平均数nmの物体を使役する男 作:入倒 淵座
「あー、学生生活も楽じゃねえな」
午前中に個性体力テストを受けた初留は今、食堂で昼飯を取っていた。昨日ケガが完治し、今日から登校したのだが、いきなりの個性を使ってのテストは鈍った体に堪えたようだ。
因みに、初留はまだクラスメイトとは顔合わせはしていない。午後のヒーロー基礎学の時に自己紹介込みで授業を行うようだ。
そんな時、授業が終わったのか学生が食堂に一気になだれ込んできた。初留は昼食を食べ終わっていたので席を立とうとすると、目の前に一人の女性が座った。青みのある髪を腰まで伸ばし、白色の肌は新雪のような儚さを醸し出していた。整った顔立ちは可愛いというよりむしろ綺麗と言った方が正しいだろうか。綺麗な顔立ちに加え強気な目元が彼女から気の強さのようなものを感じさせる一瞬見ほれかけた初留だが持ち直すとすぐさま席を立とうとした。そんな初留に声が掛けられた。
「初留 守さんですね」
声の主は目の前の女性であった。
「あぁ、そりゃ俺のことだな。なんか用か?」
初留は目の前の女性をよくよく観察してみると、その眼にはどこか初留を観察しているような節が見受けられた。
「これはこれは、そんなに見られると緊張してしまいますわ。警戒しないでくださいまし。私はクラスメイトの重力王音(じゅうりき おうね)ですわ。以後お見知りおきを」
「そんで、なんで今声掛けたんだ?確か俺の顔はまだ知らんはずだろ」
「少々ご挨拶にきただけですの。気を悪くされたのなら許してくださいまし」
二人の間に沈黙が下りる。すると、重力は観念したのか口を開いた。
「そう睨まないでくださいまし。顔は先生に伺い写真を見せてもらいました。そして本当の目的は、あなたの個性を聞くことですわ」
「あ?どういうことだ?」
「今日の午後、ヒーロー基礎学があるのはあなたもご存じでしょう?私はあなたから個性を聞き出しどのようにすれば訓練で勝れるか考察する。それが目的ですわ」
彼女は得意げに言い切ると手元の水を飲みほした。いろいろ突っ込みたいところがあるが初留は一言告げた。
「え?そんなことのために来たの?」
その一言に王音はくしゃりと顔を歪めると、こう言い放った。
「っ!確かにあなたにとっては理解できない事かもしれません。しかし、重力の名に敗北は許されませんの。それが例え授業であろうと、常に1番でなければ私は許されませんの」
初留は成程と相槌をうつと、背を翻す。彼女に【ウイルス】の個性は教えるわけにはいかないが他の個性なら構わないだろうと思い口を開いた。
「俺の個性は【エクスチェンジ】、右手にあるものと左手にあるものを入れ替える個性だ」
そう言うと初留は席を後にした。
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午後のヒーロー基礎学。グラウンドにβはにはヒーロー科A組の生徒が集まっていた。
「それじゃ、今日のヒーロー基礎学だが、昨日も行ったとおり戦闘訓練を行う」
ザワザワと生徒達から声が上がる。その中で派手なサングラスをした男子生徒が前の男に声をかけていた。
「なあ相澤!今日じゃねえか!新しいクラスメイトが復活するって日は!!」
「山田、黙れ、うるさい」
「おいおいひでーな!で、本当のとこどう思ってるんだ?」
「…俺が思うに、入学式前に入院する奴なんて自己管理の出来ない奴か余程の馬鹿かのどちらかだと思う」
「HAHAHAHA、言いすぎだろおい!」
二人の会話の最中、先生が手招きをすると横の木陰から誰かが走り寄ってきた。
「こいつが今日からA組に加わる生徒、初留守だ。よし、自己紹介だ」
「あー、どうも。紹介に与りました通り、初留守と申します。諸事情がありまして今まで休んでおりましたが、今日から授業の方に参加させて頂きますので、どうぞよろしくお願いします」
自己紹介が終わる頃生徒たちは様々な反応をしていた。
「WHAT!こいつはサプライズだぜ!」
「む!あの顔は某を助けた御仁!」
「あっ!あんたあの時助けてくれた人じゃん!」
「…」
何人かが声を上げたが先生が声を荒らげると場は静まった。
「話はあとだ。授業を進めるぞ。今日の戦闘訓練だが…舞台は屋外。市街地での戦闘を行う」
先生の話によるとルールは5vs5で行う市街地戦闘。ヒーローチームとヴィランチームに分かれ互いに1km離れた場所に陣地を置き、陣地の中からスタート。ヒーローチームはヴィランチームを追いかけ背中にあるパネルをタッチすると確保になり陣地に収容される。全員ヴィランチームを収容するとヒーローチームの勝利で、時間まで逃げ切るとヴィランチームの勝利だ。因みに制限時間は30分、範囲は互いの陣地を線で結びそれを直径として円1個分。範囲からでると両チームとも失格だ。
「さて、じゃあ組み分けだ。話し合って決めたまえ。時間は5分だ」
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さて、いきなりチームを組めと言われたが、どうしたもんか。俺はクラスの誰一人とも知り合いがいないからな。いや、王力とは知り合いだがアイツ多分俺と組んでくれないだろ。
「HEY,YOU!俺達と組まねえか?」
なんか聞き覚えのあるような声がするが…誰だっけかな。取り合えず顔を見るか。
「……、えーと、誰だっけ?」
「こいつはシヴィー!!!俺だよ俺俺!受験前に話しかけた!」
「あー、やかましか」
「ひ・ざ・しだ!!!」
まさかこいつも受かってるとはな。む、ひざしの後ろに誰かいるな。
「俺達ってことはひざしの後ろにいる奴は、メンバーの一人か?」
「ああ!こいつは相澤翔太って奴だ!!おい自己紹介しとけ!!」
「…相澤翔太。個性は【抹消】」
抹消?何かを消す個性か?
「その顔だと分かってない感じだから言うが、俺の個性は相手の個性を消す。つまり個性を使えなくさせる」
「なるほど。そりゃやっかいな個性だ。後援に回って相手の個性を消したりしてもいいかもな」
相澤の個性は、個性が戦闘力に直結するような個性ではないので、使うとするなら正面戦闘は避けた方が吉かもしれん。
「ちなみに俺の個性は【エクスチェンジ】。右手にあるものと左手にあるものを入れ替える個性だ」
「なるほどな。入れ替えるってのはある程度の大きさのものでも可能なのか?」
「大きくなれば大きくなるほど個性を発動するのに時間がかかるな。右手にあるものを左手に、左手にあるものを右手に移動させることも可能だ」
「おいおい!話し合うのは後にして他のメンバー決めようぜ!!」
おっと、相澤との話に熱中してメンバー決めのこと忘れたいたぜ。さて、他には…。ん?誰かがこちらに歩いてくるな。なんか見覚えのある二人だな。
「お前達って確か、入試の時大型ヴィランに向かってった奴らか」
「ふむ、と言うことは貴殿は某を助けてくれた御仁で間違いないな。名を風野送次郎(かぜの そうじろう)と申す。礼が遅くなってすまぬ。何分入院している病院が分からなかったのでな。しかし、このようにして再会できて某は嬉しいぞ」
…なんか個性の強い奴だな。
「で、そちらさんはどなた?」
「あたしもあんたに助けられた一人だし!名前は操髪細花(そうはつ さいか)!よろしくね!」
送次郎に細花ね。よし、覚えたぜ。後ろで相澤が早くしろとか言ってるので作戦会議といくか。
「それで、二人の個性は?」
「某は【送風】。手から前方向に風を送れるぞ」
「私は【操髪】。髪の毛を操れる」
うーん。なるほど、どうするか。
「相澤はどう思う?」
「ヴィランチームとヒーローチームで対応は変わるが基本操髪は前衛でいいと思う。山田と風野は個性がそのまま町に影響が出るから中衛で街に影響が出ない程度に操髪の援護、初留は前中後で皆のバックアップ、俺は中衛から後衛で相手の個性を消す、どうだ?」
「相澤くん私を一番前で戦わせるつもり?男だったら女性を守るのが仕事でしょ!」
「今は勝つための作戦を話しているんだ。女性か男性かは関係ないし合理的じゃない」
「まあまあそう言うなって相澤!!じゃ俺が操髪の代わりに前行くぜ!!」
「某はどこでもかまわない」
こりゃまとまんねえな。っと、時間か。先生が話そうとしてるぜ。
「皆チームは決まったみたいだね。それじゃ早速始めるけどチームの代表者はクジ引いてね。演習の組み合わせ決めるから」
演習は全部で二回行われ、俺たちは初めの1試合目にやることになった。
【エクスチェンジ】
右手にあるものと左手にあるものを入れ替える。また、右手にあるものを左手に、左手にあるものを右手に移動させることができる。壁や大きな物体人体に手をつけその一部をもう片方の手に移動させることもできる。ただこの使い方をするには集中しなくてはいけないので、使う前に5分程間をおかなくてはいけない。