好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された   作:小賢しいバドミントン

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やっとデンマークとフランスオープン見終わりました。試合をある程度絞っても時間かかる…。
デンマークは全ての種目を世界ランク一位が独占するという大会で、やっぱり世界一位は母国以外の試合でも勝てるから世界一位なんだなって思いました。



マッサージしてあげる

「ありがとうざいっしたぁっ!」

 

「はい。ありがとうございました」

 

ネットの下で交わされる握手に綾乃は一瞬目を丸くする。試合中ミスショットが連発する程に苛立っていた相手がちゃんと挨拶をして頭を下げるのは、足元から鳥が立つ状況だった。

 

これまでの自分の試合を振り返る。その誰もが悔しそうに唇を噛み締めたり、涙を流すか、怯えた視線を向けてくるかだけで、あんな風に握手を交わした事など一度も無かった。

 

「(…違う、私が悪いんじゃない。だってあいつら弱くてすぐ泣きだすから。それに男子と女子は違う)」

 

そう自分に言い聞かせるようにこれまで戦ってきた相手を下に見て、綾乃は首を横に振った。

そして勝利者サインを書いて戻って来た弦羽早に手を差し出し、ハイタッチを交わす。

 

大丈夫、ちゃんと自分は弦羽早と共に勝ち続けている。

 

試合後の相手がどうなろうとも勝ったことに変わりはないのだ。

 

「おめでと、弦羽早!」

 

「ありがと。綾乃も流石」

 

「んじゃ次伊勢原の試合があるから行ってくる。次一時間以上空くからちゃんとクールダウンしとけよ」

 

「「はーい」」

 

「…ほんと仲良いなお前等」

 

綾乃と弦羽早、二人の背中を軽く叩くと健太郎は学の試合が行われるコートへと足を運んだ。

 

綾乃はチラリと弦羽早の横顔を見上げる。自分と違い彼は他の部活仲間の試合も応援している。ならこのままアリーナを出ずに学の試合を見に行くのだろうか。

 

それはハッキリ言って面倒だった。

パートナーである弦羽早の試合だからこそ綾乃は応援に来たのであって、学を応援する事に綾乃の中で価値を見出すことができない。無論彼から直に応援してくれと頼まれたら素直に応援に参加するが、当然そんなことを言うタイプでもない。

 

「綾乃、ちょっと休憩室に寄らない?」

 

休憩室。確か安いソファーやマットが並べられ、その隅っこに自動販売機があったのを思い出す。この会場で数少ないクーラーが効いていることから、選手は勿論熱さにやられた観客も集まる場所だ。

人が多い場所なのであまり行きたい場所ではない。

 

「ジュースでも買うの?」

 

「いや、ちょっとそこでマッサージしてあげる」

 

「…は?」

 

 

 

 

 

「あ~…そこ効くぅ~」

 

「や~っぱり張ってる。結構スマッシュ打ったでしょ」

 

この大会でもっとも注目を浴びている二人。その二人が決して広くない休憩室に入るだけでも室内にいる者の視線を集めたが、突然綾乃がマットに横になって、そんな彼女に弦羽早がマッサージを始めたら色々と囁かれるのは必然だった。

もっともそんなに広くない休憩室、中で囁く肝っ玉の据わった者はおらず、綾乃の”邪魔だ”という冷たい瞳に睨まれてそそくさ出て行った後で口を動かし出す。

 

弦羽早も綾乃の体に触りたいなど、そんな邪な気持ちは欠片も抱いていなかったのでどういった目で見られても気にはしなかった。周りよりも綾乃を優先する思考回路の為、周囲の目が気にならないと言うのは二人とも共通していた。

 

「だってさっさと終わらせたかったんだもん。あ~…」

 

背中に掛かる指圧に綾乃の口からだらしない声が漏れる。

いくら綾乃が一方的に勝ち続けていると言っても、これまで既に三試合、つまり6ゲームを行っている。決勝まで最短ゲーム数で勝ち続けたとしても、8ゲームを行わなければならない。

 

そして綾乃は連戦向けの選手では無い。プロの大会のように一日一試合であればともかく、連戦形式の高校試合においては必ず綾乃の弱さが足を引っ張ってくる。

 

「ほら、力抜いてリラックスして」

 

「ふぁ~い…」

 

「寝ちゃ駄目だからね?」

 

「…お~とも…」

 

バドミントンにおいて怪我をしやすいのは肩、背中、腰、膝、ふくらはぎと足首、そしてアキレス腱。

特にスマッシュは、バック後ろ(ラウンド)に来た球をスマッシュで打つ時背中を逸らせ、また打つ時も腰を捻る為上半身に来やすい。

 

弦羽早は体重を指に乗せながら、細い綾乃の背中を押していく。

 

「(あと二戦か…。荒垣先輩も絶好調だ。次に当たる石澤望にも多分今の先輩なら勝てる。荒垣先輩と戦うまでにどれだけ綾乃の疲労を抑えられるか)」

 

弦羽早はバドミントンバックから取り出し、現在広げている本に視線を見やる。それはスポーツ選手対応のマッサージ本で、それなりに使い古されていた。

 

「弦羽早、上手いね~。これ食べていけるよ~」

 

そこは選手として食べていけると言って欲しいが、せっかくの褒め言葉なので素直に受け取っておく。

 

「サンキュー。中学も陸空(りく)にしてやってたんだ。あいつはとにかくスマッシュ打ちまくるからよく張っちゃうんだよね」

 

「…中学のパートナーだっけ?」

 

「そうそう。そう言えばこないだコニーと陸空の二人からメールが来たよ。地区予選余裕の突破だってさ」

 

「陸空君は知らないけど、コニーちゃんが地区予選落ちとか考えられないからね」

 

弦羽早も頷いて相槌を打つ。

あるとしたら大会運営がミスをして唯華とコニーが地区予選一回戦で当たるくらいだろうか。もっとも同校、それも好成績保持者が同じブロックに入る事はあり得ないが。

 

「ねえ、コニーちゃんで思い出したけど、弦羽早って志波姫って人苦手なの? 何か弱み握られてるとか…」

 

あなたの写真が多く入ったフォルダを見られました、とは口が裂けても言えない。スマホを買って貰ったばかりでロックをしなかったのが全ての原因だった。あれ以降ちゃんとロックを掛けるようにしている。

 

弦羽早は苦笑しながらもマッサージを続ける。

 

「あの人はねぇ、優しくて厳しくて、頼りがいがあってドSなんだよ」

 

「…矛盾してない?」

 

「でもそれが不思議と自然なんだよね。二つ離れているから一年しか一緒にいなかったけど、女子は勿論男子にも慕われてたよ。まあ同じく男子には恐れられてもいたかな。でも中学から男女で別々の練習するようになって、そこでぶつかり合う事が時々あったけど、志波姫先輩がいる時は上手く纏まってた。決して女子優遇って訳じゃなかったから、あの人の意見は気持ちいいくらいにすんなり通ってた」

 

「…じゃあ弦羽早はあの人の事好きなの?」

 

「え? う~ん…リスペクトはしてるけど、お察しの通り俺も弱み握られてるからね。部活中の先輩は厳しくて好きだけど普段は苦手が勝るかな」

 

リスペクト。好きだけど苦手。

 

憧れている。支えになっている。

 

これまでの言葉から自分の方が弦羽早にとって大きな存在であると確信した綾乃は、うつ伏せのまま小さく口元を上げた。

 

「ただあのバドミントンIQの高さは凄いよ。一打一打全て考えて打っている誇張なしの正真正銘の天才。流石三強って言われてるよ」

 

前言撤回。綾乃の口元がすぐに下がる。

 

「…私とどっちが凄い?」

 

「綾乃って言いたいけど、綾乃と先輩の才能は両極だからね。俺じゃ優劣は付けられないかな」

 

ここはお世辞でも綾乃と言うべきか当然弦羽早も考えはしたが、バドミントンにおいて嘘は吐けない。物心つく前から培われた読みを持つ綾乃と、バドミントンのゲームスピードの中で一打のうちに無数の思考を張り巡らせられる唯華。

考えるバドミントンと感じるバドミントンの両極に存在する両者に優劣を付けられないのは、弦羽早は勿論、数多のバドミントン選手を見てきたヴィゴでさえも同じである。

 

だがそんな弦羽早の中のバドミントンに対する価値観は今はどうでも良かった。自分の名前が呼ばれなかったことに少しばかり腹を立てながら、ならばと綾乃は分かり切った質問を繰り出す。

 

「…じゃあ、私とその人が戦ったらどっちが勝つと思う?」

 

「勿論、大事なパートナーだって信じてるよ」

 

「ん、ならいいや」

 

弦羽早がそう言ってくれるのは分かっていた。でも言葉にしてハッキリと、取り繕った様子もない自然な口調で言われると心の持ちようが違う。

 

背中と腰を押していた弦羽早の指が離れると、押してもらった辺りが軽くなったのを確かに感じられた。

 

「(極楽…。これ普段もやってもらおうか――)」

 

頬が蕩けそうになって口から涎が出そうなのを堪えていた刹那、突然ふくらはぎに激痛が走り綾乃は大きく身体を逸らした。

 

「痛ッ!?」

 

「あ~! スマッシュに加えて必要以上に走ったな。ほら、ジッとして!」

 

「ちょっ!も、もうちょっと優しイダダダダ!?」

 

休憩室で繰り広げられるやり取りに利用客の、特に恋人のいない学生からの鋭い視線が突き刺さるが、相方の疲労を取るために集中していた弦羽早も、痛みに堪える綾乃も気付くことは無かった。

 

 

 

 

弦羽早のマッサージが終わった後、綾乃はハッキリと自覚できるほどに体の疲れが取れていた。特に重点的にしてもらった背中とふくらはぎはマッサージの前後で感じる重さが明らかに違う。

綾乃もお返しにマッサージをしてあげると提案したが、知識がないのと素の体力が違うからということでやんわり断られた。

それが少しもどかしく感じられたが、素直に男女の差ということで一先ずは納得する事にした。

 

その代わりと弦羽早は決勝で当たる可能性がある二人を見て欲しいと提案してきた。

現在丁度学を含めたベスト4を掛けた残りの試合が行われている。

 

健太郎から教えてもらった事前情報によると、今回決勝に上がってくる可能性がある他校の生徒は二人。

 

逗子総合の相模原涼(さがみはらりょう)と横浜翔栄の大井康太(おおいこうた)の二名。

この二人は混合ダブルスにもエントリーしており、ここまで勝ち上がる実力を持っているだけあり混合ダブルスも県大会出場が決まっている。

 

逗子総合の相模原は右利きの三年生。身長は180㎝を優に越えるかなりの高身長で、去年の男子シングル、混合ダブルス共に一位でインターハイ出場を決めている第一シードの優勝候補の一角。因みにダブルスのパートナーは女子シングルのエース、石澤望だ。

 

一方横浜翔栄の大井も右利きの二年生。去年はシングルスではベスト4だが、男子ダブルスで準優勝でインターハイに出場した同じく優勝候補。

 

このまま順当に行けば弦羽早と準決勝で当たるのは大井で、決勝は相模原か学となる。

 

綾乃は集中しているのか二つの試合を交互に観察する中、時折独り言を呟く以外は何もしゃべらなかった。

 

そして予想通りやはり相模原と大井がストレート勝ちで準決勝にコマを進める。その頃には学の試合も終わっており、準決勝で相模原と戦う事が決まった。

 

「…横浜翔栄の人は動きがかなり速くて粘りがある。フェイントは上より横か下が得意…なのかな? 見た感じスピードアタッカーだけど、シャトルが安定してる。さっきの試合みたいにただ緩急をつけてミスを誘うのは難しい。

背の高い人はやっぱり角度があるね。スマッシュも普通より手前に落ちるから取り辛いと思う。力もあるみたいでパワーのあるドライブが来るから、速い展開に対しても強く出れる。当然一歩が大きいからフットワークに余裕もある。

ゴメン、強みなら分かるけど弱点となると実際に戦わないと読めないかも」

 

「ううん。今の話だけでかなりの収穫だ」

 

綾乃はこれまで他人の試合を見なかったので観察眼が無いと思われがちだが、綾乃の相手が嫌がるところを狙う直感も観察から来ている。

どれだけ勘が優れておろうとも、目を合わせた瞬間に相手の弱点が読み取れるのではない。しっかりラリーを通して綾乃の中で彼女なりの理屈を元に弱点を探している。

 

「覚悟はしていたけどやっぱり強敵だなぁ」

 

「大丈夫。弦羽早は再会した時よりもずっと強くなってる。パートナーの私が保証する。だから絶対優勝できるよ」

 

「ありがと。綾乃の言葉が何より自信に繋がるよ。じゃあ二人でシングルも混合も優勝だね」

 

「うん!」

 

 

 

 

午後一時が過ぎる頃には男女含めてベスト4が全員決定した。

計八人は各々最終アップを終えてコートへと向かう。準決勝までは各試合同時進行で行われている為、出場者が四人もいる健太郎はどこに付くべきか、他校の顧問からしたら拳を握りたくなる贅沢な悩みを抱えていた。

真っ先に必要ないと言い出したのは綾乃で、自分が速攻で終わらせて弦羽早の元に行くから弦羽早の元にも来ないでいいと付け加える。

 

彼女の案に少し戸惑ったものの、なぎさの膝が心配であったのと学の対戦相手が去年の優勝者であることからなるべくそちらに付きたかったので素直に甘えることにした。

何より自分の十の声より綾乃の一声の方が弦羽早の原動力になるのは地区大会で呆れるほど思い知らされた。

 

そういうメンタルコントロールが容易もとい単純な点で、弦羽早はある種優れている。綾乃と喧嘩した暁には小学生相手にも負けそうなのが恐ろしいが、傍から見ればバカップルになりつつある二人にその心配は今のところないだろう。

 

「羽咲、決勝で待ってろ」

 

「…まあ、楽しみにしてる」

 

「秦野、頑張れよ」

 

「伊勢原先輩も、決勝で戦いましょう」

 

四人の腕には有千夏の手作りのリストバンドがはめられており、その姿を遠目から見ていた理子もまた、自分がつけているリストバンドをキュッと握って笑みを浮かべる。

県大会のベスト4の半分が北小町のメンバーだなんて、一か月前は夢にも思っていなかった光景が今広がっている。

 

シングルスこそ成績を残せなかったが、団体でのインターハイ出場も本当に叶えられるかもしれない。

 

この光景を見てそう思わずにはいられない。

 

「みんな!ファイト!」

 

なぎさ、弦羽早、学は仲間からの激励にリストバンドを掲げて答える。唯一綾乃だけが端から聞こえなかったかのように弦羽早と拳を合わせると、こちらに見向きもせずにコートへと歩み始める。

だがそれに苛立ちは感じない。あれもまた彼女なりの集中の仕方だと理子は考えていたので、その小さな背中に笑みを浮かべる。

 

四つのコートで試合前のアップ練習が行われ、シャトルの軽い音がアリーナに鳴り始める。

 

この一戦でインターハイに出場できるか否かが決まり、そこに重点を置く者としては決勝以上に重要な試合となる。この試合に全てを出し切って勝てるのなら、決勝は辞退してもいい。そう考える者も中にはいる。

 

綾乃の対戦相手である橋詰英美(はしづめえみ)はその最もであった。

ダブルスとはいえ世界ランク一位の二人を破った神童。その異質な強さはこれまでもコートの外から観察していたが、あれに勝てるビジョンが一切頭に浮かばない。

だがもし勝てるのなら自分の体力全てを差し出してもよい。決勝は辞退してもよい。

 

――だから勝たせて。

 

だが願うだけで実行できないのなら、それはもう綾乃にとっては格下。

 

結果は皆まで言う事も無く、同時開始された準決勝の中で最速でその試合は終わった。

 

 

 




インターハイ開始前まで書き終えたから言えますが、英美は今後も台詞がほとんどなくて地の文で流されちゃうパターン。

この辺りの綾乃の口調や弦羽早に対する態度はほんと難しい反面楽しい
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