「自分が生まれてきた意味を考えたことはあるかい?」
その人がそっと電柱に手をかけた。目線をよこさないままこちらに語り掛けてくる。
「俺はある。俺はあの人と出会うためだと思っている。それ以外にないと思っている。」
水の中に手を突っ込むように、とぷん、とその人の手が電柱に食い込んだ。
目的のものをつかんだのか、グググと重たそうに何かを引き寄せている。
やがて電柱の水面から顔を出したのは莫大な光を放出する電気、いや電流の塊。
人一人分はあろうかという大きな光の塊に、思わず顔を覆って目を背けた。
その人は目をそらさずに、光が形を変え、腕の中である形に変形していくのをじっと眺めている。
「あの人は…どうかな。聞いたことがないな」
やがてある形に変わり終わった光はだんだんと明るさを失い、やがて腹に穴の開いた人の姿に整った。
「……ボケッとしてないで傷を塞いであげてほしいんだが。
安心しろよ、来週にはケロッと学校行ってるから」
息はしていない。
うん?うちにいる先生以外の男?ああ、あの人。
あの人はねー、なんだろ、先生の息子?というか恋人とか家族の方が表現としては近いかも…私にもよくわかんない。
でもいい人だよ。私があの家に来た時からずっと一緒に居たし。
うん、兄貴みたいな感じ。いろいろ楽しい人。
葵がそう言っていたのを覚えている。
名前はタカハシさん。下の名前はない、というよりも、「タカハシ」も本名かどうかわからないらしい。本人がそう名乗っているだけであるらしい。免許証や保険証なんかも見せてもらったことはない、というか病院に厄介になるところすら見たことがないらしい。お酒を飲んでいるから、おそらく20は超えているだろうと。
家族であるはずの葵本人が首をひねって苦笑いしていた。
虹村形兆の身柄はSPW財団に拘束された。虹村億泰はこの町に滞在することにしたらしく、今もあの家で父親と暮らしている。
葵は葵の義兄が自宅に連れ帰り「また来週」と言ったきりだ。電話をかけたが葵の義父が
「葵?まだ寝てるよ。起こす?…やめとけってハシが言ってる。
無理やり起こすとヘソ曲げちゃうからまた今度でいい?」
とはぐらかしているのかもわからないことを言って、通話を終えてしまった。
仗助、康一、そして億泰はあの日以来仲良くなったらしく、たびたび一緒にいることが多くなった。週明けまで少しある。一人だけが居ない虚無感は、心の温度がぐっと低くなったようだった。
「来たぜぬるりと」
「あまりにもナチュラルに入ってきてんじゃねーよ」
次の週の月曜日、葵はちゃっかりしっかり登校してきた。ご心配おかけしましたーとあっけらかんに言う葵は、血の引いた肌の青さも血液で膠のようになった制服も、その影はどこにもない。あの日のあの時の直前に完全に成形されていた。
「まさか軽い風邪をこじらせるとは…ねー、授業どこまで進んだ?ノート見せてよ」
「風邪?」
「うん、風邪。熱っぽかったとは思うけど嘔吐も併発するとは思ってなかった。
ああ仗助電話くれたんだっけ?出れなくてごめんね」
「…………いや…しっかり治すためには仕方ねーよ。」
元気になってよかったなと素直に伝えれば、私がいなくて寂しかったー?などと宣う。逆に静かでよかったぜとからかえば、薄情なヤツだと眉をひそめて笑った。
白い歯を見せる口の中はピンク色に染まってなんかいないし、背中をバシバシと元気に叩いてくる腕はエネルギーがちゃんと通っている。
生きている。
だけど、彼女は風邪をひいたから学校にこれなかったといった。あのボロ屋敷のこと、虹村兄弟の父親のこと、形兆のこと、億泰のこと。口に出すどころか覚えている素振りも見せない。それどころか彼女の中ではあの日のことが「なかったこと」に書き換わっている。以前のアクア・ネックレスの後の様に現実逃避でもしているのだろうか。自己防衛の為なのか。
まさかあの男のせいか?
葵の義兄だという男。身元も本名も素行も不明。しかもレッド・ホット・チリペッパーの手から葵を救い出したのはその男本人である。
あの男が葵の記憶を改ざんしたのだろうか。急かされるままに傷を治したのは仗助のクレイジー・ダイヤモンドであるが、「治す」ことに「蘇生」は含まれない。あの時の葵は、スタンド越しに触る冷たい体から嫌でも分かった。確実に死んでいた。じゃあ誰が葵を蘇生した?
「へー、転校生?この時期に珍しいねえ」
「ああ、億泰っつーんだぜ」
仗助の中の何かが気にしてはいけないと思考を止めた。
通算UA6000超えやら感想のお声やらまことにありがとうございます励みになります。
また誤字報告もありがとうございます。助かります。
そういえば表紙もどきを本小説説明欄に置いておきました。進むにつれて増やしていこうと思います。
あと海馬社長誕生日おめでとう。
東北ずん子ちゃんもおめでとう。