好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された 作:小賢しいバドミントン
この子基本技術面では何でもありだし。
逆に志波姫さんの試合はあんまり書きたくない。自分より頭のいいキャラって書くの難しいです。
TRPGとかやってると必ずRPするキャラは自分と同じIQになります。つまり馬鹿になります。
『ポイント!
丁寧な組み立てた末に放たれた必殺技、フルスマッシュが綾乃のコートに突き刺さり、五点と決して小さくない差を付けた状態でなぎさがインターバルを取った。
「凄い…。あんなショットを見た後なのになぎさちゃんの勢いが衰えない…」
「彼女のメンタルはもうコートの中デ折レル事は無い。その領域に達してイマスネ」
あのメンタルがコニーにあればとヴィゴは無い物ねだりをしながらも、コートの中で行われる激しい試合に目を奪われていた。
先程の男子シングルスも彼の枯れた心を潤すに価するものであったが、元々綾乃となぎさ、どちらも彼の眼鏡に掛かっていた事もあり、10歳ほど若返ったかと思える程に顔は喜の感情が張り付けられていた。
故にロリコンと四方八方から言われる羽目になる。
「ファーストゲームからスマッシュを打ち続ケタのに加え、今のなぎさチャンにハ綾乃チャンが与えるプレッシャーが効かナイ。これまで戦ってきた多くの相手がプレッシャーに呑まれていた綾乃チャンにとって、そういった面デモやりにくいでしょう」
「しかし健太郎君が中立を保っている今、インターバルにおける情報量は弦羽早君がいる綾乃ちゃんが有利ですからね。この二ゲーム目の後半戦が大き分岐点になります」
「…アナタは弦羽早クンを買っていますネ」
「あなたがやたらと彼を過小評価しているんですよ。孫を取られた祖父じゃないんですから」
「ウ~ン、そういう訳ではないんですガ…」
胡散臭い笑みを浮かべるヴィゴは、ジッとコーチ席で綾乃に話しかける弦羽早の背中を見やる。
ヴィゴが弦羽早をあまり良く思わない理由はそうではない。当然男子だからとか、セオリー通りとは言えない変わったプレイをするからでもなかった。
ーーーー
体を上手く動かせない弦羽早はパイプ椅子に座ったまま、隣の席に座った綾乃の首元に冷たいタオルを当てながら話しかける。
「ここに来て荒垣先輩の攻撃パターンが多彩化してきている。その起点はスマッシュとドライブがメイン、それまでの球は基本繋ぎ球と思って良い。大雑把になるけど対抗策として思いついたのは二つ。
荒垣先輩が欲しているドライブをあえて誘ってボディ周りでのドライブ勝負に持ち込む。それとスマッシュレシーブを
水分補給としてこれ以上ない程に優秀なスポーツドリンクを流し込みながら綾乃はコクンと頷く。
「分かった。両方ともどこかで仕掛けてみる。それと気になってたけど、なぎさちゃんの打った決め球のスマッシュのコースって分かる?」
「あっ、ゴメン。ノート手にないからメモしてない」
慌ててコートを睨むようにして目を細める弦羽早に綾乃は首を横に振った。
「ううん、いいの。じゃあクロスに何回打ったか分かる? 10点目を取ったショットがクロスなのは覚えてるけど」
「…ああ、それ以外は決め球はストレートだったと思う。でもだからってストレートに限定するのは甘すぎるんじゃ」
「大丈夫、そういう訳じゃないから。まあ見ててよ」
体中から溢れ出る汗をタオルに吸わせながら、綾乃は何か思いついたのかニヤリと笑みを浮かべる。またよからぬことを思いついたと悠と空がビクッと肩を震わせる一方、弦羽早も二人と似た心境を抱きつつも、その秘策を楽しみに待ってると口にする。
直感に特化した綾乃の戦略は意外性が高いのが多く、見ている側としてはとても見応えがあり、同時に味方だと彼女ほどに心強い選手はいない。
それは同時に、相手にするならこれ以上ないくらいに厄介な相手だということだ。
『アウト! オーバー!
綾乃の思いついた戦略は、あえてギリギリアウトになる際どい球を打ち、その体勢で無理やりスマッシュを打たせるというもの。アウトに打つとは本来なら褒められたプレイではないが、選球眼が悪いなぎさはそういった軽いアウトの球でもつい取ってしまう。
強引な体制から打つスマッシュは僅かに軌道が逸れてしまい、それまでサイドラインギリギリに打っていたのが仇となり、アウトを連発してしまう。
当然なぎさも綾乃の大きな一打やサイドライン寄りのショットには警戒を強める。どれだけラリーを続けた後に捥ぎ取った一点もアウトでの一点もスコア上では同じだ。綾乃がアウトに打っていると言うのならそれを利用しない手は無い。
綾乃の戦略を読んだなぎさはそれを逆手にポイントを二点ほど稼ぐことに成功し、あとはひらすらに根気。
ファーストゲームで温存していた体力と戦略を使い、フルスマッシュをキルショットにして点数を稼いでいく。コートの外から見るとなぎさが力、綾乃が戦略に見えるかもしれないが、実際なぎさの方が遥かに頭を回転させている。
だが二回なぎさがアウトを見送った次のラリー。
「(スマッシュ! だがこれは間違いなくアウ――)」
綾乃のストレートのスマッシュはなぎさのバックハンド側のサイドラインを逸れ、ダブルスのサイドラインまで大きくズレている。いくらなぎさの選球眼が悪いと言ってもシングルスとダブルスのラインの差は大きい。
当然見逃そうとラケットを退くが、その直後シャトルにシュート回転が掛かり内側の内線へと入り込んだ。
≪おおッ!≫
「なっ!?」
観客から感嘆のざわめきと、なぎさの驚愕の声が重なる。
「弦羽早も面白い事考えるよね。クロスファイアでアウトをインにするなんてさ」
――ちょっとリスクが高すぎるけどね…
クロスファイアは左に曲がり、そしてストレートに打たなくてはならない。つまりアウトをインにする場合、綾乃から見て右側のロブ球から打つ必要がある。そうなると左利きの綾乃はラウンドで打つことになり、その状態で難易度の高いカットスマッシュを打てば大きくアウトに逸れる可能性があり、そもそもラウンドでカットスマッシュはかなり打ちにくい。
「(私もちょっと疲れて来たからさ、そろそろ諦めなよ、なぎさちゃん)」
乱れる息を整え、上下する肩を抑えながら綾乃は冷徹な瞳を彼女に向けるが、彼女は両手を太ももに当ててほんの数秒の休息を取りながらも、顔を上げて依然と笑みを浮かべていた。
「さあ来い、羽咲!」
「ッ!優勝するのは私だから!」
その声は先ほどの挑発的な口調とは一転し、余裕のない切羽詰まった焦りが込められていた。
なぎさとの試合は楽しい。
それは綾乃の中でも揺るぎない事実だった。自分が返せないショットを打ち、どれだけ厳しい配球も拾い、プレッシャーに呑まれる事なく喰らいついてくれる相手ができたことへの喜び。
だが楽しいと負けたくないは別物であった。
こんなにも楽しい試合を決勝戦という大舞台でできたのだ。ならばこのまま清々しい気持ちで勝ち、そして県大会の小さな優勝トロフィーとメダルを貰い、シングルス・ミックスの三つでそれらを並べる。
そしてその一歩を弦羽早は踏み出してくれた。ならそれに続くのがパートナーとしてやるべきこと。
そんなアスリートとしても人としても、健全的な前向きな思いとは裏腹に焦りもあった。
まず一番の原因はスタミナ不足。今はまだギリギリ何とか持ちこたえているが、先ほどのクロスファイアもかなり無理して打った一撃だ。そうしなければラリーが長引き息が続かない状態になるまで、綾乃の体には既に疲労が溜まっている。
それはなぎさも同じはず。だと言うのに彼女の動きには衰えが無く、スタミナの消費が激しいジャンピングスマッシュもフルスマッシュも速度が衰えない。
これまで綾乃が戦ってきた相手は、セカンドゲームにも入れば汗を全身から垂れる程に流しており、もう限界だと顔を顰めている時に、揺さぶりをかける一点を取れば後は勝手に自滅してくれた。
先程のアウトをインにしたクロスファイアは、それを狙いなぎさを精神的に追い込むための捨て身の一手。
だが――
「らぁっ!」
強烈なスマッシュに重い足を踏み出すのが一手遅れてしまい、甘いロブ球となってネットを越えてしまう。それを一秒たりともペースを緩めないなぎさが前へと詰め、キルショットとして地面に叩きつける。
『オーバー!
「は、ははっ。しぶといじゃん…」
おかしい。
動揺を隠せない綾乃は自分のコートに落ちたシャトルをすぐに拾おうとしなかった。できなかった。
綾乃の中には健全で前向きな思いがありながらも、未だ心の根底には、有千夏が出て行くきっかけとなったある感情があった。
――半年前の全日本ジュニアではスコンクで負けたなぎさが。
――入部を掛けた試合では制服と上履きで、右手の自分に辛勝した程度のなぎさが。
――弦羽早が優勝できたのだからパートナーの自分もできるに決まっている。
そう思うに足りる実力を綾乃は持っている。
健太郎の事前の評価としては、この神奈川女子シングルにおけるトップ3はなぎさ・逗子総合の望・横浜翔栄の英美。ここに相性次第では薫子が下剋上できる可能性が十二分にあると予想。
そしてむらっけの激しい綾乃は測定不能ということでパスしていたが、決勝になった今だからこそ言えるが綾乃はその神奈川トップの三人+一人よりも頭一つ上のところにいる。
だから綾乃のそう思う感情は決して他人から外道と批判されるものでは無い。
しかし自覚がまだできていない。
自覚が無ければ気持ちを切り替えることも、自分の根底にあるなぎさの評価を変える事ができない。
それは弦羽早に関しても同じこと。綾乃は弦羽早を信じている、支えたいと思っているし、自分の同等のパートナーだと認めている。だがその同等というのがまた難しい。
バドミントンは個人競技である以上、個々のコンディションによっては下剋上も充分に起こりえる競技だ。そんな競技で同等の弦羽早が優勝できたのだから、自分もできると確信するのは認識が甘いとしか言えない。
だからこそ綾乃には徐々に焦りが生まれる。
「ドンマイ綾乃!一本集中!」
「弦羽早…」
パートナーの応援はあまり綾乃の心には響かなかった。彼が応援してくれることは嬉しい、彼のコーチングには従って点を稼ぐことができた。
でも綾乃は未だ応援の有無による違いというものが、自分にはよく理解できなかった。
応援するのは楽しいが、応援されてもコンディションが上がらない。
そんな奇妙な価値観が綾乃の中にあった。
『早くシャトルを渡して下さい』
ポツンとその場に立つ綾乃へ審判が催促し、綾乃は苛立ちの眼差しを審判に向けつつシャトルをなぎさへと渡す。
ここに来て綾乃のむらっけが出てしまった。
ゲーム終盤、スタミナ、なぎさの気迫、自分でも気づけない心の内。それらが重なった状態でゲームの流れを変えられるほど、もう今のなぎさは弱くない。
強打から始動。カウンターに対して更に激しいドライブで応戦し、慌てる綾乃が上げたロブ球をスマッシュで撃ち落とす。
『ポイント!
≪あと一点…≫
観客席から呟くような声がいくつか重なった。
なぎさが負けると思っていた試合。これまで1ゲームのうちに10も取られる事のなかったダークホースが、ここに来て初めてマッチポイントまで追い詰められた。
判官贔屓。
下剋上。
それらを好む日本人の観衆は自然となぎさへの応援が一気に集まった。
また純粋に、ラリーの合間の僅かな時間で体を休めるなぎさが、ラリーが始まると共に疲労を一切感じさせない気迫あるプレイをするのが観衆を引き寄せるのだろう。
≪あと一点! あと一点!≫
会場中からワァッと沸き上がるそのコールに綾乃の眉がピクリと動くと、集中しきっていないのにも関わらずその瞳がスゥゥと、遠く離れた光源が消えたかのように暗くなっていく。
ここまでのアウェーを受けた事の無い少女にとって、その歓声は心に重く圧し掛かってくる。
そしてふと準決勝での弦羽早の言葉を思い出した。
『100人の応援団より綾乃のやる気のない声援の方が気合入るよ』
やる気が無いとは失敬なとは思
アウェーの空間からそれを自覚させられた綾乃は、ギュッとグリップを強く握る。
「綾乃!優勝トロフィー並べるんだろ!」
「ッ…」
その声にハッと我に返った綾乃は、彼の方に視線を向けた。
両手をギュッと握りしめ、コートの中を必死な眼差しで見つめるその姿は、誰かの面影と重なった。
「(あっ…今の弦羽早、さっきの私と同じ仕草してる)」
そわそわと落ち着かず、コートの中に入ってパートナーを支えられないもどかしい感情。ただ拳を握り、声を届け、インターバルを待つしかないその姿は、弦羽早の決勝の時の自分とうり二つだ。
『弦羽早、自分に自信を持って。ダブルスじゃないとか、私がいないとか考えなくていい。でもそれでも勝てないって思ったなら、弦羽早を強くした私を信じて欲しいな…』
「(あの言葉は、私の本心。誰がなんて言ったって、あの時の私は弦羽早を心から応援してた)」
自分もちゃんと、心の底から他人を応援できていたんだ。
そう思うと綾乃の中にあった応援の有無という価値観がゆっくりと変わっていく。
「(…周りがなぎさちゃんを応援したって私には関係ない。私には、弦羽早が応援してくれる)」
観察眼の鋭いヴィゴや薫子。母親の有千夏。パートナーである弦羽早。
そして戦っているなぎさ。
彼・彼女らは、途切れていた綾乃の集中力が深まった事に瞬時に気付く。
慎重になったなぎさのショートサーブ。それに瞬時に詰め寄った綾乃は、ラケットを斜めのまま動かさず、前へと進む体のエネルギーだけを利用してシャトルのコルクを面で切った。
その特殊な打ち方はカットドロップと原理は一緒で、シャトルは浮かないながらもヘアピンの緩やさとは正反対の速い速度でネット前スレスレへと落ちる。
出だしの速さとサイドライン沿いに落ちるシャトルに足の長いなぎさの一歩をしても届かず、コトンと床に落ちる。
『オーバー!
「ここに来て難易度の高い特殊なヘアピン…。やっぱりマッチポイントまで追い込まれてからの綾乃ちゃんは強い…」
試合から目が離せない明美は既にメモ用のペンを机の上に置いて、瞬きをすることなくコートを見つめていた。
「上手いデスね。あの打ち方は一度警戒されると決まりませんが、ここぞという一点を得るには効果的ダ」
「入れば…ですけどね。ラケットを動かさずに前に出る体の力だけで面を切るなんて、安定させる方が難しいのに」
ここに来てなお見せる新しい技術と、難易度の高い技を選ぶ精神力。
そして速い展開に持って行きたい綾乃はサーブを構えると間髪容れずにショートサーブを放ちラリーを始める。急ぐなぎさはそれをハーフ球に打ってデュースに持ち込まれる前に決めようとしたが、その僅かな焦りが失点につながる。
綾乃は体の正面はなぎさに向いたまま、向かってくるシャトルに対してラケットの面だけを逸らしてクロスへと打ち込んだ。
ボディフェイント。
一点でも失えばゲームを取られるこの状況下で、二回続けてミスが多くなってしまう技の選択。
それはあとたった一点でゲームを取る事が出来たなぎさにはプレッシャーとなる。
「(落ち着け、焦るな。集中し続けろ!)」
なぎさはウェアの袖で顔の汗をぬぐいながらラケットを構える。
もはや汗を全て拭うなんて事は無駄に等しかった。ポタポタと床に落ちる汗の粒に二人は拭いてくれと審判に頼むことすらしない。
そんな僅かな時間を与えてしまえば相手に休息を与えてしまう。二人の思考は同じだった。
このゲームで何が何でも決める綾乃は全ての力を出し切って、動きを衰えさせない。キルショットとなっていたフルスマッシュも完全にタイミングを掴み、遂に綾乃には通用しなくなる。
そして無数の引き出しから放たれる技はシャトルをなぎさのコートへと落とす。
同時にこのゲームは絶対に落とせないなぎさもまた足を動かすのを辞めない。綾乃の得意とする展開に付き合いながらも、上手くロブを上げて時間を稼いでいく。
そして綾乃のエースショットであったクロスファイア。その前兆である擦れる音を完全に捉え、曲がるクロスファイアの先に面を置いておき、逆にカウンターを打ち込み、綾乃のコートにシャトルを突き刺す。
『オーバー!
これまでシーソーゲームだったデュースでの攻防。
しかし遂に差が生まれてしまった。それは産まれながらの体格、温存しておいたスタミナによる差、予め決めていた戦略などが生み出したものであるが、一番はそれらを支える精神力。
なぎさのスマッシュが綾乃のコートを突き刺し、ファイナルゲームに持ち込む展開となった。
綾乃の焦りとなぎさの高揚が伝わればな~と