好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された 作:小賢しいバドミントン
はねバドに限らず最近好きな作品が立て続けに終わって寂しい。
話は全く変わりますが、桃田選手この間の大会で20連勝だったかな? 二大会連続優勝と王者として君臨し続けております。世界ランク1位を一年近く維持しているそうです。
強さは勿論安定感もあるので、ほんとに来年のオリンピックが楽しみです。
女子も山口選手がランク一位に戻ったみたいです。女ダブは日本が強くて層が厚く、男子ダブルスも4・5位。ミックスの渡辺東野ペアが3位と期待〇です。
ただ男子ダブルスはインドネシア、ミックスは中国が圧倒的に強い。
不安だと理子は言っていた。だからコートの中で彼女の事を守って安心させてあげようと思っていた。
その為に理子への元へ飛んできた球も自分が取った。コートのほとんどを自分が担当し、ごく限られた球だけを理子に任せた。それはダブルスとして正しいことではないのは分かっていたが、守るとは即ちそういう事だと思っていた。
理子は弦羽早のように強くない。技術、フィジカル、メンタル全てにおいて弦羽早とは違うのだから、ミックスで優勝した自分が沢山フォローに入らないといけない。弦羽早と組む時のような支え合い、繋がり合うダブルスとは違うのだ。
しかしもう大丈夫だよと、第二ゲームに入ってから理子は成長していった。前半の消耗の激しかったラリーが嘘のように、理子が入ってくれてからは試合がスムーズに進んだ。
「(分かってる…。この形が普通なんだって、私と理子ちゃんが組む時の理想の状態なんだって)」
前衛の綾乃と後衛の理子。これは以前練習の時に弦羽早が言っていたことだ。一試合目、二試合目共にこの流れで勝ってきているのだ。
でも三試合目ではプレッシャーからか理子の動きも悪くなり、また相手もこれまで以上に徹底的に理子を狙ってきたのでそうも言ってられなかった。だからコートの外に追い出すなんて無茶な動きを要求した。
「(…また私のやったこと、考えてたことは間違ってたの?)」
ラリー毎に動きが良くなり、元々素質のあった観察眼で相手を分析し、成長を続ける理子の背中を見ていると、これまでの自分のプレイは理子の邪魔をしていたようにしか思えなかった。
またある面では、端から理子にそういった成長を期待していなかった部分もあるのかもしれない。理子の調子が悪いのにそれをケアしようとせず、自分がゲームメイクする事で無理やりゲームを優勢に進める事が、酷く身勝手に見えてくる。
そしてインターバルに入った時、綾乃は遂にその胸の内を健太郎へと吐き出した。この悩み事は周りから見たら変わっていて、誰にも理解されないかもしれない。受け入れてくれると信じてはいるが、それでもパートナーの弦羽早には伝えたくなかった。この悩みは自分本来の悩みであるのと同時に、弦羽早やなぎさに対する嫉妬であることは理解していた。
「…コーチ。私は…驕ってるんですか?」
「…どうしてそう思う?」
綾乃は罪を告白するかのように、なぎさとの個人戦の後から、いや、それ以前からも抱いていた事も含めて語り始める。
「理子ちゃんを守らなきゃって練習と違う自分勝手なプレイをして、理子ちゃんのこと何も考えてなかった。ダブルスは、こんなものじゃないって知ってるのに…」
「ううん、そんな事ないよ綾乃ちゃん。綾乃ちゃんは私のために――」
「…違うの。理子ちゃんが成長して、優位に立っても素直に喜べない。理子ちゃんも、なぎさちゃんも、弦羽早も、みんな成長してる。みんな誰かに負けて、それでも強くなってる。それなのに私は…強くなれない…。あの試合も、未だに自分の負けを…。
…だから、みんなと同じになりたかった。なぎさちゃんや弦羽早みたいに、対戦相手の子と試合が終わった後も普通に接したいのに、でも私一人じゃ何も変わらなくて。相手のことをリスペクトしようと思っても…それがどうしても、上手くできない…」
泣き叫ぶかの如くギュッと左手のリストバンドを強く握り絞めたまま、地面から視線を逸らそうとはしなかった。
綾乃から吐き出された特異な悩みは、健太郎の返答に時間を掛けさせるには十分な内容であった。
これまで健太郎は異性であると言う点からも綾乃の悩みを上手く読み取れず、またバドミントンにおける技術の高さからどうしても接する事が少なくなっていた。
「(この悩みを俺にしてくれたのは、きっと秦野には言いたくないんだろうな…)」
チラリと二階の細い体育館の廊下からこちらを見降ろしている弦羽早と目が合う。弦羽早は少し戸惑うように数回瞬きをした後、ぎこちなく笑みを浮かべると軽く頭を下げて、一階から自分の姿が見えないように下がった。
「(相変わらず羽咲が最優先か。でも、それだけ信頼してくれてるって思うべきだ)」
健太郎はなるべくこれまでの綾乃の試合内容を思い出しながら、冷静に言葉を選ぶ。
まず理屈で説明することは存外簡単だった。成長する他人への嫉妬心は誰もが持つもので、綾乃は確実に入部すぐよりも技術面でも上手くなってきている。負けを素直に納得できないというのはそれだけ自分の中で反省点が浮かんでいると言う事なので後々のバネになる。対戦相手への思いも、パートナーに対してあれだけ信頼関係を築けているのなら、時間が経てば自然とできるようになるから焦るなと、その悩みを一時的に放り投げるように促すのも可能だ。
しかし今の綾乃は、既にそこまで考えた末に悩みを抱え続けているだろうと、健太郎は見ている。あれだけ自分のことを話すのが苦手だった綾乃が自分の心の内を詰まらずに話せた事が、ただ闇雲に悩み毎を言って、解決策を求めているのではないことを証明していた。
ただ、理屈で解決しないとなると、やはり他人が取れる解決策というのはきっかけを作ることであって、最終的な解決はやはり綾乃自身がしなければならないことだ。そのきっかけを作れる一言は、健太郎の口から自然に出て来た。
「競技へのリスペクトを持て」
いくつかの言葉を並べながら、健太郎は穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
それからインターバルを開けて綾乃と理子は無事にストレート勝ちを収め、そこから最後のS3まで試合は伸びたが、無事北小町が勝利を収めた。
二連続の優勝を目指していた横浜翔栄のメンバーは皆、瞳から涙を流しており、それを懸命に堪えながら北小町の五人と握手を交わす。特に三年生は皆個人戦でもインターハイの出場を果たせなかったので、これで本当に最後の試合となってしまった。
ミックスの時は涙を堪えていた瑞貴も、今回ばかりは手の甲で涙を拭うのを繰り返していた。
「…瑞貴ちゃん、ありがとう」
「え?」
これまで勝者として敗者に対して冷たい瞳を向けていた綾乃が、勝った事に酷く申し訳なさそうに視線が僅かに下がっていた。
「…上手く、言えないけど、ミックスの時も今も…瑞貴ちゃんの言葉、嬉しかった。私も、相手に同じように言えるように…なりたいって思えた。だから、ありがとう…」
「…アンタの悩みはよくわかんないけど、勝ったんだからもっとシャキッとする!」
「へ? う、うん」
パシンと軽く握られた手を叩かれ、思わず猫背になっていた背筋がピンと伸びる。
「…多分、アンタくらい上手くたって…ううん、上手いからこその悩みってあるんだろうね。それはウチには分からないし、ウチみたいな連中の悩みをアンタが分かるのは難しいと思うけどさ、でも、アンタはほんとに上手だから。そこは、自信持ってよ…」
“でないと、ウチ等は泣くことすら許されないじゃん…”
他人の感情を読むのが苦手な綾乃でも、擦れた瑞貴の声に続く、胸の内に留められた言葉に気付くことができた。それは右手に出来た堅いマメ、足首の割に太いふくらはぎや、左よりずっと逞しい利き腕の二の腕などからどれだけ努力をして、そして瑞貴の手から伝わる震えがどれだけ悔しいかを教えてくれた。
「…うん」
横浜翔栄との試合が終わった頃には既に夕方近くになっており、北小町の休憩スペースに戻ると一足先に体育館から戻っていた弦羽早がブルーシートを片付けている最中だった。
お疲れ様。そう言おうとした弦羽早だったが、それよりも先に黒いセミロングの髪が視界にふわりと舞うと共に、胸元に小柄な少女が飛び込んできた。
「「おおー…」」
綾乃の大胆な行動に悠と空が感嘆の声を上げるが、インターバルでの話を聞いていた理子となぎさが静かにするようにジェスチャーで促した。少なくとも今の綾乃は雰囲気の割に、あまり落ち着いた精神状態でないのは分かっていた。
抱き着いてきた綾乃の背中を両手でポンポンと叩く。
「お疲れ、コーチに何か教えてもらった?」
「…うん。それと瑞貴ちゃんにも」
「そっか。今日の試合、綾乃にとっていいものだった?」
「そうって、言えるように…なる」
これまでよりもずっと前向きな言葉に弦羽早は嬉しそうに口元を緩めると、まるで子供をあやすかのようにそれらか何回か落ち着かせるように綾乃の背中を優しく叩いた。
それからは現地開散となった。
電車の揺れの中、スカートのポケットに入れたスマホがメールが届いた事を振動で知らせる。頭を置かせてもらっていた弦羽早の肩から体を起こして上体を真っ直ぐにすると、その差出人と内容を確認した。
隣にいる弦羽早は、画面を覗き込む様な性格でも無いので変に隠したりはしない。ただ、その中身が少なからず弦羽早にも関係のある事だったが、それを伝えようとはせずにそのままポケットに終い込んだ。
そのすぐ直後にもう一度ブーンと振動音が鳴り、今度は弦羽早がポケットからスマホを取り出す。その差出人に僅かに頬を強張らせ、そのすぐ後にハァとため息を吐いた。
「誰?」
「母さん。今日帰ってくるから相模原さんのところのケーキ買って来いって。そういう訳だから次の駅で降りるよ」
「なに? 秦野ってマザコンなの?」
「マザコンと言うより、元気なお母さんだもんね。私も何度かしか会った事ないけど全然記憶が薄れないし」
有千夏のように見た目が異様に若いという訳では無いが、普段のやり取りなどは親子というよりも姉弟に近いのかもしれない。フランクな印象の弦羽早の母親はインパクトのある人だった。
「まあ今日も仕事だったし、軽い親孝行ってことで。じゃ、お疲れ様。今日はゆっくりね」
減速した電車がピタリと止まると、同級生三人に軽く手を振って電車を降りる。
店の場所は知っているが、以前は自宅から自転車で来ていたのでこの駅からの位置関係はあまり頭に入っていない。そもそもこの辺りは普段来る地区でも無いので土地感も薄く、スマホで位置を確認しながら店へと足を進める。見覚えのある場所まで来るのに十分近くの時間を要し、店に入ってごく普通の見た目の優しそうな相模原の両親と軽く会話をしながら、少しだけ割引をしてもらったケーキの箱を持つ。
相模原はまだ今日の反省会で家には戻ってきていないらしい。
「強豪校の主将も大変だな」
元々主将というのは部員全体を引っ張る立場で皆の模範となるべき役職であり、加えて他校との練習試合の時などの挨拶は勿論、その他の練習以外の仕事も少なくは無いだろう。
当然部員数が多ければ多い程、気を使うべき相手が増えるので負担も多くなる。
「(二年後の俺と綾乃はまだ北小町にいるのかな?)」
なぎさが怪我をしてしまい通常の練習が厳しくなった以上、もう今の北小町に練習相手と呼べる相手はいない。それこそ互いに打ち合うくらいしか拮抗した試合にはならないし、それも同性でない事から理想的な練習試合とも言えない。
今の環境があと二年続いたとして本当に全国を、世界を目指せるのだろうか。そもそもバドミントン部は果たして継続できる程の部員が集まるのだろうか。
「(芹ヶ谷にハッキリ言って貰ったのはほんとに良かった)」
自分がどうしても綾乃を優先してしまい、それが決して良くない事であるのは自覚している。それでも北小町にいたい、みんなと全国を目指したいと言った綾乃の意志を尊重したいと思っており、また健太郎が居てくれることからノック練習などの質は高い方だ。
何より綾乃と一緒に練習をすることはそれだけで自分にとって大きな成長を促してくれる。今の自分が、入学してすぐの自分よりも遥かに強くなったことの自覚はある。
「(県では確かに通用した。でも全国の上位、世界を目指すにはまだ極めないといけない部分が多すぎる)」
相手のレシーブを貫けるようなスマッシュや、体勢を崩すドロップショット。サービス周りやドライブの精度、コートを隅から隅まで使うコースの精度にフェイントを取り組む。他にもヘアピンや意図してゾーンに入れるようになる、綾乃のような精度のカウンタードライブ、クロスファイアなど言い出したらキリがない。
綾乃と組む混合ダブルスにおいては、弦羽早には世界を目指せるほどの素質があると自負していた。それはやはり、手を抜かれていたとはいえ世界ランク一位から1ゲーム取れたという大きな実績を成し遂げたからこそのものだった。だからこそ、今この時間を無駄にはしたくない。
どうしたものかと暗い夜道の中小さくため息を吐くと、ブーンとポケットのスマホがまたバイブレーションを起こす。母親から早く帰ってこいとの催促かと思ったが、画面に表記された名前は母親では無く、コニーからだった。
「もしもし。どうかした?」
『こうして電話するのは久しぶりね、ミックスも優勝したんでしょ。おめでとう』
「そっちも、流石だね」
コニーもまた弦羽早と同じく、シングルとミックスにおいて優勝を果たしており、その結果は以前にメールで聞いていた。
『えっとね、今日は弦羽早と話したい人がいて電話をしたの』
「ん? 誰?」
向こうにいる知り合いと言えば中学時代の同じ部活仲間か、あとはフレ女の一部のメンバーだけ。前者に関しては基本メアドの交換はしているし、後者も交友関係のある志波姫とは互いの連絡先は知っている。
答えを言う前にコニーは“変わるね”と電話から離れた物音が聞こえ、弦羽早は進めていた足を止めて軽く身構える。
『やっほ、こないだぶりだね』
「その声…もしかして、おばさん?」
『フハッ! ママ、弦羽早におばさんって言われてるの!?』
直後電話越しから鈍い音と、痛みを押し殺す少女のうめき声が聞こえた。現場を見ずとも繰り広げられたやり取りが脳裏に浮かび、苦笑しながら止めた足を再び動かし始める。
『まずはミックス優勝おめでとう。見てたけど、いい試合だったよ』
「ありがとうございます。でも…あの試合に関してはおばさんの本音が聞きたいです。綾乃の母親としてでなく、指導者としての」
混合ダブルスの決勝。あの試合も、最近このまま北小町にいてよいのか考え出したきっかけの一つだ。
相手の二人を決して侮っていた訳ではない。何しろ相手は去年の優勝者で、強豪の逗子の男女のエース二人だ。そんな二人を相手に圧勝できるなんて傲慢は無かった。
でも心のどこかで相模原には個人シングルスで勝ったので、自分の本職であるダブルスでもストレートで勝てると、あそこまでギリギリの結果にはならないだろうと考えていたのもまた事実だった。
『…そうだね。あの試合に関しては、一番弦羽早君が入り込めてなかったように見えた。相手の二人は自分の全てを出し切って勝つって意志を感じられたし、綾乃も同じだった。勿論、弦羽早君からもそれは感じられたけど、でも、三人程じゃなかった。違う?』
「…はい、間違ってないです。相手を侮っていたか、あるいは自分を過大評価かは分かりません。それに綾乃のように、
『うん、素直でよろしい。私は弦羽早君じゃないから入り込めなかった理由をハッキリとは分からないけれど、キミはちょっと謙虚なところがあったし、偶には自分を過大評価するのもいいことかもよ。勿論、それで終わっちゃ駄目だけど』
やはり有千夏の言葉の重みは違う。それは電話越しの何気ない励ましなのかもしれないが、全日本十連覇を成し遂げ、世界ランク一位の
『あと極限の集中状態っていうのはそう起こりえるものじゃないからね。私は麗暁に瞑想と呼吸法、あとはイメージトレーニングを毎日やらせてたから、弦羽早君もやってみるといいよ。瞑想とイメージトレーニングは別物だから別けてやるように』
「はい、早速今日から。あっ、こっちの話ばかりになってしまったけど、俺に何かお話が?」
伸び悩んでいる中で世界を股に掛ける指導者との連絡を取り合え、つい自分の話を優先してしまったが、元は彼女から用があって電話してきたのだった。
いや、そもそも何故有千夏がコニーの元、つまりフレゼリシアにいるのかも突っ込むべきポイントではなかろうかと今になって気付く。
『実はさっき綾乃にも連絡を入れて、それで…ね。綾乃は今、ほんとに大丈夫なのかなって』
本題を話す有千夏の声は、それまでよりも明らかにトーンが落ちており、それは落ち込んでいると言うよりも、寂しげなように感じられた。
右手に持つスマホを必要以上にギュッと強く握りながら、空に浮かぶ星の見えない曇り空を見上げ、今日を含めたここ最近の綾乃の事を思い返す。今の彼女はとても元気と言える状態ではなかったが、しかし悩みながらもいい方向に進もうと努力しているのは伝わってくる。
「大丈夫ですよ。綾乃はほんとにいい子です。真面目に、逃げずに周りと向き合おうとしています」
だから嘘を吐かずに、有千夏を心配させないような言葉を選んだ。先程の電話で有千夏と綾乃がどういったやり取りをしたかは分からないが、有千夏の望みを聞いた者として、望んでいた方向に綾乃が進んでいるのを伝えるのは一種の義務だとも思っていた。
『そっか…。それを聞いて安心したよ。これからも綾乃のことお願いね』
目を伏せて微かに笑みを浮かべている穏やかな姿が想像できる、かつて自分が小学生だった時の彼女を思い出すそんな優しい声色。
『もし伸び悩むことがあったら一度こっちにおいで。きっかけぐらいなら作ってあげられるかもしれない』
「はい、ありがとうございます」
“じゃあ、そろそろ切るね”。最後の軽い挨拶と共にあっさりと電話を切った淡々としたやり取りは、やはり綾乃の母親だなと思える。ツーツーと電話が切れた事を伝える機械音を消し終えると、もう周囲は見慣れた住宅地が広がっていた。
次回の投稿はまだ未定ですが、とりあえずインターハイ開始前まではなるべく早く(当社比)投稿出来たらいいな
あんまりこういうこと言わないタイプですが、感想とか高評価とかくれると嬉しいです。