時のターコイズ   作:遠藤さん

15 / 19
EOHのアナスイの発言が完全に変態アリスフィリア野郎でドン引き承太郎さんなの好きです。
更新がクソ遅かったのはザ・ワールド16の原稿がやばかったからです。4月ごろまで原稿ないのでまたいっぱい更新します。
本年もよろしくお願いします。


パパ友談義①

葵が目を覚ましたのは、フライパンの上でハムが踊る香りが漂う朝9時のことだった。昨日の夜、コウに言いかけた自分の中の不思議が後を引いたおかげでうまく寝付くことができず、意識が落ちたのは25時を優に過ぎたころだった。いつもなら23時には布団に身を預け、6時には寝ぼけ眼をぬるま湯でたたき起こしている。

でも、今日だけは特別。電話のベルがうるさくないのは、おそらくコウがすでに学校へ連絡を入れてくれたからだろう。あの電子音が嫌いな葵は、起きたばかりの脳にあの音を刻まなくて済むことに心底安堵した。

 

「いや~いい朝だよ、葵!今日の朝ごはんは果物もつけちゃうもんね~」

 

おはよう!と朗らかに笑うコウは、なんだかいつもの朝よりもずっと元気そうで、嬉しそうだった。葵の朝ごはんは決まってハムエッグとトーストで、時間がないときはサンドイッチのように挟んで学校へ向かいながら手早く食べることもある。

でも、今日だけは特別。ハムだと思っていたのはベーコンで、トーストの焼き加減はいつもよりいい具合のきつね色。普段葵が支度をしている間に淹れられる紅茶は、あつあつで湯気が天井の換気扇へスルスルと巻かれていった。そしてコウの言う通り、ベーコンエッグトーストの皿の傍に苺、マスカット、オレンジの収まったガラスの小綺麗な器。

マスカットなんてこの時期は季節外れではないだろうか。

 

「いつ買いに行ったの?昨日の夜は野菜室になかったよね」

「ン~?今朝。」

「け、今朝」

「いつもより早く目が覚めたから、散歩がてらちょっと遠くの直売所まで~。奮発しちゃった~!」

 

イエ~イなんて普段はしないようなジェスチャー付きで、コウは歯を見せて笑っている。一体本当にどうしてしまったのだろう。優しいのはいつものこと、今日は不気味なほど機嫌がいい。キッチンに立つ背中は鼻歌混じりに足でリズムを刻んでいる。フライ返しを指揮棒のようにチョイチョイと動かしてはフライパンの様子を見る。

どうにも不思議すぎたので、トーストをかじりながら葵はコウに問いかけた。

 

「ねー。なんでそんなに機嫌がいいって言うか…うれしそうなの?」

「うん?ふふふ」

 

そうして彼はまた笑うのだ。

 

「かわいいかわいい思春期の愛娘と一日一緒に出掛けられるなんて、うれしいに決まってるよねえ」

 

そう云われれば、葵は何も言い返せないのだった。

 

 

 

「今日はどこに行くつもりなの?」

 

口腔内の蜜で張り詰めた膜をプチンと割りながら、葵はコウに問いかけた。少し冷めて飲みやすくなったコーヒーをすすりながらコウはう~ん、と唸った。

 

「特に決めてないな」

「決めてないの?それで、どうして今日遊ぼうなんて誘ったの?」

「いやあ、葵、学校行けるような状態じゃないでしょ。ストレスでいっぱいになって、もう私はダメなんだーって気持ちが表情にあふれてたからさあ。とりあえず気晴らしになるところへ行こうとは思ってるよ」

 

教師職だから生徒の顔色を見るのには慣れっこなんだよ、とやさしく言った。

口に出せなかった気持ちが顔にわかりやすく出ていたことを知った葵は少しだけショックだったが、大丈夫じゃない自分に気付いてくれていたことは素直に喜べた。親に迷惑をかけないようにと気配っている葵ではあったが、それでいたって子供らしく親にはわかってほしいことがある。ちょっと目線をそらして照れながら、葵は最後のマスカットを頬張った。

 

「別に、そんなに遠くへ行かなくたっていいよ…ゆっくり心が休まればそれでいい。散歩するとか、公園に行くとか…」

「ああ、いいね、公園。じゃあ、すこし遊びに行こうか。お昼には家へ帰ってきてなにかおいしいものを食べよう。」

 

公園に行くというだけなのに、ここまで心が躍るのは小学校以来だろう。まるで遊園地に遊びに行く前夜の子供の用に、腹のそこがむずがゆくてキュウっと締まる。久しぶりのその感覚は、葵の心を大いに労わった。

 

 

 

 

小さいころ、まだ足がとどかなくて一人でブランコを漕げなかった。

鉄の鎖で吊られた樹脂の土台に座って、暮れていく太陽を黙って見つめていた。こういう色を茜色というんだろう。そんなふうにただボンヤリと遠くを見つめるのが、小さいころの葵の趣味でもあり、流れていく時間をつぶすための行為だった。

少し冷えた春先の気温で冷えた体を、夕焼け太陽が温かくじんわりと照らす。揺れるブランコがまるでゆりかごのようで、穏やかなまどろみを誘った。

そんな葵の眠気を力強く吹き飛ばした張本人こそ、水奈瀬コウその人だった。

コウは、葵が悲しいとき、つらいとき、何をどう察知したのかそばにいる。泣き止むまで背中をさすり、泣き止めば鬱々しい空気を払拭するように、底抜けて明るい笑顔を見せる。

振り子運動を刻み戻ってきた葵の背中を、またコウがやさしく押し出す。だんだんと高い位置に上がっていく足は、地面につけるどころではない。夕焼けを眺める余裕なんてない。

コウのお日様のような笑顔につられて葵も笑う。

いつしか、日の落ち行く公園には二人の明るい笑い声が響いていて、ただただ流れゆく時間に身を任せることなんて、葵にはできなくなっていたんだ。

 

 

 

いつしか一人でブランコを漕げるようになった一人娘を見て、コウは思う。

ああ、また遠くを見つめているんだなあ、と。

 

こんなに大きくなっても、根っこの部分は変わっていないことに心配と安堵を覚える。もう背中を押さなくたって、高く高く足を振り上げて、自分で振り子になれる。けれど、つらいこと、悲しいこと、悩んでいることは自分から打ち明けてくれないまんま。奔放に育てすぎたかな。うーん、とコウは喉を鳴らした。

 

高校生になった葵は、「原作をなるべく守ったうえで、死人が出ないように立ち回りたい」と意気込んでいたのを覚えている。

仮にも自分の娘の意見を尊重したいコウは、葵が横たわる病室のベッドのそばで、心配や後悔を顔に出さないように必死だった。コウは「原作」を知らない。下手に手を出して葵の計画を頓挫させることはしたくない。でも、蒼白の顔で目覚めない娘を見たいわけじゃないのだ。

あの空条承太郎とかいう男が事情を説明しにノコノコ病室へやってきた時など、責任を問いただしたい気持ちでいっぱいだった。どうして守ってやれなかったんだ。大人なのに。子供を守るのは当然の義務だろう。聞けば、仗助くんをも危ない目に合わせたという。親類さえ守れないのに葵を家へ帰さなかったなんて。頭がおかしいんじゃないのか。自分を過信しすぎているんじゃないのかと、叱咤した気持ちでいっぱいだった。

家族しかいない病室で、そうやってタカハシに泣きついたのも、久しぶりだった。

 

でも、あの家で、あの瞬間で、まだ目覚めない葵の望んでいる「親」はそうじゃない。

葵の望む「水奈瀬コウ」は、受け入れて、許して、今後もよろしくとサッパリしている。

だからそうする。

 

我が子がどんなに自分を信頼して、自分が親であることを望んでくれているか知っているから。人を過度に信じないように 、愛さないように期待しないように、それでいて角が立たないように、気取らぬように目立たぬように、誰一人傷つけぬように、虐めぬように、殺さぬように、そんな偽善がバレないように、威張らないように。

当然のことに恐れておびえて苦悩する、かわいいかわいい一人娘を知っているから。たとえ血がつながってなくたって。母親じゃなくたって。おなかを痛めてやれなかったからって。きっと、その気持ちは、この世のどんなへその緒よりも強くやさしい糸で伝わるから。

自分の子になる前の葵が、どうだったかを知っているから。

その前の葵がどんな女の子だったかを、ずっとそばで見ていたから…。

 

だからこそ、もうブランコは押してやれない。

 

 

昼下がりの公園で、年甲斐もなくはしゃいで笑って騒いでから2時間近くたった。春を過ぎた初夏の屋外はなかなかに暑い。葵もコウもほどよく疲れて、木漏れ日の光る木陰のベンチへと腰かけた。

 

「あ~~~笑った~~……もう、どれくらいこんなにバカ騒ぎしてないかなあ~~」

 

「いや~、さすがに暑いね。喉かわくな…自販機行ってくるから待ってて」

 

「はあい、いってらっしゃい」

 

気持ちのいい汗を流した葵はいい顔をしている。昔のようにまた笑わせてあげられる力がじぶんにあったことに、コウは内心驚いていた。それがまた、まだ「葵」を知覚する前の葵のままであることを証明しているようでうれしかった。

自分より頭のぬけた赤い自販機の前で物色する。コーラやスパライトなんかの炭酸はダメだ。コーヒーや紅茶も、この暑さでは残業中のサラリーマンくらいにしかモテないだろう。無難にお茶や水、アコエリアスなんかのスポーツ飲料が好ましいだろう。さんざん暴れてもポケットから飛び出なかった財布に感謝しながら小銭を確認する。500円玉がちょうど入っている。気分がいいので2本買ってやろうと、600円を食わせてやり、ピースサインで500ミリリットルのお茶と250ミリリットルの水を同時押しした。

 

「気分がよさそうですね」

 

「……ちょうど気分を害されたところですよ、空条さん」

 

 




4月まで原稿がないといったな?あれは嘘だ。
(3月末にイベント入れるアホがひとり登場~~)

ジョジョカテゴリのおもしろい小説がふえててジェラったので更新します。
短くないかって?前まで考えてた内容覚えてなくてここで切ったほうがいいかなって思ったんです…すいません…誤ってばっかりだなこいつ…

ある曲の歌詞をちょっとだけ引用しました。だいすき。

アニメ すごい ね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。