平均数nmの物体を使役する男   作:入倒 淵座

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意識暗転する系主人公です


実技試験

 奴を観察して分かったことが少しある。個性が弱体化していることだ。以前の様に猛威を振るえるほどの威力を奴の個性は有していなかった。だが腐っても奴の個性【ウイルス】は危険な個性であることに変わりはない。

 

 次の日、政府からメッセージが届いていた。

 

 曰く、「彼にはヒーローを目指して貰うよう教育してほしい」と。

 

 以前の奴はヒーローとは真逆の存在、言うなればヴィランであった。記憶を失ったことを良いことにヒーロー精神を叩き込んで悪事を働かせる気を起させないという魂胆だろうか。無茶言ってくれる。だが、案外悪い案ではないかもしれない。奴が本当にヒーローを目指してくれるのなら、個性を悪用するような事もしなくなるし、奴も真っ当な人生を歩んでいけるだろう。早速意思確認をしよう。

 

 

「君は、ヒーローと言うものを知っているかい?」

 

「んー、まぁあれだろ。人を助ける輩だろ」

 

「なってみたいとは思わないかい?」

 

「なれと言うのなら努力はしてみるよ。まぁこんなこと聞かれている時点でそれ以外の選択肢はないんだろ。ああ、そう訝し気な顔するなよ。別にヒーローと言う存在が嫌いなわけじゃないぜ。ただ…、なんかヒーローって言葉を聞くと胸が疼くんだ。俺の何かが叫んでいるみたいに、何の叫びかはわからない。以前の俺の叫びなのかもしれない。でも関係ないぜ。俺は俺だ。今は俺が決めるんだ」

 

「……そうかい。分かった。今後の事はこちらが手配しよう。」

 

「いろいろあんがとな。一応あんたとあの仏頂面の女にも感謝してるんだぜ。記憶のない俺に飯や住むところを与えてくれたんだ。ま、観察されんのは少々嫌だがな。恩返しと言っちゃあなんだが、ヒーロー、本気で目指してみるよ」

 

 

「…ふっ、せいぜい頑張れよ」

 

 

 

 

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雄英高校

 

偏差値は79、倍率は300倍を誇る超難関校である。

 

 そんな学校の校門の前で俺は佇んでいた。理由は勿論受験するためだ。筆記は終わり、残すところは実技のみとなっている。あれから色々あったが、結局ヒーローを目指すのであればヒーロー専門の学校に行くのが一番と言う判断のもと、この学校を受験することになった。

 

「YEAAAA!!そこで立ち止ってる奴!邪魔になるぜ!」

 

 甲高い声でなんか言われた。後ろを振り向いてみる。個性的な髪形にこれまた個性的な眼鏡をかけている。いや、サングラスか。

 

「すまんな。少し物思いに耽っていた」

 

「物思いに耽るっておっさんかよお前~!!」

 

うん、なんか疲れる。もう行くか。

 

「おいおいおいおい!そこは自己紹介する流れだろ!あ、因みに俺は山田ひざし!ひざしって呼んでくれ!!」

 

「おっけ、やかましな。俺は初留守(しょりゅう まもる)。まもるでいいぜ」

 

「誰がやかましだこの野郎ブっ飛ばしていいかな」

 

おもしろい奴だな。試験の緊張もいい感じに解れたし礼ぐらい言っとくか。

 

「すまんひざ し、悪かったよ。それよかお前のお陰で緊張が解れたぜ。あんがとな」

 

「んあー!いいってことよ!でも試験中はライバルだから容赦なく叩きつぶすぜ!そこんとこよろしく!!」

 

「言ってろ、叩き潰すのは俺の方だぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「合理的じゃない奴らだ」

 

 

 

 

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 試験内容は都会を模した会場で仮想ヴィランのロボットと戦い、より多くロボットを倒しポイントを稼ぐと言うもの。倒すロボットの時間配分などを考えているといつのまにか周りの人間が慌ただしく動き始めた。

 

 どうやら既に試験が始まったらしい。盛大に出遅れた俺はなんとか一団に追いつくと、標的となるロボットを探し始めた。しかし、出遅れたのが原因かここら一帯のロボットは既に狩りつくされた後だった。

 

「うーん、ちっとばかりまずいな。俺の個性にはあまり戦闘的なものはないし、いそがねば」

 

 とはいえ体術は一通り覚えがあるためロボット相手には遅れは取らないだろう。ただ戦闘向けの個性にくらべて倒すのに時間がかかるということだ。

 

 考えながら走っていると目の前からロボが迫ってきた。

 

「標的補足!ブッ殺ス!」

 

「悪いな、お前らにぶっ殺されるために俺はここに来たんじゃねえんだ」

 

 ロボの動きは止まって見える。大ぶりな右のアームを躱し正面ボディに肘打ちを叩き込む。肘打ちの衝撃で後退したロボの上に跳躍し、万有引力に身を任せ頭部に蹴りを入れる。横ばいになったロボの頭部にさらに全力の踵落としを極めると、ロボは動かなくなった。

 

「さすがに一撃ではいかなかったな。まあいいや、次だ」

 

 

 

 

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 試験時間は残り僅か。初留は27ポイント目のロボに相対していた。すると地響きが辺りを襲った。ふと目を横にやると、巨大なロボがビルの隙間から姿を現した。

 

「ありゃプリントに載っていたお邪魔ロボか…。あんなのに踏まれたらひとたまりもねえや。逃げの一択だな」

 

 巨大ロボを視野に入れつつ後退していると、初留の横から二人の人間が飛び出してきた。

 

「巨大ロボ。あやつを倒さねば被害が拡大する…。成敗だ!!」

 

「いーや、あたしがアイツを倒して一番目立つの!邪魔しないで老け顔!」

 

「なにお!」

 

 どうやらあの二人は巨大ロボに戦いを挑むらしい。自分の正義感故か、はたまた自分の個性に自身がある故か。

 

老け顔と呼ばれた男は巨大ロボの近くで止まると、両腕を巨大ロボに向けた。

 

「最大風力、エアバズーカー!」

 

 巨大ロボは見えないエネルギーに殴られたかのような挙動でよろめいたが、致命打には至っていなかった。

 

今度は老け顔の横にいた女が巨大ロボに近づき、自身の頭を激しく振り出した。すると女の髪が伸び始め巨大ロボの足に巻き付きロボを転倒させた。

 

「これでどうだ!」

 

 まったく凄い個性だ、と思っているとロボが立ち上がり横のビルを二人に向けて倒した。二人はロボの行動が予想外だったのかいくらか動揺したあと自らの個性でビルを支えだした。だが倒壊するのは時間の問題だろう。なによりロボが二人に向けてアームを叩きつけようとしている。

 

「まったく、ここで動かなきゃヒーローじゃねえよな」

 

 

 

 

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 ここでやるべきはまず二人の救出だ。

 

 ウイルスによる身体強化を体に施す。効果は微々たるものだが無いよりはましだ。

 

 両足に力を入れビルまで走る。ビルの残骸が前方から降ってくる。躱している時間は無い。右手を残骸に向け触れる直前に個性発動。ビルの残骸は後方に構えた左手に瞬間移動した。

 

 走る、走る。ビル倒壊まであと5秒。二人まで目測100m強ある。いまのままでは計算上絶対に間に合わない。ウイルスを体内で動かし更に身体強化。走れ!死ぬまで走れ!

 

 両腕を広げる。アームがビルを砕いた。二人を抱えて走る時間は無い。両手を掌底の形にして二人の腹に押し込む。殴ると言うより押す感じだ。走った加速度+掌底の勢いで二人はビルの落下地点から大きく離れた場所に吹っ飛んでいった。二人はこれで無事だろう。さて…、あとはどう助かるかだが。

 

 あ、無理だ。終わっ

 

 

 俺の意識はそこで暗転した。

 




初留の個性【ウイルス】は誰かの個性を5つまで自分のものに出来ます。一度自分のものにしたら一生そのままです。今回の話の巨大ロボとの戦闘で初留は【ウイルス】を除き3つの個性を使用していました。さて、一体どんな個性なんでしょうね。
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