだまだ改善すべき課題は多くあると、前屈のストレッチをしながら苦笑する弦羽早の耳元に背中を押してくれている綾乃の吐息が掛かる。

 

「じゃあ私でいいなら今度教えよっか? 感覚頼りだからそんなに為にならないと思うけど」

 

「う、うん…。す…凄い助かります…」

 

「な、何で敬語?」

 

男同士でアップをする彼女のいない面々から嫉妬の眼差しを向けられながら、それに気付かぬ弦羽早は思う。

 

「(俺、明日死ぬんじゃないかな)」

 

 

 

 

『ポイント!12 - 7』

 

先にインターバルを取り、続くポイントも獲得。序盤こそラリー毎にサービスが変わる展開だったが、これで4点連続ポイントとなる。

 

「やっぱり調子いいね、弦羽早君」

 

「ああ、しかもスマッシュが明らかに速くなってる」

 

理子の呟きになぎさも視線をコートから逸らさないまま小さく頷く。

なぎさが昨日の二人の試合を見出したのはインターバル前からだが、ある瞬間を境に弦羽早のスマッシュが一段階上のものになったことになぎさはすぐに気づいていた。

一瞬で身体に変化が起こり得る訳がないので、何かコツを掴んだのは間違いないが、そのコツが見抜けない。

 

ただ周りより集中して弦羽早を観察している分、彼のプレイの変化には気づいていた。

 

「それに秦野はただ調子がいいだけじゃない。あいつ、ステップが変わってる」

 

「えっ?そうなの?」

 

そう言われて理子はシャトルよりも弦羽早の足元に視線を集中させるが、動きが速くなっているのはなんとなく分かるが、足の動きの違いまでは分からない。

 

「ああ、そもそもあいつの出はちょっと違和感あったからな。いや、変じゃないんだけど上級者らしくはなかった」

 

「ごめんなぎさ、私にも分かるように教えて」

 

「あいつ、リアクションステップじゃなかったんだよ」

 

リアクションステップ。スプリットステップとも言われる技術だが、内容はそこまで大げさなものではなく、相手が打つ瞬間に膝を一瞬下ろす、あるいは軽くジャンプをすることで次の球に備える動作だ。

 

最速の競技のバドミントンにおいて出の遅さはそれだけでハンディになるが、しかし予想とは意図せぬコースに飛んで来る事など日常茶飯事。

その為棒立ちで立っておくのではなく、相手が打つ瞬間に跳んで、地面を蹴る力を利用してスタートダッシュを速くする。これは中級者以降になれば相手が打つ度に無意識に行っている。

 

弦羽早はこれまで有千夏に言われどんな球でも重心の移動から始めており、それが出の遅さに繋がっていたが、綾乃とのダブルスで意図せずリアクションステップを使う機会が複数回あり、その時の感覚で今も動けているのだろう。

 

理子も中学校からバドミントンをやっているのでリアクションステップの大まかな概要は知っているし実際に行っているが、改めて弦羽早の足元を見ると自分のそれとは僅かに違うように見えた

 

「でも普通とちょっと違う気が…」

 

「あ~、私も詳しくないけどリアクションステップにもいくつかあるらしくて…」

 

バドミントンの勉強が嫌いではないが、しかし習うより慣れろを素で行くなぎさは基本忘れっぽい。それは綾乃にジャンピングスマッシュを教えるときの説明を見れば、火を見るより明らかだ。

 

今聞くより後で健太郎にでも聞けばよいかと、頭をかくなぎさからの説明は期待できないと判断した理子だが、後ろから特徴的な口調のアニメ声がその疑問に答えてくれた。

 

「片足リアクションステップですわ」

 

「芹ヶ谷!?」

 

「芹ヶ谷さん!?」

 

「げっ…薫子ちゃん…」

 

それまで試合をジッと見ていた綾乃も、先輩二人の声に振り向くや、そこにいる派手な顔立ちの少女に眉をピクリと動かした。

 

「…あなたたち、昨日あれから何があったんですの?

今朝から時折見かけましたがイチャイチャイチャイチャ、悪い夢でも見ているようでした」

 

私服のスカートを揺らしながら綾乃の後ろの席に腰を下ろす。彼女の脳裏には、今朝から見かける度に一緒にいる弦羽早と綾乃の姿が浮かび上がる。

 

薫子はあれから綾乃が怪しい老人ことヴィゴに連れていかれた事は知っているがそれだけで、だからこそ綾乃の変化には度肝を抜かれていた。

 

「…そんなのじゃない。ただ、弦羽早は私を大切なパートナーだって言ってくれて、私もそう思えるようになったの」

 

「…まあ、いいですわ」

 

昨日のダブルスの話をしてないため答えになっていなかったが、綾乃が皆まで言う性格でないのは理解している。

綾乃もまた薫子に対して、自分の変化を伝える義理もないので、まるで彼女がいないかのようにまた弦羽早への応援に戻った。

ただその空気は明らかに先程よりかは冷たい。

 

「…そ、それでも芹ヶ谷さん! 片足リアクションステップって?」

 

二歳年下の二人の重い空気に耐えきれず、理子が話題を切り出す。

 

「あぁ、説明するなら特別大したものではありません。そのまま、両足ではなく片足で着地するリアクションステップです。ご覧なさい、珍じーー秦野弦羽早は着地する瞬間に、蹴るのとは反対の足を僅かに上げてあえて片足で着地しているでしょう?」

 

珍獣と言おうとした瞬間に綾乃の黒い横目がこちらを向き、薫子は一度こほんと咳払いをして言い直す。

 

「…こ、細かすぎて分からないけど言われてみればそんな気が…」

 

跳ぶと言ってもほんの微量の跳躍なので、上から見下ろす形となる応援席からでは見えにくい。理子は眼鏡越しに映る弦羽早をよく観察するが、確信が持てるほどではない。

 

「片足で着地する利点は一歩目を省略できる分、両足で着地する時よりも出が速くなる。デメリットは向かう方向とは反対の足で蹴らないといけない為、踏む足を間違えると大きなロスになる」

 

「両足はグッタタンって感じで、片足はタタンって感じだよな」

 

「…荒垣さんは何を言ってますの?」

 

「気にしないで。いつもの事なの」

 

まるで幼稚園児を見るような生暖かい瞳に、なぎさはカッと顔を赤くしてすぐに項垂れる。

 

よい選手がよい指導者になるとは限らないの同様、教え方が上手いからと選手として強いわけではない。

そう自分に言い聞かせるようにぶつぶつ呟くなぎさを無視して薫子は話を続ける。

 

「ほとんどの人が両足なのは単純にリスクが低いから。泉さんは利き脚も右だと思いますが、フォアに来たからと咄嗟に左足で蹴ってそのままブレずに踏み込めますか?」

 

「ノックなら行けると思うけど試合中には難しいかも……そっか!」

 

「片足リアクションステップはあの奇妙な両利きとマッチしている。勿論片足リアクションステップを使えるプレイヤーは普通にいますが、基本両足との使い分け。あんな風に毎回片足とはそうできません」

 

「す、凄いね…」

 

実行している弦羽早は当然だが、それを読み取れる薫子の観察眼に対しての称賛でもあった。

なぎさも見るだけならできていたのだが、それを説明するとなると薫子に軍配が上がる。

 

「あれ? ていうことは弦羽早君ができるってことはもしかして?」

 

「…ええ、羽咲さんも当然そうですわ。どちらかというと使い分けタイプですが、片足をメインに使っています」

 

薫子はじっと、目の前の綾乃の後頭部を見つめる。

 

理子には説明する気はないが、綾乃がいることによるゲームテンポの速さは単に片足リアクションステップが原因ではない。

確かに片足リアクションステップは両足より難しくはあるが、理子がノック練習ならできそうと言ったのは自意識過剰ではなく、慣れれば誰でも習得できる。

だが先程も言った左右の足の使い分けを間違えると大きなロスになるため、両足の着地の方がリスクが少ないのでそちらが主流なのだ。

 

綾乃のタッチの速さは、打つ前に片足リアクションステップを行える読みの鋭さ。

本来なら相手のシャトルの軌道を見てから着地して地面を蹴るが、綾乃はその読みで打つ瞬間とほぼ同時に蹴り始める。それで的外れの方へ跳ぶのなら笑い話だが、彼女のここ一番という時の鋭い読みは外れない。

故に、まるで予期していたかのように打った場所に彼女はいる。

 

「(ほんと、嫌になるくらいの天才ですよあなたは)」

 

「ナイスコ~」

 

他人の試合を応援する綾乃という、薫子にとっては奇妙な光景が視界に映る。

チラリと点数ボードを確認すると試合は20-13で弦羽早が勝っており、加えて相手のミスが目立ち始めた。まだ1ゲーム目だがもう勝敗は決まったようなものである。

 

相手のレシーブミスで弦羽早が1ゲームを取ると、薫子は席を立ち上がりなぎさと理子に一礼するとその場を去った。

チラリと後ろを振り返るが綾乃の頭はピクリとも動かない。やはり態度が柔らかくなったのは弦羽早に対してだけのようである。

 

「(秦野弦羽早があなたにどのような影響を与えるかは分かりませんが、それでより強くなるのなら上手くいくことを願っていますわ。ただ…絶対にあなたより先にわたくしが素敵な殿方をゲットしてよ!)」

 

ファンクラブまでいるこの自分が、あの綾乃に恋愛方面でも遅れを取るわけには断じていかない。

薫子は本来の目的である健太郎を探すため、応援席を周り始めた。

 

 




解説子ちゃんが頭角を現してきたな。この子便利。

ところで健太郎に惚れた設定いる?


それと綾乃の片足リアクションステップは原作でも時折そのシーンありますね。麗暁戦となぎさ戦でそのコマがあったと思います。
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