好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された 作:小賢しいバドミントン
ぶっちゃけ蛇足とも言えますけどせっかく書いたので投稿するぞい。
カーテンの隙間から漏れる白壁をオレンジ色に染める朝の日差し。その光が半分ほど届いていない壁の時計は短針が6を向いており、これが彼のいつもの起床時間である。
しかし昨日はシングルス県大会と激しい試合を行い、その後0時を回ってからも起きていた弦羽早が目を覚ますには、習慣とはいえいささか早い時間帯だった。
右半身から伝わる温もりに確認すると、スヤスヤと心地よさそうに寝息を立てている愛らしい少女の姿があった。
疲れと不規則な体勢で寝たせいで寝起きの頭と同じくらい体が重く感じられたが、彼女の姿を見ただけでまるで背中に羽が生えたかのように軽くなり、心臓が大きく鼓動する。
「改めて見てると、ほんと美少女だなぁ…」
前髪は顔を左に倒している為、普段は耳前で伸びている前髪が鼻に当たっている。
閉じられた瞼から柔らかい細い影のような睫毛、唇は暖かい桃の皮のようで、運動して循環もよいからか肌も白くなめらかだ。この綺麗な白い肌が焼けなくて済むのは室内スポーツの特権かもしれない。
コニーを連想させる華やかと言うには派手さは無く、エレナを連想させる綺麗には落ち着きが足りない。
10人が10人とも振り返る美少女とは弦羽早でも言えなかった。
「可愛い」
美人や綺麗よりも、その言葉が素直に当てはまる顔立ち。
綾乃の頬にそっと手を伸ばそうとすると、変な体勢で寝続けた所為で関節が鳴り、メルヘンな世界に行きかけていた少年の精神が現実世界に戻る。
左肩に乗せられた綾乃の頭を動かさないように、空いた左腕を回して頬に触れる。打撲のせいで少しズンと痛みが走るがそこまでの痛みでもない。
頬は柔らかくて滑らかで、それで少し冷えていた。
弦羽早はここで布団も掛けず、互いに気絶するように眠っていた事を思い出すと同時に、自分たちの上に一枚の布団が乗せられていることに言い様の無い恥ずかしさと嬉しさを抱いた。
「(おじいちゃんかおばあちゃんか、まさかおじさんじゃないよね…。でもありそうだなぁ…)」
まるで綾乃との関係を身内に認めてもらっているようで自然と笑みが浮かぶ。
子犬のような庇護欲を掻き立てられる少女も、一日前には他校の生徒から“ヤバイ奴”や“あれは殺ってる”と言われるほどに冷たい瞳ができるのだから人は見かけによらないものだ。因みに弦羽早本人はその辺りの噂は耳に届いていないが、ただ周りの空気から怖がられていることは察しがついていた。
「…昨日はよく頑張ったね」
綾乃の部屋にいて、そこで寄り添い合って眠って、こうやって彼女の頬を撫でる。
彼女と再会して僅か二カ月近くで、いや、時間の長短に関わず、ここまで距離を近づけるとは未だに実感が沸かない。
綾乃を倒したいという思いから、感心・憧れになって、そして恋心へと移って行った。
綾乃には元々友達が少なく、その一方交友関係が広い弦羽早が関わる事を狙ってかほとんど同じクラスで、特に綾乃への好意に明確に気づいてからは毎日教室に向かうのが楽しかったのは、今も昔も変わらない。
その一方、中学に上がる時、クラスの友達は勿論だが彼女と離れる寂しさを乗り越えるのに何よりの時間を要したが、それも強くなる一心で踏ん切りがついた。
中学校の間も会えない綾乃を想い、目標にして努力を続けていた。
修学旅行の浮かれた空気に流されて、恋バナをした同室のクラスメイト達に引かれたのは今でも軽いトラウマである。
それ程まで想い続けていた綾乃が今隣に、無防備な姿で眠っている。
――今ならキスもできる。はだけたパジャマの隙間から柔肌を覗くのも多分できる。
「お疲れ様」
弦羽早は眠っている彼女に微笑むと、肩まで掛かるように布団を被せた。
やはりどれだけ取り繕っても健全な青少年、例え綾乃にその気が欠片でも無く、また恋愛に無頓着であっても、そう見てしまう心はどうしても存在する。ただその邪な自分と素直に向き合いながらも押し殺し、またバドミントンに関わる時は割り切るように立ち回っている。
そうした所為で綾乃とのスキンシップが増えてからも、周りから見れば冷静そうに見えているが、内心はかなりいっぱいいっぱいだった。
「んっ…んぅ…つば、さ…?」
漏れる吐息に合わせるように少女の瞼がほんの数ミリほど開く。
別に大したことのない、寝起きのうめき声とも取れる吐息であるのに、妙に色っぽく聞こえるのは恋心故か、あるいは少女から大人に変わる年頃の見えざる力でもあるのか。
「ごめん、起こしちゃった?」
「…ん~、へーき」
綾乃も同様、歪な体勢で眠ってしまったことで体が凝っているのか、覇気のない動作で体をゆらゆらと揺らす。
そして数回ほど左右に揺れた後、またトンと弦羽早の肩に頭を置いて。
「えへへ、いい匂いするって思ったら、弦羽早だったんだね」
そうはにかむ彼女はコートの威圧的な雰囲気とは正反対の年相応の穏やかな少女で、必死に理性の隙間に流し込んで固めたセメントの壁に巨大なヒビを入れる可愛さだった。
「(…こんな可愛い子に手を出したらいけないってとんだ試練だよ…。そんなギャップ俺の前で出されたらほんとに襲うぞ)」
「その、えっと…、おはよ、綾乃」
今が夜だったらと思うと自分を押さえつける自信が無くなる彼女の言動に半ばキレ気味になりながらも、何とか舌を回して定番の挨拶をしておく。綾乃の発言に返す余裕などない。
「うん、おはよう」
これくらいの短い話ってこれ以上文字数伸ばせないので、前書きかあと書きに載せるのも考えてたんですけど、それはそれで面倒なので本編にして投稿しました。
今回の話は、あれだけ綾乃を好き好き言っていた弦羽早の反応が県大会時には割かし冷静だったのですが、別に耐性ができたとかそういうのじゃないってことを主に伝えたかった記憶があります。
何しろ書いたの10月頃やで。