平均数nmの物体を使役する男 作:入倒 淵座
個性研究所地下20階
「もう時間がない。彼女の個性はあとどれくらい持つ?」
「……もって三日です。それ以降は安定しなくなります」
「くそっ!なにか対抗策はないのか!」
「あったらとっくに試していますよ。落ち着いてください、先輩」
「ふー、悪い。取り乱した。しかしこのままでは奴の個性が世界に牙を剥くぞ」
「いっそ殺してしまうのはダメなんですか?」
「出来たらそうしているさ。だが政府から生かしておくよう言われているんだ。たしかに奴の個性は一つの可能性ではある。うまく利用すれば世界を手に入れることもできるだろう。でもそれは奴が従順であればだ。「保存」される前の奴は従順とは程遠い奴だった」
「では個性で彼から自我を奪うのは?」
「現実的に取りうる手段で最も最善手はそれだ。だが、やはり危険は伴う。奴は保存される前洗脳無効の個性を取り込んでいたはずだ。その因子が消滅しているなら効くだろうが、してなかった時は……」
「でも、それしかないんですよね?」
「……」
「私やります」
「危険だ!万が一効かなかった時生きて帰れる保証はないぞ!」
「でも誰かがやらないと事は進みません。それなら私がやります」
「…、まだ3日ある。明日の午後にもう一度聞かせてもらう。だから…、考え直せ」
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白熱灯の光だろうか。まばゆい光源が網膜を突き破り、起床神経に覚醒を促してくる。若干の倦怠感と微かな頭痛があるが、それ以外に体の不調は感じない。どうやら長い間眠っていたらしい。記憶が…朧気だ。
「気づいた?」
誰かがそばにいる。目はまだ光に慣れていないが無理やりこじ開ける。
開けた空間に一人の女性が座っていた。女性は表情こそ読み取れないが手が震えていることから恐怖していることが読み取れる。
誰に?
ああ、俺にか。
「あの、なにか喋ってもらっていいですか?でなけりゃ事態が飲みこめないのですが」
「え…、ええ。そうね、ごめんなさい。それじゃ一つ質問していいかしら?」
「どうぞ」
「あなたはまだこの世界を恨んでいるの?」
ほう、恨みときたか。だが生憎今の俺には記憶がほとんどない。そうなると当然恨みの元となる記憶もない。つまり、俺がこの世界に対して言いたいことと言えば、腹減った、飯よこせ、あと外の空気吸っていい?ぐらいだ
「んー、恨みってのはよくわからん。なんせ俺の記憶は今朧気なんだ。自分が何者なのか、なんて名前なのか、どんな音楽が好みだったのか、嫌いな食べ物、好きなアーティスト、親の顔すら思い出せないんだよ」
「!!」
え、なんかこの人いきなり携帯で通話し始めたんだけど。人と会話している最中に断りも入れずに通話するとか無礼千万な奴だな。あ、終わった。
「ごめんね…、あなたが嘘をついてる可能性もあるから、個性、使わせてもらうね」
そう言った瞬間、俺の意識は暗転した。
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彼女からの報告によると奴は記憶を失っているらしい。信じるにはいささか疑わしい話ではある。だが目の前の俯いた少年を見ると、もしかしたらと思わざるをえなかった。
「奴は記憶が朧気と、そう言ったのか?」
「ええ、彼は確かにそう言いました」
「…まあいい、どうせこれから質問すればわかることだ。それじゃ始めるぞ」
少年の前に座り、一呼吸。そして口を開く
「君は生まれてからの記憶があるかい?」
「いいえ」
「君は自分の個性がなんなのか覚えているかい?」
「いいえ」
「君は今世界を恨んでいるかい?」
「いいえ」
「君は何故ここにいるのか覚えているかい?」
「いいえ」
「オールフォーワンと言う男を知っているかい?」
「いいえ」
「最後に一つ。君は今何がしたい?」
「………飯食いたい」
「こいつは白だな」
部屋を支配していた緊張感が一気に霧散した気がした。それもそのはず。この少年に以前の記憶がないことが発覚したのだ。なにがそれをなしたのかは分からないが一先ず危機は去った。
「これからどうしますか?先輩?」
「そうだな、取り合えず政府に一報入れておこう。奴は無害だと」
しかし、まったく不安がないとは言い切れない。奴が以前この世界に恨みを持ったのと同様の事が再三おこれば、今の無害な少年は史上最悪のヴィランになるだろう。そうなるのを避けるために政府との接触はなるべく避けるようにしなければ。
やることは盛沢山。しかし悲壮感はない。まずは地道に観察していこう。
名前:初留 守(しょりゅう まもる)
個性:ウイルス
自分の体内で自由自在にウイルスを生み出せる。生み出すウイルスは既存のウイルス、新たなウイルス共に可能。ウイルスを生み出す際自身の細胞で増殖させるため、無限に生み出すことはできない。生み出したウイルスは体内体外で自由に操作出来る。現在操作出来るウイルスの最大数は10の14乗(100兆)個。年々増えている。操作範囲は自身から半径30m程。これも年々広がっている。ウイルスを使い故意的にパンデミックを起こすことが出来る。 またウイルスを使い他人の個性因子をウイルスに組み込み、自身に挿入することが出来る。馴染むまでに結構時間がかかるが、馴染めばその個性を自由に使える。個性のストックは5個まで出来る。またウイルスを使い自身の体の身体強化を行える。
実はウイルスって生き物じゃないんです