好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された   作:小賢しいバドミントン

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はねバド最終回読みましたー。よかったー。

その後の話が見れて面白かったです。
ただなぎさが一瞬志波姫さんに見えてちょっと困惑した。

そして路ちゃんはーーもう戻れないっぽいですねあれは。



私らしく

北小町は準決勝で敗退した。

分かり切っていた結果なのかもしれないが、やはりなぎさが離脱した今の北小町に優勝するまでの力は無かった。

理子と学はこれで引退となり、なぎさも普段通りの練習が行えなくなることから三年生は練習から離れることとなった。もっともインターハイが終わるまではマネージャーとして練習に参加してくれるようなので、今すぐに寂しくなることはないだろう。

 

「(終わっちゃったな…)」

 

この一ヵ月試合に次ぐ試合だったので、今週の休日の練習は休みになっている。突然休日を渡されてもどうしてよいのか分からず、また試合が終わってしまい無気力状態となり、綾乃はぼんやりと手入れの行き届いた庭を見つめていた。

 

「(弦羽早に会いたい…。でも、もう気を使って欲しくない…)」

 

自分が今悩んでいて、それを意図して聞かずにいてくれることは、安堵できる一方負い目も感じていた。

これまで懸命に逃げずに向き合おうとしてきた綾乃だが、試合が終わった事による燃え尽き症候群も相まってか、今は考えるのが酷く面倒で疲れる。

インターハイに出場が決まった事が面倒に思えてしまい、身体も気怠く何もやる気が起きない。ただ一つ、弦羽早の肩に頭を置いて、彼のぬくもりを感じながら目を閉じたい。

 

「お嬢。お友達がお見えで」

 

一瞬彼がやって来たのかと思ったが、弦羽早の事をお友達とは言わないのですぐに違うと、安堵かあるいかため息の混ざった吐息が出る。

では誰か。北小町のメンバーかあるいはエレナかのり子か。

少ない交友関係の中で友達と言える人物は限られていたが、やって来たのはその誰でもないピンクの髪がこれでもかと印象的な少女だった。その背中に隠れるように自分と同じくらいの背丈のミキの姿もいる。混合ダブルスと団体戦の準決勝で当たった為、彼女の事も知ってはいる。

 

「…薫子ちゃん?」

 

「少し付き合って下さいますか?」

 

 

 

 

薫子に付いて行くのは面倒なので拒否したいと脳は判断を下そうとしたが、心と体は自然と彼女の言葉に従っていた。どんな相手でどういった関係性であれど、人と接する事が自分にとって良い事なのだと、無意識の内に己の成長を期待していたのかもしれない。

薫子が向かった先は港南高校の体育館。流石に市民体育館に比べると広さは劣るかもしれないが、少なくとも北小町等のごく普通の高校に比べると天井は高く、敷地は広い。

 

「…私の家、良く知ってたね」

 

「ある方に聞きましたから」

 

「…そっか」

 

やはり綾乃が相手ではこういった雑談は話が続かない。続けようとする意志が彼女には無い。

薫子も癖が強く、周囲と上手く馴染める方ではないが、自覚がない分綾乃はそれ以上に大変だろうと、こういった態度を見ていると思う。

 

もっとも薫子としてはそういった、良く言えばクールで悪く言えば冷めた部分は嫌いではない。

ミキから借りたユニフォームを綾乃へと手渡すと、彼女は少し動きが固まりつつも、ただ何をしにここまで案内されたのかは分かっていたようで文句は言わなかった。

 

「…スカート」

 

「ご、ごめんね!私、基本的にスカートタイプで」

 

「いや、大丈夫」

 

スカートと言っても当然中に短パンのようなものがあるが、あまり履きなれたものでもない。もっともこれといって抵抗がある訳では無かったので、おどついているミキに軽く首を振った。

着替えのためひんやりとした体育館倉庫で着替えながら、綾乃はぼんやりとかつての、中学二年生の時の薫子との試合を思い返す。

 

かつては薫子の風邪を無理やり移す、汚いやり方に怒りと苛立ちを覚えたものだ。あれを機に明確に薫子が苦手になったのもまた事実。

ただ地区大会で薫子との試合を終え、そしてなぎさと戦った今、あの時の事を思い出して感じるものは苛立ちなどでは無く悔しさ。

 

「(いいよ、また圧勝してあげる)」

 

 

 

しかし綾乃の思いとは裏腹に、始まった薫子との試合はイーブンどころか劣勢となっていた。いつもの綾乃であれば、疲労は感じていても顔に出さずにいられる運動量であるのにも関わらず、身体は重く内側が燃えるように熱い。

 

そして繰り返されるラウンド側への配球。楽をしてハイバックで繋げてもよいが、ラリーを続けることもまた辛い状況であり、無理やり回り込んで打ち抜く展開が多く見られた。

何とか薫子を動かす為に前後に振るが、彼女はまるで綾乃の配球を読んでいるかの如く自分が打つ時よりも一呼吸早くシャトルの落下地点で構えており、本来なら得意な筈の速いゲームスピードを彼女が引き起こし、こちらが後手に回っている。

 

「ハァ…ハァ…ッ…」

 

「あなた…」

 

膝に手を当てて必死に呼吸を整えようとする綾乃の姿に、薫子は左手で構えていたシャトルを降ろす。

薫子も当然、地区大会での綾乃の惨敗を糧に、それまで以上に努力に励んできたが、綾乃との力量差を埋められる程の成長は遂げていないと自己分析はできている。

綾乃との試合を前に何の下準備も無かったわけでは無いが、ここまで作戦通りに試合を運べる相手でないことは誰よりも知っているつもりだ。

 

「は、ははっ…。最近さ、ごちゃごちゃして、分からない事ばっかだけど、これだけは思うよ。あの時、薫子ちゃんに負けてなければ私はもっと、私らしく生きられてたんじゃないかって」

 

ラケットを杖代わりにしながらフラフラと立ち上がる綾乃の姿と、彼女の声に籠められた切実な意志の重さに、審判をしていたミキの肩がゾワリと震える。その弱々しい姿は似ても似つかないが、しかし彼女の纏う空気は団体戦の試合の時に自分を圧倒した彼女の姿と瓜二つであった。

 

「あなたらしく生きる…?」

 

残された僅かな体力を必死に振り絞ってようやく言葉になったかのような、そんな声に薫子は一瞬だけ頭が真っ白になった。

それはかつての自分のしでかした事が、そこまで綾乃に大きな重石となってしまったという罪悪感――などではなく、思わず腹の内から空気が吹き出して来るほどの、綾乃の滑稽な思考に。

 

「クッ…フフッ…。あなたが今、どんな都合のいい想像をしたかは分かりませんが、今のあなた程、“私らしく”が似合わない人間なんていませんわよ」

 

「なっ? じ、自分のやった事を、たっ、棚に上げるの?」

 

その言葉は綾乃がずっと心の内に抱えていたものだ。それまで決して口にしようとはしなかったが、全てのきっかけとなってしまった薫子との試合。そのきっかけを作った薫子に、謝罪されることはあっても嘲笑を向けられるなんてことは一欠けらの想像すらしていなかった。

 

「クフッ…。では想像してごらんなさい。仮にあの事が無かったとします。それが難しいのなら今この場でわたくしがあなたに土下座して謝罪したとします。それであなたはどうなりますの? “私らしい”羽咲さんにはなれるのですか?」

 

「ッ…そんなのッ!」

 

薫子が言われたシチュエーションを想像してみる。

同じような想像は当然したことがあった。ただ一人で考える時は、“薫子に負けなければ”=“私らしく生きられる”という最低限の式しか浮かばず、その式の具体的な内容や、“私らしい”という答えがどういったものかまで考える余裕は無かった。

 

切羽詰まるように考え出す綾乃だったが、どちらもその後の世界が想像できない。

仮に中学二年のあの試合が無かったとして、そこから先自分がどういった生活をしているのか。あるいは今この場で薫子が謝罪をした後の自分が、薫子だけでなく周囲とどう接していくのか。

 

「…ぅ」

 

「その羽咲さんはどんな顔をして、どんな相手とどのような会話をするのかしら? 相手の顔は浮かび上がりますか? いえ、今のあなたでしたら自分の顔すらまともに想像できないのではなくて?」

 

必死に笑いをこらえるようにお腹を押さえる薫子の姿に、爪が肉に食い込む程に拳を強く握る。それは薫子への、怒りを通り越した殺意にも似たどす黒い感情でありながら、何か一つ、嘘でも言い返せない自分への怒りでもあった。

 

「(私、が…。私は…)」

 

考える、考えてみる。

あの出来事が無かったら、自分はどうしていたのかを必死に。薫子に言い返すだけの紙芝居では無く、自分の心から想像するたらればの世界を。

 

「…弦羽早がいてくれる」

 

「…は?」

 

思わぬ返答に、いや、そもそも返答すら来ないと思っていた薫子の笑いがピタリと止まる。

 

「弦羽早は、憧れてるって言ってくれた。私とパートナーを組むために…全国で優勝してくれた。薫子ちゃんがいなかったら…私はもっと、弦羽早と――」

 

どうなっていたか。そこまでは言葉が浮かばなかった。無我夢中で胸の内をそのまま吐き出して口を動かす綾乃にとって、自分の言葉を完結させるなどがそもそも困難であった。

しかし綾乃の言葉が途切れそうになるその直前で、まるでバトンを受け取るかのようなタイミングで薫子が割って入った。

 

「なるほど。ではそのもしもの羽咲さんは、秦野弦羽早を“一切見下していなかった”と?」

 

「……は?」

 

薫子が一体何を言っているのか一瞬理解できなかった。主語を間違えているのではないかとも思ったくらいだ。

優勝した弦羽早が優勝できなかった綾乃を見下しているであれば、まだ話として成立はする。勿論そんな事は一切ないと綾乃は胸を張って言えるが、優勝できなかったことの劣等感からそんな被害妄想をしたことはあった。

その被害妄想が弦羽早に対して失礼だと思いつつも、ネガティブになった思考というのはどうしても負の方向性に進んでしまう。

 

「う、嘘を吐いてまでこれ以上私を怒らせるのはやめてよ。なんで、そういう話になるの…?」

 

「どうしても気になって、知り合いの記者の方にあの試合――世界ランク一位と戦った試合を見せてもらいました。あなたも彼も天才だと思う一方、少し気になった事がありまして。あなた…何故あの時はサービス周りをミックスの正攻法にしていなかったんですの?」

 

「…えっ?」

 

その瞬間まるで体の全身の血がピタリと止まるかのような不快感と寒気が綾乃を襲った。カタカタと震えるラケットは怒りから来ていないことは、綾乃と付き合いがほとんどないミキから見ても明らかな程に動揺を隠せないでいた。

その変化に薫子はラケットグリップを一瞬強く握りながらも、内心ホッと息を吐く半面、呆れもあった。

 

「(ほとんど釜かけでしたが、まさか感じていた違和感が本当だったとは…。そこまで歪な己の“そんな部分”を未だ気付けていないのなら、ここまで追い込まれるのも当然でしょうか)」

 

ふぅと一呼吸整えると、できる限りそれまでと同じ嘲笑の籠ったトーンと表情で話を続ける。

 

「あそこまで格上を相手にしてあなたが後ろにいるメリットなんて無い。自分達の強みをいかにして押し貫くかが格上を倒す鍵であることを、あなたならご存知では無くて? ですから改めて聞きますわ。何故あなたはサービス周りで、通常のダブルス通りの立ち位置だったのですか?」

 

「…そ、れはッ…。だ、だって、紅運にスマッシュを打たれないように低い展開に、しないといけないから。も、もし弦羽早がサーバーの時にプッシュを打たれたら、あ、上げざるを得ないでしょ…?」

 

混合ダブルスの男子がサーバーである時は、ミドルコートよりやや後ろ目でサーブを行い、その斜め前に女子がいる形がセオリーとなる。もしその状態で弦羽早がいる反対側へ出の速い麗暁(リーシャオ)のプッシュを打たれた場合、その球をドライブで返せる選手は世界で見てもその数は少ないだろう。

だから従来のダブルスの立ち位置をすることによって、少しでも麗暁のプッシュにドライブで対応できるようにしていた。

 

なるほど、確かに思ったよりも合理的な答えが返って来たと薫子は一応納得した。もっとも、その全てが真実でないことは動揺する綾乃の声が教えてくれていた。

 

「…確かに中盤以降の相手を知った展開であればそれは理に適っていますわ。ですがあなた達はゲーム開始から一律して立ち位置は従来のまま。序盤くらい、立ち位置を変えてもよかったのではなくて?」

 

「ぅ…ぁっ…」

 

必死になって綾乃は考える。先程のたらればの世界を想像するよりもずっと頭を動かし続けた。

しかし思い出す内容はあの時の試合よりも、それまでの自分は必要以上に弦羽早にフォローに入ってもらうのを酷く嫌っており、サービス周りもまるで自分が下に見られているようで苛立ちを覚え、通常のダブルス通りとする取り決めをした会話もまだ記憶に新しい。

 

それだけじゃない。

 

合宿でコニーとミックスで戦った時、自分に球が来ないようにとストレートにロブを上げ続ける弦羽早に自分は感謝するどころか、嫌いとまで言った。

 

薫子に負け、弦羽早と喧嘩した時の自分の言葉。“幻滅した? それともスッキリした?”。それはいったい自分のどういった感情から出た言葉なのか、想像するだけで世界が反転するように気持ち悪い。

 

件のダブルスで、麗暁と紅運の正体を知った弦羽早がミスを連発する最中に、自分は彼に何と言ったか。いくつか酷い事を言ってしまったが、今の綾乃の脳にリフレインするのは、“これ以上足を引っ張らないで”と冷たく告げたこと。

 

「ち、違う…。わ、私は、弦羽早の事、見下してなんて…」

 

「いったい今のあなたがどれ程彼を信頼してるかは知りませんが、ただ無償で他人を信頼できる優しくておっとりしたあなたなんて端からどこにもいませんでしたよ。いたのは自分が優位に立っている事に満足している部活(大衆)と合わなかった女の子」

 

“薫子ちゃん、強いね”

薫子と出会ってすぐ、ほぼラブゲームに近いスコアで勝った綾乃は彼女にそういった。

“大多数の人間なんてね、この蟻みたいに群がるしかできないんだよ”

エレナに正論を言われ、それで逆上してしまった自分が何も考えずに吐き出した言葉。

 

「ち、ちがっ――」

 

上に立ちたい(その)癖、対等な人間を求める闘争心の塊で、負けず嫌いでねちっこい。狡賢く計算高く、友達ごっこが大の嫌いで気も利けない。他人の美点に嫉妬してばかり」

 

楽しかったと思う反面、どうしても負けを受け入れられないなぎさとの試合。

自分が一人で戦う時、相手は泣いたり怯えたりと、笑顔を浮かべてくれない。

相手を、競技そのものをリスペクトしようとしても、どうしても上手くできない。

 

「ちが、ぅ…」

 

擦れるような綾乃の声に、ミキは薫子を止めようとするが彼女に睨まれ、声を出す事すら許されなかった。

薫子はスゥと自分の心の中で大きな深呼吸をし、自らのメンタルを整える。この最後の一言は、いくらライバルであったとしても、他人に与えるにはあまりに大きな影響を及ぼす言葉だ。

それもやさしい言葉ではない、明確な悪口で、薫子であっても吐き出すには覚悟は必要だった。

 

「そしていつも他人を見下してる。そんなあなたがわたくしが居なかったからと、仲良く秦野弦羽早とペアを組んでいるのでしょうか?」

 

言った。おそらくこれまでずっと綾乃に言いたかった、彼女の性格について全て出し切っただろう。

普段の綾乃の身の回りのことなど知らないが、ただ出会ってから未だに本質の変わらない彼女を見ている限り、綾乃には自分のような容赦なく悪口を言ってくるような相手はいないのだろう。

 

だからこそ今の自分の言葉は、綾乃にとって人生で初めての経験のはずだ。そんな彼女がどういった反応を示すかは薫子にも分からない。

ただ綾乃は地面を向いたままじっとその場で立ち尽くし、身体を震わせている。

 

そして体育館が静まり返って十秒ほどだろうか。その静寂が破られた。

 

「ぅ…ぅぅ…ぅぇぇ…」

 

「…へ?」

 

「ぅぇぇっ…ふぇっ…ぁぅっ…」

 

怒鳴ってくるは当然覚悟していた。聞こえなかったと何も言わずに立ち去る事も可能性の一つとして考慮していた。

ただその場でへたり込んで泣き出すなどは流石に予想できなかった。

 

それまで中立を貫いていたミキの視線が一転し、非難するかのように自分を睨みつけてくる。普段の薫子であればそんな視線を向けられようとも、我が物顔で己の信念を貫くだろうが、流石の彼女もこの反応には動揺を隠せない。

しかも本気で泣いており、嗚咽などが生々しい。

 

「わだじ…ずっどがんがえてて、みんだど同じおうに゛なりだくて、ぞれが全然できだぐで。じっ、自分がわるぐないっでおもっでだ。づよいわだしが正しいんだって。でぼ、さいぎんそう、じゃない、がもっで、怖かった。それでもづばさは一緒に、いて、くれるって、おぼっでたのに、私が、づばさを、そっ、んな風に、みでだなんて」

 

「あの、羽咲さん? さっきのは何もあなたに向けた言葉ではなく…」

 

一先ずラケットを置いて彼女の元まで歩み寄ると、ほとんど聞き取れない日本語を治すためにも彼女の背中をぎこちない動作で撫でる。

因みに今の綾乃の言葉は

『私ずっと考えてて、皆と同じようになりたくて、それが全然できなくて。自分が悪くないって思ってた。強い私が正しいんだって。でも、最近そうじゃないのかもって怖かった。それでも弦羽早は一緒にいてくれるって思ってたのに、私が弦羽早をそんな風に見てたなんて』

と、何とか変換することができた自称ライバル兼悪友。

 

「いいの゛…。ぜんぶ…あっでる…」

 

思いの外素直に、いや、素直というにはかなりの言葉を掛けたが、それでももっと否定を続けるかとも思っていた。

人間誰しも、自分が思っている自分とは異なる人物像を他人から言われたら困惑するものだ。自分とはどんなに切り離そうとしてもそこが世界の中心であり基準であるのだから。

 

おそらくだが、綾乃は考えている内に自分のそういった面に既に気付いていたのかもしれない。それを無意識の内に終い込んでいたのかどうかは定かでは無いが。

 

「薫子ぢゃん…私は…」

 

「…あなたの人生(世界)全てを知っている訳ではありませんが、あまり人間を美化しすぎない事ね。性格のいい人間なんて一人もいないわ」

 

「いる゛…づばざがそうだもん…」

 

「…あなたに対してはそうでしょうね」

 

ここに来て尚あの男の名前を出すかと、薫子はこれまで内面に抑えていたため息を遂に解禁し深く吐いた。

 

「とにかく、あなたはもう機械だった頃のような(かつてのあなた)とは違う。強くなるために自分と向き合う必要がでた。だから、悩むだけ悩んで、強くなりなさい。そして、わたくしのライバルは日本一だと全国で証明しなさい」

 

 

 

 

 

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