好きな子と混合ダブルス組むために全国トップを要求された 作:小賢しいバドミントン
今回から本格的?にミントンやるのですが、試合描写等で、ここ分かりにくい、これどういうこと?とか、この用語違うよ、などがあれば感想に頂けるとありがたいです。
日常等の描写を改善するには代筆以外に手はないですが、試合の描写が分かりにくければ、もう少し何とかなるんじゃないかなぁ(投げやり)
なお試合の臨場感等は素の描写力の勝負になるのでそっちも改善できません。
男女混合ダブルス。男女が組むと言うだけで通常のダブルスと大差がないように思われるが、実際の動きは大きく異なる。男女という性別的な身体能力の違いは大きい。筋力や体重、背丈に手足の長さ。ホルモンバランスにより反射神経も男性有利には変わりなく、それらはバドミントンにおいて大きなハンディとなる。
その為男子は女子を狙ってスマッシュを打つのが決め手の一つとなり、また強打があることから、前衛は女子、後衛は男子となり、男子の守備範囲は通常のダブルスより増えるのが一般的なものだ。
その為攻めのトップアンドバック、守りのサイドバイサイドへのローテーションにも一癖が出てくる。
思わぬ形で綾乃とのミックスダブルスを行うことになった
理子の変えのユニフォームをダボダボに着る綾乃と目が合う。彼女のユニフォーム姿を見るのも三年ぶりだと思うと、より新鮮に見える。
「おい秦野、羽咲に見惚れてる場合じゃないぞ」
「え!?別に見惚れてたとかじゃ――」
「似合って、ない?」
「…凄く可愛いと思います」
色恋に関心が薄い綾乃だが可愛いと言われて悪い気はせずに、ニヘラと柔らかく表情を崩す。その笑顔に顔を真っ赤にして目を覆う弦羽早に、何をやっているんだと健太郎は再度呆れたように息を漏らす。
「秦野は問題ないだろうが、羽咲はダブルス、それもミックスの経験はあるのか?」
「ミックスはないけど、大丈夫」
やっぱりと、弦羽早と健太郎の不安は的中した。
「とりあえず、羽咲が前で。もし羽咲が後ろになった時は、俺は中央寄りにいるから」
「え~…別にそんなことしなくていいよぉ。返って邪魔だし」
「う~ん…」
これから本格的にダブルスを組むなら、今後の方針とスタイルを考えていかなければならない。インターハイ予選まではもうそんなに遠くない。色々切り替えて模索するよりも、ある程度決めていた方がいいかもしれない。
確かに前々から弦羽早は、守備範囲については考えていた。綾乃のスタイルはラリーを継続させる守りを主とし、選球眼は勿論反射神経も男子に引けを取らない。というより、男子よりも良い。ミックスは割合的に男子の守備範囲が広くなる分、いわゆる譲り合いが起こりやすい。男子としては”近くだし拾ってくれる”だろうと、女子は”男子の邪魔をしてはいけない”という状況が、プロのペアでも起こる事はざらだ。
なら守備に関しては男子ダブルスと同様、とまではいかなくとも、かなりの部分も任せた方が綾乃にとっても動きやすいかもしれない。
「分かった。なら一先ずは通常のダブルスと同じように動こう」
「おいおい、大丈夫か?」
「まあ練習試合ですし。ただ攻めの基本パターンは俺が後ろで羽咲が前。これは譲れないから」
「うん。私も前の方が好きだし」
だろうな、と綾乃のラケット捌きを知る弦羽早は頷いて返す。
「しかし…」
弦羽早はチラリと体育館の隅へと視線を向ける。
金色の長い髪、シミ一つない白い素肌、青い瞳、そして恐ろしい程に整った顔。入場と同時に室内の男性陣の視線を集めた美貌の持ち主が、そこでアップをしながらペアを組む大磯と話し合っていた。
コニー・クリステンセン
デンマークのユース代表。高校生にして数々のタイトルを総なめにした、正真正銘の天才。
そんな彼女が日本、それもフレ女に居て、更にはダブルスで試合をすることになるとは思わなかった。
彼女の試合を見た事は無いが、高い身長と長い手足と引き締まった体から、下手な男子よりも速いスマッシュを打つ姿は容易に想像できる。
彼女が前衛にいるだけで、綾乃へ掛かるプレッシャーは大きいだろう。それに加えて。
「それと羽咲、多分大磯さん――クリステンセンのパートナーの人は、ダブルス、それも後衛が本職だと思う」
「シングルスであんな隙の大きいジャンピングスマッシュは使わないもんね~」
先程の大磯との試合、弦羽早が勝てた理由の一つがダブルスの癖が抜けていないのがあった。他にも相性や単純な実力差などもあるが、今度のダブルス、それも後衛が多くなるミックスともなると彼の本領とも言える。
「初めての試合にしては強すぎるけど、楽しくやろう」
「…うん」
綾乃の正式な初試合、ダブルスプレイヤーの弦羽早と大磯、そして何よりコニーの存在により、嫌でもそのコートは目立っていた。
四人は挨拶の握手を交わす中、綾乃はネット越しのコニーを見上げて。
「あのっ、お花ありがとう。それで私…」
「いいのよ、あんなの。そんな事より私はあなたに会えて嬉しい」
「え?」
「だって、あなたに会う為に日本まで来たんだもん。お姉ちゃん」
「……え?」
コニーの言葉と、先ほどとは打って変わって冷たい態度に困惑する綾乃を尻目に、コニーはチラリと弦羽早の方へとみる。
「(ツバサ。そう言えば前にママが言ってたっけ。アヤノの事が好きなバドミントンが上手な男の子がいるって。その頃は趣味として”上手”程度だったみたいだけど、三年で成長するものね。それにしても…)」
先程から時折観察していたが、どうやら弦羽早は可哀そうにも綾乃に好意を抱いているらしい。傍目で見ても分かるくらいに、綾乃に対する態度が他の女子とは違う。
しかし肝心の相手は恋愛に興味のない朴念仁。先程の花屋でのやり取りを思い出したコニーは哀しい瞳を向けて、敬礼を送った。
「ん?何か――って、何で急に敬礼!?」
「可哀想だからせめてもの応援?」
「そこまで下に見られてる!?」
「そっちじゃないけど、ま、それでいいわ。せいぜい頑張りなさい、この試合も、それ以外もね」
「…秦野、あの子のこと、知ってるの?」
「雑誌やテレビで見た事はあるけど、会うのは初めてだよ。羽咲こそさっき話してたけど、知り合い?」
「うん、さっき道に迷った時に」
ということは、綾乃も今日初めて会ったのだろうが、コニーは前々から綾乃の事を知っている口ぶりだった。人間関係が読めずに戸惑うが、試合に入る為に気持ちを切り替えると、審判から貰ったシャトルを綾乃に手渡す。
『オンマイライト、羽咲・秦野、サーバー羽咲。オンマイレフト、クリステンセン・大磯、レシーバークリステンセン。ラブオルプレイ!』
こうして弦羽早と綾乃の初めてのミックスダブルスが始まった。
トン
綾乃のショートサーブから始まったラリーは、序盤から高度なヘアピンの応酬となった。
コニーはサーブに対してネット前に落とし、それをすぐさま足を踏み出してストレートのヘアピンで返す綾乃。
コニーは更にコート際へと送り、綾乃は自分の前に立つコニーから逃げるように、右側へとクロスのヘアピンを送る。
しかし素直にストレートのヘアピンが来るとは端から考えていなかったコニーは、綾乃のヘアピンと同時に地面を蹴って、綾乃から見て右へと飛ぶ。
クロスのヘアピン、又の名をワイパーショットは、奇襲性は高いものの飛距離が伸びる分、当然シャトルが地面につく時間も伸びる。俊敏なフットワークと高い反射神経、そして長い手足を持つコニーはそれを楽々と、シャトルがコートの中央に差し掛かった頃には取り、仕返しだと言わんばかりに、今度は綾乃がいる逆サイドへとヘアピンを送る。
不味い。
いくら素早いフットワークを持つ綾乃でも、シングルスならともかく、ダブルスのサイドラインギリギリにいる状態で、反対のサイドラインに送られた球までは追いつかない。
しかしダンと地面を踏む音と共に、後ろから伸びて来たラケットがそのシャトルを打ち返す。
「秦野ッ」
「あ~、ごめん、角度つかなかった」
サイドラインギリギリでも高い技術力が要求されるヘアピンだが、更にネット際ということもあり、ロブは高く上がるがコートの中央までしか飛ばない、チャンスボールとなってしまった。
ネット際のシャトルを奥に飛ばそうとすれば、ラケットの面は斜めを向くため、ネットに掛かってしまうのだ。
先程の球の最適解は再びクロスに打って時間を稼ぐのが正解だったか。
弦羽早と綾乃は急いで左右に並ぶ防御の陣形、サイドバイサイドへと移るが、その丁度ど真ん中に後ろに下がったコニーのジャンピングスマッシュが突き刺さった。
『1‐0』
「ごめん羽咲。フォロー甘かった」
「私も、素直に上げなかったから」
「ううん。上げないのはダブルスにおいては大事だから。でも、あの技術にスマッシュ。まさにプロレベル、反則級だ」
シャトルという軽い球を使うバドミントンは、非常に繊細な技術を要求されるが、そのもっともたるものがやはりヘアピンだろう。このヘアピンはただ打つというだけでは初心者でも簡単にできるが、極めるとなると並みの練習量ではものにできない。
実戦でその成果を発揮するのなら尚更だ。
「…羽咲、次前に出たら、見計らって軽いハーフ球を打ってくれ。大磯さんに打たれてもいいから、クリステンセンが前衛にいたら、ギリギリ届かない高さで」
「うん…」
話し合いを終えた二人が構えると、既にコニーと大磯のペアは準備万端だった。
ミックスでは従来のダブルスとは違い、男子がサーバーの時は、サーブラインギリギリからは打たずに、その1・2歩下がったところに立ち、サーブラインに女子が構える形となる。そうすることでローテーションの手間を省き、女子が前、男子が後ろというミックスの理想のポジションを維持するためだ。
そしてコニーと大磯のペアもそのセオリー通りのフォーメーションだった。
一方弦羽早がサーブレシーブとなる状況では、二人のフォーメーションは従来と同じ。レシーバーの弦羽早が前で、綾乃は後ろで構えている。
大磯からのサーブ。サーブラインから少し離れた場所からのサーブは少しドライブ気味になり、故に慣れていないと浮きやすい。
「あっ!」
「馬鹿!」
絶交球とまでいかなくとも、しかしネット前のショートサーブではその僅かな浮きが致命的となる。ダブルスが本職である弦羽早相手なら尚更だ。
シャトルがネットを越えた直後に叩き落とし、コートの左側、大磯とコニーの中間地点へと決める。
『サービスオーバー。1オール』
「ナイッショ」
「ラッキーだった。羽咲、さっきの二人の構えがミックスの王道だけどどうする?」
「いい。ダブルスも、そんな経験ないし」
「了解」
コニーにがみがみと説教を受ける大磯は、新人サラリーマンのようにヘコヘコ頭を下げながら弦羽早にシャトルを渡す。いくら相手が年下でも、モデル並みの美少女、しかもデンマークの代表ともなると頭が上がらないだろう。
弦羽早はラケットを構えながら、レシーバーの大磯とコニーの位置関係を確認する。
ミックスで男子がレシーバーになる時は、男子は通常と同じくサーブラインギリギリに立ち、女子は中央寄りに構えるのが基本的なパターン。とにかく女子を前に出すのを徹底している。
二人も同様で、レシーバーの大磯よりもコニーの圧が伝わってくる。
ふぅと弦羽早は息を吐くと、右手で持ったラケットからショートサーブを繰り出す。
大磯の取った行動は奥へのロブ。後衛が綾乃であるため、よい一手だった。綾乃は女子の中でも身長が低く、細身である為実際強打はない。
ダブルスに慣れていない綾乃は、一先ずラウンド側へ来た球をセオリー通り中央前へドロップを落とすが、コニーに軽々拾われ、今度は反対の後ろへと走らされる。とはいえシングルスプレイヤーだった綾乃にとってその程度の距離は走るの内に入らず、フォアハンドへの絶交球に、クロスのカットドロップを送る。
このカットこそが左利きの最大の利点とも言え、左利きプレイヤーの大きな武器だった。
シャトルの巻き方によって左利きのプレイヤーの球は抵抗を受けにくく球のノビがよくなるが、フォアハンドでのカットは回転が逆、つまりリバース回転を行うことで、従来より速さが落ちる分、変わった軌道をする。そして前に落とすカットの場合は、左利きプレイヤーの球はネットを越えた辺りで急激に失速する。
「ッ!」
「私が取る」
一歩出遅れた大磯だったが、それは結果的に正解だった。綾乃の直線状、つまりシャトルとは遠い地点にいるコニーがその球をハーフに打って返したのだ。
これでコニーが前衛、大磯が後衛の状態に変わる。
だが前衛にいた弦羽早もそのハーフ球を見逃さず、後ろに飛びながらドライブ気味に放つ。が、前衛にいるコニーは、それもまた同じくドライブでストレートにいる弦羽早に打ち返す。
タン! タン! タン!
前衛にいるコニーと、やや真ん中よりにいる弦羽早のドライブによるラリーが続く。二人の距離が狭い分、ドライブの感覚は短く、綾乃も下手にフォローに入れない。
従来なら有利状況な、男子の弦羽早と女子のコニーのドライブ合戦だが、有利な前衛であることと高い技術力から、弦羽早を押していた。
「どんだけ、だよ!」
このままでは厳しいと判断し、体の正面へ差し込まれた球を、体を右に逸らしながらバックハンドでクロスに打ち返す。一見簡単そうに打ち返した弦羽早だが、体の正面というコースと速さを持つドライブをクロスに打ち返すのは容易な技ではない。
「やるね。でも!」
意地でも通さないと、コニーは横へ飛びながらネット前で、ドライブという攻めの球を叩き返す。それまで以上のスピードカウンターに二人は反応できず、シャトルが床につく。
『サービスオーバー、2‐1』
「ママに認めてもらうにはまだまだね」
ふふんとラケットを肩に置いてしたり顔になるコニー。その後ろでは肩の狭い思いをしている大磯の哀愁漂う顔があった。
「ド、ドライブで女子に負けた…」
「? 昔ずっと私に負けてた」
「あの頃より性別の差が大きいから。というか、ナチュラルにパートナー傷つけるのはやめて欲しいな」
ダブルスがメインだった弦羽早にとって、ドライブ合戦は得意なラリーだったが、流石デンマークの天才と相手を褒めるべきか、自分がまだ甘いと喝を入れるべきか。
次はコニーのサーブとなり、レシーバーは綾乃となる。
コニーのショートサーブを、綾乃はセオリー通り、コニーの正面へのヘアピンで返す。身長の高い選手は手足が長い分、正面の球を苦手とするプレイヤーが多い。また、高身長のプレイヤーでなくとも、真正面のヘアピンというのは意外と取りにくく、ダブルスではショートサーブのレシーブの王道のパターンの一つとして正面へのヘアピンがある。
だが当然、たった一打で決まるほどコニーは脆くなく、ニヤリと笑みを浮かべて再びヘアピンで返す。
最初のラリー同様、コニーは一切上げて逃げる気のない、強気のネット前でのヘアピン勝負が始まる。
一回、二回、三回。四打目のコニーのヘアピンのコルクがネットの白苔に引っ掛かり、転がるように綾乃の手前に落ちてくるが、手首の力だけで打つことによって、なんとか粘り、綾乃もまたネット前から逃げない。
ストレート、クロス、回転の掛けたヘアピン。高度なヘアピン勝負は中々決まらず、二人は何度もコートを端から端へと移動する。
「(ここかな?)」
コニーはどうは知らないが、少なくとも綾乃はムキになってヘアピンをしていた訳ではない。コニーの隙を探すために粘っていた。そしてようやくコニーを抜けそうな一打にたどり着くと、左奥へとハーフ球を打つ。
「高さも十分ある!これなら絶対に――!」
観戦していた健太郎は思わず声を上げるが、しかし彼の言葉はコニーのプレイによってかき消された。
コニーは流石にネット前スレスレでは届かないと判断したのか、少し後ろに下がるようにして飛び上がった。まるで背中に羽が生えているように高いジャンプと手の長さがシャトルを捕らえ、それを綾乃達のコートへと叩き落とした。
『ポイント、3-1』
「高い!しかもラウンドの空中で叩きやがったッ」
「何甘い球出してるの綾乃」
「ッ…」
「とっとと本気出して。でないとすぐに終わっちゃうよ」
「ほん、き…」
”今の”自分は本気だ。手は抜いていない。先程の配球も、普通ならチャンスボールにはならない理想的なハーフ球だった。
でもコニーは不満そうな口調で、花屋であった優しい彼女はどこにいったのだろうと立ち尽くす綾乃へ、ニッコリと笑みを向けた。
「言ったでしょ。小さい花は集まってないと綺麗になれないって。でなきゃ、ただの雑草なんだから」
アジア大会女子団体優勝おめでとうございます(遅いし見てない)