好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された   作:小賢しいバドミントン

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今週色々ありすぎたので来週お休みすると思います。


ホエホエ饅

「ねえ綾乃、今日の放課後空いてる?」

 

今日の授業も残り一つ。放課後の自由時間が近づき、最後の山場だとクラスの空気も自然と引き締まる。

毎日の恒例行事とも言える空気の変化の中、左隣の席に座る弦羽早が、仏頂面の少女に話し掛けてきた。入学初日のほわほわした少女はどこにいったのか、ここ最近のピリピリとしていかつい表情が多くなった彼女にクラスメイトも困惑している。

 

しかしそんな少女も、彼と話す時は表情が幾分か優しくなる。

 

「えっと…確か今日まで体育館使えなかったよね。やるならフィジカルトレーニングくらいだけど、どうして?」

 

「前に言ってたホエホエ饅、食べに行かない?」

 

 

 

 

団体戦までもう一週間を切っている状況でこんなことをしてよいのだろうか。

そんな事を考え余り気乗りしないながらも、健太郎やダブルスパートナーの理子から“たまには休んだ方がよい”と言われて素直に遊ぶことにした。

 

ホエホエ饅が売ってあるのは全国チェーンのレジャー施設。複合エンターテイメント空間を売りにしており、ゲームセンターからカラオケ、ボーリング等の施設が一つのビルに纏めて存在する、お金と時間があればいくらでもいられる場所だ。

 

「この間ガット張り替えてたけどお金あるの? シャトルも買ってたし」

 

ガットの張替えや自主練習用のシャトルなど消耗品でありながら、どれも高校生にしては決して安い値段ではない。

 

「臨時収入があったから」

 

「ふ~ん?」

 

臨時収入と言う名のお小遣いだが、久しぶりに家に帰って来た両親が新しいトロフィーと賞状に喜び、お小遣いをくれた。もっとも壊れたラケットの補充でほとんど吹き飛んだが、それでも多少綾乃に奢るくらいには潤っている。

 

軽く質問が来るかと思ったが、綾乃は特に追求せずにそのまま口を閉ざした。無理に話題を作ろうとしないのが彼女らしい。

 

「まあ気晴らしくらいにはなるかな~」

 

 

 

それから数十分後。

入店してからはまだ十分も経過していない頃。

 

「ねえねえ弦羽早!見てこれ、ホエホエのキーホルダーだよ!」

 

遊園地に来た幼い子供と変わるところのない無邪気な瞳で、綾乃はケースの中に大量に敷き詰められたキーホルダーを見つめていた。

ホエホエと言うのはクジラをモチーフとした、ややキモ可愛いさの入った不思議なキャラクターで、正直その感性は弦羽早にはよく分からない。ただ登校中の小学生女児のランドセルにそのキーホルダーを見た事があり、そこそこ売れっ子のようだ。

 

弦羽早は財布から取り出した硬貨を入れると、レバー付近に表示された残り回数を示した数字に内心ホッと胸を撫でおろす。これで一回一枚だったら流石に諦めてくれと言う所だった。

 

「(でもこれ四回でグリップ買えるな…いやいや、今その換算は止めよう)」

 

別に懐が広いところをアピールしたい訳でも無いが、それを口にするのは流石にけち臭い。

 

「ちょうど偶数回できるし、交互にやろっか」

 

「うん!」

 

キーホルダーも多少回数を重ねれば素人でも取れるようになっており、二枚目の硬貨を入れた時に互いに一つずつ取れることができた。

丁度弦羽早が取ったのが赤色の帽子で、綾乃のが空色の帽子だったので交換することとなった。もっともホエホエの良さが分からない弦羽早はやや微妙そうな顔をしていたが、綾乃がそれに気づくことも無い。

 

その次はレースゲーム。

常にアクセル全開でスピードを上げて衝突を繰り返す綾乃に対し、慎重すぎるぐらいに速度を落として衝突を避ける弦羽早と、まるでバドミントンのスタイルがそのまま表に出た様な内容で、互いの画面を見て小さく笑い合う。

 

他にも互いに知っている曲が少ない音ゲームやシューティングゲームなど、財布に無理のない範囲でやりつつも、一番盛り上がったのはエアホッケーだった。

 

「これ負けた方がジュース奢るっていうのはどう?」

 

「悪くない、乗った」

 

綾乃の提案に不敵な笑みを浮かべながら、弦羽早は腰を低く落としてパックを打つ器具(マレット)を握ると、パックをやや強めに打つ。

綾乃は得意な速い展開を維持して常に攻撃の姿勢を取るが、まるでレシーブするかの如くパックの軌道線上にマレットを置いてその勢いを殺して守る。

カンカンと絶え間なくなり続けるパックの音が気になったのか周囲の客の視線が台に集まり、終わった頃には観戦していた何人かが拍手を送ってくれた。

 

結果は綾乃が負けで、主に弦羽早のショットよりも跳ね返った自分のショットでの失点がほとんどだった。

 

「う~、悔しい~」

 

「オレンジよろしく」

 

「は~い。ついでにホエホエ饅も買ってくる」

 

負けたのが納得できないのか渋々と言った様子でフードコート内に並んだ店に足を運ぶ。

その背中に、本当に負けず嫌いだと微笑が口角に浮かぶ。

 

「(少しはリラックスできたらいいんだけど)」

 

一週目の地区大会予選から麗暁戦、二週目の混合ダブルス予選とシングルス決勝、四週目の混合ダブルス決勝から、五週目の団体戦開始。

ここ一ヵ月気の抜く時間などほとんどないこの状況で悩みまで抱えるとなると、綾乃でなくともパンクしてしまう。前々から一度ガス抜きをした方がよいと思っていたので混合ダブルスを終えたこのタイミングを選んだが、断られなくてホッとしている。

 

数分後、お盆の上にジュースと怪しげな色の食べ物を二つずつ載せて戻って来た。

 

「…これが、ホエホエ饅?」

 

「うん、美味しいんだよ~」

 

形は歪では無くちゃんとホエホエの形と顔をした所謂キャラ饅という奴だが、ホエホエを再現していると言うことは当然青色。青色が食欲を削ぐ色であるのは有名だ。ダイエットでは、食べる前に青色の物を見て食欲軽減を図ったりもする。

 

「いただきます」

 

「い、いただきます」

 

毒見という訳では無いが綾乃がパクリと一口目を齧ったのを見てから、それに続いて弦羽早も青色の肉まんを口に含む。青色からは連想できない熱々の生地はふっくらとしており柔らかく、中身に入った具も香ばしく食べ応えがある。

絶品とまで行かないが、コンビニの高クオリティの肉まんに引けを取らない十分な美味しさだ。

 

「美味しい」

 

「でしょ? 可愛くてボリュームあって美味しいなんてもう最高だよ~」

 

ホエホエと肉まん、どちらも好きな綾乃にとってこれほど良いコラボもないだろう。まさに綾乃の為にあるような商品だ。

 

目的のホエホエ饅を食べ終えたがまだ解散する時間帯でも無かったので、いくつかのスポーツ施設が集まった階層へと移動する。カラオケは互いにそこまで好きじゃないので話題にも上がらず、ボーリングも指への負担が大きいので避けておく。となると残ったスポーツ施設で二人が一緒に楽しめるものとなると限られており。

 

「…別にここに来てまでバドしなくてもいいんじゃ?」

 

「まあまあ。たまにはこうして遊びでやるのもいいでしょ」

 

高いラケットを持っているのに、わざわざ安物のラケットを借りるのにレンタル料を払う意味が分からない。

初心者用のラケットに緩んだガット、ゴム製のシャトルで打ち合うこれのどこが楽しいのか。おまけに天井も低くまともにクリアーも打てない。

 

県大会優勝者の二人が回数を競う遊びのバドミントンをやれば、当然ミスなどなく永遠と続き終わりが見えない。

数分もすればすぐに飽きて来たと、少し強めのドライブを打ち出すとそのショットに籠められた意図に気付いて弦羽早もそれに応える。するとあっという間に遊びは終わり、速いペースでのドライブの打ち合いとなる。

 

「ほんとだ、すげぇ上手い」

 

「でしょ~かっこいい~」

 

元気の籠った声変わり前の少年の声が網で仕切られたコートの外から聞こえる。

チラリと視線を横に移すと、小学校半ば程の男子と、その妹であろう彼より幼い少女の二人がこちらを見ていた。その二人の手にはレンタル用のラケットがある。

 

「(うわっ…めんどくさいなぁ…)」

 

少し眉を下げて、彼等の声が聞こえなかったかのようにラケットを振り続けた綾乃に対し、弦羽早はそのシャトルを空中ですくうと空いた手でキャッチする。

 

「(まさか…)」

 

嫌な予感は的中し、弦羽早は網の前までやってくると、足を曲げて彼等に目線を合わせると優しく話しかけた。

 

「君達もバドミントンやるの?」

 

「うん!学校でも休みによくやるんだ」

 

「ここにも時々ママに連れてきてもらうの!」

 

弦羽早は妹の少女が指さす方に視線を向けると、穏やかそうな少し小太りの女性と目が合う。母親は少し申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。

 

問題のない事をひらひらと手を振って応えると、入り口を開いて二人を手招きする。

 

「せっかくなら一緒にやろっか」

 

「いいの!」

 

「うん」

 

今にも両手を上げて跳びあがりそうな歓声を上げると、二人はまるで競う合うかのように走ってコートに入る。

 

「(…勘弁してよ)」

 

子供の介入に乗る気ではない綾乃は、ラケットを杖にして体の重心をそちらに預ける。流石に瞳を暗くして威圧するようなことはしないが、露骨に嫌そうな空気は出していた。

もっともそれは付き合いのある弦羽早から見てであり、可愛らしい顔立ちと小柄で細身の体格から基本子供に怖がられる事は少なく、妹は同性である綾乃の方へと駆け寄ってきた。

 

「よろしくおねがいします」

 

まだ少しだけたどたどしさが残っている話し方に、綾乃は小さく眉をピクリと動かしてなるべく自然な作り笑いを浮かべる。

嘘の自分を演じるのに慣れていたのがこの場面で役に立ったようで、少女もおびえた様子も無い。

 

「よろしくね。え、え~と、あなたのお名前は?」

 

(ゆう)!」

 

どうやら一個上の先輩と同じ名前らしい。確かに珍しい名前でもないので特別意外性もない。

子供と接する事が上手い人ならここで“いい名前だね”と言うのだろうが、そんな気の利いた一言は出ない。

 

因みに普段の綾乃は子供が苦手というわけではないが好きでもないといった感じだ。ただ今色々悩んでいる時期にせっかく二人っきりで弦羽早と楽しんでいたのを邪魔されるのが嫌だった。

特に小学生というのは初対面の相手に対しても、一歩分でも仲良くなれば躊躇なく質問してくる割合が多い。

 

「ねえねえ、お姉ちゃんとお兄ちゃんって付き合ってるの?」

 

「(ほら来た…)」

 

質問の第一声がバドミントン関係でなく恋愛絡みのことで、綾乃は深いため息を吐くのを何とか心の中に留めておいた。

ただあからさまに笑顔が無くなる。

 

「…ひょっとしてお姉ちゃんの片思いなの…?」

 

反対のコートに立つ男子二人に聞こえないように口元を手で覆って小声で少女は呟いた。

ピキリとこめかみが痙攣し、左手に持つラケットグリップが微かに音を鳴らす。

 

「あのね、私と弦羽早はそういうのじゃないの。ともだ――あ~…パートナーって言えば分かる?」

 

いまさら友達という間柄でも無いのでここは適当に誤魔化さずに素直に応えておく。

 

「うん。でもパートナーを好きでも、全然変じゃないよ」

 

「(マセガキ…)」

 

この手の話題は大概クラスでも言われた。特にバドラッシュで例の写真が公表されてからはクラスメイトだけでなく、至る所からその手の話題を振られていた。

その時は軽く眉を顰め、機嫌の悪い声で“違う”と否定すればそれで終わりだったが、流石の綾乃も小学生低学年の少女相手にそれはできない。おまけに近くに親もいるので泣けば面倒だ。

 

「あのさ、侑ちゃんは何でそう思ったの? 男女でバドミントンするなんて全然珍しいことじゃないからね」

 

小学生女子というのは何かにつけて恋愛話にこじ付けたがる傾向にあるのは、一応綾乃も実体験として知っている。勿論自分がではなく、周りがそうだったからであるが。

 

「ちょっと前からお姉ちゃんとお兄ちゃん見たの。一緒にゲームしてたりご飯食べるお姉ちゃん、とっても楽しそうだったもん」

 

「…まあ、弦羽早といると楽しいのはそうだね」

 

ダブルスも彼と組む時とそうでない時では試合中に感じる高揚感がまるで違う。今度の団体戦で組む理子には少し申し訳ないとも思うが、事実なのだから仕方ない。

 

「でもね、それと恋愛のあれこれとは別なの。これ以上質問続けるなら教えないからね」

 

「えー!やだー!」

 

「だったら終わり」

 

「…は~い」

 

子供の相手をするのはどうしてこうも気力を使うのだろうと、綾乃は小さく肩で息をしながら話題に上がっていた弦羽早の方を見る。彼は既にシャトルの打つ位置によって振りを変えるアームについて教えている。確かに遊びのバドミントンについて教えるのなら、ステップよりも打ち方を教えるだけで十分だろう。

話の進みやすい男子はこういう時羨ましい。

 

「(まあカッコいいとは思うけどさ)」

 

顔は割と、というより結構整っている方だろう。クラスの女子も何人かそんな話をしていたし、それが耳に入らずとも評価は変わらないだろう。

 

「お姉ちゃんお兄ちゃんのことジーと見てる~」

 

「あ゛?――んん゛! さっきのお姉ちゃんとの約束ちゃんと守ろうね」

 

「は、は~い」

 

一瞬だけ綾乃の本性の片鱗を垣間見、少女も本能的に不味いと感じたのかコクコクと数回ほど強く頷いた。

 

それからは少女からそう言った話題を振られる事も無く、バドミントンに集中していた。もっとも綾乃からしたらこんなものはバ()ミントンだが、今更放り投げるのも後味が悪いので、できるだけ丁寧に好意的に接しながら教えていく。自分が三歳の頃は自然とできていたことを教えるのは難しかったが、有千夏の開いていた教室の記憶と目の前の弦羽早の指導を参考にする。

 

ある程度教えたところで実際に打ち合わせて、変なところに飛んだ球を二人が取る形でラリーを続けていく。

目標の回数は33回。その微妙な数字は、どうやらそれ以上続いたことがないらしいかららしい。

 

「(回数か…懐かしいな)」

 

いかに相手に拾わせないようにするバドミントンにおいて、回数を競い合う意味など無に等しい。それこそドロップショットを繰り返し、何回ミスせずに打てるか等の練習はあるが、ラリーの回数を数えるなどいつ以来だろうか。

思い返してみるが自分自身の記憶にはほとんど無く、ビデオテープに映った自分と有千夏の姿を見た記憶の方がずっと強い。つまりそれくらいの時には既に綾乃と有千夏の“ラリーゲーム”は始まっていたのだ。

 

「じゃあやるぞ!」

 

サービスラインに思いっきり足を踏みながら放たれた、ミドルコートへとゆるく上がるサーブ。兄からのシャトルを侑は頭上でラケットを振るオーバーアームで打つ。

 

「い~ち、に~、さ~ん」

 

「(数えるのも私達がやるの…)」

 

行き来するシャトルに首を動かしながら数を数える弦羽早に、普段よりやや低めのトーンで合わせる。

ラリーは例えコートを大きく逸れてアウトになろうとも二人が拾うのでラリーは続くが、しかし空振りやネットとなるとそれはどうしようもない。そしてその割合が多いのはやはり、最年少の侑だった。

 

「またかよ侑。もうお前止めてその姉ちゃんに任せろよ」

 

「私もやるもん!」

 

兄の言葉に少女に微かに涙目になりながら綾乃を見上げてくる。

 

「(私にどうしろっての…?)」

 

確かに侑のミスはこれで六回目。綾乃としてもそろそろ終わらせたいので兄の意見には賛成したい気持ちもあったが、同時にこのまま自分が打ってしまえば、今日自分達と出会った記憶が少女にとって一気に嫌なものに変わってしまうだろう。かれこれ30分近くは一緒のコートにいるのだから、それで別れるのは後味が悪い。

 

しかしどう言えば良いのかと少し黙り込んでいると、綾乃が答えを出す前に弦羽早が口を開いた。

 

「コラ。相手に対してそういうことを言っちゃ駄目だ」

 

「えー!でも!」

 

「でもじゃない。スポーツは相手を思いやってやるものだ。バドミントンだけじゃない。サッカーも野球もドッチボールも、勝ち負けじゃなくてみんなで楽しむのが大事なんだ。君も失敗した時やめろって言われたら傷つくでしょ?」

 

弦羽早の優しいながらも真剣さの混ざったトーンは、まさに子供を叱る年長者らしかった。

それは少年に向けられたものだが、自分にもズンと重く圧し掛かって来たことを綾乃は実感していた。

勿論弦羽早が少年に向けた“スポーツ”と自分達が行っている“スポーツ”が違うことは分かる。

サッカーは相手にいかに球を触らせず、野球も相手が打てないところに球を投げて、ドッチボールは相手が取れない部位にボールを投げる。

 

でもそこに思いやりと、みんなで楽しむという要素が無いかと言われると、多分(・・)違うのだろうと最近の試合を通して綾乃は思う。

 

「(自分だけじゃなくて、相手も楽しむ…。なぎさちゃんは、楽しいって言ってくれた。県大会(このあいだ)のミックスも、悔し泣きする子もいたけど、ちょっと笑ってくれた気がする。瑞貴ちゃんもそうだった)」

 

大丈夫。ちゃんとできていると自分にそう言い聞かせていると、少年が少し渋々といった様子で侑に謝って仲直りとなり、再びラリーを始めることとなった。

それから何回かお互いにミスがあったが、子供というのは教えなくても勝手に覚えるもので、四回目のラリーでついに33回を越えて40、更に50を越えて54と大きく記録を伸ばして終了となった。

 

既に遊び始めて結構な時間が経っており、室内なので分からないが外は夕日に包まれている時間帯となっていた。

レンタル時間もそろそろ終了なのでお開きにしようかと、交じり合った弦羽早の目がそう言っていたので綾乃も頷く頃。

少しふくよかな体型の母親が仕切りの網の前にやってきた。

 

「あ、お母さん!凄いんだよ俺達!」

 

「さっき54回も続いたの!この間まで32回だったのに!」

 

「まあそれは凄いわね。お兄ちゃんとお姉ちゃんにちゃんとお礼した?」

 

母親の元まで駆け寄った二人は体を反転させ綾乃達の方へと向くと、元気の籠った感謝の言葉と共にペコリと頭を下げた。

 

「いえ、こちらこそ。バド好きな子と一緒にできて楽しかったよ」

 

「ほんとにありがとうございます。お邪魔だったでしょうに」

 

「あ~、その…私達元々部活の休みでここに来てるんで、気にしなくていい、です」

 

もっと弦羽早みたいに詰まらずに話せればよいのだが、どうも最近はこういう社交的な会話が昔以上に苦手だ。

 

母親は綾乃の返答に小さく笑みを浮かべて。

 

「それもあるけど、せっかくのデートのお邪魔だったでしょう。お二人とも綺麗な顔立ちで絵になるわ」

 

「(あんたもか…)」

 

蛙の子は蛙と言うべきか、あるいは世間一般から見てレジャー施設に男女が来ると自然そう見られてしまうのか。綾乃が下唇を少し噛んで懸命に苦笑を堪えていると、隣の弦羽早が愉快そうに笑う。

 

「ありがとうございます。でもカップルじゃなくてパートナーですよ。これでもこの間の日曜の試合で優勝した結構強いペアでして」

 

「あら。上手だとは思っていたけど、そんなに凄い人達とは」

 

それから母親と弦羽早が軽い雑談を交えること数十秒。母親もそろそろ時間だと適当なところで世間話を終わらせてくれた。

 

「じゃあねー!ありがとー!」

 

「バイバーイ! お姉ちゃん頑張ってねー!」

 

母親と一緒に施設を出る兄妹に手を振り、その姿が完全に見えなくなった途端。

 

「ハァァァ……」

 

作り笑いと伸ばした背筋を曲げて深いため息を吐いた。

その様子を苦笑しながら彼女の丸まった背中をポンポンと軽く撫でる。

 

「お疲れ。ごめん、まさかそこまで子供が苦手とは思わなかった」

 

「あ゛~…まあいいよ。どうせここで二人で打ち合っても暇だし。最後はそれなりに楽しかったから。あと、子供は苦手じゃない…と思う」

 

「あの子と話してる時の綾乃、かなり顔引き攣ってたけど?」

 

「それは…」

 

お前と恋人だとか片思いだとか、小学生女児に根も葉もないことを言われたから――とは返さなかった。

 

「まあ色々とね…。ただちょっと、クラスの女子と馴染めなかったのを思い出したかな」

 

クラス全体とは違う女子だけの特殊な空気。男子の消しゴムを拾っただけで好きだの何だの言われるあの空気を少し思い出した。

それは小学校に限った話ではないのかもしれないが、中学に入ってからは本格的に友好関係を絞っていた綾乃には、小学校の女子の空気が一番苦手だったかもしれない。

 

「藤沢と三浦がいなかったら一人だったからね」

 

「うん。まあその時はよく弦羽早が話してきてくれたよね。鬱陶しかったけど」

 

“羽咲!お前またボッチなのかよ。今からドッジやるから一緒にやろうぜ”

多少脚色もあるがこんな感じで、ボーとしているところに毎回馬鹿にするように話しかけてきていた。返答は半々で、無視してボーとし続けるか、イラついて弦羽早を圧倒的差で負かすか。

おかげで運動神経が悪い大人しい子とは見られなくなり、馬鹿にされることが激減していたのは割と最近になって気付いたことだ。

 

「辛辣だなぁ。あの時の口調、好きだって言ってくれた癖に」

 

「ん~、最近はやっぱり今のがいい。安心して落ち着く。弦羽早の今の声、好き」

 

「えっと…ありがとうございます…」

 

「前もあったけど、なんで敬語?」

 

隣を歩くパートナーの頬が赤くなっている事に気付かず、ラケットを返したスタッフのお姉さんにやけに微笑ましそうに見つめられながら、綾乃は再会してから初めての弦羽早と遊んだことに小さく口元を緩ませた。

 

 




へぇ~、デートかよ。

アニメだと外でコニーとバドしてたけど外にはないと思う。
ああいうところはバスケかテニスのイメージ。
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